最終回までの残り3エピソードについてもまとめたいのですが、語りたいことが山ほどありすぎるので少しテーマを絞ってみたいと思います。
今回は、ジローとミツ子の恋の行方について扱います。というか本作を見た以上語らざるを得ないであろう、第11話で描かれたジローとミツ子の、ロボットと人間のS◯Xについて扱います。
大きく以下の三つに分けます。
1️⃣どうやってヤったの?
2️⃣なんで少し「引いちゃう」の?
3️⃣必要なシーンだったの?
4️⃣なんでジローは去ったの?
※本記事は話題の性質上ド下ネタも含みます。但し、あくまでも最終的には本作が持つ「文学的な意味や行間」を考察するのが大目的です。ご了承ください。
1️⃣どうやってヤったの?
第11話「夢みる機械」で描かれたジローとミツ子の「濡れ場」は、当時中学生だった自分にとってもかなり衝撃的でした。
「...え、うそ、ヤってる…」という心の声と共に静かに戦慄しました。
その後しばらくは、直接的な描写は色々濁されていたのでそこを妄想で補完してました。どう理解したらいいかわからなかったからです。
「え、ジローって…ついてるの?」「もしかして光明寺博士がバ◯ブでもつけておいてくれたの?」「ミツ子さんが魔改造したの?」とかめっちゃ具体的なところです。
でも三十過ぎて見返した今思ったことですが、多分ジローには何もついてないんだろうなと(多分)。だからミツ子さんは自家発電に近いプレイしかできなかったのかなと予想してます。
ジローの体のどっかで擦ったんかな?ちゃんと汗タラーリしてその後ぐっすり眠ってたのでエクスタシーには達していたと思うんです。
というかですね、この回はもう最初っからミツ子さんの服装がいつもと違う超肩出しの時点でフラグが立ってるんですよ。なんか煽情的な空気がミツ子さんからずっとムンムン漂ってたんです。
もうミツ子さんは完全にジローに惚れてるっぽいんで、本当は多分これ以降もジローに沼ってたはずで、毎晩誘われてたはずだと個人的には予想してます。寂しがり屋のくせにそれを誤魔化して強い自分の鎧をまとってるミツ子さんみたいなタイプは、一回脱いでしまうともうダメですから。
だから最終決戦での「キカイダー」へのキスも純真な乙女のそれでした。本当に心からジローを愛していたのだなと思います。第1話からは考えられない変化ですが、色々な試練を経て彼女は心底ジローを愛せる女性になったのだと思います。
2️⃣なんで少し引いちゃうの?-萬画版との比較-
ただ、なんかさすがにSEXはやりすぎというか、ちょっと引いちゃうのは引いちゃいますよね。それってなんでかな?と。
実は最近、最終章の解釈を深めるために萬画版の1巻〜6巻までの全巻購入して読んでみたんですけど...。
とりあえず萬画版は、連載誌や対象年齢のこともあってか、やはりあくまでも「子供向け」であり、2人の関係も「のび太としずかちゃん」的な、つかずはなれず、たまにラッキースケベ♡みたいな印象でした。
少しセクシャルなシーンもあるにはあるんですが、当然濡れ場にまで発展するわけはなく、「ミツ子さんの前でジローが服を脱ぐシーンで2人して照れる」とかそんな可愛い程度です。
ただ、その後のシーンだけはヒヤッとします。
単行本第1巻のことです。良心回路を直そう、というミツ子からの提案でジローが服を脱ぎ、たまたまそのタイミングでギルの笛の音がジローを狂わせ、半裸のジローがミツ子さんに馬乗りになって襲いかかる、というシーン。
当然未遂で終わるんですが、何となくいやらしいシーンを想像させられる場面でした。このときのジローのセリフが、
「ふ...笛がきこえる!悪魔の笛が鳴っている!!おまえのやりたいことをやれと...笛がうたっている!」
という内容だったためまるでジローがずっとミツ子を襲いたがっていたかのような文脈にもなっていて少しだけエロティックなシーンでした。
但しここで重要なのは、このシーンはあくまで突発的な微エロシーンとしてしか描かれていないということです。上で「のび太としずかちゃん」的と述べた理由はまさにそれで、ドラえもんの道具でしずかちゃんのお風呂を覗いてしまう、あれと同じようなノリで、やむなくミツ子さんに襲いかかってしまう(強制性交的絵面)という程度にしか2人の男女関係は描かれず、アニメ版で見られたような本気の男女関係への進展は一切期待できませんでした。
それはその先のエピソードにおいてもずっとそうで、特に個人的に驚きだったのは前回記事でも扱った第8話登場のシルバーベア戦(アイヌ戦)でシルバーベアを倒したジローをマサルが責めるアニメのシーン、萬画版だとミツ子がジローを責めていたんですね。
それでキカイダーは拗ねちゃって空を飛びそのままの勢いで外国まで行っちゃいます(?!)
てな感じで漫画版での2人の想いはずーっと並行線のまま、ほとんど交わることはありませんでした。
話をアニメ版に戻します。2人の性交シーンは、完全にミツ子さんがリードしていました。多分、そこに「少し引いちゃう理由」があるんだと思います。萬画版の例のシーンがちょっとした「お色気シーン」として成立するのは、両者の同意なく(ギルの笛という不可抗力によって)レ◯プ一歩手前のシーンが描かれたからです。
いや、レ◯プ一歩手前は言い過ぎか。ミツ子さんは着衣すら乱れませんでしたから。
いわゆる「触手モノ」みたいな、人外のバケモノに美女が襲われるジャンルって一部の人には刺さるものがあります。特殊性癖かもしれませんが「ロボット×人間」てのもアリだと思います。ただいずれにせよ重要なのは、「女性の方が嫌がっているから成立する」ということです。それでこそ我々紳士は甘美なエロティシズムに酔いしれることができます。
ところがアニメ版では、ミツ子さんが全部リードしてくれちゃいます。そうなると傍から見てる男子としてはちょっと冷めちゃうというか困るところがあるのかもしれません。人間の女性とロボットが擬似的な性交渉に至るなんて、本来ならあり得ないことだし、なんだか見ちゃいけないものを見せられてしまったような、妙な居心地の悪さみたいなものを感じてしまうのかもしれませんね。
3️⃣必要なシーンだったの?
ただ、ものすごくとてつもなく心に残ったことは間違いなくて(語彙力)、軽薄なテンションで見るとちょっと茶化したくもなるんですけど、考えれば考えるほどこれはアニメ史に残る名シーンだよなと思うわけです。
当時の萬画版では絶対にできなかったことを、御大の意思を継ぐものたちが本気で描こうとした結果「こうなった」ってことだと思うんです。
実際、2人のベッドシーンは実に美しく芸術的です。直接的な描写は避けつつも、2人の溶けそうな瞳と、汗ばむミツ子さんの首筋、そして挿入される闇夜に浮かぶ枝と鉄パイプのカット。これは当然、機械でできたジローと有機的な生命体であるミツ子が交わる夜を象徴的に描いたカットです。
そして枝先に輝く2枚の若葉は、夜露に濡れつつも月光に輝いていて美しい。見た目にはみっともない、「まがいもの」かもしれないけれど、2人の心には本物の愛があることを感じさせています。
筋書きとしてはインパクトがありましたが、映像としては美しく描かれていたのでその対比が私は大好きです。誰よりも本気で「機械と人間の恋」に向き合った結果生まれた名シーンだったと思います。
ここまで描く必要なかったんじゃないか?とか、場合によっては蛇足だという声もあるようですが私はそうは思いません。ジローやミツ子をあくまでも「キャラクター」として描くのであれば、もしくは子供向け漫画原作の映像化という枠を厳守するのであれば不要だったかもしれませんが、本作はその枠から飛び出して限りなくリアルに彼らの「実存」を描こうとしていたと思います。
ただ、ミツ子のジローへの愛には「依存」みたいなものもあると思います。長らくひとりでマサルを育ててきた彼女の孤独をようやく埋めてくれる男性が現れたのですから当然でしょう。だからやっぱり、一生ジローと生きていけるかどうかなんてことは多分全く考えてない。いつかもし子どもが欲しくなったとしたら…なんてこと想像もしてないと思います。でも、その浅薄さが良い。それが若さだからです。それが、樹の先に芽吹いた2枚の若葉なんです。
4️⃣なんでジローは去ったの?
ただ、この初夜の直後、ジローはミツ子の元を去ります。おそらく二度とミツ子らの元に戻らないつもりだったと思われます。なぜジローは、ミツ子の想いに反してミツ子の元を去ったのでしょうか?これはあくまでもアニメ版独自の展開ですから萬画版は参照せずアニメ描写を中心に考えてみたいと思います。
萬画版で描かれた二人の別れでは、アニメでも参照されたであろうヨーロッパでの療養etcもあってしっくりきましたね。アニメ版は萬画版の引用がうまい。
仮説1:決戦に赴くため
忘れられがちですが、例のベッドシーンは「そう見えた」だけのことであってあくまでも本来の目的はハカイダーに破壊された腕の修理です。そしてハカイダーとは腕を修理してから改めて決着をつけることを約束していました。
圧倒的な戦闘力を持つハカイダーとの再戦にはジローも差し違える覚悟で臨んだはずです。だとすれば、ミツ子を抱いても抱かなくてもジローは彼女の元を離れていたことになります。事実、初夜の直前、ジローは服部探偵事務所の2人やマサルも含めたみなの前で別れを予感させる感謝の言葉を語っていました。
仮説2:SEXが成立していなかったため
実は、ミツ子との性行為が描かれた第11話の次回予告(第10話にて放送)にて、彼女との初夜の感想をジローが語っています。
暗い夜空に小さな明かりが灯る。弱いけれど、温かい光を投げかける。僕を包むこの温もりは確かに本物だが、一瞬後には指の間からこぼれ落ちていきそうな儚い予感がつきまとう。そのとき僕は、幸せだった。
ジローのロボットとは思えないワードセンスには脱帽しますが、彼は人間が持ち得る愛の温もりと共にある繊細な儚さをも熟知していました。
ただ、一度学習したらプロの領域にまで一瞬で到達できる超高度な学習能力を持つジローです。SEXというものが本来一体どういうものかをジローは学び切っているはずです。例えミツ子が満足していたとしても自身の「不能」を自覚した、というのは勘ぐりすぎでしょうか?
萬画版には、わずかな隙間から漏れる空気の流れを感じ取って敵を探し出す描写が存在します。それと同様、アニメ版のジローの体表の神経網も非常に鋭敏なものだと思われます。アニメ版でも第1話で「人間の肌の柔らかさ」を知り、「好きだ」「なりたい」と語ったジローですから、ミツ子を抱いたときの感動はそれはそれは凄まじかったと思います。それが上記の「幸せだった」という感想につながっているはずです。
しかし(ついてるついてないに関わらず)、「男性」としては不完全な存在であるジロー、彼自身がエクスタシーに達することはないはずで、射精という、愛の一つの結実を見せることもできません。それでも「幸せだった」と語るジロー、なんてプラトニックなんでしょう。
ただ、自分では人間であるミツ子さんと連れ添うことはできない、彼女を本当の意味で幸せにすることはできない、そう知覚した可能性も十分あります。
初夜直前、星空の下でジローは
「僕は機械だ。人間のようになれない」
と語っている通り、終盤のジローは、「人間の心を持っていても、自分は結局ただのロボットである」、と自分の存在を受け入れています。
皮肉な話ですが、ジローはミツ子と愛し合ったがゆえに、ミツ子と共に生きてはいけないという事実に気がついたということです。
まさに第5話のトオルとミユキはやはりジローとミツ子の関係性を暗示していたということでしょうか。
ただ、ジローが去った理由を考えるにあたって「ハカイダーとの因縁」や「兄弟殺しの罪」についても触れる必要があります。
そして繰り返し登場する「夢」というキーワードについても。
ここから先は最終章の記事で扱いたいと思います。
(了)