「仮面ライダーって最近はなんかスタイリッシュでかっこいいよね」というイメージは一般的に浸透しつつありますが、その「なんかスタイリッシュ」な中身というのを、変身ポーズの進化史と重ねて考察してみたいと思います。
変身ポーズと販促の融合
仮面ライダークウガ Blu‐ray BOX 1 [Blu-ray]
歴史の転換点となったのはやはり平成シリーズ一作目の「クウガ」です。
但し、既に世間でもよく語られている「第2話での燃える教会の変身シーン」については、敢えてここでは語りません。
私がここで特に取り上げたいのは、第13話での変身シーンです。リアルタイム視聴時も「ん?!」と強烈な違和感を抱いたのをよくよく覚えています。
前週までの変身シーンとほんの少しだけ、でもだからこそ「明らかに変わっている」ことがハッキリわかったからです。サブスク視聴が可能、もしくはDVDをお持ちの方、是非見比べてみて下さい。
以下が前週の12話までと比べて明らかに変わった点です。
- ベルト出現時のアークル中央のアマダムが真っ黒
- 変身ポーズを決めた後、左腰に添えた右手でベルトのスイッチを操作する仕草が追加
それまでは、例えば第6話「青龍」ではバヅーを前に変身ベルト・アークルは変身ポーズの前から青くなっていて「最初からドラゴンフォームでいくのか!」ということがわかりましたが、13話以降はアマダムがクルクル回り始めるまで何フォームで戦うのかがわからなくなりました。
しかし、その意図は当時小学生だった私にもすぐにわかりました。ベルトのスイッチを押す所作が加わったからです。
「あ、こうやっておもちゃのベルトも扱えってことか」
テレビCMを見ても明らかなように、当時発売されていた「ソニックウェーブ DX変身ベルト」は基本的に起動時も中央が黒いままでした。
あまりこのことについて語られている文献やブログetcを見ませんが、これは明らかに販促を意識したテコ入れです。劇中で使用される変身ベルトを、発売中の玩具に寄せていくことで実際に遊んだときの違和感を無くそうとしたのだと思われます。
これは、後続のライダー作品が辿っていく変身ポーズの進化の系譜に思いを馳せたとき、実に大きな転換点とも言える出来事でした。
昭和ライダーは◯◯重視
この反省を活かしてかはわかりませんが、翌年の「アギト」からは、変身ポーズそのものに最初から「ベルト起動のための仕草」が加わっていました。両手で腰のスイッチをバシッと押す動作です。
玩具販促のためなら当然のことだろうと思われるかもしれませんが、これは決して当たり前のことではなかったのです。
それではここで、初代の変身ベルト玩具を振り返ってみましょう。
ポピーから発売された「光る!回る!変身ベルト」の開発秘話については「仮面ライダー大全」に詳しいことが書かれており、大変興味深い内容なので是非ご参照いただければと思いますが、
当時の変身ベルトは、光って回るためのスイッチがベルト下部についていて、変身ポーズを決めた後の子どもたちはその手を一旦ベルトの下に回さなければなりませんでした。
かといって当時こんな細かいところにツッコミを入れる人はほとんどいなかったと思います。だから、上の「クウガ」13話の例のように、発売されている玩具に合わせて劇中の一文字隼人や本郷猛がポーズを決めた後にベルト下部の隠しスイッチをオンにするような仕草が途中から追加される、なんてことは当然ありませんでした。
それはなぜか。
昭和ライダーの「変身遊び」において重要だったのは、あくまで「変身ポーズの再現」だったからです。子どもたちが熱心に真似をしたのは、変身ベルトの存在とは言わば無関係の、腕を回す独特の仕草でした。それさえ完遂できれば、あとは腰にベルトが巻かれていてそれがクルクル回って光れば言うことなしです。
裏を返せば、「ベルト玩具は光って回ってくれればそれで十分」だった訳です。
平成と昭和の狭間を戦った「仮面ライダーブラック」、そして「ブラックRX」も同様の系譜に沿った進化を辿っています。
ブラックの変身ベルトは「テレビパワー」と銘打たれ、劇中の変身シーンの激しい光の明滅に反応して変身ベルトも起動するという、当時としてもハイテクな玩具でした(今では絶対無理なやつですね😅)。
きっと多くの子どもたちがテレビの前で変身の瞬間を待ちながら腰にベルトを巻いていたのでしょう。
翌年「RX」の変身ベルトは、腕に巻いたリストビットがポーズを決めた際の振動を検知してベルトが起動するという、これまた革新的なハイテク玩具でした(おかげでリストビットはでかいし変な輪っかついてるしベルトはでかいしで評価はイマイチですが😅)。
実はこの頃から、「変身ポーズ」と「ベルトの起動」をシームレスに連携させる挑戦は始まっていたと言えるでしょう。まさに平成ライダー誕生への萌芽です。そしてそれが「クウガ」を境に結実していく訳です。
平成初期の「クウガ」「アギト」の二作品は、基本的には昭和ライダーの系譜に則った「変身ポーズ主体」の変身シーンが見どころでしたが、上で挙げた通り「変身ポーズとベルト操作が融合した」と言う意味では実に革新的な一歩を踏み出していました。
龍騎の革命
しかしここで更に革命的な出来事が起こります。「仮面ライダー龍騎」の登場です。
何より衝撃的だったのはその変身シーンでした。光りもしなければ回りもしなさそうな「カードデッキ」とやらをベルトにカシャッと装填することで変身が完了するのです。
それまで変身ベルトといえば「自分の肉体と切り離すことのできない身体の一部」というイメージが根強くあった私にとってあまりにも衝撃的な設定でした。
とりあえず「カードデッキなんて俺なら絶対無くしそう!💦」という変な戸惑い方をしていましたが、劇中での扱いも見せ方も非常に巧くて...めちゃくちゃカッコいい変身アイテムの一つになりました。
中でも46話で浅倉、蓮、北岡がカードデッキを取り出すシーンが死ぬほど好きです😭
それまで腰に巻く以外使い道が無かった変身ベルトを、手に持てる携帯型変身アイテムとして分割させたのです。「光って回る」という絶対的なアイデンティティを捨ててでも実現させたこの変化はまさしく、仮面ライダー史における革命的な出来事でした。
ですが更にインパクトが強かったのは変身ポーズの見せ方です。
それまでの仮面ライダーの変身ポーズは、基本的に【キメ→タメ→キメ】の三段階で構成されていました。これは「相撲の土俵入り」をイメージしたV3の変身ポーズを代表とする、基本的な変身ポーズの系譜です。
(右腕を伸ばす「キメ」、続いて大きく右腕を回す「タメ」、そして最後に左腕をスパッと伸ばす「キメ」。本郷猛の変身ポーズには居合い道の円月殺法のイメージがあると言います。)
ところが「龍騎」で見られた変身ポーズにはいわゆる「タメ」がありませんでした。バシッと「キメ」一発のみで非常にスッキリしたものになっており、この辺りから平成ライダーらしい「スタイリッシュなイメージ」が形作られてきたのだと思います。
(それでも比較的複雑なポーズを見せてくれたタイガの変身ポーズが私は一番好きです✨)
そして「キメ」の後にはスパッ!とカードデッキを装填。「クウガ」と「アギト」から取り入れられ始めた「変身ポーズとベルト操作の融合」を設定的にも違和感のない形でより深く根付かせた記念碑的変身シーンの誕生です。
その後の「555」でも、「龍騎」で見られた「キメ」→「ベルト操作」の変身スタイルが発展・継承されています。更に革新的だったのは、一連の変身動作が完了した後の変身シーンが実に個性的だった点です。
「555」と言えば、赤い閃光が全身を覆っていくあの変身シークエンスを思い出す人も多いでしょう。あれがまたカッコよかった。
昭和ライダーにおける変身シーンの見せ場は「変身ポーズ」にこそあった訳ですが、実は平成ライダー以降の変身シーンの見せ場は「人間からライダーに変わっていく過程の見せ方」へと移行しています。
(昭和ライダーのそれは、少し意地悪な言い方をすれば「手書きっぽいカラフルな光のエフェクトとジャンプで誤魔化している」に過ぎませんでした)
それは翌年の「剣」にも見られる特徴で、復活した「タメのある変身ポーズ」も見ものではありますが、やはり一番の個性は壁を通りぬける変身シークエンスにありました。
毎度毎度、あの見事な合成シーンも楽しみのひとつとなっていました。
天の道を往き、ゼクターをちゃんと持つ男
仮面ライダーカブト Blu‐ray BOX 1 [Blu-ray]
更にその翌年の「カブト」も同様で、ゼクターを中心に徐々にアーマーが変身者を覆っていく合成シーンはもはや芸術の域に達していました。
また、「カブト」では「龍騎」同様「タメ」のないスタイリッシュな変身ポーズも印象的でした。
「変身」とつぶやく瞬間、画角の中央に顔とゼクターが同時に収められるよう、変身ポーズも腕を顔のあたりに掲げる程度のシンプルなものが定着。仰々しく腕を大きく回すような仕草はほとんどありません。
そもそも「龍騎」の段階から、カードデッキさえ装填できれば変身ポーズそのものに意味はないことに多くの人が薄々気づいていたわけで(笑)、ポーズは様式美ではあるものの、なるべく現実的に、スタイリッシュに、かつ販促に繋がるように、という方向性を突き詰めた先に「カブト」の変身ポーズがあると私は考えています。
「カブト」と言えば更に印象的だったのは、途中から変身ポーズが(というよりカブトゼクターの持ち方が)少し変わったことです。
元々天道総司のカブトゼクターの持ち方には独特の色気がありました。人差し指と中指でゼクターのツノを挟むあの握り方です。
ところが、この持ち方ではどう考えてもベルトにゼクターを装填できません。というかそもそも装填型の変身ベルトはどれもこれも、テレビで見るように一発でスパッとベルトに装填することは絶対にできないものばかりでした。
「龍騎」テレビスペシャルに登場したベルデこと黒田アーサー氏がたまたま一発でカードデッキをベルトにカシャっと入れちゃった奇跡は「ホールインワン事件」として語り継がれているほどで、ベルトを持っている人は是非やってみて欲しいのですが、ファイズギアにしても、ブレイバックルのカテゴリーAのセットにしても、カブトゼクターの装填にしても、ノールックでスパッとはめることはほぼ不可能な至難の業なのです。
このことは、劇中とのシンクロ率を大切にしてきた仮面ライダーシリーズにおいても結構重大な問題でした(と私は勝手に思っています)。
ところが、中盤あたりになると色々と設定がズブズブになっていくことで有名な平成ライダー、天道総司のカブトゼクターの持ち方も少し変わってきました。
画像はダークカブトのものですが、ホンモノの天道総司も含め、時折普通の持ち方でカブトゼクターを握り、そのままスパッとベルトにはめる仕草を見せるようになったのです。
これは、ワンカットで変身シーンが撮影できるという演出上の手間削減及びテンポアップを求めた結果そうなっただけのことかもしれませんが、多分真面目にテレビの前で天道の真似をしていた子どもたちはちょっと救われたはずです。
「あ、普通に持ってもいいんだ!」
これなら割とゼクターの装着も易しいものになったはずです。
翌年以降は、そもそも装填操作の必要がない「電王」のベルト(セタッチ方式)や、変身ポーズの際にベルトにはめやすいよう持ち方をクルッと変えてくれる「キバ」のキバットベルトなど、子どもにとっても操作しやすい変身ベルトが続きます。
玩具市場は変身ポーズを「変身」させた
...ところが、さすがは「世界の破壊者」、続く「ディケイド」のベルト「ディケイドライバー」ではうっすいスキマにこれまた折れ曲がりやすいカードを装填するという非常に高難度のベルト操作が求められました。
しかも本編劇中では絶対誰も真似できないカードトスが続発!(笑)
個人的には24話でコンプリートフォームが見せたカード装填シーンが最も超次元すぎて大好きです。
でも、単純にベルトの機能がべらぼうに面白いことと、劇中での見せ方も実にカッコよかったこともあって、これまた大ヒット商品となりました。特に、「このベルト一つで全てのライダーに変身できる!」と言われればそりゃあ欲しくなりますよ。
少し話が逸れましたが、上で述べた通り、変身ポーズで個性を出すのではなく、少ない所作で変身ポーズ(アイテム操作)を決めた後、人間の姿からいかにしてライダーの姿に変転していくのか、その過程の見せ方に個性が強く出るのが平成以降のライダーの特徴です。
まとめると以下のような感じです。
- クウガ:当時でも珍しいフルCGで段階的に肉体が変化
- アギト:まばゆい光に包まれる
- 龍騎:鏡像のようなものが重なり合う
- ファイズ:フォトンブラッドが全身を覆う
- ブレイド;光の壁を通り抜ける
- 響鬼:炎に包まれそれを叫びながら振り払う
- カブト:マスクドアーマーに徐々に覆われていく
- 電王:ベースのプラットフォームにアーマーと電仮面を装着
- キバ:体にファンガイアと同質のステンドグラス模様が浮かび上がる
- ディケイド:9つのシルエットが重なり、マスクにプレートが刺さる
いわゆる「平成二期」以降は、これらの特徴に、更に「コレクション型変身アイテム」という要素が付加されることとなります。
- W:ガイアメモリ
- オーズ:オーメダル
- フォーゼ:アストロスイッチ
- ウィザード:ウィザードリング
- 鎧武:ロックシード
- ドライブ:シフトカー
- ゴースト:眼魂
- エグゼイド:ガシャット
- ビルド:フルボトル
- ジオウ:ライドウォッチ
- ゼロワン:プログライズキー
- セイバー:ライドブック
- リバイス:バイスタンプ
- ギーツ:IDコア
いずれの作品においてもやはり変身シーン(変転の過程)の見せ方が毎年面白い訳ですが、既にお気付きの通り、変身ポーズ及び変身シーンの進化はこれ即ちキャラクター玩具市場の進化と発展の歴史でもあります。
元々変身ベルトは、変身ポーズをバチっと決めて、「変身!」と叫んだ後になってから動き出すものでした。
それが、変身ポーズを決めるはずのシーンにまでメカニックなアイテムを巧みに操る動作を織り混ぜ始めたのが近年のライダーの特徴です。
成熟したキャラクター玩具市場は、元々は体一つでできたはずの「変身ポーズ」をも侵食しその様相をガラリと変えてしまいました。原初的には「変身ポーズ」だったものは今や「変身操作」と呼んだ方が正確かもしれません。
ライダー俳優が舞台挨拶とかで変身ポーズを素面でやらされると、アイテムもCGもないので微妙な空気になるのはこれが原因でしょうか(笑)
だからこそ冒頭で紹介した「クウガ第13話の変身シーン」が実に記念碑的なシーンだと感じるのです。劇中の変身ベルトの方が初めてベルト玩具に歩み寄った瞬間です。
五代雄介がアークルの左腰のスイッチをカチッと押す動作を加えた、たった0.1秒くらいのあの演出が、20年以上の時を経てここまで発展した...と思うとなんとも実に感慨深いものがありますね。
(了)