雨の街と悲しい待ち人の物語。文学的ですらあって美しい。
前回は3話と4話が前後編とも言える内容だったため一つの記事にまとめましたが今回は独立したエピソードだったので単体で感想をまとめています。とっても上品だけど青臭い、素敵なエピソードでした。
指名手配犯・ジロー
完全にお尋ね者になっちゃったジロー。特に新聞で取り上げられてるのがキツイですね。基本的に人間社会でマスコミを敵に回したら終わりですから。本当徹底的にジローを追い込みますねこの作品は。ただ「新聞」ってところは時代を感じる点で、今だったらまた異なるメディアで描かれるところかな?
前回も語った通り、世間をも敵に回して戦うヒーローってほんとにカッコいいですよね。誰からも理解されないけれど、それでもただ1人、会いたい人のことを想い続けて戦う。
美しいじゃないですか。それはもうもはや「ヒーロー」ですらなくて、ただの「男」ですよ。
ミユキさんとトオル
「私ね、どうにも拾い物する癖があって」
ということで拾われたジロー。間違いなく、ミユキさんが待ち続けているトオルとジローには似ているところがあったのでしょう。
トオルは裏社会を生きる少し汚れた、だけど美しいものを大切にする心を持った人です。そして自分の汚れた生き方からでしょうか、彼女を守るために自ら彼女と距離を置いたのだと思います。でもそうやって大切な人のことを美しいままにしておきたいから距離を置くなんてことができる時点で、彼もまた美しい心を持った人なんだと思います。
多分、ミユキさんにもそれがわかったんでしょう。だから彼女も執拗に追うことはしなかった。でも会いたい。かと言ってそれは口には出せない。だから「待つ」ことにしたのかもしれません。
本来交差するはずのない2人が重なってしまった。そして惹かれあってしまった。でもそれは、お互いにとって良いことじゃないから離れることにした…。これってミツ子とジローの関係性ともよく似ています。
ミユキとトオルは、二度と再会できなかった世界線のミツ子とジローに置き換えることができます。
そして愛する人と再会できなかったトオル(=ジロー)の先にあるのは破滅の未来で、 ミユキ(=ミツ子)はただ終わらない孤独を耐えて生きていくしかない、という暗示があのビターエンドだったのかもしれません。
けれど、なぜだか「バッドエンド」には見えない。ハッピーエンドではないかもしれないけれど、なぜか心の奥がすっとするような、洗われるような心地良ささえ感じるのはなぜでしょう?
今週のギルさん
もしかしてギルさんと会話してるサポートAIみたいなのってあのガメラカメ型のロボットかな?
今回は「ダーク」という組織の規模感とか、世間からどう認識されているかとかがようやく語られ始めましたね。この辺の種明かしのタイミングと情報量のバランスが非常に絶妙で好みです。
ちなみに今回登場のイエロージャガー、やっぱり檜山さんやんww贅沢すぎるww
愛を知る男・ジロー
「帰ってあげてください!あなたも帰りたいんでしょ?あなたもミユキさんが好きなんでしょ?」
「あなたがどんな人間でもミユキさんは待ってるって言ったんです!好きってそういう気持ちのことなんでしょ?」
どうしたジロー!覚醒してるやんけジロー!熱いねぇ!
ジローがこんだけ覚醒しているのは間違いなく前回のミツ子さんの行動がきっかけでしょうね。ジローを守ろうとオレンジアントの前に立ったあのシーンです。後で詳しく述べますが、彼女のこの行動は、「ジローの世界に踏み込む」一歩でした。
当然、ジローにはそれが嬉しかった。でもだからこそ、自分のキカイダーとしての醜い姿は見られたくない。けど会いたい!
「...そうかもしれない...でも、会いたい人はいる!」
「僕は醜い姿だ...それでも僕はミツ子さんに会いたい!」
もう恋愛が一番楽しいときのやつやん。離れれれば離れるほどどんどん好きになっていくやつやん。こいつら離れるほど近くなっていくよ。
世界を越境する者
ジローは今回、何度も明確にミツ子さんに会いたいと言葉にしています。そしてそんなジローと同じように「ミユキに会いたい」と思っているトオルに「好きなら会ってあげて」と繰り返し熱く語ります。
しかし肝心のジロー自身は、ミツ子さんから離れています。それは、キカイダーに変身したときの醜い姿を見られたくないからであり、そこには「ロボット×人間」という超えがたい大きな壁があるように見えます。
ではもし仮にジローが普通の人間であれば絶対にミツ子さんと愛し合うことができるのでしょうか?実はそれはまた別の問題です。なぜなら、今回登場したミユキとトオルのように、同じ人間同士で、しかも互いに惹かれあっていても愛し合うことができないケースもあるからです。
厳密には、同じ「種族」の生物であるということ=人間だとかロボットだとか、そういうこと自体には特に意味はないんじゃないかと思います。どちらかというと、「同じ世界を生きている」ということの方がより本質的で大切なことです。
「共に生きる」というのは、たくさんのものを「共有すること」に他なりません。共に起き、共に食べ、共に笑い、共に悩み、共に泣き、共に眠る。一言で言えばそれは「生活の共有」であり「人生の共有」です。
その意味では、前回ミツ子がジローを庇ってオレンジアントの前に立ち塞がったあの行為は、ミツ子が「キカイダー」と人生を共にする覚悟を示す一歩だったと言えるかもしれません。
この行為は、ミツ子が「人間の世界」と「ロボットの世界」の境界線を踏み越えることを意味しています。キカイダーとダークのロボットたちの戦いは、我々人間には入り込む余地のない危険極まりない世界ですが、ミツ子は命を捨てる覚悟でオレンジアントの前に立ちました。これは、「ジローのためなら自分の命は惜しくない」という意思表示であると同時に、人間でありながら「ロボットの世界」に足を踏み入れる覚悟があることを示しています。
それは当然、ジローにもしっかり伝わっていたようです。だからジローはずっとミツ子のことを考え会いたいと強く願っています。
ジローの青さ
でも今のジローは(そしてミツ子は)その先に待ち受ける幾多の困難をを冷静に予想することができるほど「大人」ではありません。
だからジローは、ミツ子さんと「一緒に生きていきたい」とまでは考えていないし、実際そこまでのことは口にしていません。彼が繰り返しているのは、ただ「会いたい」ということだけです。再会した後のことなんか考えていません。
ミツ子もそうです。咄嗟の行動でジローを庇いましたが、そうやって一生生きていくことができるか、そこまでには考えが及んでいないので、「あのときなんであんなことをしたのだろう...」と頭ではその行動の意味が理解できずにいます。
それがジローとトオル、そしてミツ子とミユキの決定的な違いです。彼らはまだ理性的ではなく、衝動的です。そしてそれを私たちは「若さ」とか「青さ」と呼んでいます。
「愛し合う」ということと「共に生きる」ということは同義ではありません。その意味を、そのことの重さを、2人はまだ知りません。
トオルが死ぬ意味
そう考えると、最後にトオルが死んでしまう今回のお話のオチは、ジローとミツ子の未来をストレートに暗示したものと捉えられることになります。上で述べたような、「2人が再会できたかどうか」による分岐に関係なく、最後は誰かが必ず死ぬことになるという悲観的な未来です。
ただ、実際はもう少し事情は複雑かもしれません。トオルとジローを重ねて見ることができる点は確かにたくさんありますが、この2人の決定的な違いを押さえておく必要があります。
トオルは、人間の側から「ロボットの世界」に足を踏み入れた者でした。そのベクトルはジローのそれとは真逆です。
トオルは、人間のままダークと、ロボットと戦おうとした者でした。その意味ではジローを庇ったミツ子にも近い。トオルの死は、人間が人間のままでロボットと戦うことはできないという至極当然な事実を私たちに突きつけています。
ただ、最後までミユキと再会できず死んだトオルですが、それはミユキには「裏の世界」=「ロボットの世界」を見せずに済んだことを意味しています。ミユキが全く知らぬところで、しかしミユキのすぐそばで=同じ街にいながら「違う世界を生きる者」として、トオルはミユキを守ることができたのです。もちろん悲劇的ではあるけれど、めちゃくちゃかっこよくないですか?
とは言え、トオルに近づきたいと願っていたミユキの元に「ロボットの世界」と「人間の世界」の境界を彷徨うジローが現れたのは実に運命的。
ヒーロー番組には、トオルほどまでは行かずとも、こういう「ハンパモノ」はちょこちょこ出てきますよね。「人間の世界」と「バケモノの世界」の境界を彷徨うハンパモノです。
真っ先に浮かぶのは、ライダーマンです。右腕のみを改造されたフィジカル面での半端さもそうですが、当初の戦うモチベーションの違いから、同じデストロンを敵に回しながらV3とも衝突していた彼の存在は非常に複雑です。
「仮面ライダーアマゾン」に登場するモグラ獣人も、「バケモノ」でありながら人間に味方するハンパモノです。「仮面ライダーストロンガー」に登場するタックルもその意味ではハンパモノでしたね。(あくまで当時の捉え方においては)女性である、ということそれ自体が境界を彷徨うハンパモノでした。
そして悲しいかな、そういうハンパモノはトオル同様みんな最後には死にます(笑)
私たちの日常は、そういう「自分たちの世界」と「よそ者の世界」を明確に区分することで安定しているわけです。しかし世界をまたごうとする者が現れると途端に日常は崩壊してしまいます。だから私たちは、そんな半端者は絶対に許さない。徹底的に攻撃し排除しようとします。そうしないと、自分たちの平穏な日常が守れないからです。
それをトオルはわかっていました。だから誰にも迷惑をかけずひっそりと死ぬしかなかった。そんな彼の姿にこそ、私は究極の男の色気を感じてしまいます。
まぁその辺りをどんどんマイルドにしていけば、「少年仮面ライダー隊」よろしく、異形の存在を人間の世界の住人として認めた上で支援する人間の組織が誕生したりするわけですが、「少年キカイダー隊」なんて絶対作られないだろうな(笑)
キカイダーは(ジローは)、「ハンパモノ」として、人間とも機械ともつかぬ曖昧な死線を彷徨い続けるのか、それともどちらかに振り切る決断をするのか。続きを見守りたいと思います。
(了)