ADAMOMANのこだわりブログ

特撮ヒーロー、アメコミヒーローを中心にこだわりを語るストライクゾーンの狭すぎるブログ

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なぜ帰ってきたウルトラマンには夕日が似合うのか?

ウルトラマン 夕陽に死す

ウルトラマン 夕陽に死す

「帰ってきたウルトラマンといえば夕日が似合う!」ってのは全くもってその通りなんですが、なんで彼には夕日が似合うんでしょうか?

試しに検索してみたんですけど納得のいく回答が得られなかったので、自分で考えてみることにしました。

夕日セレクション

よく言われるのは、

夕暮れ時の戦闘シーンが多く、かつ印象的なエピソードが多いから

というものです。

ですが、他にも「ウルトラセブン」のメトロン星人戦等、夕日が印象的な場面は「帰ってきたウルトラマン」に限らずたくさんあった気がします。

試しに「ウルトラマン」〜「80」までで列挙してみましょう。

※ちょっと際どいものも含みます。

  • ウルトラセブン第8話「狙われた街」
狙われた街

狙われた街

  • Kôji Moritsugu
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  • 帰ってきたウルトラマン第5話「二大怪獣東京を襲撃」
  • 帰ってきたウルトラマン第21話「怪獣チャンネル」
  • 帰ってきたウルトラマン第32話「落日の決闘」
  • 帰ってきたウルトラマン第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」

 

  • ウルトラマンエース第10話「決戦!エース対郷秀樹」
  • ウルトラマンエース第52話「明日のエースは君だ!」

 

  • ウルトラマンタロウ第46話「日本の童謡から 白い兎は悪い奴!」

 

  • ウルトラマンレオ第7話「美しい男の意地」
  • ウルトラマンキング第26話「ウルトラマンキング対魔法使い 一寸法師より」

...確かに数としては「帰ってきたウルトラマン」がズバ抜けて多いですね。

※他に見落としがあったらコメント欄で教えて下さい。

とはいえ、帰ってきたウルトラマンだけが取り立てて「夕陽が似合うウルトラマン」と呼ばれる要因が単純なエピソード数だけとは考えにくい。

他に何か要因があったかなー?と考えたときに、誰もが目にしているはずなのに、今まであまり誰も指摘してこなかったであろう非常に単純な事実に気がつきました。

 

作品を彩った美しい映像と音楽

そもそもこの作品のイメージカラーは夕日と同じオレンジ色でした。

毎週流れるOPの影絵も背景はオレンジ色です。特にウルトラシリーズ伝統の影絵も、背景がオレンジ色となると必然的に夕暮れ時を彷彿とさせられます。

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©︎円谷ブロ「帰ってきたウルトラマン」

毒ガス怪獣出現

そして、ウルトラマンといえば印象的な「ぐんぐんカット」。これも背景がオレンジ色です。

「帰ってきたウルトラマン」という作品のコンセプトイメージには、常にオレンジ色が散りばめられていたのです。ですから、夕暮れ時の戦闘シーンになれば自然とOPのイメージが頭の中でオーバーラップして、まるでその作品のメインテーマを象徴する重要なものを見せられているかのような印象を受けてしまうのです。それがたとえ、敗北シーンであっても。

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また、心に残る主題歌や冬木透氏による劇伴の数々もまた、夕日の映像と実にマッチしていました。

メインタイトル〜帰ってきたウルトラマン (TVサイズ)

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夕陽に立つウルトラマン

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どこか儚さや悲壮感も漂う独特のメロディラインは、かつて絶対的な強さを誇っていたウルトラマンのイメージを変え、時には負け、時には挫けながらも戦い続けた本作のウルトラマンの人間的なイメージと実にぴったりでした。

MATの使命

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ウルトラ5つの誓い

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「帰ってきたウルトラマン」には、間違いなく他の作品とは違った「郷愁」や「哀愁」といった「風情」や「趣」がありました。

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スポ根路線の名残り?

では、なぜ本作のコンセプトカラーが夕日と同じオレンジ色だったのでしょうか?

そこには、本作が当初志向していた「スポ根路線」の影響が少なからずあると思われます。

1972年当時といえば、スポ根ブーム真っ只中。本作にもスポ根風味をミックスして初代「ウルトラマン」との差別化を図ろうとしていたことは、当時の関係者らの証言からも読み取れます。

更に面白いことに、初期案ではアーストロンは最強のライバル怪獣として設定されていたらしく、第1話でウルトラマンは敗北、いつの日かのアーストロン打倒を誓う…なんて展開も構想されていたそう。

そんなスポ根路線がハッキリと映像化されたのが、第4話「必殺!流星キック」でした。

そのストーリーはまさしく【序盤での敗北→特訓→新必殺技の誕生とリベンジ】という王道展開。

しかし、元々空を飛べるはずのウルトラマンに、ジャンプ力を上げるための特訓など不要なのでは?というシナリオ上の致命的な矛盾は誤魔化せませんでした。

このことは関係者らも認めており、この第4話をもって早々に「特訓路線」は頓挫してしまいます。

※この特訓路線は後の「レオ」でようやく日の目を見ることとなります。

しかし、怪獣の存在を中心にSFドラマを構成していた初代ウルトラマンと違い、本作では「時には図に乗り、時には挫折し、時には敗れるウルトラマン」の成長譚を中心に据えた「人間ドラマ」を展開する言わば「ヒーロー路線」に変わりはありませんでした。

非常にわかりやすいのが第5話と第37話です。この二つのエピソードは、二大怪獣(宇宙人)による挟撃と夕暮れの敗北という映像面だけでなく、敗北の理由やドラマ構成も似通っていました。

第5話では、恋人のアキちゃんが生き埋めとなり、更にMAT内部は岸田との軋轢や長官の横暴によって崩壊寸前。

第37話では、例のあの事件が郷の大切な人たちに襲いかかります。

どちらも、郷の精神的な不安定さが原因でウルトラマンが負けているのです。

今でこそ当たり前のことだと思われるかもしれませんが、ウルトラマンの姿に変身前の人間の心を投影する作劇というのは、当時としては非常に斬新なものでした。

そして、それを視覚的に訴えかける手法として「夕日を背に敗北するウルトラマン」という情緒的な演出はピッタリだったわけです。

原初的には「スポ根路線の名残り」としての「敗北と夕日」だったとは思いますが、「特訓」という要素がすっぽ抜けたことで、結果的に「郷の精神状態こそがウルトラマンの強さを決定付けている」ことがより強調されることとなったのです。

 

夕陽と昭和とウルトラマン

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©︎円谷ブロ「帰ってきたウルトラマン」

二大怪獣 東京を襲撃

しかしながら、そういった本作品特有の魅力以上に、夕暮れ時の映像そのものには「私たちの潜在意識に訴えかける何か」があるのだと思います。

※この話をすると必ず「ALWAYS 三丁目の夕日」を引き合いに出す人がいますが、あんな近年の作品が「夕日×昭和」描写の原点な訳ありません。

特に本作が以前までの「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」と違ってリアルタイム70年代当時の日本を舞台にしていたことは大きな変化でした。「夕暮れ時の昭和の日本」の生活感溢れる風景の中にウルトラマンを配置したのが本作に独特の魅力を与えているのです。

これはウルトラシリーズにおいてはかなり画期的なことでした。

過去のウルトラ戦士は、「そう遠くない未来」の日本を舞台に戦っていましたが、「帰ってきたウルトラマン」は私たちが住む今日の日本にやってきました。私たちの日常の延長にウルトラマンという異物が存在する映像は、しかし妙にマッチしていてシュールな魅力に満ちていました。

その独特の魅力は、庵野秀明氏にも強い影響を与えており、特に本作の熱狂的なファンである彼が描いた「エヴァ」にも印象的な夕暮れ時の街並み(やたくさんの電柱)とエヴァが同居する名シーンがいくつも存在しています。

命の選択を

命の選択を

  • 緒方恵美
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「帰ってきたウルトラマン」の翌年に放送された「A」では、「仮面ライダー」に対抗して「ショッカー」のような固定敵集団としての「ヤプール」が登場したり、「怪獣」は生物兵器としての「超獣」に進化したり、「ウルトラ兄弟」路線を強化したり...と、それまで鉄板コンテンツと思われていた「ウルトラマン」でも、ここまでテコ入れをしなければ勝ち残れないほど特撮ヒーローが群雄割拠する「変身ブーム」へと時代は突入していきます。

さらに翌年の「タロウ」で「ウルトラ兄弟」は「ウルトラファミリー」へと拡大。作風もタイトルが暗示する通り「ウルトラおとぎ話」然とした明るく破天荒かつバラエティ豊かなものへと変化していきました。

その意味ではまだ本作には、裏番組やシリーズ化を意識したテコ入れが入る前の、純粋な「新しいウルトラマン」が存在しています。

当時のスタッフたちが「今、この時代に初代とは違う新しいウルトラマンを作ろう!」というスローガンの元に立ち上がった元初の、真っ直ぐな熱情が映像の端々から感じられるのです。

(了)

www.adamokodawari.com

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