ADAMOMANのこだわりブログ

特撮ヒーロー、アメコミヒーローを中心にこだわりを語るストライクゾーンの狭すぎるブログ

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嫌われてそうなテロチルス編について語ろう(帰ってきたウルトラマン第16・17話)

大怪鳥テロチルスの謎

何かと「怪獣使いと少年」ばかりが話題になりやすい本作において実はもっとヤバイかもしれない隠れた問題作を今日は扱いますよ。

あらすじと短評

夜の船上、音楽に合わせ踊り狂う若者たち。その中のひとり、小野由紀子は一緒に田舎から上京してきた幼馴染の松本三郎と工場で働いていたが、大企業・YM工業の跡取り息子である横川の目に留まり、婚約することに。

それが気に入らない三郎は、由紀子と横川らの乗る船にダイナマイトを仕掛けた。その瞬間、季節外れの粉雪とともに空から大怪鳥テロチルスが飛来。由紀子は横川と共に海に投げ出され、その後、三郎の仕掛けたダイナマイトが爆発。三郎は殺人の容疑で逮捕。しかし大怪鳥を目撃していた由紀子は納得がいかず、友人のアキを伝ってMATの郷秀樹に会う。

郷は勾留中の三郎とも面会。死んだと思われていた由紀子が実は生きていることを三郎に話してしまい、逆上する三郎だったが、実は彼も怪獣を見ていたことを明かす。

日本領空を飛ぶテロチルスは旅客機と衝突。由紀子の事件も夜だったことから、テロチルスは夜行性で大きな音に反応する習性があることがわかった。

横川と共に別荘に来ていた由紀子に接触した郷だが、郷がかけたボートのエンジンの排ガスと、季節外れの粉雪が化合して有害な赤い煙となり、由紀子の目を傷めてしまう。入院した由紀子に寄り添う郷。由紀子は郷の優しさに触れ、郷に愛を告げる。これが面白くない横川はアキに苦言を呈し、MATにもクレームを入れる。

郷は、雪から硫黄の匂いがすることをヒントに気流を遡って悪島という無人島でテロチルスを発見。ウルトラマンに変身して戦うが激しい空中戦の末に敗北、テロチルスは行方をくらましてしまう。

警察を脱走した三郎は体にダイナマイトを巻いて警察から拳銃を奪うと入院中の由紀子をさらって逃走。東京に飛来したテロチルスはビルに繭のような巣を張り、三郎と由紀子はこの「銀の城」に立て籠ってしまう。音に反応するテロチルスを凶暴化させてしまうためうかつに手を出せない警察とMAT。三郎説得のため、横川を頼りたい警察だが、自分の命が惜しい横川は現場から逃げ出してしまった。

銀の城の中で幼少期の思い出に浸る2人。視力が回復した由紀子は涙ながらに三郎と抱きしめ合う。自首することを決めた三郎は由紀子を逃すため投降しようとしたところを警官隊に銃撃されてしまい、暴れ出したテロチルスのせいで重傷を負う。現れたウルトラマンはテロチルスを倒し、三郎は由紀子に愛の言葉を残して絶命。熱線砲が銀の城の繭を焼き払うのだった。

大怪鳥テロチルスの謎

怪鳥テロチルス 東京大空爆

<短評-ヤバイところ->

まずはこのエピソードのヤバイところを列挙してみますね。

  • 主役がほぼサブちゃん
  • サブちゃんヤバイやつすぎて引く
  • 由紀子がもっとヤバイやつで引く
  • 由紀子がムチムチすぎる
  • サブちゃんと由紀子の色恋沙汰に巻き込まれた郷さんとアキちゃんまじ不憫
  • よくわからんけどウルトラマンが一回負ける
  • よくわからんけどニ戦目であっさり勝つ
  • しかも投げ落とされただけで死ぬ
  • 前後編の割に戦闘シーン短くない?
  • ドラマパートと特撮パートの分断

 

 

恋する殺人鬼

弦太郎危機一髪!

サブちゃん役は「アイアンキング」でもお馴染み石橋正次さんです。だから多分その気になればテロチルスも一人で倒せます(違

個人的には「昭和の青春MAX!!」なサブちゃんがホント大好きです。ただ、

自分以外の男と結婚する幼馴染が許せないからダイナマイトで爆殺しようとする

ってのはいくらなんでもヤバすぎです。字面にすると本当ただの極悪人の犯罪者なんですけど、いやもちろん劇中でも極悪人として警察に追われてるんですけど、この極悪人の内面を描こうとするんですよねこの番組は。

いやいや、「ウルトラマン」でそれやるか?!と(笑)

でもねー、高校生のとき初めて観たんですけど死ぬほど面白いと思いましたよねコレ。だからウルトラマンの登場シーンが少ないのとか全然気にならなかったですもん。

やっぱりなんだかんだ言ってサブちゃんがカッコいいんすよ。この俳優さんやっぱり好きよ。

何がかっこいいってやっぱり

「俺が信じられるのはこのダイナマイトだけだ!」

ってセリフですかね…。彼って、幼馴染の由紀子同様、田舎から何か大物になることを夢見て上京してきたんだと思うんです。

が、多分うまくいかなかったんでしょうね。結果、彼の中にとてつもない大きさにまで膨らんだ野心とかプライドみたいなものだけが残ったんでしょう。そして金も権力も何もない彼が唯一頼れたのが、気に入らないものを無差別にぶっ壊してくれるダイナマイトだけだったと。

今の時代ってこういう「社会の壁」(出自、家柄血筋、年収、学歴、才能...)みたいなものにぶつかったらもう「無気力になっちゃう時代」だからこんな酔狂な男理解されないでしょうね。

あと横川に

「バッキャロー!!!!」

って叫ぶシーン、あそこもめちゃくちゃ好きです。大好き。この2エピソードで一番好きなシーンかも。自分の好きな女を奪い取った腰抜けの金持ちが尻尾巻いて逃げ出す背中に啖呵切るってめっちゃくちゃかっこいいですよね。なんか、めっちゃ「昭和」じゃないですかあれ。若さだなぁ。

何より、なんでこんなにとてつもないエネルギーがみなぎっているのか、なんでこんなに目が血走ってるのか、とにかく理解不能なんです。けど、それが「昭和」という時代なんですよ。

ただ、サブちゃんの友達には、なりたくないよね(ガメラ2風)。

戻れない道

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貞操観念がブッ壊れた女

サブちゃんもやばいんですが彼の幼馴染の由紀子もなかなかにヤバイやつでしたよね。

多分多くの視聴者が「?」と思ったであろう「郷さんへの突然の告白」ですが、この女、元はと言えばサブちゃんと結婚するつもりで一緒に東北から上京してきたはずで。

それが、働いていた工場で社長の息子である横川に気に入られてもうコロッとそっちにいっちゃったんですね。元はと言えば由紀子が「逆玉の輿」に目が眩んでサブちゃんを捨てるようなことしなければこんなことにはならなかったんだろうけど。

ただ、由紀子が愛した3人の男性って、見事に70年代昭和の若者の心を揺さぶったものを象徴しているように思えます。

まず横川。こいつは、由紀子をはじめ当時の若者たちの多くが「東京」に求めていたものの象徴です。一言で言えば「金と権力」です。だから由紀子はすぐに横川に飛びついたはずです。これでもう一生安泰ですからね。でも所詮は「金と権力」なので「愛」がなく、空虚なものであったことが終盤明らかになります。この、「金と権力なんて手に入れたところで虚しいだけ」という考え方は70年代日本を感じ取る上で非常に重要な感性だと思います多分。←誰

続いてサブちゃん。由紀子にとってサブちゃんは「過去への郷愁」もしくは「現実」です。どれだけ「東京」を夢見て田舎を飛び出したって自分の故郷は絶対死ぬまで忘れられないし、やっぱり「実家の思い出と生活」はその血に深く刻み込まれてるものですよね。そして70年代多くの若者が「ダサい」と言って切り捨ててきたものがこれです。だから多分由紀子はマジのトーンでサブちゃんに「かっこよくなくなった」って言ってると思います(笑)でも、やっぱり切り捨てられない、忘れられないもの、そんな「地元愛」みたいなものの象徴がサブちゃんです。どれだけ背伸びして都会に身を置いても、豪遊できる身分になったとしても、結局白菜をくたくたに煮たような料理が食べたくなるように、結局由紀子の身の丈に合った男は頭のおかしなサブちゃんということですよ(笑)、それが「現実」なんです。

そして郷さん。郷さんは完全に「愛の象徴」です。横川もサブちゃんも、たいして由紀子のことを愛してくれてないというか自分のことしか考えてない中で、郷さんは仕事上の責任感からとはいえ、由紀子のことを大切に想っていました。それが由紀子にはわかったから嬉しかったんだろうし、郷さんと生きていきたいと思えたのでしょう。

 

 

ナマハゲの愛

ただ、郷さんが由紀子に長く寄り添っていたのは、

  • 怪獣の唯一の目撃者だから
  • 自分のせいで由紀子の目を傷つけてしまったかもしれないという負い目があるから
  • 由紀子を守ることはアキちゃんとの約束だから

であって、本当に由紀子にはこれっぽっちも興味ないんですよ郷さんは。でも、本当に真面目で実直なので、由紀子にはそれが「真実の愛」に見えたんだと思います。多分これが火事の現場から救助してくれた消防隊員とかでも惚れてたんじゃないですかね?そんな由紀子に対して軽薄な印象を持つ人もいるかもしれませんが、「愛を探し求めて彷徨う貞操観念のない若者」、それこそ70年代なんです!!

由紀子って、金と権力の横川に目が眩んで、地元のツレであるサブちゃんを切り捨て、しかし逆上したサブちゃんにブッ殺されそうになったときそばにいてくれた郷さんのまっすぐで純粋な愛に惚れ、臆病な横川には切り捨てられたことでようやく本当に欲しかったものは金でも権力でもなく「愛」だったことに気づくんですね。

そしてテロチルスの銀の城の中で、本当に愛しているのは自分を育んだ土地に根付く思い出と共にあるサブちゃんだったことに気づく。あれほどダサい、かっこ悪い、と言って否定してきたものだけが自分の中に確かにある現実だと気づく。

あのシーン、ベビーベッドの上の赤ちゃんのおもちゃが音を立てる演出がすごい…!あの音で空気が一変するんです。

終盤でやたら丁寧に描写される「ナマハゲの思い出」、あれこそが彼女の中に本当にある愛の形だったんでしょう。

初めて見たとき、なんでこんなナマハゲのシーン見せられてんだ?と内心思ってましたけど、由紀子が故郷を捨てた愛を探す旅路の終着駅となるシーンですから、本編の一番大事なシーンですよね。

 

 

怪獣を食う人間ドラマ

ゴールデン☆ベスト

このエピソードに関しては、ドラマパートと特撮(怪獣)パートが分断されている、と突っ込まれても仕方ないなぁと思います。

ただ、何度か改めて見返してみて驚いたんですが、ドラマパートと怪獣パート、案外密接に繋がっていて不可分であることと、怪獣パートのシナリオの作り込みがかなりしっかりしていることに気づかされます。

確かに、サブちゃんの暴走と由紀子の悲恋に関してはテロチルスがいなくても成立するような気がしないでもありません。

ですがサブちゃんがダイナマイトを仕掛けたときにテロチルスが来なかったら、もしかしたら由紀子は死んでいたかもしれないし、サブちゃんもただの死刑囚になっていたかもしれません。ただ、爆薬の量が不足していたことも指摘されていたので、誰も死ななかったとしても由紀子と横川の婚約までは破談にできなかったと思います。

その意味でも、2人のドラマにテロチルスはやっぱり不可欠です。

何より、多分このエピソードでやりたかったのって、怪獣の巣の中に立てこもった殺人犯と人質が愛し合う物語(狂)だったのではないかなぁ?って気がします。

真夏に降る季節外れの雪。田舎から飛び出した若者が怪獣の巣の中で体にダイナマイトを巻き付けて愛し合う...。

あゝ、なんて美しい物語でしょう。「昭和」ですね(?)

とにかくこのエピソード、ロマンチックな演出がてんこ盛りで、本当いい意味で「ウルトラマン」とは思えないんです。やっぱり監督も映画畑から来たその道のプロです、2話のうちに詰め込まないといけないことたっくさんあるのに、美しい演出の連続で心に残る展開を畳み掛けてきます。

  • 季節外れの粉雪、風花が舞う東京
  • 排気ガスと化合して毒ガスになるという美しさの裏にある怖さ
  • 横川を捨て、郷を追うと決めた途端、目を焼かれる由紀子の因果
  • 「銀の城と怪獣に守られる殺人鬼と人質」という皮肉
  • サブちゃんへの愛を取り戻した途端視力が回復する由紀子、本当に「見つめるべきもの」を取り戻す静かなカタルシス
  • 戦闘中ではなく、全てが終わった後に発射される熱線砲という間違いなく意図的な演出(普通の怪獣モノなら怪獣の目の前で巣を焼くはず)
  • 崩れ溶けていく銀の城の儚さと虚しさ

こうして見ると、特撮パートに存在するあらゆるSF的な手がかり=怪獣や白い雪や銀の城、それら全てをもドラマを盛り上げる演出のための小道具にしてしまっていることがわかります

怪獣すらも小道具にするとは、文字通り怪獣のようなドラマだせ…。

 

 

かわいそうなテロチルス

怪鳥テロチルス 東京大空爆

ですが特撮パートも負けてはいません。特に前編でテロチルスを発見するまでの流れはめちゃくちゃ論理的にあらすじがまとまっていて素晴らしい。

  1. ボート爆破事件現場での、謎の怪獣目撃証言と、上からの圧力で破壊されたボート
  2. 「巨大な鳥」と衝突し大破した旅客機事故
  3. どちらも音に反応した夜行性の怪獣の仕業である可能性
  4. 排気ガスと化合して毒ガスを発する季節外れの粉雪
  5. 雪から硫黄の匂いがするという証言
  6. 気流をたどれば怪鳥の住処が見つかる?!

東京に巣を張られてしまったとは言え、早々にテロチルスを発見し悪島で先制攻撃を仕掛けることができたのは、間違いなく郷隊員の執念の捜査の結果です。

この辺はホント「大怪鳥テロチルスの謎」というタイトル通りって感じだし、その過程も科学的で王道を行く東宝怪獣映画!って感じがしてかなり好感が持てますね。

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銀の城を焼き払うのが「熱線砲」なのとかもう完全に東宝怪獣映画です。マットジャイロで熱線砲車を運搬するシーンは短いながら「サンダーバード」並の素晴らしいミニチュア特撮が光る名シーンです。

しかも、「硫黄」という超重要ワードは信頼を得ていた由紀子からもたらされるわけですから、クレーム沙汰にもなりましたが由紀子に張り付いた郷の粘り勝ちですね。

ちなみにテロチルスってただ生息環境として東京を選んだだけで別に人食うわけじゃないし何の悪意もない本能的行動で飛来してるんですよね。悪島と東京が似ているのは工業化のせいですから、人間が悪いんです。

しれっと公害問題まで扱っていて密度が凄まじいですね。

だからテロチルスに限って言えば、結構かわいそうなやつなんです。第一期ウルトラだったらウルトラマンが勝っても後味の悪い感じで、「テロチルスは強敵ながら可哀想な怪獣だった」なんて心象を与えるエピソードになってそうな気がします。

ですが残念なことにこれまで「テロチルスってかわいそうなやつだよね」なんて言ってる人見たことありません(笑)

それはなぜか。テロチルスで十分膨らませられそうなドラマも、全部サブちゃんと由紀子が持ってったからです(笑)

大怪鳥舞う汚れ狂った街・東京というディストピアでダイナマイトを巻いた男が権力者から幼馴染を取り戻す。

めちゃくちゃカッコイイ物語じゃないですか?ほら、もうウルトラマンの出番ないですよ(笑)

だからこのエピソードに関してはウルトラマンはただテロチルスを片付けてくれるだけの事態収拾役に徹しています。初戦での敗退も、引き延ばし以外大した理由がなさそうです。

 

本当だったら、公害問題だけでも十分ドラマが作れたはずなんです。あるいは、最後はウルトラマンに負けてしまう怪獣の悲劇でドラマを作ってもいい。なのに、公害問題や怪獣の存在すら、2人の悲恋を盛り上げる演出に変えてしまう。特撮パートとドラマパートが分断されてるんじゃなくて、特撮パートが背景に沈んでいるだけなんです。

というわけで、「人間ドラマが売り」と言われる「帰ってきたウルトラマン」らしいエピソードでした。

と同時に、やっぱり異色というか問題作でしたね。

ただ、そこに息づいている昭和らしさみたいなものが眩しくて、私は大好きです。

そんな空気感をまとったバンド、PYGの楽曲「花・太陽・雨」を挿入したこれまた異色作、「許されざるいのち」も大好き!と思ったら監督一緒やんけ(笑)

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なんか、やっぱりというかなんというか…昭和の狂人撮らせたら右に出るものいないな(笑)

(了)

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