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羊たちの沈黙:感想考察レビュー〜これはバットマン映画だ!〜

羊たちの沈黙

「羊たちの沈黙」、お恥ずかしながら最近初めてちゃんと見ました。すごい映画でした。本当に凄まじい映画だったと思います。

んで、この映画ってどんなお話だったのかなー?と色々考えたときに「バットマンの物語とよく似ているなー」と思いました。

何言ってんだコイツ?と思われるでしょうが、まぁ一応理屈はあるので良かったら最後まで読んでください。もちろん、双方の作品に直接的な関連があるとは思っていません。ただ、自分の好きな作品に共通するテーマ性?みたいなものをたまたま見出しただけの話です。

◆とりあえず初見感想

なんかもうとにかく「凄いものを見た!」という強烈なインパクトが残る作品でした。しょうもない言い方しかできなくて本当申し訳ないんですけど面白い映画ですねこれほんと。

まず、林の中をジョギングしているクラリスのシーンから始まるんですが、そこから少しずつ色んな情報が重ねられていって彼女の現在の状況(FBI捜査官見習い)が説明されていく映像の見せ方は(変な言い方ですが)とっても映画らしくて好きですね。

そしてこれは本作全体の構成にも共通していて、色んな断片的な手掛かりから段々物語の全体像が見えてくる感じ?やっぱり映画というのは「枝葉から幹に迫っていく」のが楽しいということを実感させてくれます。

それから勿論レクター博士の存在感。ただ立っているだけで異様。そんな彼が更に獲物に手をかけたときの、色白の顔と血で赤く染まった口周りのあのコントラスト。恐ろしいものや怖いものほど美しいというか…ある種の気品が漂っているところに彼のカリスマ性を感じました。

あとはやっぱりカメラワークですね。本作って一人称的視点の映像が多いんですけど、おかげで緊張感と没入感が凄かった。特にレクター博士との対話シーンは途中から自分がレクターと会話してるのかと錯覚するくらい直視させられるから、その意味でも怖かったですね。

とにかく全体的に見せ方がうまいんで直接的な描写が少なくてもめっちゃ冷や汗かく場面が多くて、正直もしこれが映画館だったらまともに見れた自信ないですね。裏を返せばめっちゃ映画館で見てみたかった作品です。

とにかく初見は大まかなあらすじを追うのがやっとだったので、映像から伝わる迫力とか恐怖とか驚きを堪能しました。そして二回目でよくわかんなかったところを補完しつつ好きなシーンを巻き戻して見返しながら自分なりの解釈を広げてみました。

 

◆主役は誰?

本作はどうしてもその「レクター博士の圧倒的存在感とカリスマ性」ばかりが注目されがちですが、本編視聴開始後すぐに「あ、これはあくまでクラリスの物語なんだな」ということがよくわかりました。

魅力的なキャラクターがいるとどうしてもそのキャラを中心に作品が語られがちで、そのことによって本質的なテーマが見落とされてしまうことはよくあります。

パッと思いつくのは「ダークナイト」ですかね。ヒース・レジャー演じたジョーカーは確かに凄まじかったのですが、ジョーカーは主役ではないです。

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あと帰ってきたウルトラマンの「怪獣使いと少年」とか。狂気にとらわれた群集の姿から、人間の集団心理の醜さに注目した感想が目立ちやすい本作ですが、そこが作品の本質的なテーマではありません。

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本作にもそれらに近しい「誤解」の香りを感じました。だから本作の続編がレクター博士を主人公にして作られたのだとすれば駄作になってんじゃないか?とか思ってしまいますね(見てないくせに)。まぁ時間があれば見ようと思います(結構評判は良いみたい?!)。

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というわけでここでは私はクラリスに焦点を当てて感想を書いていきますね。

 

◆クラリスとバットマン

彼女って、父の死後引き取られた牧場で見てしまった子羊が屠殺される場面がトラウマになっちゃってるんですけど、より具体的に言えば「子羊の悲鳴」が怖いんですよね。そこから更に掘り下げれば本質的には「悲鳴を上げる子羊たちを1匹も救えなかった自分の非力」がトラウマなんだと思います。

そんな絶望の中にあって唯一の希望が大好きだった父の背中だったんでしょう。だから彼女はFBI捜査官としての道を選んだ。

世間的には「小柄な女性なのに男社会の環境にも負けず社会正義に燃えて悪質な犯罪と戦う若き捜査官の卵」なんでしょうけど、本質的には「子どもの頃のトラウマという牢獄に囚われた幼い少女」のままなんですよね。

んで、そこがバットマンとそっくりなんですよ。

金持ちの大富豪だけど幼少期に眼前で両親を殺されたこと、コウモリの群れに襲われたことがトラウマになってて、そのトラウマが原動力となって夜な夜な犯罪と戦うっていうところがものすごくクラリスと似ているんですよね。

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実際劇中で見られたクラリスの捜査ってすげー単独行動の連続で、特に最後の地下室への突入なんか完全に規則違反じゃないですか。結果的には人質を救えたので良かったんですけど、組織の人間として行動する気がないアウトローな気質とかはもうほぼバットマンのそれですよね。

もちろん彼女の中には「かわいそうな人質を絶対に救いたい!」という義憤はあるにはあるけど、魂の奥底で彼女を本当の意味で突き動かしてるのは「自身のトラウマを克服することへの切望」ですよね。そうじゃなかったらあの場面でクラリスは絶対に単独行動をしなかったはず。応援の到着を大人しく待ったはず。

この、一見「世のため人のために命を賭して戦うヒーローに見える人」が実際はものすごくパーソナルな理由で苦悩しながら戦ってるってところが良いんです。

だから「THE BATMAN」でバットマンが獄中のジョーカーにリドラー事件の捜査協力を依頼するところ(カットされたみたいですけど)とかまんま本作へのオマージュなんですね。

バットマンがジョーカーと対面する『THE BATMAN-ザ・バットマン-』の未公開シーンがリドラーのサイトで明らかに

更に言えば「ダークナイト」伝説の「取調室のシーン」にも本作の影響を見いだせます。

それと、「バットマンvsスーパーマン」終盤のマーサ救出戦。亡くなった実母と同じ名前のマーサを救出することでバットマンは自分自身を救うのです。

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クラリスもそう。彼女は誰より自分自身を救おうとしている。あの日の自分にケジメをつけて自分の過去を浄化しようとしている。

 

◆羊たちの悲鳴

んで本作が特に見事だな〜スゲーなーと思うのは、過去の父の姿や父の葬儀場面は回想シーンとしてちゃんと映像化してるのに、肝心の「トラウマシーン」は一切映像化していないことです。

これは紛れもなく意図的で、「映像化していない」というより「する必要がない」ということだと思います。彼女のトラウマは多分作中で2種類の方法で既に映像化されていました。

一つは、レクター博士らが収監されている牢獄を初めて訪れたシーンです。例の囚人が◯液をクラリスに投げつけたあたりで全囚人が騒ぎ始めます。ここから彼女は取り乱していきます。地下牢に捕えられた囚人たちが叫ぶ姿に、「あの日の羊たちの悲鳴」が仮託されています。

そしてもう一つが、終盤でクラリスが突入した現場の井戸です。人質にされた議員の娘が泣き叫び犬も吠え続けますが、クラリスは何度も静かにするよう促します。犯人に気づかれないように云々かと最初は思ったんですけど、これ明らかにまた「羊たちの悲鳴」とカブってますよね。

 

◆羊たちは沈黙したのか?

んでもって本作のタイトルは本当秀逸だと思います。「静かな羊たち」とかじゃなくて「羊たちの沈黙」って言い回しに深みがあります。だってそう言われると「最初っから静かだったんじゃなくて、何かがあった後静かになった」って感じがしますよね。あと、「羊たちが黙って何かを見てる」ような気がするんですよね。

で、結局クラリスにとっての羊たちって静かになったんですかね?まだここって理屈で整理できてないところなんですけど、私としては多分静かになってくれたんだろうなーとは思ってます。

※犯人を射殺した後日光が差し込むイメージはトラウマからの夜明けを暗示しているようにも見える。

ただ、あんな経験(単身連続殺人鬼のテリトリーに乗り込んで真っ暗闇の中で背後を取られながらも寸手のところで犯人射殺に成功)したら精神的に相当参っちゃうのがフツー(PTSDとか患うでしょ)だと思うんですけど、ケロッとした顔で卒業式?みたいな席に笑顔で立ってたところ見るに、こいつもタダものじゃないよなーと。

言っちゃ悪いけどレクター博士並みのバケモンだと思いますよコイツも(笑)

一方で「羊たちは沈黙していない」って解釈も可能は可能で、ただ彼女はFBI捜査官としての地位を獲得したからあとはもうひたすらに泣き叫ぶ羊の元に行けばいいだけです。それはそれで無間地獄だよなとは思うんですけど、どっちにしても彼女はもう常人の人生は送れないと思います。レクター博士との出会いと別れはそのことの暗示だったような気がしますね...。バケモノだらけの世界に足を踏み入れるお前もバケモノだぞってメッセージな気がします。

 

◆動物たち

あと二回目見て気づいたんですけど、本作に登場する「動物たち」って結構重要な役割を果たしてるように思います。

まずは、監禁されてしまった議員の娘の家の窓から拉致の瞬間の一部始終を見ていた飼い猫。

それからカワハギ魔の愛犬。

それと、第一の被害者の家でクラリスを導くように突然現れる猫。

特にカワハギ魔の愛犬って、議員の娘に釣られて「人質」にされちゃうんですけど、全てが終わって犯人の家から出たときにはかなり愛着持って抱きしめられてるんですよね。

多分これ全部クラリスのトラウマの元になってる「羊たち」の投影なんじゃないかなぁと思います。

そして羊たちには「無垢」なイメージと、語らないけど「真実を知る者」というイメージがあるように思えますね。

 

まぁとりあえずここまで。書ききれなかったこともたくさんあるんですけど、もしまた書きたいことが溜まってきたらまとめて触れようと思います。

(了)