ADAMOMANのこだわりブログ

特撮ヒーロー、アメコミヒーローを中心にこだわりを語るストライクゾーンの狭すぎるブログ

MENU

ヤプール対ショッカー〜1972年ウルトラマンA(エース)の挫折〜

f:id:adamoman:20231007235722j:image

輝け!ウルトラ五兄弟

1972年の地球を守ったウルトラ兄弟の五番目・ウルトラマンエース。宿敵たる異次元人ヤプールとの激しい戦いが描かれましたが、エースの本当の敵は別のところにありました。

当時最大のライバルとも言われたのが、1971年から日本を舞台に悪の組織ショッカーと戦い続けていた嵐の男・仮面ライダーです。

ここでは、エースが戦った敵・ヤプールと仮面ライダーの宿敵・ショッカーとの類似性を探りながら「ウルトラマンA」という作品が辿った紆余曲折の一端を紐解いてみたい。

初の固定敵集団の登場

最近改めて「ウルトラマンA」を全話通して見返しているのですが、

www.adamokodawari.com

言いたいことは色々あるんですけどとりあえずヤプール存在感薄過ぎ…(笑)

そもそもヤプールと言えばウルトラシリーズ初のレギュラー敵集団です。毎週毎週アラカルトに怪獣や宇宙人が登場していた本シリーズにとっては斬新かつ画期的な新設定でした。

Wikipediaを見ても、同時期に一大ブームを巻き起こしていた「仮面ライダー」を意識して取り入れられたものというニュアンスで書かれていたのですが、それまで私はヤプールとショッカーを重ねて見たことがなかったのでこの解説には少し違和感があったんですよね。

ja.wikipedia.org

ですが、各話を見ていくとヤプールの描かれ方はやっぱりかなりショッカーを意識しているように見えるんです。具体的には以下。

  • 実体がなく、よくわからない空間からただ命令を出す姿はショッカー首領の扱いと似ている
  • 超獣製造シーンはショッカー怪人の改造手術をかなり意識してるっぽい
  • 超獣が人間や動物に変身して身近な生活に忍び込む展開はショッカー怪人の手口とそっくり
  • 超獣が改造される前の動物の頃の記憶を元に行動してしまう哀しいエピソードも登場

他にもいくつかあるかもしれませんが、私としてはかなりショッカー(というか仮面ライダー)を意識しているなと感じました。

他にも、

  • 北斗と南がバイクで変身する2話のライダータッチ
  • 帰ってきたウルトラマン以上に美しくアクロバティックなジャンプを多用するエース
  • 恐怖を煽る暗所映像の増加や怪奇性を強く打ち出した夏のエピソード

…etc、明らかに仮面ライダーを意識して強化ひたであろう要素が散見されます。

時代的にも内容的にも、「ウルトラマンA」は「仮面ライダー」の後追いであると見ることもできる訳です。

 

対決!視聴率勝負!

同じ年に仮面ライダーとウルトラマンがゴールデンタイムに毎週見られるなんて、両方大好きな自分にとっては想像すらできない夢の世界な訳ですが、作り手としてはさぞ大変だったと思います。同ジャンルに強烈なライバルが登場し、国民的スターだった「ウルトラマン」のブランド力をもってしても敵わない強敵が登場したのですから。

試しにWikipediaの資料を元に両作品の視聴率を表にしてみました。

「ウルトラマンA」と同週の「仮面ライダー」の放送日程と視聴率を比較しています。これだと少し見にくいのでグラフにもしてみました。

ピンクが「ウルトラマンA」で緑が「仮面ライダー」です。エース全52話のうち、「仮面ライダー」に視聴率で勝てたのは第1話を初め7回だけでした。「仮面ライダー」、強すぎです。

但し諸々考慮しなければならないことは多数あるので以下に注釈を付記しておきます。

  • 「A」は金曜19:00〜19:30、「仮面ライダー」は土曜19:30〜20:00と放送時間や曜日も異なるため単純な比較は難しい。
  • 本来「A」の裏番組として視聴率争いを繰り広げていたのは、「仮面ライダー」と同じNET系列の「変身忍者嵐」。ただ本稿ではあくまでもヤプールとショッカーの類似性を指摘する目的からここに主軸は置いていない。
  • また、「変身忍者嵐」の視聴率データはほぼ残っておらず、唯一存在していた第1話4.1%という数字からも、嵐に負けていた訳ではないと思われるが、5%前後でも視聴者を取られるのは「A」にとってかなりの痛手だったと見るべきだろう。
  • 「仮面ライダー」の視聴率は、「A」と比較する関係上、公平を期すため関東のデータを引用しているが、関西の視聴率は3~5%ほど更に高く、関西の視聴率で「A」と比較してしまうと、「A」が視聴率で上回ったのはたったの1回になってしまう。

 

ヤプールの敗北

時は1972年、「悪の組織」、「サイボーグ」…みたいな仮面ライダーの設定を真似た特撮番組が量産されていった時代。「ウルトラマンA」もその例に漏れず、ショッカーを部分的に模倣したヤプールをレギュラーキャラとして登場させたのでしょう。

しかし、そんなヤプールは中盤の第23話を最後に全滅してしまいます(してませんが)。

実質の路線変更です。しかも皮肉なことに、ヤプール全滅後の方が「A」の視聴率は上昇傾向にあります。

なぜ「ショッカー路線」もとい「ヤプール路線」は失敗したのでしょうか?

既に各所で言われていることもありますが、改めて自分で見ていて思ったことがいくつかあるので列挙していきます。

 

ヤプールとの絡みがない

せっかくのヤプールですが、TACとの絡みが全然ないんです。まぁ確かに異次元人なんで我々の住む世界との関わりは持ちにくいのかもしれませんが、びっくりするくらい直接の絡みがありません。

なのに、北斗のセリフで唐突に「ヤプールの仕業ではないでしょうか?」とか説明されたり、なぜかTACの皆さんもヤプールそのものの存在は認知しているようなんですよね。これがなんだかしっくりこないというか勿体無い。

空を割って超獣が出てくるように、空間を割ってTAC基地に侵入するヤプールとか、人間に変身して基地に侵入してくるヤプールとか、逆に異次元で戦うTACとかがもっとあっても良かったとは思います…。

と思ったらありましたねそんなエピソード。

...だけどヤプール全滅前夜になってようやくです。

このエピソードはマジでめちゃくちゃ面白かったんで別記事で改めて扱いたいと思っています。

あと超獣が万能すぎるのもどうかと。

人間とか生物に擬態して我々の生活に忍び寄る…ってのも全部超獣がやっちゃうんですよね。例えばサボテンダーとか。まぁ超獣がサボテンに擬態してるのはいいとしても、サボテン売ってるのがヤプール人の変装だとか、もう少しヤプール自ら仕事したらどうかとは思いました(笑)

 

はっきりしない宇宙人勢

あとめっちゃ気になったのが、ヤプール製の超獣とは別に登場する宇宙人系の連中です。

例えば地底エージェントのギロン人。設定上はヤプール配下みたいですが、アリブンタを使役しているとは言え彼がヤプールの元で共謀していることが劇中でハッキリと語られることはありませんでした。

メトロン星人Jr.に至っては、ドラゴリーの登場とたまたまバッティングしたみたいな感じでヤプールとの関連は無さそうです。ただ、無さそうに見えるだけで判然としないんですよね。

郷秀樹に化けたアンチラ星人も、設定上はヤプール配下のようですがそのことが劇中で明言されることはありませんでした。

こういう人語を解するキャラこそヤプールの存在感を高めるために利用すべきで、ショッカーで言うところの大幹部的な中間管理職としてひざまずいてヤプールの命令を聞くシーンなんか入れば間接的にヤプールの強さが描写できたのになぁとか思います。

もちろん、素性がハッキリしないことそれ自体が魅力ではあるんですよ。その曖昧さやゆるさがあるからこそ後年になってそれを埋める設定の追加や考察が捗るし、そのゆるさを許容する空気こそがむしろ第二期ウルトラの魅力でもあると思います。

ただ、元々ある設定を活かすか殺すかの問題になると話は別かなぁと。

www.adamokodawari.com

 

煮詰まってないヤプールの設定

ウルトラ怪獣シリーズ 32 巨大ヤプール

ウルトラ怪獣シリーズ 32 巨大ヤプール

多分ですけどヤプールって、ガワの設定部分だけちょっとショッカーっぽくしてみたって感じで、ホントのところあんまり詳細な設定が煮詰まってなかったんじゃないかな?と思っちゃいます。

※ちなみにwikiでは脚本家3名の認識がバラバラだった可能性が指摘されていましたね。

ショッカーはバックボーンとして「ナチスドイツの残党によって組織された」…とか結構リアルな設定が存在しているし、それをベースに徹底した軍国主義的な組織体制を敷いてるのがちゃんと映像を通じて描かれていました。

それに対してヤプールには「生物の負の感情の集合体」という裏設定?みたいなのがあるようで、人間が手出しできない異次元空間に生息しているようです。

更に第1話のナレーションから察するに、ヤプールの住む異次元空間は東京の上空に隣接しているようです。また、映像では複数名のヤプールの存在が確認できますが、全員の意識は一つに統合されているとか...後付けくさいものも含めて色々設定はあるようですが、実際のエピソードからはあんまり何も伝わってこないんですよね。

あと、「ヤプール人」という言い方からも同シリーズにおける「〜星人」のようなイメージを抱きやすいので、バルタン星人みたく複数(もしくは大量)の個体が存在すると考えるのが普通だし、実際複数名いたようなんですが、であれば、ヤプール内の組織構成(上位階層)を見せるべきだったと思います。

そこはショッカーの方が抜群にうまかったです。ショッカーにおいては、

  • 首領(声のみで正体は一切不明)
  • 大幹部(地獄大使や死神博士etc)
  • 怪人(毎週登場する改造人間)
  • 戦闘員

という少なくともこの4階層が明確に分かれていました。これに対してヤプールは、

  • ヤプール(三角頭の異次元人数名?)
  • 超獣(毎週登場する超獣)

この2階層しかありません。

上で「ヤプール自ら動けよ」と書きましたが、番組側としては、ヤプールをショッカー首領に相当する存在としてイメージしていたようですね。

例の22話「復讐鬼ヤプール」で、アルミホイル頭宇宙仮面が直接TACを狙ってきた際に「なんといよいよヤプール自らが!」みたいなかなり煽ったナレーションがあったことからもそのことは間違いないと思います。ただ、複数人いるんだったらやっぱり「一番偉いやつ1人」をトップとして描写して欲しかったなと。

 

理不尽TAC

燃えろ!超獣地獄

燃えろ!超獣地獄

それに加えて、TACとヤプールの攻防もほとんど描かれない。

むしろ、「信じて下さい!」とか「謹慎!」「脱出!」って感じで終始ヤプールどころじゃないですよね。

そもそもヤプールという固定された外敵が明確に存在するのであれば、北斗の葛藤=ドラマも「ヤプールをどう倒すか?」に集中するべきだったと思うんです。

でもそうじゃなくて「組織内部の軋轢」だったり「理不尽な大人との対立」にドラマの軸を置いちゃってるんです。だからドラマ的にもヤプールの付け入る隙が全くないですよね(笑)

それに、「理不尽な大人」を描くために、ヤプールのせいで発生する怪奇現象を誰も信用してくれないって展開が多発するんですけど、それって即ち「ヤプールの存在否定」に繋がっちゃうんですよね。それが1回ならまだしも何回も何回も繰り返されるもんだから、TACにとってヤプールって眼中にないんですよアホな意味で(笑)

だから恨まれてるんだと思いますよ...。

22話で山中も自ら「だからTACは信頼されないんだ!」って言っちゃってるし、設定上も世論の風当たりがきつそうですよね(笑)

だから、ヤプールの設定が煮詰まってないって指摘もあるにはあるんですけど、ヤプールをダメにした最大の戦犯はTACのような気がしてきたなぁ...。

 

うまくいったこと

明日のエースは君だ!

明日のエースは君だ!

しかし、ヤプール路線が失敗ばかりだったわけではありません。

そもそも超獣を製造するにあたって、ヤプールは地球上の生物と宇宙生物を合成していた訳ですが、この「超獣」というコンセプトの根幹にある「キメラ生物」という設定を更に昇華させた「合体怪獣」はシリーズ伝統の大発明となりました。

エース最終話に登場したジャンボキングに始まり、タイラントやグランドキングなど、強い怪獣や超獣を全部合体させて最強の怪獣を誕生させるという発想は現在のシリーズにも受け継がれています。

また、作品を通して固定の敵レギュラーが登場すること自体が失敗だったわけではなく、「エース」という作品がヤプールをうまく活用できなかっただけの話であって、他作品ではこれがうまくいっているケースは散見されます。

その意味で個人的に推したいのが「ウルトラマングレート」です。ゴーデス編においては、細胞単位で分散し地球に飛来、地球上の様々な生物に憑依して怪獣を誕生させていますが、本来ヤプールを通じてやりたかったことの大半は「グレート」で成功しているように思います。

www.adamokodawari.com

www.adamokodawari.com

www.adamokodawari.com

※ゴーデスとヤプールには非常に共通点が多い。

また、つい最近の作品で言えば「シン・ウルトラマン」におけるメフィラスはそれまでの怪獣の多くを総べていたことが暗に語られており、「実はこれまでの怪獣・宇宙人を操っていた親玉」的な風格を備えた強敵としても描かれていました。

近年の作品に度々見られる、「なぜ日本ばかりが怪獣の被害に遭うのか?」という半ばメタな疑問に対する答えを模索する路線ですが、一番手っ取り早いのは悪の親分を用意することですからね。

www.adamokodawari.com

ただし「A」におけるヤプール全滅後のエピローグ:ヤプールの肉片が地上に降り注ぎ、その後も超獣が誕生し続けた...っていう展開は非常に合理的だし、説得力があって好きです。ヤプール敗北後はさらに変な超獣がいっぱい登場するんですが、その理由づけになっているのが非常に見事だと思います。

 

ウルトラ様式美

ウルトラ作戦第一号

ウルトラ作戦第一号

本当のことを言えば、毎週毎週アラカルトに怪獣や宇宙人が登場する世界観の方が狂っているのであって、共通の敵=親玉がいると考えた方が本来は自然なんです。だから、ヤプールのような超獣を送ってくる親玉がいるという設定は本当は貫徹されて然るべきだったはずなんです。

なのにヤプール路線は挫折してしまった。それは、「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「帰ってきたウルトラマン」というウルトラシリーズ(「ウルトラQ」も含むべきか)によって既に、毎週色々な怪獣や宇宙人が登場するという狂った世界観に誰も違和感を抱かない、言わば「ウルトラ様式美」が強固に形作られていた、ということだと思います。

もう毎週いろんな怪獣・宇宙人が登場するのは「当たり前」ということを前提にしてしまった世界では、その「当たり前」を用意するキャラクター(=ヤプール)って確かに「不要」なんですよね。つまり「A」の誕生は、そんなウルトラ様式美を打ち破るにはまだ早かったということなのだと思います。

 

※10/11追記

そして最後にもう一つ別の観点を。

本作のメインライターだった市川森一氏は、「ウルトラ作品はSFドラマを貫徹すべき、中途半端にホームドラマを持ち込むべきではない」(概略)と述べていたようです。

「ウルトラマンA」って初期設定に盛り込まれた新機軸の多くはほとんどSF性を強化するものばかりです。男女合体変身、異次元人ヤプール、怪獣を超えた超獣...。

本作はSF超大作となるはずだった...?のかもしれません。しかし蓋を開けてみれば、前作「帰ってきたウルトラマン」の系譜をやや踏襲したような、特捜チーム内での軋轢をはじめとしたやや暗い人間ドラマばかりにフォーカスしていたことは上でも指摘した通りです。

本当にやりたいことは設定に詰め込んだのに、実際に描かれたのは全然違うことだった...。案外そんな単純なことが本作路線変更の要因だったのかもしれません。

なんかそれ、どっかでも聞いたことあるなぁ。

www.adamokodawari.com

(了)

www.adamokodawari.com

www.adamokodawari.com