後にも先にも、あそこまで万能武器としてブレスレットを使いこなしたウルトラ戦士は、帰ってきたウルトラマンを除いて他にはいない。
「必殺技はスペシウム光線」でお馴染みのウルトラマンがなぜ武器を持つようになったのか?
それは、「帰ってきたウルトラマン」序盤に多かった、「前編敗北終了→後編勝利」の流れをとることで生じる「ウルトラマン弱い?!」キャラクターイメージ払拭のための強化策であったと言われている。現に、それまで万能と思われていたスペシウム光線も八つ裂き光輪も、4話にて早々に通用しなくなっていた。
それら元祖必殺技を超える強力な武器によってウルトラマンの強化を図ったのである。
その効果は絶大で、ブレスレットで逆転、圧勝するヒロイックで痛快な展開が多く見られるようになった。
それだけではない。ブレスレットがウルトラセブンから与えられるという経緯を経て、作品の枠を超えたウルトラ戦士の繋がりをテレビ作品上で初めて映像化。これは、当時児童雑誌でのみ謳われていた「ウルトラ兄弟」という設定が半ば映像化された記念すべき瞬間でもあった。
今回は、そんなウルトラブレスレットにまつわるいくつかの謎に迫りたい。
◆不自然極まりないウルトラブレスレット
ウルトラブレスレットといえば、ウルトラランス、ウルトラディフェンダーなどが児童誌グラビア等の影響で有名だが、
実はこれらは劇中一回しか登場しておらず、ブレスレットの代表的な用例とは言い難い。実際には、光の爆弾となって相手を体内から破壊するブレスレットボムや、切断武器のウルトラスパーク(それも、プロップを使わず光学合成のみ)として使用されているケースが大半だった。
他にも、ムチに変形したり、敵の撹乱光線を遮断したり、湖の水を干上がらせたり、瀕死のウルトラマンのエネルギーを回復させたり、バラバラになったウルトラマンの体をつなげて再生したり…と、その汎用性は凄まじい。
だが、そんなブレスレットには様々な疑問が尽きない。
①最初から使わない
様々な用法の中でもブレスレットボムはとりわけチート武器であり、一発で形成逆転し得る最強武器だが、劇中での使用例を思い返すに、追い詰められきってから使っている印象が強い。もっと早く使えば楽に勝てるのでは?
②いざというときに役立たない
特にその印象が強いのが、ブラックキング戦だ。
こんなときに限ってなんか遅いし弱そうだしいかにも効かなさそうなブーメランとして使用。普段もっと威勢良く色々な使い方をしている癖にこんなときに限ってブーメラン?
③ブレスレットなしでもできそうな技がある
初戦となったベムスター戦がまさにそうで、そもそも切断技なら3話で既に披露している八つ裂き光輪も有効なはずだ。自前の超能力を駆使してもなんとかなりそうな場面は他にも多々ある。
特にウルトラバーリヤなんて大技、18話以降なら絶対ブレスレットでやりそうな技だが、
ブレスレットがなくともこれほどの大技がウルトラマン自身には元々備わっているのである。
しかし、20話のダム決壊せきとめや30話の湖の枯渇などはブレスレットを使用。ブレスレットにしかできないことと、ウルトラマン自身に備わっている能力の境目は、実に曖昧だ。
④後のブレスレットシリーズと比べて万能すぎる
後に地球防衛の任に就いたウルトラ戦士たちの中にも、同様にブレスレット系の武器を装備した者たちがいた。
タロウのキングブレスレットや、レオのウルトラマント等が挙げられるが、これらはあくまでも万能「武器」としての使用が目立ち、死んだ戦士の命を蘇らせるウルトラブレスレットほどの能力は見せていない
(ウルトラマントは、ブニョによってバラバラにされたレオを蘇らせてはくれなかった)。
◆ウルトラブレスレット=小型プラズマスパーク?!
過去の記事でも推察している通り、帰ってきたウルトラマンは、初代ウルトラマンやウルトラセブンとは違い、「人間との完全なる融合」を目指した最初のウルトラ戦士である。
おそらくその背景には、2人ものM78星雲人が地球で命を落としかけた苦い前例があったのだろう。
ゼットンによって殉死した初代ウルトラマン。
そして、瀕死寸前の過労にまで追い込まれたウルトラセブン。
地球防衛の任務に就くというのは、もはや故郷に帰ることすらできないであろうことを覚悟して臨むべき、あまりにも過酷な片道切符なのだ。
ウルトラマン殉死という緊急事態には、ゾフィが「命を2つ」持って地球に飛来したが、このゾフィが持ち込んだ「2つの命」というのが、実はウルトラブレスレットに非常に近いものだったのではないかと私は考えている。
「タロウ」期の設定を全シリーズ共通の設定と捉えることに是非はあれど、ウルトラの国の命の源・プラズマスパークを小型・軽量化したのがウルトラブレスレットではないか?というのが、ここで私が述べたい仮説だ。
ゾフィは後に、エースに対してはウルトラコンバーターというこれまた腕輪型のエネルギー補給装置を持参している。
同様の装置に、セブンのお家芸である切断武器(アイスラッガー)の要素を加味して与えたのがウルトラスパーク=ウルトラブレスレットだったのではないだろうか。一見、強力な武器に見えたウルトラブレスレットは、元々はウルトラ戦士最大の弱点である、活動限界とエネルギー切れをカバーするための「命のスペア」だったのかもしれない。そしてそれは正しく、ベムスターに敗北したウルトラマンが宙に求めた太陽そのものだったのである。
21話、ビーコンに敗れたウルトラマンが復活するシーンでは、ブレスレットが一瞬光を放っている。
40話でバラバラにされたウルトラマンの再生シーン同様、ゾフィらの助けを借りずとも窮地を脱するための、生命力補給装置としての典型的な使用例であろう。ウルトラマンは常に、緊急時用の「命」を持ち歩いているのだ。
※そう考えると「ウルトラマンA」14話でブレスレットを奪われたウルトラマンがぐったりするシーンにも、一応の理由付けができそうか?
◆新米ウルトラマン・郷秀樹
更に、序盤の帰ってきたウルトラマンは郷秀樹と融合を開始したばかりだったためか、おそらく戦闘力はかなり低かったと考えられる。
というのも、拙ブログ記事:「帰ってきたウルトラマンはなぜ弱かったのか?」でも考察したように、第4話辺りを境に敢えてウルトラマンがその能力を抑え、郷秀樹を鍛えに入っているように思われるからだ。
ウルトラマンは、意図的に郷秀樹に力を貸すことを控えながら、生命の危機を感じた瞬間にのみ表出する潜在意識の奥深くに住み着いていたように思われる。
※第2話で調子に乗った郷秀樹を見たウルトラマンが敢えてそうしたのかもしれない。
だからか、郷秀樹自身が体得した流星キックを始め、序盤は体術+スペシウム光線で決着がつくケースが大半。裏を返せば、郷はウルトラマンのスペックをそれ以上引き出し切れていなかったのだ。
勿論、緊急時にはウルトラマンの人格が前面に出て、ウルトラバーリヤといった大技を披露することもあったが、エネルギー切れでかえってピンチに追い込まれることも。
そんな最中ベムスターが襲来。郷秀樹主体のウルトラマンでは敵うはずがない強敵の登場と敗北、更には太陽の引力圏に囚われ絶体絶命のピンチ。
そんな絶好のタイミングでのブレスレット授与だったのである。
ここまでくれば、ウルトラブレスレットのもう一つの役割がより鮮明になってくる。実はあのブレスレットは、ウルトラマンの潜在能力を郷秀樹がより容易に引き出すための言わばトリガーでもあったのだ。だから、本来ならブレスレットなしでもできる技を、ブレスレットを介しても発動することができるのだ。
言うなれば、潜在意識に眠るウルトラマンの全能力を人為的に外部化した装置と言えるかもしれない。が故に、使用者の意識次第では、とてつもない能力をも発揮し得る。
31話のように、敵に奪われ、ウルトラマンを殺すためにコントロールされた場面では、かなり強力な兵器としてウルトラマン自身を追い詰めており、
逆に37話のように郷秀樹(及びウルトラマン)が精神的に深刻なダメージを負っている場面では、うまくコントロールできなかったのか、あまり有効に活用できていない。
ウルトラマン自身、本音を言えばじっくりと郷を鍛えたかった。郷の力を信じたかった。しかし、宇宙からの侵略者たちはそれを許さなかった。故郷である光の国の先輩たちも、これでは可愛い後輩が宇宙の果てで死んでしまう、と見ていられなかった。
◆ウルトラマンの本当の強さ
その意味では、ブレスレットをあまり使いたくないというのもウルトラマンの本音かもしれない。強大過ぎる力故のためらいだ(だからいきなりは使わない)。それも含め、ウルトラマン(郷秀樹)の精神状態に大きく左右されてしまうのが最大の弱点ということになる。
しかし、だからこそ我々はウルトラマンに感情移入できる。戦士としての姿にも人間味を感じられる。そんな弱点すらも、帰ってきたウルトラマンの魅力なのだ。
加えて、「帰ってきたウルトラマンは結局いつもブレスレット頼りだ」という俗説にも反論を提起しておきたい。彼は、本当の強敵を相手にしたときにはブレスレットを使っていないのだ。
ブレスレットも通用しなかった本作最大の強敵・ブラックキングとナックル星人は、スライスハンドやウルトラ投げといった体術によって撃破。
※ちなみにウルトラ投げは、ウルトラの星作戦成功後、ウルトラセブンと特訓した技、というカットされた裏シナリオがあるそう(下の書籍参照)。
そして、シリーズ最大の強敵・ゼットンは、ウルトラハリケーンによって空中へ投げ飛ばされ、バリヤー防御も反撃もできない状態にしてから、伝家の宝刀・スペシウム光線で見事撃破。
これは、ウルトラマン自身がずっと目指してきた、「郷秀樹という人間自身の強さで怪獣を倒し、地球を守る」という悲願が成就した瞬間とは言えまいか。
◆なぜウルトラブレスレットのみ特別なのか?
余談だが、劇中プロップのウルトラスパークが、実は郷秀樹が使う変身道具の没案だったという説がある。帰ってきたウルトラマン版のベーターカプセルというわけだ。
そもそもデザイン自体あんまり切断武器には見えないし、変身道具として見たほうが確かにしっくりくる。それに、本記事での考察=携行用プラズマスパークという説となんだか重なるようで面白い。
しかし、仮にウルトラブレスレットの用途が単なる武器である以上の「携帯型プラズマスパーク」だとして、なぜ後のウルトラ戦士が同様のものを携行しなくなったかについては疑問が残る。
続編の「エース」では、万能ブレスレットを装備させず、彼のピンチには頻繁に助っ人戦士が地球に駆けつけている。増してウルトラの父は兄弟たちに代わって命を落とすほどの犠牲を払うこととなった。なぜウルトラブレスレットを量産しなかったのであろうか?
この点については、帰ってきたウルトラマンとウルトラマンエースの違いを比較することでその裏事情が見えてきそうだ。
まず、融合する地球人の成熟度によって戦闘力が左右される不安定さを解消するため、エースは男女合体変身という手段でより安定した精神力=戦闘力を得ようとしたのではないだろうか。
その結果、怪獣より強力な生物兵器である超獣の息の根を瞬時に止め得る光線技、とりわけ切断光線に特化した強力な戦闘力を確保するに至ったのではないだろうか。
※地球生物の常識が全く通用しない超獣には、首を刎ねたとしてもなかなか死なない個体が多く、エースの必殺技には必然的に「○○ギロチン」といったド派手な切断技が増えていった。
つまり、エースは最初から、ブレスレットがなくともウルトラマンの潜在能力を概ね全て発揮できる状態にあったと言えるだろう。
加えて、星間戦争の状況変化も想像される。
帰ってきたウルトラマンが地球防衛の任に就いた当初は、環境変化による地球怪獣の復活から人類を守るため、と言われていたが、実は本作の終盤から暗躍し始める侵略宇宙人たちの地球侵攻を先読みする形でウルトラマンが地球に先行していた、とは考えられないだろうか?
おそらく1970〜71年頃は、最も星間戦争が激化していた頃だったのだろう。そして72年頃にはいよいよその余波が遠く我らの地球にまで届き始める。加えて、本作の最終回ではいよいよウルトラの星がバット星人による侵略を受けることとなり、郷秀樹ことウルトラマンは地球を離れた。
当然だが、他のウルトラ戦士たちが頻繁に地球へ助っ人としてやって来れる余力があったとも思えない。だからこそ彼には、やむなくウルトラの命=ウルトラブレスレットを携行させた。
なかなか助けに行ってやれない、たった1人で地球を守る弟に、どんな想いでセブンはこれを託したのだろう。
だが、エースの1話及び13話、26話の時点で彼が再び地球のために帰ってきたことを考えると、バット星人のウルトラの星侵略計画は案外すぐに解決できたのだろう。
それよりも、星間戦争の余波だろうか?異次元人ヤプールが地球に狙いを定めたことの方が余程大きな問題となったに違いない。続く73年〜74年頃まで、ウルトラ警備隊の守備範囲は大きく地球寄りにシフトしたと考えれば辻褄が合う。
つまり、ウルトラブレスレットとは、「遠く離れて地球にひとり」戦う弟のため、会いに行けない同胞たちが泣く泣く託したウルトラの命だったのだ。
そう考えると、彼がどんな想いで左手首に右手を添えてきたのか。
ただの万能武器ではない、心のこもった故郷からの贈り物。
ウルトラマンにとってそれは、何よりも大切な宝物でもあったに違いない。
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