ウルトラシリーズは昭和作品を中心にほとんど見てきたつもりですが、改めて大人になって見てみるとまだまだこんなコワイ話が眠っていたなんて...と驚きです。
ちなみにこの22話は、私も大好きなウルトラシリーズの名脚本家・上原正三氏が本作で執筆した最後のエピソードです。加えて、ウルトラシリーズでも最も敵が恐ろしいことをしているなと思ったのでちょっと単独で扱わずにはいられませんでした。
当たり前ですが22話のネタバレを含みます。
あらすじとツッコミ
軽くあらすじを振り返っていきましょう。ただ、ツッコミどころもめちゃくちゃ多いのでそれも合わせて。
まずはなんと言っても
「デートにも誘ってくれないんだから」
なんて挑発的な南夕子が可愛い。それに対して煮え切らない北斗の
「だってそりゃ仕事が忙しいし...」
なんて返答は典型的な昭和ダメ男子っぽくて可愛いのだが、これは暗に北斗にもその気があることを意味していますよね。もしその気がなかったら「仕事中に気を抜くなよ」なんて言いそうなものが、普通にイチャついてるし。早く結婚しろ。
ただ、北斗って勇敢だしまっすぐなんだけど直情径行ゆえに想定外の事態に弱く、女に対しては結構上から行っちゃうところがあって、私の知る限り2~3回は女性に張り手をかましています。多分結婚したら相当奥さんが苦労するだろうなぁというのが見え見えで、夕子のことを想うと少し複雑な心境です...。
で、ろくに隕石の調査をしなかった北斗は例によって山中に「ちゃんと調べろよ!」と一喝されるわけですがこれは山中隊員その通りなんですよね。ただ、北斗がろくな調査をしなかった描写の意味が「アルミホイル頭宇宙仮面の地球侵入を許す」以外にないのが何とも言えないところ。ただ北斗がバカだなって印象だけ残してしまうのだけなのは勿体無い。ここは北斗の判断ミスではなく、宇宙仮面の特殊能力とかで乗り切ってほしかったなー(予算的な問題か?)。
こんな感じで「物語上意味もなくミスをする北斗」って描写が「A」には異様に多い。あんなにたくさんの路線変更に見舞われたくせに「北斗イジメ」だけは徹底しているww
まず突っ込まずにはいられないのが、冒頭の隕石を発見した北斗も、崖から転落し美川隊員の死亡を確認した山中もどいつもこいつもなんで無線連絡しないんだ?というところです。とりあえずは無線か何かで一報入れるべきでしょうと。無線が壊れていたなんて描写があればまだ理解できたのですが...。
「脱出!」で何機も戦闘機を落としまくってきたTACがいよいよ車まで落としたのが最高に衝撃的だったのですが、戦闘機ではいつも無傷なTACがまさかの事故死ですよ。ここだけリアルすぎて怖いんですが...。
この「美川隊員の死亡」こそ今回のメインテーマなのでこれについては後でじっくり扱います。
尚、TAC基地を襲った宇宙仮面と対峙した北斗が腕輪に注目するカットは丁寧でいいですね。あのカットだけで、
【宇宙仮面の正体に唯一気付く北斗⇨報告しても誰も信じてくれない】
という展開が0.2秒で脳内にハッキリ浮かびましたからね(笑)
まぁ今回はそうはなりませんでしたが。
散々北斗の言葉を妄言と一蹴して馬鹿にしてきた山中が信じてもらえない側に回る珍しい展開。多分テレビの前の多くの少年たちが「ざまぁw」と思ったに違いない。
ただ山中、あんたも「いや〜悪かった!勘弁してくれ!」なんて軽すぎる謝罪はないだろうw
いやしかし美川隊員の美しさが凄まじいぞ今回。死ぬほど美脚。スタイル良すぎないかこの女優さん。とにかく美川隊員が眩しすぎる回です。何回でも言います。美川隊員、可愛すぎる。
...という感じのお話なのですが。
この話の怖さ
もう言うまでもないことですが、え?!美川隊員死んだの?!ってところでまずドン引きしました。もしかして美川隊員ここで降板?と思いきや、病院で綺麗な顔してニッコリしてて更に恐怖でドン引き。もしかしてヤプールの変身?と思ったのですが普通に生き返ってて驚き。
色んな特撮モノのパターンに当てはめて「宇宙仮面が死んだら念動力が切れて美川も死ぬとか...?」と最後まで警戒していましたが何とか生きてて一安心。いやまだ油断できんぞとまさか美川隊員の頭の中に爆弾が?!なんて「ボルガ式」という最悪の事態も想定しましたがそれもなくいつも通りのエピローグ。
しかしよくよく考えればこの話やっぱり恐ろしすぎです。
あの宇宙仮面、信頼を得るためにわざわざ殺害した美川隊員を生き返らせたんですね。とてつもないサイコパスです。
まず、上述したように崖下にパンサーを落としたのは宇宙仮面ですが、その前にコイツTAC基地潜入に大失敗しているんです。だからだと思うんですが、TAC内部に入り込むためにもTACの誰でもいいから信頼を得たかったんでしょう。その結果、一度殺した美川隊員を蘇らせるという(個人的に)歴代最狂の奇行に出たのだと思います。
例えば、第7話に登場したメトロン星人Jr.は、山中隊員の婚約者マヤを殺害、その後マヤに変身(死体に憑依?)してTAC内部への侵入を企てました。
こういうのが割とオーソドックスな侵略者のやり口だと思うんですが、一見善意にも見えてしまう死者の蘇生を、物理的見返りも求めずにやってのけるヤプール(宇宙仮面)は非常に独特かつ特殊ですね。
いやしかし、「美川隊員は死んでなかったんじゃないの?」なんて見方もできるとは思います。美川隊員を死んだと判断したのは事故直後に彼女を発見した山中隊員ただ1人だし、脈を取ったり呼吸や瞳孔を確認する仕草も何もなかったので余計そう思えてしまいますよね。
ただ、脚本にそう書かれていたのかどうかまではわかりませんがハッキリと「死んでる!」って役者に言わせている以上、作劇の意図としては「死んだ」ことになっていると捉えるべきだと個人的には考えます。なので、ここでは美川隊員は一度死んだ前提で話を進めたいと思います。
ヤプールもまたウルトラマン
で、そう考えると全く映像化されてないんですけど、「どうやって死んだ人間を蘇生したのか?」ということが気になります。
もちろん「宇宙人だから」「異次元人だから」ってだけで説明ついちゃう勢いでドラマは進んでいくんでそれでもいいんですけど、やっぱり看過できないですよね。だって未だかつて「死んだ人間を悪意で蘇生させてあげた侵略者」なんて見たことないですから。
そういう斜め上の発想が上原脚本らしいですよね。
特に、失われた命を蘇生できるというところが非常に引っ掛かります。それってまるで、「さらばウルトラマン」に登場し命を二つ持参して飛来したゾフィのようではありませんか?
そして、そんなウルトラ戦士たちの裏返しとも言える存在がヤプール人なのかもしれない、と本話を見て新たな想像が広がりました。
ゴルゴダ星がマイナス宇宙という我々の住む世界の反転宇宙(裏側の宇宙)にあったように、またヤプールのすみかが「異次元」という我々の世界とは全く異なっているように、ヤプールとは全てが反転したあべこべの存在なのだろうなと思います。
だから価値観もあべこべなんでしょう。
そしてヤプール(宇宙仮面)は、美川隊員の他にもうひとつの命を生み出しています。超獣ブラックサタンの生成です。
超獣ブラックサタン
ヤプール(宇宙仮面)の変身が「彫刻家」であったというのは非常に興味深いです。多分ヤプールの仕事に最も近いのって彫刻家だったのではないでしょうか。
自分の想像したモンスターに命を吹き込み超獣を誕生させるその作業は「グリッドマン」シリーズをも彷彿とさせられますが、このことからもヤプール以降の侵略者には怨念(「ダイナゼノン」で言うところの「情動」)のような精神エネルギーが動力源となっている可能性は高いですね。
※こういう小難しい感じの精神エネルギーの設定は、初期ウルトラ作品にはなかったもので、「A」以降、とりわけ「80」等で繰り返し扱われることとなります。
何せこのブラックサタンのデザインは改めて見ると凄まじい。ギリシャ神話でいうところのキュクロープスのような一つ目の頭部に蝙蝠の羽のような耳(?)は非常に悪魔的で醜くおぞましいものです。作った人間の精神的な恐ろしさが見事反映されています。
前作のゼラン星人あたりから見られ始めたように思う、非常に醜く不気味な顔だったり、不自然なほど大きく見開いた目玉とか、デザインで怖がらせに来ているような気色悪いクリーチャーが増えるのも「A」前後のウルトラシリーズの特徴だと思います。※マザロン人なんかもその典型。
川北特撮
ちなみに本話、あの平成ゴジラシリーズで有名な川北監督作品でもあります。ブラックサタンの巨大化登場シーンとか、オープンセットかな?と思われるような自然光も取り入れたっぽい映像の美麗さと巨大感の演出や、斜めに傾けた画角とかから「なんか今までと違う」という印象を受けるので是非未見の方は特撮シーンだけでも必見ですよ。
それから、サークルバリアで攻撃を防ぐエースや、本話のみで披露される必殺のタイマーボルトは必見。
よく考えると、タイマーショットを初めそれまで「弱点」としての印象が強かったカラータイマーを武器にしたのはおそらくエースが最初です。
石油タンクを頭に被せてからタイマーボルトの落雷で燃やした上に更にメタリウム光線で爆殺という発想が凄まじいのですが、エースは宇宙仮面が美川隊員に射殺されたのを知らないっぽいので多分「二度と蘇るな」と思って徹底的に殺ったのでしょう。
ブラックサタンの悪魔的なビジュアルからも、なんだか儀式的な倒し方にも見えてしまいましたが、とにかく光線技の連続披露が目にも楽しい。
山中隊員と美川隊員
死んだ美川隊員が生き返ったのも驚きでしたが、個人的に本話のハイライトは、1人でペンダントを持って坂井の元に向かった美川隊員を追うようにして現れた山中隊員のシーンです。
これは本当に嬉しかったし、山中隊員めっちゃかっこよかった。誰も何も言わないけど、きっと美川隊員のことが心配だったからに違いありません。この行動が、隊長の指示だったのか、山中隊員による発案だったのかは分かりませんが、こういうところに「TACのあったかみ」みたいなものを感じるから嬉しいですよね。さすが上原脚本です。上原氏はこういうキャラクターの行動でキャラの心情をちゃんと推し量れる描写をさりげなく入れてくれるから好きだ。そんな上原氏が一年かけて書いてきたからこそ前作のMATってあんなに人間臭いイメージがちゃんとあるんだと思うんですよね。
TACもこういうシーンで隊員一人一人をもっと掘り下げて欲しかったなぁ...。
そしてやはり見どころはミニスカで宇宙仮面を射殺する美川隊員です。美脚にしか目が行きませんが静かに「坂井さん」と呟いて銃をぶっ放すシーンは鮮烈です。
最後に同じ女性である夕子が肩を抱いてフォローしているのもよかった。
やっぱり人間の心に挑戦してくる侵略者を書かせると上原氏は一味違いますね。とてつもなくブラックな何かをさらっと仕込んでくるから油断なりませんよ。
(了)