©︎円谷プロ
これは、「帰ってきたウルトラマン」31話に登場するMAT本部(司令室)のワンカットである。何気ないシーンのようで、このワンフレームに5人の隊員の芝居がきっちり収められている。その一枚の絵としての構成、完成度の高さはさながら一枚の名画のようだ。
本作には、こんなシーンが山ほどある。画作りに相当こだわっているようだし、「遊んで」いる。だから見ていて飽きないし、楽しい。
今回は「帰ってきたウルトラマン」のMAT本部のシーンから、よりすぐりのカットを紹介したい。
◆緊張漂う司令室〜ぶつかり合う隊員たち〜
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こちらは5話からのカット。序盤といえば岸田と郷の対立。
郷の横顔の向こうから覗く加藤隊長。そして岸田の向こうに3人の隊員たち。言葉はなくとも、みなそれぞれに熱い想いを秘めて2人を見守っている。誰一人として知らん顔はしない。私は素敵な職場だと思う。
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こちらは29話。怖い怖い伊吹隊長に絞られる郷。脇の下から隊長の表情を覗き見るようなカットが堪らない。この後のカットでは、しょんぼりした郷の顔と彼の両肩の向こうに見える上野と岸田の決まり悪い表情も最高だった。このカットに限って言えば、ここは完全に「職員室」。
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上野の「知らないぞ…」と言わんばかりの態度が面白い。
いつもMATではその周りの人物の芝居も同時に楽しめるから、ドラマではなく舞台演劇を観ているような気分になる。
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11話、陰影のくっきりしたこんなカットも。被害者たちの死因が毒ガスであったことを知った面々に緊張が走る。劇画のような映像がハードな雰囲気を強くする。序盤のMAT基地は特に暗かった(おそらく番組強化策によって意図的に段々明るくなってゆく)。
陰影のくっきりした一人一人のアップが順に映し出される映像は、ビートルズのPVのように前衛的というかエキセントリックさすら漂うシュールな魅力たっぷり。
◆あらゆるところから覗くカメラ
そんなエキセントリックさをより強調するのが独特の構図。特に5〜6人の隊員たちをいかに一枚のフレームに収めるか、という所に工夫を凝らしたカットの数々が本当に素晴らしい。
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こちらは6話。半分以下に絞られた画角にパースの効いたMATの面々。そしてグレーの上官たち。それはもしかすると、MAT基地に忍び込んだ子どもの目線のよう。
隙間から覗き見るような独特の構図。ストーリーだけでなくカメラワークも変化球の本作はやはり何度見ても飽きない。
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こちらは47話。郷と南が行方不明、珍しくミス続きの丘隊員には特別休暇、と3人になってしまったMAT。椅子の後ろから覗き見るようなカットが面白い。こんな構図、どうやって思いつくんだろう。広く円形ドームのようなMAT基地は、撮影監督たちにとって最高の「遊び場所」のようだ。
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この遠近感がなんとも味わい深い。手前に静物を並べて奥の登場人物たちを際立たせる構図はさながらフェルメール。
◆ワンフレームで伝わる司令室〜まるで絵画芸術のように〜
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こちらは冒頭でも紹介した31話。遠目に引いたカットで隊員たちの距離感を強調。仲間に理解されずに孤立する郷が際立つカット。
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同話よりこちらは非常に複雑な一枚。前後の距離感と左右の位置関係を巧みにずらすことで立体的なワンカットに。
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34話、レオゴンのツタを分析するMAT。手前の上野が良い仕事をしている。彼がいることでパースの遠近感が強まり、円卓を囲む立体的な映像に仕上がっている(彼だけ照明の影に入っているのもポイント)。
MAT基地は、限定された一方向の照明で陰影を作り出し、奥行きある空間を利用した立体的な映像表現が魅力的な場所だ。
いわゆる子供番組と呼ばれるジャンルにおいても、大人たちが妥協なく真摯に作品に向き合っていたことが、ちょっとしたワンカットの中にも滲み出ている。
やっぱり、「帰ってきたウルトラマン」が私は大好きだ。