ADAMOMANのこだわりブログ

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ウルトラマングレート第4話 デガンジャの風〜ゴーデスは何に取り憑いたのか?アボリジニの住む神々の世界〜

今回もウルトラマングレートのエピソードを扱うが、今回はこれまた曲者、「デガンジャの風」!

しかし、グレートの作風を語る上である意味最も象徴的な本話。案外真面目に語られていないようなので、じっくりやってみたいと思う。

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※かなり長いので面倒な方はインデックスから読みたいところだけどうぞ。

◆アボリジニの思想と文化に迫る〜ドリームタイムとは?〜

「ウルトラマングレート」が「環境破壊」をそのテーマの根幹に据えていたことは、あらゆる劇中描写からも読み取れる。

最も象徴的なのは、「ウルトラマンの活動限界が3分なのは地球の大気汚染が原因」とされているところだろう。

2話に登場したギガザウルスを封じ込めていた南極の氷は、温暖化の影響で溶け出し(劇中ではゴーデスの仕業となっているが地球温暖化の暗示に違いない)、7話では開発によってガゼボの住む山が荒らされ住処を追われ、8話では過剰農薬でイナゴがマジャバに怪獣化…と、枚挙に暇がない。グレートに登場する巨大生物の大半は、ゴーデスだけでなく人類によっても苦しめられているのだ

そのようにして環境破壊をテーマに据えた本作がオーストラリアを舞台にする以上、アボリジニの精神性に触れたエピソードの誕生は、必然だったと言える。

環境破壊の原因は、化学物質等の直接的要因以上に、人間中心主義が生んだ科学文明そのものにあるからだ。

※近年はオーストラリア大陸の先住民族の通称「アボリジニ」に対して差別的な含みを感じるとして「アボリジナル」と呼ぶ傾向があるそうだが、多くの日本人にとって(=本項の読者にとって)そんな配慮は不要、かつ多くの方に読んでもらいたい意図からあえてそのまま「アボリジニ」と呼称したい。

 アボリジニの文化の根幹には「ドリームタイム」という概念が存在する。

 「ドリームタイム」とは、この地球(大地や海、空気、そして全ての生物たち)が生まれた創世記における祖先たちの物語である。

但し、ユダヤ教やキリスト教のそれとはまるで違い、唯一絶対神は存在せず、この地上に存在する全てのものにあらゆる精神体が宿ると考える「アニミズム」(精霊信仰)がベースとなっている。また、「祖先」というのも決して「人類」を指すものではなく、この大地を恵みで潤した全ての存在を指しており、彼らは身の回りに存在する全てのものに対して畏敬の念を持って生活している。

また「創世記の神話」と言っても、古今の教典のように「権威化」することなく、今も大地に生きる彼らの「生活の知恵」となっているのが重要なポイントだ。

例えばアボリジニが石を手にした時、彼らの心は石の中に眠る精神体=精霊に触れる。そして石の中から湧き出る「夢(心)」を感じ取り、彼らは石を家へと生まれ変わらせる。 妙なことを言っていると思われるかもしれないが、日本の例えば一流の宮大工なんかは、彼らと非常によく似たことを言っている。

「人に聞いたらじき忘れる。木と対話して仕事しなさい」

「木は大自然が育てた命です。1000年も1500年も山で生き続けてきた、その命を建物に生かす。それが私ら宮大工の務めです」

 西岡常一

生きるということは、自然の恵みの力を借りることであり、それは自然と心で語り合うことなのである。本当の文化とは、そんな人間の心にこそ宿る。 

だから彼らは文字を持たない。文字とは、往々にして権力を持った人間が他者を服従(管理)する目的で利用するものだからだ(文字を持たない先住民族を野蛮で遅れていると見るのは性急である)。

「ドリームタイム」は、単に長老が語り伝えるようなものではなく、楽器を使った踊りや壁画や衣服など、彼らの文化全てに染み渡るようにして今も脈々と受け継がれている。つまり、あらゆる文化生活様式を生み出す「集合的無意識」となっている。難解でイメージしにくい言葉かもしれないが、近年の映画で言えば「アバター」に登場した「魂の木」が非常に近い。

アバター (字幕版)

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 それに触れることで、延々と受け継がれてきた悠久の大地に眠る神羅万象の知恵を得られる。

しかしそんな神秘の世界を土足で踏み荒らしたのが、西洋からの侵略者たちであった。元々は100万人近くいたアボリジニも、わずか100年ほどで10万人以下にまで減らされてしまった。西洋入植から大陸支配までの歴史はWikipediaを見るだけでも目眩がするほど残虐だ。

だからこそ現代も、彼らアボリジニとオーストラリア系西洋人の間には未だ埋められない溝がある。ジャックとロイドが立ち寄ったバーでのやり取りにも、その片鱗は垣間見える。 

 

◆ゴーデスは何に取り憑いた?〜精神体は実体化し得るのか?〜

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風魔神【デガンジャ】

僅か30分の本作品の中で、アボリジニの世界観を描ききることは到底不可能だ。だが、上述したアボリジニの「精霊信仰」自体は、実は日本人の根幹にもある思想体系と非常に近いと私は感じる。なぜなら日本で生まれた「怪獣」という存在そのものが、日本人の精霊信仰をベースに誕生したものだったからだ。

※詳細はこちら↑をご覧あれ。

元々デガンジャというのは、(劇中の)アボリジニの文化における「風の神」とされていた。「怪獣」ではなく「精霊」や「神獣」あるいは「妖怪」として畏れられていた存在である。

しかし、あくまでその存在は「集合的無意識」という言葉に置き換えられたように、実存(マテリアル)ではなかったはずだ。それがなぜ「怪獣」という形で実体化してしまったのであろうか。

劇中、ジャックたちがアボリジニの洞窟を訪れるシーンがある。そこでは、ゴーデス細胞がこの洞窟にも降り注いだことが示唆されていた。

だがそこにあるのはあくまでも壁画だけ。現実主義者のロイドは思わず首を傾げるがそれも無理はない。これまでのゴーデス怪獣は、必ず何かしら実在する生物に寄生してきたからだ。

1話のブローズは両生類。2話のギガザウルスは太古の恐竜に。

3話のゲルカドンでは初めて人間の心を利用したが、ベースには化石とトカゲが存在していた。

が、ここにきて人間の精神すら媒介にせず「神話の中の精霊」が実体化したとなると非常に突飛な印象を受けてしまう。が、今回のケースに近い先例が初代「ウルトラマン」にもあったことを思い出した。

 ウルトラマン第15話「恐怖の宇宙線」に登場したガヴァドンである。

ウルトラ怪獣シリーズ 15 ガヴァドン(B)

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 ここでは子供たちの落書きに謎の宇宙線が照射、何と落書きの怪獣が実体化してしまうのである。それに近いケースと考えれば、アボリジニの人々が深い想いを込めて描き残した壁画にも降り注いだゴーデス細胞が、壁画の残留思念をも利用して怪獣化したとは考えられないだろうか?(壁画は1万年以上も前のもの。悠久の時を生きてきた壁画には相当なエネルギーが宿っていてもおかしくはない)

尚、本話の初稿では「ハイウェイで轢き殺されたタスマニアデビルの怨念が怪獣化」という案もあったそうで、デガンジャのデザインにもそれは活かされている。そのため、ゴーデス細胞が壁画だけでなく、土着の野生生物やその死骸をも取り込んでいたと考えれば、怪獣化もあり得そうな話である。

つまり、3話のゲルカドンで利用されたジミー少年の精神力に代わって、4話のデガンジャでは壁画に残されたアボリジニの「ドリームタイム」が利用されたと考えられるのだ。 

そして、アボリジニを守ってきた神-デガンジャ-と、人類を守る宇宙の神-ウルトラマン-の戦いが始まるのである!何と燃える展開!今正に、神々の戦いが繰り広げられるのだ!  

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 だがこのデガンジャ、あくまでアボリジニの心をベースにしているためか、一見その行動はアボリジニの土地と文化を守るという点で一貫しているようにも見える。

むしろ、ゴーデスが憑依した怪獣の中でも実はかなり不完全な部類だったのではないだろうか。何せデガンジャが行動を開始したのは、ハンターの男が石碑に銃を乱射し、祖先の魂の怒りに触れたことがきっかけだったからだ。

その証拠に、石碑に銃を向けなかったもう一人のハンターは無傷で生還しており、明らかに特定の個人を狙ってデガンジャは攻撃している。加えて生還したハンターは殊更に「純朴な人柄の良さ」(何なら鈍感なおバカ)が強調されており、獲物の人間性まで見通した上でデガンジャが裁きを下したかのようにも描かれている。

もはや人間が何も手を下さなければデガンジャはそのまま姿を現すこともなかった可能性すらあったのだ。やはり精神体のみをベースにした怪獣は、覚醒のきっかけがなければ活動を開始できないのだろう。

しかしゲルカドンの例と同様、精神体を利用した怪獣の場合「怒りの感情」が最もゴーデス細胞を活性化させているようにも思える。竜巻の中からようやくデガンジャが姿を現したのもそのきっかけはチャールズの不躾な一発だった。

※そう考えると、後に復活したゴーデスは怒りに満ちた醜悪な表情をしており、その対の存在たるウルトラマンは、いつも実に穏やかなアルカイックスマイルを湛えている。

 

◆魔神と心を通わせる青年ムジャリ〜ジャックとロイドと三者三様の使命感〜

そして、怒れる魔神による竜巻事件は、神と心を通わせる二人の男を引き合わせた。

現地のアボリジニの青年・ムジャリとジャックが初めて顔を合わせるシーンは印象的だ。お互いの中にある「何か」を感じ取っているようにも見える(間で困惑するロイドが可愛い)。アボリジニの神と心を通わせる男-ムジャリ-と、ウルトラマンと心を通わせる男-ジャック-の邂逅である。

ムジャリは「アボリジニとしての誇りを持って生きている男」だ。そんな彼にとってデガンジャとは単なる怪獣ではなく、彼の魂の一部である。だからムジャリはデガンジャを救いたいと願って行動している。ムジャリにとってはデガンジャの救済が第一義となるのだ。

ムジャリがロイドにアボリジニの自然観を説くシーンは、アボリジニの思考と現代人の思考の溝の深さを感じさせる面白い場面ともなっている。

ジャックは「人間としての命に誇りを持つ男」だ。だから、アボリジニとしての尊厳を守って生き抜くムジャリの気持ちが深く理解できる。ジャックもムジャリ同様、デガンジャを救おう(ゴーデスから解放しよう)と思っているし、それが根本的な解決になることを直感的に熟知している。そんな二人だからこそ、神と心を通わせられるのだ。

それに対してロイド隊員は「兵士としての誇りを持つ男」だ。だから、人々の命を脅かすものは何であれ駆除の対象となる。ロイドにとってはデガンジャを倒すことが第一義なのだ。だから中盤では、激しくムジャリとぶつかってしまう。

ムジャリがサルトップの無線を破壊してしまうシーンも、アボリジニの思いが現代人に理解されない虚しさからくる行動だ。この200年ほどで失われたものの重さが感じられて悲しい。

しかし、アボリジニの神秘に無理解だったロイドも、ムジャリが作った「石の結界」が奏功するや、その態度を軟化させる。

この「石の結界」というのがまた興味深い。前回のジミー少年にしてもジャックのデルタプラズマーにしても、本作では石を通じて神々と交感する場面が多々見られるからだ。

ここでデガンジャが動きを止めたのは、ゴーデスの支配を受けても尚、アボリジニの祖先たちの強い思いと伝統がその体に染み付いているからかもしれない。この結界には、怒りを鎮める効果があったのだろう。

 

◆「君たちの神様もやるじゃないか!」

「ウルトラマングレート」の映像的魅力の一つ、オープンセットでの自然光を活かした戦闘シーンは今回も冴え渡っている。まさに神々の戦いにふさわしい神秘的な映像となっている。

ちなみにUMA本部に映されたマップ映像では大陸のど真ん中が現場とされており、やはりムジャリたちがいるのはエアーズロック(神聖なる「ウルル」)の近くだったようだ。

しかしデガンジャが強い。格闘戦でもウルトラマンに全く引けを取らないし、何より手から放つ雷光が非常に強力だ。

ウルトラマンの光線は全く効いておらず、逆にウルトラマンはデガンジャの雷光を全て浴び続けてしまう。

この神と神の力比べを見守るムジャリとロイドが面白い。特にロイドが拳を握って俄然ウルトラマンを応援している姿が何とも可愛らしい。

だが、ウルトラマン(特にグレート)にとってダメージの連続は大逆転のフラグでもある。今回も全身に受けた雷光を増幅して打ち返すマグナムシュート3連発がデガンジャを打ち倒した。

発射直前に顔を上げるグレートのカットは実に美しく痺れる!


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ウルトラマンの勝利によって、風魔神デガンジャはゴーデスから解放され、元の守護神として大地に還った。

その象徴として、乾いた大地に雨が降る。ゴーデスの消滅と神の復活が恵みの雨をもたらすという映像は、実に原初的な喜びに満ちていて美しい。

ここで叫ぶムジャリのセリフがたまらない。

「君たちの神様もなかなかやるじゃないか!」

ウルトラマンがデガンジャを救ったことの意義は余りにも大きかった。それまでの都市部での活躍から、まるで「西洋人の神」のようだったウルトラマンが、アボリジニの神と大地を救ったのだ。

それは、「ドリームタイム」の救済と解放を意味しており、アボリジニの深く美しい歴史文化の肯定をも意味していた。

と同時に、ウルトラマンは単なる「怪獣退治の専門家」から「人類とその思想や文化までをも守るこの星の救世主」へと、更なる進化を遂げたとも言える。

だがムジャリの台詞は、決してウルトラマンをより上位のものと位置づける=唯一絶対とするのではなく、別の文化圏を肯定する言葉だった。そして一時は対立していたムジャリとロイドが、笑顔で肩を抱き合うのである。ウルトラマンの活躍が、分断されていた民族間の問題をも融和させるのだ。

 

俺たちの神様と君たちの神様。

土地と民族の数だけ神様もたくさんいる。この星は、そんなたくさんの神々に守られた美しい星だった。

たった一言の台詞の中に、「多様性の尊重」という重要なテーマがごく自然に表現されていて、私はムジャリのこの台詞が、本当に大好きだ。

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