ADAMOMANのこだわりブログ

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仮面ライダーBLACK SUN 異聞/イブン〜ネタバレ全開の感想評価考察〜継承と神殺しの物語

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こんな分厚いの誰が読むんだよ!

...冗談だよ俺がパワハラしてるみてぇじゃねぇか!

 

とりあえず、ドラマ版っていろんな意味でモヤモヤが残る作品だったことは間違いないと思うんです。そんな、ドラマ版にモヤモヤが残った人にこそ読んでほしい!

アマプラのドラマ版感想はこちらから。

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整理!時系列!

読み終えてまず思ったことが、案外「時系列が分かりにくい」ということです。ドラマ版のイメージ頼りでビジュアルは脳内補完しながら読んでましたが案外ドラマ版と設定が異なる点も多く、その上で物語や登場人物の感情(動機)を整理しながら読むのが結構大変でした。

なので、まずは何度も過去と現在を行き来する物語を完全に時系列順にしてみたいと思います。

このインデックスを参考にもう一度読み直すとかなり内容がスッキリ入ってくると思います。

正直、この過去と現在を行き来するシステム、かなり分かりにくい。「キバ」かよ(笑)

1936年〜1945年

第二部 第四章「真実〜2022」 (p.355〜p.373)

(若き青年科学者だった南と秋月による最初のカイジン=創世王誕生秘話と、そこからどうやってカイジンが量産されていったかが、2022年の堂波総理と信彦の対話の中で明かされていく。)

第二部 第五章「絶望〜2022(1972/2002)」 -3(p.387〜p.393)

(カイジンが実際は戦争の兵器として使い物にならなかった衝撃の事実が語られる。) 

 

1946年

第二部 プロローグ「村が滅んだ日〜1966」(p.261〜p.274)

(矢野政吉という後のカイジンヤクザの半生を振り返りつつ、1966年の「村」が滅んだ日を振り返る。誰もいなくなった「村」にはノミこと三反園が残り、光太郎と信彦は藤堂を頼って東京へ移動する。)

 

1960年

第一部 第六章「変転〜2022♾️1966」-4(p.208〜p.209)

(光太郎と信彦、八歳。「村」での暮らし。ビルゲニア兄ちゃんとの思い出。)

 

1963年

第一部 第六章「変転〜2022♾️1966」-5(p.209〜p.214)

(改造された光太郎と信彦(当時十一歳)。初めての変身を経験し、創世王と対面する。)

第一部 プロローグ「闇路〜1963」(p.5〜p.12)

(光太郎と信彦の改造手術の場面。)

第一部 第六章「変転〜2022♾️1966」-5(p.209〜p.214)

(PWPUAMという国際運動大会で優勝選手のカイジンが暴れて人間を殺害。世界的なカイジンヘイト勃発の起爆剤となってしまう。)

 

1966年

第一部 第六章「変転〜2022♾️1966」-6(p.215〜p.224)

(堂波道之助とヤマトヒメノミコトが創世王の引き渡しを求めて「村」を訪問。100人以上のカイジンヤクザを引き連れて襲撃したが、覚醒したブラックサンとシャドームーンによって全員死亡。しかし「村」は壊滅、創世王も消え、生き残ったカイジンの多くは全国に散逸してしまう。)

1972年

第一部 第二章「希望〜1972」(p.55〜p.52)

第二部 第五章「絶望〜2022(1972/2002)」 -3(p.387〜p.393)

(学生時代の堂波真一がカイジン虐待に目覚める。同じ頃、十九歳になった光太郎と信彦がゆかりと出会い、五流護六に加入、時の総理・堂波道之助の孫、堂波真一の誘拐を企てる。)

第一部 第四章「錯綜〜1972」(p.127〜p.146)

(堂波真一を誘拐した光太郎たちだが、同じ頃、ダロムらは時の総理・堂波道之助との取引に応じたため、ゴルゴムは分裂の兆しを見せる...。)

第一部 エピローグ「決断〜1972」 (p.251〜p.258)

(ゆかりはビルゲニアには内緒で創世王を殺す計画を光太郎と信彦に告げ、そのためには二人のキングストーンが必要だと説得し、二人はストーンを彼女に渡す。堂波真一はコウモリをそそのかして脱走を図る。)

第二部 第五章「絶望〜2022(1972/2002)」 -3(p.387〜p.393)

(ゆかりの正体が堂波総理の口から語られる。) 

第二部 第二章「変転〜1972」(p.309〜p.319)

(奪われた創世王を取り戻すべく現れたダロムらと衝突する信彦はバラオムに捕えられてしまう。光太郎は創世王を殺すべくナイフを振り上げる。)

第二部 第三章「敗北〜2022=1972」-2, 8, 11 (p.326, p.338〜p.341, p.346〜p.349)

(創世王に左脚をへし折られ重傷の光太郎を抱えるコウモリの目の前で、ビルゲニアはゆかりを斬殺。オリバーが二つのキングストーンを引き継いで守ることを誓う。)

2002年

第二部 第五章「絶望〜2022(1972/2002)」 -1, (p.377〜p.380, )

(オリバー・ジョンソンが、後に葵の両親となる川本英夫・莉乃夫妻に赤いキングストーンを託す。)

 

202?年

第二部 第五章「絶望〜2022(1972/2002)」 -2, (p.380〜p.380, )

(後にカイジンヘイトのデモを主導することとなる井垣渉がヘイト活動を開始する。)

 

2022年

第一部 第一章「相克〜2022」(p.15〜p.52)

(光太郎と葵の出会い〜クモカイジン戦。)

第一部 第三章「毒花〜2022」(p.83〜p.124)

(葵の実母が帰国するという情報が入り...アネモネカイジン戦まで。)

第一部 第五章「変貌〜2022」(p.149〜p.200)

(刺客として送られた白井ことクジラカイジン戦〜信彦によるカイジン蜂起とカニカイジン戦まで。)

第一部 第六章「変転〜2022♾️1966」-1, 2, 3(p.203〜p.207)

(葵をさらったビルゲニア。彼女を救うため、光太郎は信彦とともにビルゲニアを追って「村」へ向かった。)

第一部 第七章「受難〜2022」(p.227〜p.248)

(さらわれた葵は目の前で母親を殺害された挙句カマキリカイジンに改造されてしまう。光太郎は50年ぶりにブラックサンに変身してビルゲニアを圧倒。ビシュムによって連れ去られた葵を救うため信彦とともにゴルゴムと戦い、創世王を殺す決意を固める。)

第二部 第一章「激闘〜2022」(p.277〜p.306)

(二つのストーンが揃ったゴルゴムは新たな創世王を誕生させようと葵を利用しようとする。同じ頃、信彦率いる含むカイジン部隊と光太郎がゴルゴム党本部を襲撃、光太郎は創世王の前に迫る。)

第二部 第三章「敗北〜2022=1972」-1, 3〜7, 9〜10, 12 (p.323〜p.325, p.327〜p.338, p.342〜p.345, p.349〜p.352)

(ブラックサンに変身した光太郎は創世王に挑み、心臓を抉り出すことに成功するが、同時に彼は左脚を引きちぎられてしまう。同じく創世王を殺そうと考えていた信彦は、堂波からカイジンの真の起源について聞かされることとなる...。)

第二部 第五章「絶望〜2022(1972/2002)」 -4〜16(p.393〜p.463)

(脱出に成功した葵はクジラと接触し、共に「村」で光太郎と再会。一方、同じく脱出に成功した信彦は、俊介が井垣らによって殺害された事実を知る。怒りに任せ50年ぶりにシャドームーンに変身した信彦は井垣らカイジンヘイトの集団を惨殺しゴルゴムに再び向かう。そこで、光太郎を新たな創世王として擁立し、堂波に媚びへつらう今のゴルゴムを一新するクーデターを蜂起。信彦は新たなゴルゴムのトップとなり、ビルゲニアは放逐され、堂波からも足蹴にされてしまう。そして葵の元を訪れたビルゲニアは、カイジン部落でホームレスとなっていた秋月総一郎博士と再会する。光太郎の持つキングストーンを求め信彦は光太郎と衝突。ブラックサンは殺され、赤いキングストーンを奪われてしまう。) 

第二部 第六章「それは呪いか祝福か/そして呪いと祝福はどう違うのか?〜2022(1936)」(p.467〜p.550)

(そーさんこと秋月総一郎から、カイジンの秘密の全てを聞いた葵。国連のシンポジウムにリモートで参加した葵は、自分の身に起きたこととカイジンの起源に関する秘密を世界中に暴露。妨害に差し向けられたカイジン軍団と相討ちになるビルゲニア。同じ頃、死亡したと思われた光太郎はクジラの手によって蘇生。信彦とゴルゴム党本部で決戦。シャドームーンを倒した光太郎は創世王にトドメを刺すも、結局は創世王に成り果ててしまう。そんな彼の元を訪れた葵の手にはサタンサーベルが携えられていた...。)

 

2025年

第二部 第七章「エピローグ〜2025」(p.553〜p.558)

(三年の月日が流れ、カイジン差別はなくなるどころか悪化の一途を辿っていた。戦争法案で政治の雲行きも怪しい。そんな中、葵の腹部には新たな「抵抗器」が植え付けられていた。) 

誤りあれば随時修正していきます。

 

スッキリ!補足設定!

第51話「ゴルゴム最期の日」

第51話「ゴルゴム最期の日」

多分ここに書ききれないほど大量の設定補足描写がありましたね。

もうそれだけでもこの本の価値があると思えるくらい、むしろなんなら説明くさくてくどいとさえ思えるくらい、ドラマ版に対して大量の設定補完描写があったように思います。覚えている限り列挙してみますか。

  • 人類にストーンをもたらしたのはヤマトヒメノミコトと呼ばれるおそらく皇室由来?の謎の女性。
  • 本作のカイジンは平安時代etcの太古の昔より日本に数百年に一度出現している。
  • そのため、すでに全ての日本人にカイジンの血は混じっており、実は全日本人がカイジンの子孫とも言える。
  • 葵は最終的に創世王と同質の能力を獲得し、その気になれば全日本人を一気にカイジン化させることも可能。
  • 本作のカイジンは日本国外に出ると変身能力を失うか死ぬ。
  • 本作のカイジンの多くは改造時の記憶を失っており、自分たちが人類から造られたのではなく人類より優れた種族だと信じていた。
  • 本作のカイジンは変身すると服がちぎれてなくなる。
  • 本作のカイジンが使うストーンには全ての生物の情報が詰まっており、執刀医がモチーフを人為的に選択していたドラマ版とは違って、変身者が潜在意識で選んだ生物のカイジンへと変身する(何カイジンになるかは変身するまでわからない)。
  • 南光太郎がストーンなしでもクロバッタやブラックサンに変身可能だったのは、体細胞そのものが変質していることが理由なのに加え、近くにストーンがあれば共振?共鳴?できるのか変身能力が復活する。
  • ゴルゴムに捕えられていた信彦が突然ギンバッタに変身できたのは、光太郎の変身に共鳴したからで、二人はどれだけ離れていても見えない何かで繋がっている模様。
  • 本作のブラックサンとシャドームーンは、強力すぎるストーンの力を制御できるよう「抵抗器」という名の変身ベルトを介してストーンの力を引き出している。
  • そのため、クロバッタやギンバッタのときは抵抗器は本作においてはドラマ版のように露出していないと思われる。
  • 葵もそもそも抵抗器を埋め込まれていないので、ドラマ版のようなベルトが露出することもない。
  • 但し、本作終盤において最新の抵抗器を使用して二個のキングストーンを同時に使用することに成功している。
  • 本作のブラックサンは瞬間移動とも思われるほどの超高速移動能力を持ち、シャドームーンは念動力を操れる。
  • 三神官もまた未来予知や重力操作などまさに「神」とも言える超能力を持っている。
  • クジラは物質の再構成能力で自身を巨大化させることが可能。
  • これら初期カイジンの並外れた能力は、創世王が持つ能力の断片であり、すべての能力を持つ創世王はまさに最強の神。
  • 本作の創世王はカイジンを育てるエキスだけでなく、カイジンの元となるストーンを排出する
  • 赤と緑のキングストーンは、サタンサーベルと共に創世王から排出されたもので、創世王の後継者を作るか、創世王をサタンサーベルで殺すか人類に選択を迫っていた。
  • 三神官やクジラたち初期怪人は非常に強力だが手術の成功率も低いため、ストーンの魔力を下げてカイジンを量産できるようにしていた(カイジンヤクザたちもこれに相当する)。
  • 更にカイジン同士、もしくは人間との交配も可能だが、生まれた子孫はストーンも持たず、体の一部にしか変身能力がない弱体化したカイジンとして生まれる(第3セクターに住むカイジンの多くもこれ)。
  • 本作のセクターは半生物として変形できる他、ホッパーは大量のバッタを召喚することができる。

…と、特にカイジン周りの補完もしくは変更が非常に多かったですね!ドラマ版はかなりそこの説明が少なかったので、この小説版でスッキリした!という人も多かったと思います。

他にもドラマ周りで…

  • ゆかりが堂波のスパイだったことを周辺情報含めてより説得力のある形で描写
  • さらにはオリバー・ジョンソンまでもがスパイだったことが発覚。
  • 何も知らなかったのが光太郎と信彦とビルゲニアという3バカ(笑)
  • ニックがオリバーの孫であることを早々に露呈させ(ドラマ版は無駄に引っ張りすぎと思う)、ニックの胡散臭さが増している。
  • カイジンヘイト活動を続ける井垣の本心の描写(これは特にドラマ版で納得いかなかった部分なので嬉しい)。

...と、結構色々と改変されているものも含めて、総じて補強されているように感じました。

 

南光太郎について

ただ、あくまでも物語の下敷きはドラマ版の通りなので、それでもまだ物足りない部分は残りました。

それが、南光太郎のドラマとして見たときのカタルシスの弱さです。

ドラマ版の感想では、南光太郎がどうしても「受動的」に見えてしまい、彼の信念のようなものも見え辛く、感情移入しにくかったことを「作品の致命的な欠陥」として指摘しました。

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その辺は本作「異聞」の方が多少掘り下げられてはいたと思います。とは言えそれでもまだあんまり南光太郎というキャラクターに魅力を感じられませんでした。

その理由が小説版読んでで少しわかったんですが、南光太郎は受動的なのではなくて、あらゆるものに諦観しちゃってるんですよね。

だから、カイジンのデモやヘイトデモの衝突に対しても静観というか我関せずだし、総理の悪政を知ってもそこに対して怒りは見せない。父親が超人兵士の実験のために自分の体を利用していたことを知っても父親に恨みを抱くこともない。だからドラマチックにならない。

そういう怒りや葛藤は、葵や信彦らサブキャラが担ってしまうので、ドラマが分散し縦軸が弱くなってしまう。

そういう作りで成立しないこともないんですが、本作は過去と現在を何度も行き来する構成になっているので、通常より縦軸がしっかりしていないとドラマは弱くなってしまいます。

だから、1972年の光太郎と2022年の光太郎が50年の時を隔てつつも全く同じシチュエーションで創世王と対峙するシーン、本来一番盛り上がるはずのこの場面がそこまで熱くならない。

本作は(ドラマ版も小説版も一貫して)、南光太郎が悪を挫く物語ではなく、自ら積極的に滅びの道を突き進む物語だったからです。簡単に言えば本作の光太郎は地上最強の自殺志願者だったわけです。

そこまで光太郎が枯れてしまうのであれば、50年前は逆にもっとギラギラしてても良いと思うんですが割と50年前から光太郎ってあんな感じなので(笑)、信彦とゆかりを激しく奪い合う感じもないし、総じて光太郎の中に葛藤が生まれにくい物語になっちゃってるんだと思います。そこがやっぱり私としてはちょっと物足りなかったです。

特に原典の「正義感が服着て歩いてる」感じの南光太郎を期待しちゃうとかなり肩透かしだと思いますね。

もしくは、信彦との対比として見れば「過激派の信彦」に対する「穏健派の光太郎」といったところでしょう。ですから、光太郎の元には「ゴルゴムゆるキャラ三神官」とも言うべきクジラ・ノミ・コウモリが集ってましたよね。

 

葵と神殺し

ただ、そんな光太郎の感情を唯一動かせるのが葵です。彼にとっての葵は、簡単に言えば「娘」です。

失ったはずのキングストーンを持ち、死んだゆかりと同じ言葉を語る葵に何か運命のようなものを光太郎も感じていたはずです。

ただ、カイジンの絶滅を望む光太郎が子どもを作ることなどあり得ない。けれども、50年前できなかったことの落とし前はつけたい。本作は、大雑把に言えば青春時代の敗北=過去を清算する物語です。

ですが、光太郎の悲願である「創世王を殺す」とは即ち継承権を持つ光太郎自身(及び信彦)の死をも意味します。王位継承は逃れられない運命であることは萬画版を見れば明らかだからです。

つまり、創世王を殺したあと、自分自身を殺してくれる人間=継承者の存在は物語上必須だったわけです。

ですから、創世王となってしまった光太郎が葵の手で殺されるのは、実はハッピーエンドだとも言えます。これで光太郎の望みは全て達成されたからです。そこから逆算すれば、悲劇的だったとは言え葵はやっぱりカイジンになるしかなかった。

更に葵が二つのストーンを納めた抵抗器を身につけるラストで明かされる、リゲイリア・オブ・ゼノジェニックとは紛れもなくRXへの進化であり、葵が正統な後継者たり得たことを示しています。

サプレッサーが薄い金属の板のように描写されているところが確信犯的。

加えて、多くの「仮面ライダー」及び石森章太郎作品に通底している「神と人間の戦い」という側面が本作「異聞」においてかなり強調されていたように思います。

ドラマ版では「差別との戦い」みたいな部分が皮肉も含めて全面に出ていたように思いますが、本作のラストは「そもそもカイジンに差別意識を持つこと自体意味がない」というところに落とし所があったことに加え、日本人が「神の子のクニ」であったというオカルトめいた設定の補強含め非常に石森作品っぽさ、仮面ライダーっぽさが増していたのは個人的に非常に面白かったところです。

特にドラマ版における、光太郎の意志があまり継承されたとも言い難い形での「ブラックサンの死」はやっぱりなんとも言えないものがありましたので、葵をストーンの継承者として明確に位置付けた本作のラストは良かったですね。

以前から各所で述べてきたように、「ライダーの死」をどう扱うか、については個人的にかなりこだわりがありますのでありがたかったと感じています。

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ただ、創世王だけでなく、ヤマトヒメノミコトまで殺した葵(神による人類への干渉の拒絶)ですが、そんな彼女が結局ヤマトヒメノミコトとほぼ同質の存在になったと取れる点も、非常に皮肉がきいていて面白かったですね。神による「人類の高次元への進化」を拒絶しながら、自らは神に近い存在になってしまう。神と戦えるのは人間でありながら神に近い存在=カイジンだけである、という点もかなり石森っぽくて好きです。

 

他作品との類似性

他作品との類似性も多く見出せます。

中でも読みながらずっと脳裏に浮かんでいたのが「進撃の巨人」です(笑)

ヤマトヒメノミコトという謎の巫女のような存在によってもたらされるカイジンの力と、創世王の能力を分散させたような初期強力カイジンたちや、自らカイジンでありながらその種の絶滅を望む主人公、という点は面白いくらい「進撃の巨人」と重なって見えます。

他の仮面ライダーシリーズとの共通点ももちろんたくさんあります。特に平成ライダーの多くは元々「BLACK」の設定を下敷きにして制作された作品が多いため当然と言えば当然なんですが、本作「BLACK SUN」を通して(ドラマ版小説版共に)、どれだけ原典「BLACK」が偉大な作品であったかを再認識させられましたね。

まずは「仮面ライダークウガ」。そもそもプロデューサーを務めた髙寺氏が東映の入社面接時に「BLACK」と「RX」を批判したというエピソードは有名ですが、彼が「BLACK」のリベンジとして「クウガ」を制作した側面はあると見て良いでしょう。

具体的な共通点を挙げてみます(テレビ版と小説版ごっちゃになってます)。

  • ストーンを埋め込まれた異形の戦士たち
  • 黒と白の戦士の因縁の最終決戦
  • どちらも神に等しい能力を持つため超常能力対決では決着がつかず肉弾戦に移行する
  • バイク(ゴウラム)が生体メカ
  • 長生きするコウモリ
  • 美形の最強人類(滝と一条さん)が相棒(笑)

いや特に終盤のブラックサンとシャドームーンの対決なんかクウガvsダグバそのものでしたよ。

同様に平成ライダーの中で飛び抜けて「BLACK」との類似設定が多いのが「カブト」です。

  • 数十年以上前から2人の父親によって用意されていたシナリオ通りライダーになる2人の息子
  • 太陽と月をモチーフとしたメインのダブルライダー
  • 繰り返し登場する日食のイメージ
  • 時間や時空を移動できるハイパーゼクター=キングストーン(萬画版)
  • ストーンによって人間を怪人化する終盤の展開

まぁそりゃ他にも細かいところで言えば、神殺しの物語=「アギト」だし、創世王はオルフェノクの王(「555」)の如くだし、変身して服が吹き飛ぶのとか「響鬼」だし、異形の怪物が装甲をまとうのは「電王」だし、現在と過去を行き来する物語描写は「キバ」だし...で、要は「仮面ライダーBLACK」こそ平成ライダーの特濃原液だったってことですよね。

とりあえず色んな意味で読み応えMAXなので、未読の方はぜひ&既読の方ももう一度。

(了)