帰ってきたウルトラマンを何度か繰り返し見ているが、ほぼ間違いないと思っていることが一つある。
それは、MATの初代隊長・加藤と、二代目隊長・伊吹の2人には、郷秀樹の正体がバレていたのではないか?ということだ。
ウェーブ 帰ってきたウルトラマン マットアロー2号 隊長機 プラモデル UT-027
◆加藤にバレた?!第2話
まず、加藤隊長が間違いなく郷の正体に気付いたと思われるのが第2話のこと。
南隊員と同乗したマットサブで、郷秀樹の過失を証明する会話のやり取りの一部始終が音声として録音されていたことが明らかになったシーン。
「怪獣の1匹や2匹!」と、南の静止を振り切り作戦にない身勝手な行動をとった郷の言動は司令室で全員に聞かれることとなった。
劇中ではそこまでが描かれ、加藤隊長からはクビを言い渡され郷はMATを出て行ってしまうのだが…よく考えてもみてほしい。あの時彼はマットサブの中で「ウルトラマンになれ!」と変身を試みているのだ。
普通に考えればそのセリフも含めて全てが録音されていたはずで、事前に音声を確認している加藤隊長だけは、その全てを聞いていてもおかしくない。加藤隊長は、彼のこの奇行をどう捉えていたのだろうか?
この場面については二通りの解釈が可能だ。
- ①わざと郷の意思を無視して変身しなかったウルトラマンが、超能力でこの場面の録音を消去した
- ②加藤隊長はこの録音を聞いたが、郷が本当にウルトラマンである可能性を考慮し、黙殺した
ウルトラシリーズのことなので①の説も十分考えられるものの、本作全体を俯瞰した時、後にも先にもウルトラマンがそんな特殊能力を披露したことは一度も無かったためここでは②をベースに考察を進めてゆくこととする。
◆人間・郷秀樹を信じた加藤隊長
であるならば、加藤隊長は郷秀樹がウルトラマンである可能性を知りながら、郷を一度はクビにしたということになる。
そもそも加藤隊長が郷秀樹をMATに勧誘したのは、タッコングが暴れる中、少年と子犬の命を救った勇敢さと、死して尚蘇る不死鳥の如き生命力に惚れ込んだから。そしてこれは、ウルトラマンが郷を選んだのと全く同じ理由だった。
※ウルトラマンの郷への想いについては上記に詳しい。
加藤隊長はまず、郷秀樹の人間的強さに惚れた。そしてその後、彼の正体がウルトラマンかもしれないと知っても尚、彼を特別視したり、神格化することは一切なかった。
ウルトラマンとして、ではなく人間・郷秀樹として彼を鍛えるため、わざと彼を突き放したのだ。
過去、ウルトラシリーズでは常に「ウルトラマンに助けられてばかりの防衛チームの存在価値は?」「地球は人類自身の手で守り抜くべきではないか?」ということが問われ続けてきたが、加藤隊長はこの問いに対しても、無言の内に答えを出していたと言えるだろう。MATとしてウルトラマンを利用してやろうなどとは微塵も考え付かなかった。誠実に、郷の人間性を鍛え、郷の人間性に賭けたのだ。
郷にも加藤のそんな誠実さは痛いほど伝わっていた。
「隊長が、俺の信じる通りの人なら、きっと霧吹山へ行っている。隊長はやっぱり、俺の思った通りの人でした。MATへ入隊して良かった!」
2人の絆は、職場の上司・部下という関係を越えて父子の絆の次元にまで深まっていた。そんな2人の姿が眩しい第3話は、涙なしには見られない。
その後も加藤隊長は、郷を特別視することなく、誠実に隊員たちと向き合い、真摯に職務を全うしていった。
◆伊吹にもバレた⁈第31話
そんな加藤隊長も第22話でMAT宇宙ステーションへ異動となり、代わって伊吹新隊長が着任。そして伊吹もまた、郷秀樹の言動の不自然さに直面させられることとなる。第31話「悪魔と天使の間に…」のことだ。
愛娘の美奈子の友人で聾唖の少年・輝夫に対し、郷秀樹が暴行を振るうという事件が発生。いくら大切な部下とは言え、かわいい娘の心を傷つける、しかも聾唖という社会的弱者への暴行は絶対に許せない。郷を精神鑑定にまでかけるが、郷が何の根拠もなしにそんな奇行に及んだとも思えない。
事実、輝夫少年の正体は悪質なゼラン星人であり、郷秀樹にのみテレパシーで話しかけ郷を罠にかけていたのだが、その事実を断片的にしか話せない郷に対し、伊吹隊長はこう語る。
「正直言って、私はあの少年よりむしろ君の方が宇宙人じゃないかという気になってるよ」
冗談めかして言いつつも伊吹隊長の脳裏にはこの状況を理解するため、ある1つの考えが浮かんでいたに違いない。
郷の話が事実だとしたら、なぜ宇宙人は郷にだけ真実を伝えたのか?
→郷が地球を守るMATの隊員だから?
→それならば、なぜ隊長である自分に接近しない?MATを分裂させることが狙いならなぜ郷1人を狙う?
→郷の正体も宇宙人=ウルトラマンだとすれば全ての辻褄が合う。
◆厳父・伊吹隊長
これも私の勝手な妄想だが、ゼラン星人との戦いの後、伊吹隊長は郷のことを独自に調べたのではないだろうか?そうして、概ね郷の正体がウルトラマンであることに確信を抱いていたに違いない。
そう思わされたのが第33話のこと。宇宙人扱いされ差別される少年の身辺調査を郷に託した伊吹。しかし彼は時折虚無僧姿となって郷の様子を見守っていた。そして暴徒に金山が殺害され、怪獣が出現し半ば戦意を喪失した郷に対し
「郷、街が大変なことになってるんだぞ、郷!わからんのか!」
そうして再び立ち上がった郷を見送る伊吹はうっすらと微笑む。
ただ郷秀樹という男が人間として再び立ち上がることだけを願い、彼は喝を入れたのだった。やはり伊吹隊長も加藤隊長と同じく、郷がウルトラマンだと知っても尚、彼を人間として見つめ続けていた。
※33話については別記事にて詳しく扱っている。
◆殉職!郷秀樹
「少し勘ぐりすぎだ」と思われる節もあろう。しかし、私が郷の正体を隊長が知っていたに違いないと最初に確信したのは、実は最終回を見てからのことだった。
最後のマットアロー1機でゼットンに決死の特攻を仕掛けた郷。結構これまでもこんな死線を何度もくぐり抜けてきたはずなのに、最終回に限ってやたらあっさり郷を戦死扱い。
当然死体も見つかっていないはずで、確定させるには不自然なほどに性急な判断。まるで、とっとと戦死扱いにしたいかのような伊吹隊長の素早く非常にあっさりした弔い方に、強い違和感を覚えた。
この最終回の郷の弔いには、どんな意味があったのだろう。
私は、以下の2つがあったんじゃないかと考えている。
1つは、正体が宇宙人であった郷秀樹の存在を事実上抹消するための死の偽装だ。ルミ子が「郷さんが帰ってくるような気がするんです」と言ったのに対し、伊吹隊長は真っ直ぐ彼女を見つめ黙って力強く頷いた。この表情には、彼女を憐れんだり慰めてあげようという他意は全く感じられず、むしろ「わかっている」とさえ言っているように感じられた。
もう1つは、人間・郷秀樹の弔いだ。
次に郷がウルトラマンになったが最後、郷はもう二度と地球人としては帰って来ない。そしてそれは確かに、「MAT隊員・郷秀樹」の死を意味している。だからこそ、人間としては弔ってやる必要があったのだ。
本編ではごっそりカットされているが、ゼットンとの戦いを終えた郷と伊吹隊長の間で何らかのやり取りがあったような気がする。
郷は、地球人・郷秀樹は死んだことにして欲しいと伊吹にヘルメットを託して己の新たな使命を語り、伊吹隊長は「全てわかっていたよ」と郷の手を固く握る...。
いや、結局のところ本当に何のやり取りも無かったのかもしれない。それでも、全てを悟った伊吹隊長が郷の静かな旅立ちを応援するためあえてあのような場を設けたのかもしれない。
どちらにせよ、あのあまりにも冷たくあっさりとしたMATによる弔いの背後には、そんな男同士、地球人同士の固い信頼と約束があったような気がするのだ。
◆他の隊員は気づいていたのか?
それでも正体がバレている訳がない!と思われるかもしれないのでもう一つ根拠を提示しておきたい。
MATの丘隊員が宇宙生物に憑依された第48話だ。宇宙怪獣フェミゴンとなってしまった丘隊員だが、最終的にはウルトラマンによってフェミゴンが倒され無事宇宙生物と分離、一命を取り留めることができた。全てを悟った伊吹隊長は丘隊員に
「君は宇宙怪獣に取り憑かれていたんだよ」
と笑顔で語りかけて戦いは終わる。
しかし、やっぱり同僚が宇宙生物に憑依されて怪獣だの巨人だのに変身していたら当然バレるよ!ということを証明した好例だと思う(彼女の場合はわかりやすすぎたが…)。
郷の場合はまだ隠そうとしていたとは言え、毎週毎週仕事中に変身されていれば誰かに気付かれるのも当然だろう。増して上述のような様々な「ニアミス事案」が発生していれば尚更。
ハセガワ マット ビハイクルw/MAT女性隊員 1/24スケール プラモデル SP376
では、仮に歴代の隊長2人が郷の正体に気付いていたとして、他の隊員たちは気付いていなかったのだろうか?
これに関しては手がかりが少ないため、大雑把な推測しかできないが、隊長らがその疑惑を封殺してきたのではないかと私は考えている。
特に郷秀樹はハヤタやダンと違って粗相が多いし他の隊員たちにもバレかけていたはずだ。隊長にこっそりその可能性を進言する隊員がいてもおかしくない(岸田か丘あたりか?上野は多分天然だから気付かない、南は気付いても郷と隊長を信頼して黙認してくれそう)。
しかし、加藤隊長も、伊吹隊長も、真実に気付いていたからこそそれを笑い飛ばしたり、相手にせず真に受けないふりをして郷を守ってきたのではないだろうか?
なにせ、MATの上官には極右の岸田長官がいる。郷の正体が仮にでもMAT上層部にバレたら何をされるかわからないからだ。
こうしてMATのことを考えていると、郷は過酷な戦いを強いられたとは言え、本当に上司に恵まれていたんだなと思える。加藤隊長も、伊吹隊長も、そして勿論坂田さんやウルトラマン含め、本当に素晴らしい人格者に囲まれて郷は成長できた幸せ者だったんだなぁと思う。
本文中では根拠がどうとか色々言っているが、結局はこれもある種の二次創作、こういう解釈もできると面白いよね、の域を出ない話なので、作品の捉え方の一つと思ってまた本作を見返していただければ幸いである。