いよいよやってきましたこの時が。
「人造人間キカイダー THE ANIMATION」
これから全話感想考察やっていきます。
この作品が放送されていたのは2000年。当時中学生だった私の家ではキッズステーションというCSのチャンネルが視聴できたので見てました。CS放送限定アニメです。
2000年といえば仮面ライダーは「クウガ」や「アギト」が放送されていた頃。超どっぷり仮面ライダーにハマってた頃ですから、同じ石ノ森作品ということでキカイダーにも手を出したって感じでした。
ただ、私は元々「仮面ライダー」が好きなだけのオタクなので「キカイダー」は特撮版も萬画版も触れたことがありません。「マイ★ヒーロー」で見れるくせに見てません。
そんな私が唯一、仮面ライダーシリーズ以外の石ノ森作品でハマったのがこの「キカイダーTHE ANIMATION」でした。一応、萬画版とは少しあらすじが違うようですが基本的には萬画版をベースに製作されていて、御大の死後のアニメ作品ではありますがかなり濃厚な石ノ森エキスだくだくの特濃原液が萬画以外で楽しめる稀有な作品です。
加えて、自分の中にある暗さとか孤独さとか悲しみを愛好するフェチズムというか、悲劇の中にヒロイックな美しさを見出す感性はもしかするとこのアニメによって形成されたのかもしれない。今の私の趣味趣向を決定づけた作品こそこれだったのかもしれない。そう思えたのでDVD-BOXを買いました。
要はこのアニメ死ぬほど好きなんです。んーちょっと大袈裟に言えば、日本版「ダークナイト」くらい完成度高いんじゃないですかね。もしくは、私が本当に見たかった「シン・仮面ライダー」かな。
とりあえず第1話だけならアマプラで無料で見れるのでまぁ見てくださいめちゃくちゃ暗いから笑
サブタイトルを第1話から順に見ていくだけでもわかるんですがまぁ暗いですよね本作。
「孤独な人形」
「狂った機械」
「ストレイ・シープ」
「鏡」
「雨の街」
「負の断片」
とかとか…全12話。
単純に映像的にも暗くてナイトシーンが多いんですけど、加えて内容もものすごく暗いんです。ただ、その暗さの中にちゃんと色気があるんですよね。バーカウンターでウィスキーのロックを仰ぎたくなるような、そんな上品な暗さ?人間臭いけどダサくなくって、辛くて物悲しいのにどこか温かくて、不思議な色気に満ちたアニメです。これがやはりあの石ノ森御大の凄さなのか...?!
とりあえず今回は第1話の感想レビューなんですけど、正直言って第1話って「ザーボーン!ドカーン!」であっという間に終わっちゃうのでこれだけだとそんなに「続きが気になる!」って作りにはなってないんですよね。ちょっとでも興味持ってもらえるようにオススメポイント紹介しながらお話ししていきます。
第1話「孤独な人形」
呪われた出自
キカイダーが誕生する記念すべきシーンなんですが、のっけから雨です。
とにかく不気味な開幕で、光明寺博士もやっちゃいけないことやりまくりの空気出してるというかマッドというかただの悪人にしか見えませんし笑
これってめっちゃ重要で、やっぱ基本的に石ノ森ヒーローって誕生を祝福されることがないんですよね。仮面ライダーが誕生したショッカーのアジトもそうですけど、生まれてはならないものが生まれる瞬間の不気味さみたいなものに満ち満ちてます。
例えば、おんなじロボットキャラクターのドラえもんがこんなに真っ暗な空気をまとってのび太の部屋には来なかったし、鉄腕アトムだって、生まれてすぐに天馬博士に抱きしめられています。
でもキカイダーって、誰にも生まれたことを祝ってもらえないんです。生まれたこと自体が「呪い」なんです。最後まで見たから余計そう感じるのかもしれませんけど、生まれたこと、この世に存在することそのものが十字架になっちゃってるキャラクターなんです。
飛ばせないOP
劇伴が好きですこのアニメ。特にこのOP、どうしても毎回聴いてしまう。
見岳章さんという方が音楽を担当されているようでちょっと調べてみたところ、「金田一少年の事件簿」(!)や「木曜の怪談」(!!)といったホラーテイストの作品を担当されることが多かったようです。言われてみれば確かにOPのイントロとか完全ホラードラマのやつですね笑
怪奇倶楽部のテーマ曲、思い出してみたらそっくりかも。
そんな本作のサントラめっちゃくちゃ好きですね。暗さと冷たさの中にある美しさと逞しさとほのかな温もり。なんか作品全体をMADとして垂れ流すだけでもいいくらい。作品の湿っぽい空気に浸るだけでも結構満足できちゃうほど、音楽が魅力的です。
あとOPの映像にも本作のコンセプトが溢れまくってていいですよね。繰り返し登場する「血のついた歯車」は、ジローが血を流せる「生きた機械」であることの象徴であると同時に、血を流す=苦しみ続ける存在であることの暗示です。
あとOP最後の方のドアップのジローの表情。泣くでも苦しむでもない、不安と焦りに包まれた不穏な表情です。これをOPに持ってくるところが本当ニクイというか、媚びる気がないというか、徹底してますよね、何を描きたいかってことに関して。
もうキャラ萌えを狙ったようなあざといアニメが私は全くもって好きではないので、原作者が作品に込めた想いとかテイストを一切薄めず特濃原液でぶちまけてくれるこの感じがたまらなく好きなんです。もうこんなアニメは今後見れないかもしれないですよね。
他にも、予告編で流れるギターの儚げな曲も印象的ですし、何よりエンディングがいいですね!全アニソンの中で一番好きだと思います。...あ!ミツコさん(本作のヒロイン役の堀江由衣さん)が歌ってるんですね!うぉおおそうだったのか!(今更知った)実はこのエンディング死ぬほど好きでして。「Destiny」という曲です。
半端者の苦悩
途中、飛行機が木の上に引っかかっちゃった男の子2人との絡みがあるんですが、この辺はもう石ノ森テイストMAXの展開ですよね。木の上に登ったりジャンプするのではなく、木をへし折ってしまうジローと、それを見て怯えてしまう少年たち。圧倒的な力を持つジローは、戦闘用に開発されたロボットだからこそ日常の中で人々と共には生きていけないという、これも生まれながらにしてジローが抱えた「呪い」ですね。
でも、なまじ人間のような心を持っているから、それに対して「つらさ」を感じてしまう。ギル配下のロボットたちのように何も考えず命令に従うだけならきっと楽なんでしょうけど。
この、「半端者の苦悩」こそ仮面ライダーにも通底する孤独なヒーローの魅力です。仮面ライダーも、人間でありながら人間離れしたバケモノのような肉体を持ってしまったが故の苦悩を抱えた存在です。キカイダーもまた、機械でありながら人間のような心を持ってしまったが故の苦悩を抱えていて、仮面ライダーで見られた構図をそのままひっくり返したような形になっています。だからこの二大ヒーローって真逆の存在でありながら根っこに抱えている苦悩は全く同じなんですよね。
豪華キャスト
あんまり声優さんのことは詳しく知らないんですけど、それでもまぁ有名な方々で固められてることはわかりますよ。
ジロー(キカイダー)CV:関智一
光明寺ミツ子 CV:堀江由衣
光明寺マサル CV:小林由美子
服部半平 CV:キートン山田
猿飛悦子 CV:小桜エツ子
光明寺ミツ子 CV:堀江由衣
プロフェッサー・ギル CV:小川真司
ハカイダー(サブロー)CV:小杉十郎太
...おー。普通にすげぇな。他にもアナゴさんとかコナンくんとかちょこちょこ出てくるぞこのアニメ。にしても関さんってか声優って本当すごいな。ジローの声がスネ夫と同じって言われたら脳みそバグります笑
光明寺博士
大爆発を起こした研究所跡地の警察官が「遺族」にあたるミツ子やマサルにとんでもない物言いしてますが、これは世間一般の光明寺博士に対する自然な反応とも言えますよね。ちょっと俗世間からは離れたところで研究に没頭するマッドジジイなんですよ。そうでないとキカイダーなんか生み出せないでしょうし。
ミツ子がめくっていたアルバムの写真も、研究所内のものしかないってところにものすごい歪みを感じますね。
もちろん彼が一体どんな目的でどんな研究をしていたのかは終盤に向けて明かされていくわけですが...。
ミツ子さん
ミツ子さんにはなんとなく恋しちゃう感じありますよね。カチューシャミニスカ昭和ヒロインです。
彼女って、父親は研究第一で家庭を顧みないクソ親父だし、お母さんはどうやらいないようなので、たった1人でマサルを育ててきたようですが、その分この年齢でシンママみたいな逞しさを持っちゃってますよね。だからシンママ特有の「母性だけではやっていけないので女性ながら身につけてしまった父性」も持ち合わせていて、それで武装しちゃってるから、弱さを見せず自分で戦おうとしてしまうんですね。それのせいもあってか、序盤はジローとよく衝突してしまいます。
ただ、彼女のその設定のおかげで、この物語にものすごく厚みが出ていることは続く2話以降の感想でお話していこうと思います。。。ジローとミツ子の恋物語としてもものすごく魅力的なんですよね〜本作。
あと、多分専門家ではないくせに父親が残したUSBのデータからキカイダーの構造を読み取るのは頭良すぎですが、おかげで彼女はキカイダーにその体の仕組みを教える「博士ポジション」も同時に担っちゃうんです。キカイダーへの変身方法も彼女が教えることになりますし。
左右非対称・不完全な存在
赤と青の左右非対称なアンバランスをその身にまとっているキカイダーのデザインは本当何度見ても見事としか言いようがないです。
赤と青。善と悪。怒りと悲しみ。冷静と情熱。愛と憎しみ。存在そのものがどちらにも振り切れない「半端者」なんですよねやっぱり。そのことを示すように、真っ二つに分かれるのではなくベルトの中央がななめになってるのが凄い。どちらにも偏れない狭間を生きるものであることが視覚的にも表現されています。
繰り返しになりますが、この「狭間を生きるもの」の苦悩と葛藤にこそ、石ノ森ワールドの魅力が詰まっています。
追っ手のグレイサイキングを葬ったキカイダー。逆光を思わせるベタ塗りの多用は不気味な印象が強まるし個人的に好きです。あとグレイサイキングも鈍重なボディに差し色の赤がかっこいい。世代的にはやっぱり仮面ライダーガイが想起させられます(実際にガイはこいつのオマージュだそうで。やっぱり御大のデザインセンスは時代を超えて愛される)。
ミツ子さんと出会ったジロー。ここからジローの本当の苦悩と地獄が始まります。。。
良心回路
ところで私、放送当時から「良心回路が不完全である」という話にはかなり懐疑的でして。ジローって現時点で十分良心持ってるよね?と思ってました。一体これのどこが不完全なんでしょうか?
もちろん、単にギルの笛の音に翻弄されてしまう部分を「不完全」と言うこともできるとは思いますが、そんな単純なこととも思えない気がするんです...。それくらい、ジローってすでにほぼ人間じゃないの?!と思ってしまえるほどに複雑な思考ができているように見えるんです。その複雑さの正体は多分、「苦悩」です。
多分この作品って、ロボットでありながら「心」を持ってしまったジローの姿を通して、「人間とは悩み苦しむ不完全な存在である」ということを描いているような気がします。
そしてその決定的な事件が起きるのが続く第2話「狂った機械」!というわけで次回!もうタイトルがサイコー笑
(了)