感無量です。
現在あべのハルカス美術館で開催中の庵野秀明展に行ってきました。
庵野秀明展そのもののレポートでもしようかとも思ったのですが、実質私の本命は、実際に撮影で使われたホンモノの帰ってきたウルトラマンのスーツでしたので、もうこのスーツとの邂逅のことだけで記事書きます。
それくらい、感動しましたから。
メカニックの数々
まず、最初の通路ではウルトラマンや仮面ライダーの映像が流れている巨大モニターがお出迎え。
そして頭上には帰ってきたウルトラマンの飛び人形が…!
※展示品のほとんどが撮影可能。但し一部展示品と、動画が流れているモニターは撮影禁止でした。
そんな通路を曲がった先には、「あの頃」の香りと空気。ヒーローが毎日毎晩テレビで見られた昭和ヒーロー黄金時代にタイムスリップしたかのようなあの時代のわくわくに満ちた幸せな空間でした。私は鑑賞時間のほとんどをここで過ごしていました。
この空間に入った瞬間の感動と居心地の良さは、是非直接ご体感いただきたい。
やはり目を引いたのは展示されているメカニックの数々…。マイティジャック、ウルトラマン、ウルトラセブン、帰ってきたウルトラマン、サンダーバード…作品を彩った魅力溢れるメカニックがたくさん展示されていました。
特にウルトラホーク1号は超特大!!ファン必見です。
そしてMATの戦闘機たち!
劇中でも「よくできてるなぁー」と思っていたマットジャイロ。コクピットにMAT隊員が見えるんですよね。
…そして来ました。
ウルトラマン、そして帰ってきたウルトラマンのスーツ。
初代ウルトラマンレプリカスーツ
ウルトラマン(Cタイプ)のスーツは、当時品ではなく当時の技術を使って再製作されたレプリカだそうです。
ですが古谷敏さんの体を型取りもしているらしく、もうほぼ完全に当時のウルトラマンを再現しています。
…とにかくマッシブさがカッコ良すぎて…!ベンアフレックのバットマン思い出しましたね笑
ヒーローとして完成されきっています。「完璧な美」を感じます。強く美しく逞しい無敵のヒーロー、怪獣退治の専門家、ウルトラマン。彼に勝る完璧なヒーローはいない。その存在感に圧倒されます。
帰ってきたウルトラマン
そんな初代ウルトラマンに対して、スラっと細く、また経年劣化が著しい帰ってきたウルトラマンのスーツ。
こちらは、レプリカではなく正真正銘のホンモノです。
ウルトラマンのような逞しさは無いのですが、本展示においても一際凄まじい存在感=オーラを放っており、30分近く彼の前にいたような気がします。
…もうほんっとに、やさしい〜表情をしているんですよね。
50年前、こんなにボロボロになるまで、地球のために戦って、何度も何度も負けて、その度に立ち上がって、僕らのために戦ってくれたウルトラマン。
だけど、こんなに徳のある表情をしているんです。
不思議なんですが、ずーっと見つめていると、声が聞こえてきそうなんです。彼は今も「あの頃のぼくら」に何かを語りかけてくれるはずです。
FRPの硬質なマスクのはずなのに、どうしてこんなに柔らかい表情をしているんでしょうか?
これはもう、一級の芸術品です。
というかこのスーツ、生きています。目の前で相対した時に、息遣いを感じるんです。
少し細部も観察してみます。やっぱり気になったのがウルトラブレスレット。撮影後団時朗氏に譲渡されたと聞いていますがこれも本物なのでしょうか?
それから、こちらのスーツは後期に使われたものらしく、ビルガモ戦で燃えた太ももとか痕跡残ってるかしら?って凝視しましたけどそれらしいものは見受けられず…総じて50年前のものとは思えない程保存状態が良いのは確かです。
スーツ表面のテカリ、シワや凹凸、そして傷の数々。全て私が愛してやまない帰ってきたウルトラマンのそれです。
そして実物スーツ恒例足元チェック!
足回りって映像でよく映らない箇所だからじっくり見ちゃうんですよね。一番ダメージ多そうだし。いやそれにしてもキレイですね。
こうして並べると同じ型からとったマスクを使っているのに本当に別人ですね。
ところで、ずっと疑問だったのですが、なぜ帰ってきたウルトラマンは初代ウルトラマンのような「詰め物」を入れなかったのでしょう?
主題歌に込められた想い
そんな疑問を胸に抱きながら、しばらくはずーっと帰ってきたウルトラマンの主題歌を聴き続けていました。彼のスーツと対面してからというもの、彼のことばかりを考えていました。
50年も前のスーツなのに、今も我々に何かを語りかけてくる、彼のあの徳のある表情は一体何なのか?
ただ、主題歌の歌詞が深く深く、心に染み渡ります。
(1番冒頭)
君にも見える ウルトラの星
遠くはなれて 地球にひとり
まず、歌い出しが素晴らしい。こんなに美しく、かつノスタルジックなヒーローバング組の主題歌がありますか。この繊細さは初代ウルトラマンにはなかったもの。彼には筋骨隆々のスーツは似合わない。人のままの体格でいい。
この、心に迫る「弱さ」がいいんです。
(2番冒頭)
十字を組んで 狙った敵は
必殺わざの 贈りもの
「スペシウム光線」という単語を使わずにスペシウム光線を描写するこの卓越したワードセンス。しかもカッコつけたような下心がない分、かえって美しい映像を聴き手に想起させます。
(3番冒頭)
炎の中に くずれる怪獣
戦いすんで 朝がくる
ウルトラマンの歌なのに、戦いが終わった後を歌っています。そして1番に次いで再び彼方を見つめるウルトラマン。
はるかかなたに 輝く星は
あれがあれが 故郷だ
繰り返し流れるハープのような優しい旋律が美しく、心に夜空が広がります。
ウルトラマンの強さや勇壮さを歌った歌は数あれど、ここまで「ウルトラマンの心」に迫った歌があったでしょうか?
ウルトラマンやウルトラセブン、更には続くエースの主題歌も全て、勇壮で力強く明るい主題歌や劇伴が大半なのに、帰ってきたウルトラマンのそれだけは、全く気色が異なるのです。
以前、帰ってきたウルトラマンを想い、精魂込めて書いた↑の記事でも、この主題歌について触れたことがありますが、その時は故郷を想って月を眺めた阿倍仲麻呂に彼を重ねました。この歌が描く情景は、とにかくノスタルジックで美しい。
なのに、今日出会ったウルトラマンの顔からはそんな感傷的な表情は微塵も感じられませんでした。
その任務は過酷なものだったはずです。何度も何度も命を落としかけました。それでも、彼はぼくらに何の見返りも求めませんでした。ただそこに佇んで、優しく微笑んでいるだけでした。
宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」に登場する、デクノボーを思い出しました。
欲ハナク 決シテ怒ラズ イツモ静カニ微笑ッテイル
ただ目の前の人々のために、そして遠く故郷に誓った任務のために、正義と平和を守るために、持てる全てを捧げたウルトラマンは、不軽菩薩(ふきょうぼさつ)のようでした。そして今も変わらず50年の時を経てもなお生き続ける彼はまさに「生き仏」でした。
目の前にいた彼は、今もその優しさでぼくを包んでくれます。彼の表情に触れるだけで、彼と戦った「あの頃」がすーっと蘇るんです。彼に憧れたあの頃の自分が帰ってくるんです。
そう、帰ってきたのはウルトラマンだけではありませんでした。あの頃の思い出、全てが帰ってきました。その優しさが嬉しくて嬉しくて、心が洗われるようでした。
庵野秀明展は2022年6月19日(日)まで。
入場料は一般¥1,900、ぜひウルトラマンに会いに行って下さい。