最近はジェームズ・ガン監督による「新生・スーパーマン」が話題ですが、色々あってまたリブートされたDCU(DCユニバース)における、いずれ現れるであろう新たなバットマンにも期待が集まる中、こんなニュースを見かけました。
歴代バットマン映画のベスト作品は?なんて話題になればどうせ「ダークナイト」が1位なんでしょ?…と思ったら「バットマンビギンズ」が1位でした。
あえて「ダークナイト」を外すところにちょっと玄人っぽさを感じて面白いなと思い、久しぶりに改めて「バットマンビギンズ」を見直しましたがやっぱりこの映画最高ですね。
かく言う私も内心「バットマンビギンズ」が一番好きなバットマン映画なんです。それは多分、リブートした久方ぶりの実写版でありながら、ドアタマから「バットマン」の本質をえぐり抜いた特濃バットマン原液そのものだったからだと思います。
5年前にもビギンズについては1回熱く語ってます。
凄まじい密度
同じくDCの中でもドラマシリーズで有名な「アロー」。
これも大好きなんですけど、例えば「アロー」で言えば1シーズン23話かけて描けるようなことを、たった2〜3話分くらいの時間で描き切っているのが「バットマンビギンズ」という映画です。
当時高1だった私も事前に「バットマン誕生秘話」という本作のコンセプトだけは理解した上で劇場に足を運びました。
正直、ファルコーニを逮捕したくらいで「そろそろ終わりかな?」と思って見ていたらまっだまだそこからが長かったんで、全体的に「長い映画だな」とは感じました。
けど、ダレはしなかったですね。最後まで全く飽きることなく夢中で観れました。
この映画って、本当凄まじい密度で構成されていて、
- 幼少期のブルースと両親との死別:全ての始まり
- チルへの復讐失敗と旅立ち:復讐(銃)の否定と不殺主義
- 犯罪と彷徨:師匠との出会い
- 「影の同盟」での鍛錬の日々:忍者的戦術の体得
- 「影の同盟」との決別、ゴッサムへの帰還:ラスボスの伏線
- 「シンボル」の探求と試行錯誤:蝙蝠のシンボル獲得
- バットスーツ完成とファルコーニ戦
- ...まだまだ続く
少なくともブルース・ウェインが「バットマン」を名乗るまで、これだけの描かれるべきドラマ、というか「ノルマ」があるわけですが、これを60分程度で実にテンポ良く描いています。
あと、これらを単に時系列順に描くのではなく、過去のエピソードを「ラーズの元で修行するブルースの回想」と位置付けることで、これらをほぼ同時に描いてます。
これが実に巧みで、ゴッサムを旅立つ前のブルースの過去ってそれだけ描写しても多分あんまり見所がなくダレちゃうところだと思うんですよね。でもゴッサムを捨ててラーズの元で修行するブルースの「今」の因果を「過去」のブルースの物語とリンクさせてるから、全部筋が通ってて物凄く腹落ちしやすいんですよ。
っていう、要はノーラン監督のストーリーテリングの巧さが光りに光りまくっている映画だってことです。
そしてこの手法は、上述の通り本作に明らかに影響受けまくってる「アロー」においても、「島での5年間」の描き方に踏襲されています。
名台詞が繋ぐ「過去」と「今」
それでも、過去と現在が交互に描かれる作劇ってどうしても複雑になりがちです。さらに登場人物もそこそこに多いので、ノーラン作品全部に共通して言えることですけど、1回見ただけではあらすじの全てを理解することはまぁ不可能です。
だけど、「ドラマ」は初見でもわかります。筋の通った「シナリオ」の理解は難しくても、キャラクターの「感情の動き」だけは1回目でちゃんと追えるようにわかりやすく作られています。過去のセリフを現在においてそっくりそのまま、繰り返し引用しているからです。
具体的なものをいくつか紹介します。
"Why do we fall? So we can learn to pick ourselves up."
なぜ落ちる?這い上がるためだ。
ある意味本作の最も重要なセリフ。最初は古井戸に落ちたブルースに対して父のトーマスが、そして次は屋敷を燃やされ地下に降りたアルフレッドとブルースの会話の中で引用されます。
"Haven't given up on me yet?"
"Never."
見放さないのか?
決して。
個人的に最も印象に残ったのがやっぱりアルフレッドの「ねば♪」です。これもチルの公聴会に向かうブルースとのやり取りと同じものが最終決戦前に再現されています。
"It's not who you are underneath...it's what you do that defines you."
人の本性は行動で決まる。
これも印象的ですね。プレイボーイのフリをしている真っ最中の最悪のタイミングでレイチェルと再会したブルースが苦し紛れの言い訳をしたところ、真正面からレイチェルに言い返されちゃったのがこのセリフで、後にバットマンの姿でレイチェルにそのまんま引用します。いわゆる「秘密の暴露」に使われた重要なセリフです。
"Nice coat"
いいコートだ
ブルースがゴッサムを捨てて旅に出る際、近くにいたホームレスとコートを交換します。ホームレスは見るからに高価なコートをもらって大喜びでしみじみイッツァナイスコウト...と呟きます。そして後にバットマンとなった彼は、相変わらずあのコートを愛用しているホームレスを見かけてこの言葉を返します。
ブルースがゴッサムを離れていた間も全く街の状況が改善されていないことをも象徴しているという意味ではちょっと皮肉なシーンでもありますね。
"The key thing is... our company's future is secure."
専門的なことはともかく、我が社は安泰だ。
"Didn't you get the memo?"
メモを見なかったか?
これも好きです。見るからに少々乱暴な手段でウェイン社を動かしていたアール氏を追い出す瞬間に、彼が言っていたセリフをブルースとフォックスが2人でそっくりそのまま返すシーンです。
他にもこういう「引用」がめっちゃあるんでぜひ見返して探してみてください。
少々複雑な物語でも、これらの印象的なセリフがそっくりそのまま繰り返し引用されることで、キャラクターの変化や感情の動きがめっちゃわかりやすくなるんですよね。
あと、そもそも「バットマンビギンズ」ってあの「Mr.フリーズの逆襲」以来久方ぶりのバットマン映画でしたから、そもそもの期待値が結構低かったんですよ、
だから「ノーランのファン」というよりも小学生含め「ライトにヒーロー映画を観にくる層」が圧倒的に多かったはずで、そこへの配慮があったんじゃなかろうかとも思います。そういう「アジャスト」もノーランは巧いですよね。ノーランって基本的に「映画」という劇場体験を心から愛する男ですからね。
「必然」に支えられた物語
あと、高1のときの私と同じく、この映画を「バットマン誕生秘話」という前提を持って鑑賞している人間にとっては、劇中のひとつひとつの描写がまるでパズルのピースがすぽすぽとハマっていくように、「バットマン誕生」につながっていくある種の快感を持って鑑賞できるってのがデカいですね。あ、これがバットマンのこれにつながるんだ、みたいな。
- 自身の恐怖(トラウマ)を相手にも植え付ける演出→コウモリのスーツ
- 復讐に囚われたらレイチェルに張り手を喰らわされた→不殺主義
- 両親の命を奪ったものと同じ拳銃を手にした自分への嫌悪感→銃を使わない
- 会社に眠っている商品化されなかった大量の試作品→バットスーツの資材
- 中でも橋をかける軍用車の試作機→バットモービル
- 忍者の暗殺集団で鍛錬を積む→闇夜に潜む屈強な戦士のオリジン
- 遠方の会話を盗聴するアンテナ→コウモリの耳
- 一切痕跡を残さず素早くその場を立ち去りたい→グラップルガンとグライドマント
- ベルトのゴールドに黒い円形のワイヤー巻取り装置→コウモリに見える
…とにかくこういう「バットマンあるある」全てに対してきれいに解答が用意されています。物語の全てのピースが「バットマン」という「必然」につながるから、全カットに意味があるって思えるから見てて嬉しいし楽しいんですよね。
「ダークナイト」が、先の読めない展開に振り回されるタイプの「ジェットコースタームービー」だとすれば「バットマンビギンズ」は、もう知っているオチに向かってどう綺麗に畳んでいくか?」の「プロセスを楽しむ映画」です。
だから本作のラストシーン、ジョーカーのカードを表に向ける瞬間に快感のピークが訪れるんですよね!あの瞬間の快感は鳥肌モノです。
アール氏というヴィラン
バットマンの「特濃原液」たる部分って、「バットマンは『悪』に育てられた」という点にあると思うんです。
そもそもブルースを鍛えたのはラーズ・アル・グール率いる「影の軍団」(リーグ・オブ・シャドウ)だし、その前にブルースを「犯罪の旅」へと駆り立てたのはファルコーニの「バーでのお説教」がきっかけです。
彼の語る「金では買えない恐怖の力」「人は理解できないものを恐れる」という言葉は、ブルースが「バットマン」という存在を発明する上での大きなヒントになっています。
一方、バットマンが駆使するガジェットの数々はウェイン産業製のものばかりですから、これは単に企業製品として捉えられるもの...と思いきや、そもそもバットスーツに使われた多くの「試作品」は、先代(トーマス・ウェイン)からは嫌われていた「軍用品」ばかりです。
バットスーツは前衛用のサバイバル・スーツだし、バットモービルも元々は軍用車で迷彩カラーでした。ラーズに利用された水源気化のマイクロ波装置もウェイン産業製でしたよね。
バットマンが身につけるガジェットは基本的に全て戦場で使われるもの=人を殺すための道具です。
そしてこれらはいずれも、トーマス・ウェインの死後、ブルース不在の間に会社を動かしていたアール氏の仕業でもあります。
本作を語る上でアール氏のことを特段取り上げて語る人は少ないですが、実はこのアール氏も「バットマンを育てた悪役」の1人です。だから、本作の終盤でラーズが退場した後、アール氏もブルースによって退場させられるわけです。アールの存在もまた、ブルースがバットマンとして今後も活動していくために精算しておくべき「負の存在」なのです。
アール氏って強引な経営者で、劇中ではフォックスを突然クビにしたことくらいしか直接的な悪事が描かれていないので、ブルースにあそこまで強引な手で会社を追い出される描写には少し違和感があったんですが、一つ一つの描写を追っていくとアール氏ってかなり悪いことしてるみたいなんですよね。
とまぁ、他にも語りたいことはいっぱいあるんですけどとりあえず今回はここまで。
以前書いた記事も合わせてどうぞ。
(了)



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