どうも帰ってきたウルトラマンには「弱い」というイメージがつきまとっているようだ。
そんな弱さの理由=裏設定を考察しまくった過去の記事もご参照いただきたいが、
今回は他のシリーズと比較して彼だけが相対的に弱いとやたら評されてしまう理由を考察してみたい。
◆敗北回数の比較
弱い弱いと言われるからには、さぞシリーズでもピカイチの敗北回数に違いない、ということで調べてみた。
但し、以下に注意されたし。
敗北の定義
- 対象作品は初代「ウルトラマン」〜「ウルトラマン80」までとする。
- 「敗北」の定義は、エネルギー切れor致命傷による「カラータイマーまたは眼球の消灯」とする。
- 上記以外にも、エネルギー切れor致命傷による「肉体の消滅及び変身解除」または「敗色濃厚による戦線離脱、戦意喪失」等、戦闘不能状態に陥った場合も「敗北」とする。
- 但し、敗北後の消滅または変身解除より前に自らの特殊能力または装備品によって蘇生した場合は含まない(ビーコン戦、スノーゴン戦etc)。
- 「敗北」以前に防衛チームの援護で窮地を脱したり、他のウルトラ戦士によって救出された場合も含まない(アリブンタ戦etc)。
- あくまでも単独作品中における印象論を検証する目的のため、客演時の敗北はこれも含まない(ヒッポリト星人戦におけるエース以外の敗北etc)。
※敗北回数に加え、敗北率のデータも算出。作品話数に対して何回敗北したかで計算している。
ウルトラマン
26話「怪獣殿下 前篇」
39話「さらばウルトラマン」
合計2回
敗北率5.13%(2/39)
ウルトラセブン
39話セブン暗殺計画(前篇)
合計1回
敗北率2.04%(1/49)
帰ってきたウルトラマン
4話「必殺!流星キック」
6話「決戦!怪獣対マット」
14話「二大怪獣の恐怖 東京大龍巻」
18話「ウルトラセブン参上!」
37話「ウルトラマン 夕陽に死す」
合計5回
敗北率9.80%(5/51)
ウルトラマンエース
8話「太陽の命 エースの命」
13話「死刑!ウルトラ5兄弟」
26話「全滅!ウルトラ5兄弟」
39話「セブンの命!エースの命!」
合計4回
敗北率7.69%(4/52)
ウルトラマンタロウ
5話「親星小星一番星」
18話「ゾフィが死んだ!タロウも死んだ!」
24話「これがウルトラの国だ!」
30話「逆襲!怪獣軍団」
合計4回
敗北率7.55%(4/53)
ウルトラマンレオ
3話「涙よさよなら…」
7話「美しい男の意地」
14話「必殺拳!嵐を呼ぶ少年」
16話「真夜中に消えた女」
21話「北の果てに女神を見た!」
26話「ウルトラマンキング対魔法使い」
50話「レオの命よ!キングの奇跡!」
合計7回
敗北率13.73%(7/51)
ウルトラマン80
合計0回
敗北率0%(0/50)
…⁈
ゾフィー
客演はナシというルールながら念の為この方も。
A13話「死刑!ウルトラ5兄弟」
A26話「全滅!ウルトラ5兄弟」
タロウ18話「ゾフィが死んだ!タロウも死んだ!」
タロウ40話「ウルトラ兄弟を超えてゆけ!」
合計4回
敗北率22.22%(4/18)
という訳で…
敗北回数ワースト3
1位 ウルトラマンレオ(7回)
2位 帰ってきたウルトラマン(5回)
3位 ウルトラマンエース、タロウ 、ゾフィー(4回)
敗北率ワースト3
1位 ゾフィー(22.22%)
2位 ウルトラマンレオ(13.73%)
3位 帰ってきたウルトラマン(9.80%)
◆帰ってきたウルトラマンはなぜ弱いと思われやすいのか?
それでは本題に戻ろう。上記の統計から、帰ってきたウルトラマンが一番負けた回数が多いウルトラマンではないということが判明した。しかしそれでも彼が何かにつけ「弱い」印象を持たれがちなのは、敗北回数とは別のところに要因があるということになる。
シリーズ初の「成長するウルトラマン」
初代ウルトラマンが、アメリカのスーパーマンを意識してマッシブになっていったことが象徴しているように、そもそもウルトラマンとはスーパーマンのように「完成されたヒーロー」として創造されたキャラクターだった。
ところが、帰ってきたウルトラマンはそんなウルトラマン像を意図的に破壊しようとした。その結果、最初から完成されたヒーローとしてではなく、未熟な主人公と共に、成長するウルトラマンとして描かれたのが「帰ってきたウルトラマン」だった。そしてこの「成長するウルトラマン」という概念がウルトラシリーズを実に豊かなものへと変貌させた。
怪獣にスポットを当てた作劇は、そこに生きる人々に光を当てた群像劇へと変化。人間ドラマの密度が格段に上がった。
ウルトラマンの成長を描くため、打倒ウルトラ戦士を掲げる侵略者や生物兵器化された強力な怪獣(超獣)も登場。敗北からのリベンジマッチによってヒーローの成長が効果的に描かれた。要は、負けた方が盛り上がるのである。
きくち英一氏の熱演
とはいえ、「ウルトラマン」「ウルトラセブン」に慣れ親しんだ人々が、そんな新たな作風をすぐに受け入れられただろうか?無敵であったはずのウルトラマンが、早々に手も足も出ずぽっと出の新怪獣に敗北した「必殺!流星キック」にはさぞ多くの人々が驚いたことだろう。「あれ?ウルトラマン、弱くないか?」そう思い始めたに違いない。
後続の作品群もそこそこ敗北回数は多かったが、帰ってきたウルトラマンは、初めての「よく負けるウルトラマン」だったからこそ、過去作とのギャップが大きかったのだ。
そんな「よく負けるウルトラマン」を見事に演じきったきくち英一氏の功績も忘れてはならない。
とにかくきくち氏の演じたウルトラマンは本当に人間臭い。身振りにどこか頼りなさすら感じられるほど。
だが、そんな彼が本作より過去にセブンを演じた「ウルトラ警備隊西へ」ではバッチリ力強いセブンが演じられていたことを考えると、これは彼が意図的に人間臭いウルトラマンを演じていたとしか考えられない。
レオやゾフィーは弱いのか?
エクスプラス GARAGE TOY 大怪獣シリーズ ウルトラマンレオ Ver.2 一般流通版 全高約230mm 塗装済み 完成品 フィギュア
ところで、帰ってきたウルトラマンより敗北回数や頻度の高いレオやゾフィーはどうだろう?
そもそも、厳しい厳しいダン隊長との特訓を経て成長していくレオの物語を思えば、レオが一番敗北回数も率も数字が大きくなって当然だ。「7回」という敗北回数も正直言うと結構グレーな統計結果であり、厳しく見ればもっと負けている回数は多い。
だが、個人的な印象かもしれないが、レオに対して「弱い」という声をあまり聞いたことがない。それには、おそらく以下の要因が考えられると思う。
- 敗北しても特訓後のリベンジマッチまでが1エピソードで完結することが多く、前後編はさほど多くないため「負けた」という印象を残しにくい。
- 怪獣以上にダン隊長の方が恐ろしく、その特訓に耐えて成長していくレオに弱いという印象を抱きにくい。
- レオのマスクも強面なので「弱い」キャラクターイメージと結びつきにくい。
特に一つ目の「敗北を後編に持ち越さないエピソード構成」は特に重要だろう。
その点、「帰ってきたウルトラマン」では比較的序盤に前後編エピソードの頻度が高かった。これは言うなれば1エピソードで怪獣にトドメを刺さなかったということを意味しており、敗北せずとも「なかなか勝てないウルトラマン」という印象を与えかねない。
RAH(リアルアクションヒーローズ) ゾフィー Ver.2.0(1/6スケール ABS&ATBC-PVC塗装済み可動フィギュア)
ちなみに、今回の調査で一番損をしているであろう人がこのゾフィーだろう。そもそも単独作がない彼が登場できるのは、現役ヒーローに危機が迫ったときだけであり、それは即ち強敵の登場を意味する。
事実、ゾフィーの敗北4回というのは、エースキラー、ヒッポリト星人、バードン、タイラントと、他のウルトラ戦士も共に敗北しているケースばかりであり、負けて当然みたいなエピソードばかり統計され、その結果をもって彼が弱いと評されるのはやはりかわいそうな話だ。
その点、帰ってきたウルトラマンはサブタイトルに「敗北」を仄めかすフレーズがないのに突如ボコボコにやられる展開もよく見られた。
結構シュールな見た目にシュールな物語展開を見せたビーコン相手に一時は戦闘不能に追い込まれたり、特に強敵という触れ込みもなかったスノーゴンが突如ウルトラマンの四肢をもぎ始めたり…。
ストーリーの壮大さを演出するために前後編イベントを多く盛り込んだ作品序盤と比べ、中盤〜終盤にかけては、ブレスレットでまさかの一発逆転という展開が増えたのも、ウルトラマン自身の強い印象をやや弱めてしまう結果になったのは否めないだろう。
◆まとめ
ここで一度整理してみよう。
- 帰ってきたウルトラマンは、シリーズ初のよく負けるウルトラマンとして良くも悪くも視聴者の印象に残った
- 実際の敗北回数も他作品と比べて多い(ただしワーストではない)
- そんなウルトラマンの弱さや人間臭さをきくち英一氏が見事演じた
- シリーズ序盤は前後編エピソードで勝敗が持ち越し、中盤〜終盤ではピンチに追い込まれた後ブレスレットで逆転という展開が多く、どちらにせよ「弱い」というイメージを持たれやすくなっていた
これらを踏まえると、やはり「帰ってきたウルトラマン」は、徹底的にその弱さを描こうとしていた作品だったとしか考えられない。であるならば、弱いイメージを持たれていること自体は彼にとっても名誉なことではないか。
なぜなら、彼が徹底して弱さを見せたことで、ウルトラマンは最強のヒーローという皮を破り、もっと我々人間に近い存在へと変身することができたからだ。
ウルトラマンだって、戦いから逃げ出したくもなれば、ガールフレンドを泣かせることもあるし、感情に左右されて大敗を喫することもある。
彼の存在が、後続のウルトラ戦士の在り方を大きく拡大させた。彼がいたからこそ、多種多様なウルトラ戦士が生まれ得たのだ。
<了>