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妖怪から怪獣誕生へ〜日本人の心を掴んだ「ゴジラ」とは?〜

戦後わずか9年後の1954年制作、大ヒットとなった伝説の怪獣映画「ゴジラ」(1954)

ゴジラ

ゴジラ

  • 発売日: 2014/04/23
  • メディア: Prime Video
 

すぐさまシリーズ化され、今や学校教科書にも載り、あのハリウッドも映画化。日本人なら誰もが知っている日本文化を象徴するものの一つともなった「ゴジラ」。

諸説あるものの、本作「ゴジラ」を「日本初の怪獣映画」と位置付けたときに、なぜ本作が怪獣映画のエポックメイキングたりえたのかについて、日本人の民族性とも結びつけながら一考してみたい。

とりわけ、日本の歴史にも長く棲みつく妖怪との連関性を探りたいと思う。と言うのも、怪獣と妖怪には、その発生の背景に非常に近しい日本人的発想があるのではないか?と常々考えてきたからだ。

つまり、怪獣王ゴジラが実は妖怪の親戚ではないか?という考察への挑戦である。

◆妖怪とは?〜日本人の遺伝子に生きる怪物たち〜

妖怪の歴史はとてつもなく古く長い。

今や学術的にも大真面目に研究される分野となった妖怪。私自身はそこまで深く手を伸ばしてはいないので、あくまでも趣味の範囲でモノを言わせてもらう。不学な点があれば申し訳ない(という予防線を張りつつ)。

私にとっての妖怪バイブルはやはり水木しげる大先生の書籍だ。特に、ろくに漢字も読めやしない小1or2の頃にねだって買ってもらった「図説・日本妖怪大全」は、10センチ程の厚みながら何度も何度も読み返した。

図説 日本妖怪大全 (講談社+α文庫)

図説 日本妖怪大全 (講談社+α文庫)

 

ここで幾つかの妖怪をご紹介したい。

アカナメ」という妖怪をご存知だろうか?夜な夜な風呂場の垢をなめるというなんとも不気味な妖怪だ。しかしその名の通り垢をなめるだけで他に何らかの危害を加えるような妖怪ではない。

枕返し」という妖怪もいる。朝、枕がなぜかひっくり返っているということはないだろうか。それはこの妖怪枕返しの仕業かもしれない。皆が寝静まった夜の間にこっそり枕をひっくり返す、悪戯好きのシュールな妖怪だ。東北〜関東地方にかけて伝承が多く残されている。

くねゆすり」という妖怪は、特に東北地方で語り継がれており、生垣をゆすっては人々を驚かせるこれまた悪戯好きな妖怪だ。

沖縄といえば「キジムナー」。ガジュマルの大木の精霊として親しまれており、その姿は子供のようなときもあれば、河童に似ているとも言われ、様々なタイプのものが語り継がれている。

日本全国で有名な妖怪と言えば「天狗」。出自は諸説、地域によって様々あるが、興味深いのは「山に潜む魔神」としての伝承。山で起こる奇怪な出来事の多くは天狗の仕業とされ、忌み嫌われるケースも勿論あれば、神として崇められている地域も数多く現存する。

最近やたら話題となったのが「アマビエ」。古くは熊本県での目撃情報があり、豊作や疫病の予言を残す不可思議な妖怪だ。

アマビエとよく似ている妖怪に「くだん」というものがおり、予言といえば個人的にはこっち。牛から生まれた半牛人で、生まれてすぐに予言を残して数日で死ぬという変な妖怪。幕末〜第二次大戦中まで、比較的新しい目撃情報が残されている。

 

昔は、日本全国至る所にこんな妖怪たちの伝承が数えきれないほどあった。

妖怪なんてお伽話だ」と一笑に付してしまう人もいるかもしれないが、その存在は科学的にも証明できると私は考えている。

上述の「アカナメ」は、夜中になると風呂場から聴こえてくる様々な虫たちの不気味な蠢く音の二つ名、或いは少しの汚れも餌として生きる小さき分解者たちの二つ名として与えられたものかもしれない。「枕返し」にしても「くねゆすり」にしても、日常に潜むあらゆる不可思議を擬人化してみせた日本人の逞しい想像力に感服させられる。

「キジムナー」や「天狗」のような大自然に宿る精霊の存在は、大きくは地域の山岳信仰とも結びついている。雄大な木々に、村を見守る不動の丈夫(ますらお)に、神秘的な何かを見出す心は実に人間的で美しい。

そして当然それは、もっと原初的な精霊信仰(アニミズム)とも通底しており、これは単に何万年という歴史の長さ云々という次元を超えた、遺伝子レベルの話であるということをも意味している。

つまり、全日本人のDNAには妖怪を生み出す創造性が刻印されているということだ。

ここで「日本人」と限定したのは、歴史的にも地理的にも大陸からの独立性が高く、侵略性の強い一神教に支配されないまま、原初的なアニミズムを「八百万の神」という形で奇跡的に維持し続けた日本という国の特異性からだ。

※決して国家主義的発想や、人種差別的思考に基づいた発言ではないことをご理解いただきたい。

 

◆妖怪は人間社会の写し絵〜「環境破壊」という名の「神殺し」〜

そんな日本人の精神性は、たった50年で見るも無残に破壊されてしまう。

各地域の再開発に伴って神聖な山々が次々と切り拓かれていったのだ。これは「ゲゲゲの鬼太郎」でも特に70年代以降、アニメシリーズを中心に「環境問題と妖怪」というテーマとして繰り返し扱われてきた。野山を切り拓くショベルカー等の重機は、妖怪たちの住処を奪う「黄色い悪魔」として幾度となく登場した。

ゲゲゲの鬼太郎 全7巻セット

ゲゲゲの鬼太郎 全7巻セット

 

しかし(とりわけアニメ版)「鬼太郎」を通じて描かれた、「開発を望む現代人」と「土着の山岳信仰者(妖怪)」の対立という構図は、単に「自然を大切にしましょう」といった20世紀後半になって盛り上がった自然保護的観点からのみではなかったことをここで強調しておきたい。

「自然を大切に」という言葉は、「自然は我々人間が守ってやらねばならない弱者である」という大前提の上に成り立った言葉であり、人間の驕りをも内包している。

そもそも明治以前の日本には「自然」という言葉は存在すらしなかった。日本人にとって人間と自然は不可分であり、わざわざ分解して考える発想そのものが日本には元々無かったのである。

そんな日本民族にとって山や村が喪われるというのは、その土地と共に生き、死んでいった民族の歴史の喪失と同義であり、彼らの精神的支柱=神々の喪失をも意味する屈辱的な破壊行為だったのだ。

精神的支柱の喪失は、資本主義や合理主義的な大量生産大量消費型の生活様式への強制転換をも意味しており、物理的破壊行為である以上に、民族性(精神性)や文化性を踏みにじる侵略行為であったとも言える。教科書的な「自然を大切にしましょう」といった薄っぺらなスローガンに置き換えられるほど、単純な話ではなかったのだ。

第107話 山の神・穴ぐら入道

第107話 山の神・穴ぐら入道

  • 発売日: 2015/07/01
  • メディア: Prime Video
 

しかし、それでも我々の心(DNA)には、不可思議なものを信じたい、見てみたいと願う心が厳然と存在している。その正体は、雄大な大自然に抱かれたい、溶け込みたいというDNAに刻印された本能的欲求だ。

だから、現代人の多くは、都市開発を歓迎する一方で、息苦しい大都会から抜け出したがる。わざわざ「旅行」と称した大自然への逃避行に興じる。田舎暮らしを求める移住者も年々増加、高度経済成長期の真逆を行く「自然回帰」の動きが'10年以降活発化している。

そんな現代人の潜在的な渇きは、とりわけ大地震や大災害(疫病含む)の機に応じて一気に顕現する。「どんな時代も、やっぱり大自然の猛威には敵わない」、そんな人々の心に蘇った大自然への畏敬の念が、予言者を生み出す。我々人間など知り得ない神秘が、大自然には詰まっているのではないか?そんな潜在的な大自然への期待が、不可思議な妖怪を創り出す。

「アマビエ」や「くだん」が比較的近代以降も語られる都市伝説となっているのは、それが理由かもしれない。

 

やや脱線しつつも、妖怪についてここでハッキリさせておきたいのは、妖怪とは、常に何かのメタファー(隠喩)であるということだ。架空の、空想の存在のようでいて、常に現実にある何か(主に人々の潜在意識)にその存在は立脚している。いつも妖怪は、現実にある人間社会の写し鏡なのだ。

 

◆ゴジラは戦争と核のお化け〜伝説の「神獣呉爾羅」は「怪獣ゴジラ」へ〜

翻って怪獣王「ゴジラ」とはいかなる存在か。

そのデザインや設定には、「ゴジラ」の前年1953年公開のアメリカ映画「原子怪獣現る」が大きく影響を与えており、トカゲのような巨大怪獣が街中で暴れ回るという基本コンセプトはこれを踏襲したものだった。

原子怪獣現わる (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

しかし、当初はキノコ雲のように大きく膨れ上がった頭部のデザイン画も残されており、ケロイド状のゴツゴツした皮膚や、白骨化をイメージした背びれからはモロに原爆の影響が見受けられる。

S.H.モンスターアーツ ゴジラ (1954) 約150mm PVC&ABS製 塗装済み可動フィギュア

S.H.モンスターアーツ ゴジラ (1954) 約150mm PVC&ABS製 塗装済み可動フィギュア

冒頭、漁船を襲うゴジラの白熱線はまさに「広島のピカ」。と同時に、「死の灰」を浴びた「第五福竜丸の悲劇」がオーバーラップする。

劇中その存在は大戸島(劇中登場の架空の島)にて「呉爾羅」として古くから語り継がれており、嫁入り前の若い娘を生贄に捧げる風習が残されていたことも語られている。特定の地域に土着歴史ある怪物としての側面も描かれた。

更に、東京上陸の際にゴジラが辿った足跡は、東京大空襲でB29の大編隊が爆撃したルートと見事合致しており、ストレートに戦争の記憶を呼び起こさせるものとなっている。

 

もうお気づきだろうが、ゴジラとは「核と戦争の恐怖」のメタファーだった。公開僅か9年前まで日本中に塗炭の苦しみを味わわせた戦争と、世界で唯一の被爆国たる日本だけが抱き得る核への恐怖を、その黒々とした巨体いっぱいに詰め込んだある種の妖怪だったのだ。

 

しかし、ゴジラと「妖怪」の間には、決定的な違いがあった。

序盤のゴジラは、大戸島伝承の海の魔物「呉爾羅」(謎多き怪物)としての側面が強く、その姿を見た者はほとんど死んでいた

しかし、声のみ、足のみ、と勿体ぶってきたゴジラは突如我々の前に姿を現す。列をなして歩く大戸島の島民たちの目前で、ゴジラは山の向こうよりヌッと顔を出す。闇の住人であった妖怪と違い、ゴジラは白昼堂々、衆目の前にその姿をハッキリと現すのである。そして女は悲鳴を上げ、学者は目を丸くして己の説を叫ぶ。

このシーンは非常に重要で歴史的な瞬間であったように思う。それまではごく一部の人間しか視認できなかった神獣「呉爾羅」が、一気に衆目に晒され、学者によってその存在をハッキリと認知される。この瞬間、「呉爾羅」は「怪獣ゴジラ」となった

というのも、その存在が公にされることで社会には狂いが生じ始めたはずだ。マスコミが騒ぎ、国会は紛糾。戦後ようやく疎開先から帰った家族は再び「ゴジラ疎開」を余儀なくされる。そんな社会の混乱も、本作では非常に丁寧に描かれている。

日常に潜み、日常を住処としていた妖怪との決定的な違いはここにある。怪獣とは日常の破壊者なのだ。

「日常の破壊者」とは、現実社会における何のメタファーか?それはもう戦争以外にあり得ない。つまり怪獣とは面白いことに、生まれながらにして「戦争の申し子」でもあった。

戦争という「非日常のメタファー」は、妖怪の定義(日常のメタファー)をも破壊し超越した「怪獣」という新たなジャンルとしてこの世に産声を上げるのである。

※しかし絶妙だったのは、戦争を「非日常」と言い切れないほどに戦後間もない1954年というタイミング。本作は1954年だからこそ生まれ得た奇跡だとも思う。

 

◆ゴジラの死を悼む子どもたち〜バラエティ豊かな「怪獣時代」の開幕へ〜

それにしても「ゴジラ」が素晴らしかったのは、ゴジラがとことん「日常の破壊者」に徹している点だ。その証拠に、化け物でありながらゴジラは人を喰わない。伝承では生贄の娘を喰らっていたはずだが、東京に上陸したゴジラはただひたすらに歩いて街を破壊するだけなのである。そんなもの言わぬ黒き破壊者は、言わずもがな当時の人々に戦争の悪夢を再び呼び起こさせた。そして、メタファーと共に生きてきた日本人の心に深く深く響く作品となったのである。

それに留まらず、「ゴジラ」という映画は、日本初の怪獣映画でありながら、後の「怪獣」ジャンルの行末をも占う大偉業をも成し遂げた。

ゴジラの死を、多くの子どもたちが悲しんだのである。東京を火の海にし、多くの命を奪った悪魔の死を、劇場の子どもたちは嘆き悲しんだ。製作陣も同様、ゴジラをもう二度と自分たちの手で殺したくない、と2作目以降のゴジラは基本的に死ななくなった。

これは、「怪獣のキャラクター化」である。すぐに何でも「擬人化」、「デフォルメ化」するその気質は、水爆と戦争の死に損ないに新たな命を吹き込んでしまったのだ。

こうして「怪獣」という新ジャンルは、早くも次のフェーズへと歩を進め始めていた。

この、「ゴジラ」に始まる「怪獣」という名の大発明は、後のあらゆる特撮作品誕生の契機となる。

ウルトラQ」に始まる怪獣のテレビ進出と怪獣ブームの到来。そして「ウルトラマン」という怪獣ならぬ「怪人」及び「巨大ヒーロー」の誕生。

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更には等身大にスケールを縮めて登場した「怪人/変身」ブーム

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「ウルトラマンタロウ」等で見られた「怪獣の妖怪化」現象や、平成以降顕著となる「怪獣の神格化」…と、様々な変遷を経て怪獣は日本文化の仲間入りを果たす。

そして、再び社会風刺の象徴としてゴジラを現代に蘇らせた「シン・ゴジラ」へと歴史は紡がれてゆく。

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駆け足で触れた上記「怪獣の変遷史」についても今後扱ってゆきたい。

とりあえずは原点にして頂点、「ゴジラ(1954)」未見の方は是非。

ゴジラ(昭和29年度作品) <東宝Blu-ray名作セレクション>