第6話「変身超獣の謎を追え!」に登場した【立て!撃て!斬れ!】というウルトラサインについてですが、ピンチに陥ったエースを先輩戦士たちが励ましているようにも見えますし、後付けの設定ではこの後に放ったウルトラギロチンの使用許可の合図だったとも言われています。
ウルトラギロチンはエネルギー消費が激しいためウルトラの星の許可がないと使用できないという説明は今も各所に残されています。
但し、検証の必要はありますが、ウルトラ関連の設定の中には当時の児童誌が勝手に書いたものがそのまま公式設定になっちゃってるケースも多いようなので、それが常に正しいとも限りません。
それに、「エネルギー消費が激しいため許可制」なんて非効率だし、他にも許可がいりそうな場面はもっとたくさんあったはずで、やはりこれだけでは説明不足です。
ここではせっかくなので、新解釈の新仮説を加えてみたいと思います。それは、「ウルトラギロチンの発射方法を、ウルトラサインを通じて四兄弟がエースに伝授した」という説です。
※当記事は「考察・ウルトラブレスレット」の記事との関連性が強いので是非併せてご参照を。
テキストメッセージ?
まず、そもそも地球人の言葉に直訳した「立て!撃て!斬れ!」というメッセージだけをテキスト情報としてわざわざウルトラ兄弟たちが送ってきたとは考えられません。
一般的に、ウルトラサインは「なんらかのテキスト情報を送るための通信文」と考えている人が多いようですが(元々私もそう思っていましたが今回第6話を見て考え方を大きく改めざるを得ませんでした)、それ以上のもっと大きな意味・役割があると考えるべきでしょう。そうでなければ、あんな薄っぺらい情報一つを送信するためだけに、宇宙警備隊の隊長ゾフィー以下四名もの名だたる戦士が顔を連ねる必要がありません。
※勿論、簡易の暗号通信としても利用されているようで、13話に登場した用例はまさにそうでしょう(これは結局ヤプールによるフェイクだった訳ですが、誰も違和感を持たなかったことから用法としては間違っていなかった模様)。
そこで考えられるのが、ウルトラ戦士のアップグレード機能です。おそらく、【立て!撃て!斬れ!】のウルトラサインを受け取ったエースは、ウルトラギロチンを始めとする多彩な切断技の数々を体内にインストールしたのではないでしょうか?
事実、第6話以前にエースが放った切断技と言えばバキシムを葬ったウルトラスラッシュくらいのもので、これはウルトラマンや帰ってきたウルトラマンも身につけている「八つ裂き光輪」と同種のものと考えられます。しかし、第6話でウルトラギロチンを披露して以降のエースの切断技の数々には目を見張るものがあります。
ちなみに、この第6話とよく似たシチュエーションを我々は過去にも目撃しているはずです。それが、ベムスター戦です。
緊急アップデート?
詳細は過去の「考察・ウルトラブレスレット」に譲りますが、
ここで私が披露している、「地球人と融合したばかりのウルトラ戦士は最初からその能力の全てを駆使することができない」という仮説に則れば、エースもまたその超能力の全てを発揮できずにいたことになります。
しかし、敵は異次元人が送り込んでくる超難敵ばかり。北斗星司や南夕子の成長を待っていられないほどに戦況は苛烈です。
郷秀樹の場合は、ウルトラセブンの手で「ウルトラマンの全能力を容易に引き出し操るための便利ツール兼絶命時の命のスペア」としてのウルトラブレスレットを緊急で手渡されることとなりました。
それと同様の事態が、エースにおいては第6話という比較的序盤に早速訪れたのではないでしょうか。
つまり、エースの潜在能力を最大限発揮するための強制的なアップデートが、あのウルトラサインによって行われたということです。そしてそのことを窺わせる北斗のセリフが登場します。続く第7話「怪獣対超獣対宇宙人」です。
おかしな技・エースバリヤー
妖星ゴランがあと7日で地球に衝突、人類滅亡か、という最悪のタイミングで登場するメトロン星人Jr.と超獣ドラゴリー、そして更に現れる怪獣ムルチ二代目。
まずは、妖星ゴランを破壊するためのミサイル・マリア2号の発射が最優先です。強敵を前に、敵の殲滅ではなく足止めが先決と考えた北斗は「エースバリヤー」の使用を決めます。
エースバリヤーとは、敵を1日だけ封じ込めておくことができる特殊技ですが、エースの体力を著しく消耗するらしく、しかもその反動が北斗と南のどちらに出るかがわからないと言います。そんな決死の戦いに挑む...というお話なのですが、よく考えるとここでの北斗の説明にはおかしなところがいくつかあります。
まず、エースバリヤーなんて技のことを彼らはどこで知ったのか?もちろん、「彼がウルトラマンエースだからだよ」と言われればそれまでかもしれませんが、「北斗と南のどちらに影響が出るかわからない」=エース自身も使ったことがない技のようです。これも変な話です。自分でも使ったことのない技のことを、なぜ北斗が知っているのでしょうか?まるで誰かから教わった断片的な情報を説明しているかのようです。
これら全て、第6話でのウルトラサインによって新たに獲得した能力だと考えれば合点がいきます。あの瞬間、ウルトラサインと共に大量の情報がエースの脳内を駆け巡った。そしてその中にエースバリヤーに関する情報も含まれていたということです。
しかし彼らが未熟だったのは、男女合体変身における二人の役割構造を明確に理解できていなかったことでしょう。
二人で一人のウルトラマン
男女合体変身と聞くと、二人それぞれに平等に負荷がかかっているように考えがちですが、どうやらそういうものでもなさそうです。エースバリヤーの使用による負荷の全てが南夕子にかかったところを見るに、エースの「特殊能力」を司るのが南夕子のようです。
※となると、反対に「身体能力」を司るのが北斗星司の方だと推測が立ちます。
もし他作品のキャラクターで例えることが許されるなら、後年の作品を引き合いに出して申し訳ないですが、やはり「仮面ライダーダブル」の二人が非常にわかりやすいと思います。変身する際の「肉体」を担っているのが左翔太郎で、ダブルにエレメント能力を付与する形で「魂として憑依」するのがフィリップです。設定上は「ボディサイド」と「ソウルサイド」と言われていますが、このフレーズが個人的には一番しっくりきます。
当然、エースにおける「ボディサイド」が北斗星司で、「ソウルサイド」が南夕子だったわけです。ウルトラマンの戦いで言えば、格闘戦を担う北斗と、光線技を始めとした特殊能力を担うのが夕子です。そのため、非常に特殊な超能力技であるエースバリヤーを使用した際の負荷は全て夕子にかかってしまいました。
しかし、二人はそういった区分けもわからずに変身していたので、どちらが倒れるかわからなかったのでしょう。
便利なソフトをインストールしていても、利用者がハードの仕組みを理解していないので負荷がどこにかかるかわからない、なんてことは現代でもよくあることです。
そう考えると、「考察・ウルトラブレスレット」の記事でも触れた仮説は概ね当たっていたことになります(以下引用)。
...この点については、帰ってきたウルトラマンとウルトラマンエースの違いを比較することでその裏事情が見えてきそうだ。
まず、融合する地球人の成熟度によって戦闘力が左右される不安定さを解消するため、エースは男女合体変身という手段でより安定した精神力=戦闘力を得ようとしたのではないだろうか。
その結果、怪獣より強力な生物兵器である超獣の息の根を瞬時に止め得る光線技、とりわけ切断光線に特化した強力な戦闘力を確保するに至ったのではないだろうか。
つまり、エースは最初から、ブレスレットがなくともウルトラマンの潜在能力を概ね全て発揮できる状態にあったと言えるだろう。...
ウルトラ四兄弟の下命
ものすごく大雑把に言ってしまえば、ウルトラブレスレットの代わりとなる(超能力を司る)南夕子という存在をエースは初めから内包していたことになります。
ブレスレットが担っていたもう一つの機能・「命のスペア」についても、そもそも二人の人間の命を使っている時点でクリアされていることになります。
更に南夕子が司る「特殊能力」はウルトラサインによって随時アップデートが可能ということです。
改めてウルトラサインがエースに投下された瞬間を見返してみましょう。
突如黒雲と共に雷鳴が響きます。その異常事態に、山中隊員も思わず「新しい敵か?!」と警戒を強めるほどです。そしてその直後、三文字のウルトラサインが空に輝き、エースのカラータイマーにウルトラ四兄弟の姿が次々と映し出されます。
ほんの一瞬の出来事ですが、この瞬間にエースの大幅なアップデートが行われたのでしょう。だからこそエースは瞬時に新たな技・ウルトラギロチンを放つことができたのです。
凄まじい雷鳴は強烈な電磁波が原因と思われます。ウルトラ戦士の体質をも変化し得るほどのデータ通信ですから、気象変動が起こっても不思議ではありません。
しかも、四兄弟の姿が映し出されたところを見るに、このアップデートは四兄弟直々の手によるものです。いやあるいは、四兄弟全員の同意が必要だった、のかもしれません。それほどまでにこれは強力なアップデートでした。
そして実は「【立て!撃て!斬れ!】のウルトラサインはウルトラギロチン使用許可の合図」というそれまでの公式設定が、結局のところやはり正しいものであったということにもなりますね。
エースが放つウルトラサインは?
...と、ここでまた新たな疑問が生じます。
逆にエースの側から発したSOSのウルトラサインの場合は、やはりこれは文字通り「SOS」を発信するだけのものだったのでしょうか?
これに関しても、私なりの仮説があります。
具体的には、第5話「大蟻超獣対ウルトラ兄弟」でギロン人の罠にかかったエースが発したウルトラサインを参考に見てみましょう。
まず私が直感的に「おかしい」と感じたのが、ゾフィーの準備の良さと到着の速さです。サインが空に輝いた次の瞬間には、ウルトラコンバーターを腕に装着したゾフィーが地球の空近くを飛行していました。これは、ゾフィー自身が地球でのエースの戦況を常に監視し、自身の出番を予期しながらスタンバイでもしていないと起こり得ない状況です。仮にそこまでしていたのであれば、もはやウルトラサインなんてもの自体不要で、ゾフィーが自身の判断でエースを救出に行けば良いだけの話でしょう。
ですが、ウルトラサインが単なるテキスト送信ツールではなく、ウルトラ戦士の能力や状態をもコントロールし得るデータ通信網だとすればこの点にも説明がつきます。
エースはただ単に「SOS」を無作為にウルトラの星に送信したのではなく、【ゾフィーがウルトラコンバーターを持って地球の軌道上に現れるよう強制的にゾフィーをコントロールした】のではないかと思うのです。
ウルトラサインは兄弟の証
「言霊」という言葉がありますが、言葉には実に不思議な力があります。無意識に選んだ言葉が自身の周辺環境を良くもすれば悪くもするという考え方は一般的にも広まりつつあるようですが、特に声に出して放つ言葉よりも、文字として残る言葉にはより強い言霊が宿ると言われています。
増して、計り知れない超能力を持ったウルトラ戦士が放つ特殊な宇宙文字です。ウルトラサインにはかなり強力な強制力があるのではないでしょうか。先ほどの【立て!撃て!斬れ!】の例からもそのことは容易に想像できます。
だからこそエースも容易にはウルトラサインを出しません。サインを出された相手は有無を言わさず戦闘に駆り出されるからです。文字に込められた想い=言霊を全て具現化する能力、それこそが実はウルトラサインの真の能力なのかもしれません。
しかし、だからこそ彼らは「兄弟」と呼ばれる強い絆で結ばれているのではないでしょうか。いつ何時、どこにあっても命を捨てる覚悟で「兄弟」の元へ駆けつける。その強い絆の証として、神秘の力・ウルトラサインがあるのかもしれません。
ただ、誤解を与えることになっては困るので付記しておきたいのですが、第5話でのエースは「自分の救出」をゾフィーに頼んではいなかったということです。ウルトラサインを出す直前のエースのモノローグに注目してみましょう。
「このままでは、TACも東京も全滅してしまう!なんとかしなければ...!」
彼はあくまでもTACと東京を救うためにゾフィーを呼びました。事実、到着直後のゾフィーは、エースと何も話していないにも関わらず、地下に隊長らを乗せたダックビルが閉じ込められていることを知っていました。あのたった三文字のウルトラサインの中に、ダックビルのことも全て情報として含まれていたとしか考えられません。
助けに駆けつける者も、そしてまた助けを求める者も、誰もが自分の命を後回しにして戦っている。僕らの地球は、そんなウルトラマンに守られてきたのです。
(了)