「キカイダーは、やつはお前さんを愛していると」
今回は、話が大きく動いた二篇「負の断片」「悲の残照」を振り返っていきます。
ゴールデンバットの語る悲劇
ゴールデンバット、いいですね〜。ものすごく饒舌にジローが置かれている状況を説明してくださる。というか、私が前回までの感想記事で書いてきたことと本当ピッタリ重なる内容を語ってくれたので「答え合わせ」になってめちゃくちゃ嬉しかったぞ。
キカイダーが良心回路を埋め込まれたことで命令に対する選択権を持ってしまったこと、そうして人間のような心を持てたのに、機械でも人間でもない中途半端な存在となった結果、人間からは忌み嫌われ、ロボットからは命を狙われる存在になってしまったこと...そして、人間を愛してしまったこと。これを悲劇と言わずして何と言うのか。
「嗚呼、可哀想なジロー慰めてあげるわ、私たちはいいお友達よ〜、でもそれ以上は近づかないで〜」
ここのゴールデンバットの一人芝居によるミツ子さんへの精神攻撃は声優さんの名演技も相まって非常に見応えがあります。少し茶化した芝居で見せてるけど、ミツ子さんの図星をもろにえぐってるから、思わず涙が溢れたんでしょうね。ここでミツ子さん泣かすシーンはすごい迫力ありましたわ。
きっと、まだ彼女の中でジローの存在が理性的に認められていないんだと思います。「彼はロボットなんだからそんな感情を抱けるはずがない」って認めたくない自分もいるけど、それを他人から言われると納得できなくて苦しいんです。しかもそんなミツ子の心の中にあるジローへの「想い」を「同情」と切り捨てられたから辛い。
「人間と機械の間で同情が愛に変わることなどあり得ないからだ!」
「人間でも機械でもない辛さは、他の誰にも理解できない。」
ゴールデンバットが語る、「良心回路を持った人造人間の悲劇」にはものすごく説得力があります。そして、「こんな可哀想な思いをするならそんな回路埋め込んじゃダメでしょ」ってのはプロフェッサー・ギルの考え方でもありますし、否定もできないんですよね。いっそ、心なんかなければ悩むことなんかないじゃん、というのはその通りだと思います。
でもそれってよく考えたら生命の尊厳を否定する発想そのものでもあるんですよ。
この理屈が通るなら、人間だって心を持っていない方が幸せってことになっちゃうからです。だからギルの考え方はものすごく危険なわけです。
これがSF作品の実に面白いところです。日常からかけ離れた架空のSF世界のお話なのに、作品を深掘りすればするほど、私たちの日常にある「人間」がかえって浮き彫りになってくるんです。
あ、ちなみに「ゴールデンバット」って、御大の駄洒落センスはやっぱりすごいなぁ〜笑
あと毎回言ってるけど声優豪華すぎな笑
ミツ子の勝利
「人間みんなが幸せだと思ってるの?」
そうなんです。その通りですミツ子さん。
前回の記事でも扱ったように、別にジローとミツ子の恋だって人間同士だったら必ず実るわけでもないし、トオルとミユキを見てもわかる通り、普通の人間がみんな幸せなわけでもないんですよ。真っ当な人間として心を持って生まれた人間だって、みんな愛されて幸せに生きてるわけじゃないんです。
それを、自分は「ギルのスパイの娘」だったと知ってしまったミツ子さんに言わせるのがすごい。改めてこのエピソードもシナリオが本当にお見事。縦糸の謎を明かしつつキャラクターの葛藤をドラマに昇華させている。
そして改めて見て思いましたけど、今回ゴールデンバットを倒したのはミツ子さんです。いや厳密に言えばギルの悪事を突っぱねたのはジローでもキカイダーでもなくミツ子さんでした。相手が良心回路を持ったロボットだったとは言え、彼女は紛れもなく人間としてロボットに勝ったと言えます。
これは、オレンジアントの前に立ちジローを庇った第4話からの彼女の成長の帰結です。非力なはずの人間が、ロボットを操る人間の悪意と暴力に打ち勝ったのです。
いやしかし前回も触れた通り、人間でもロボットでもなく、キカイダーにすらなれなかったゴールデンバットは究極の「ハンパモノ」であり、やはりトオル同様そんなハンパモノは悲劇的に死ぬしかないということでしょうか。
ギル・ヘルバートの狙い
今回の舞台が旧光明寺邸であること、ギル配下のロボットでおそらく唯一良心回路を持っているゴールデンバットが刺客に選ばれたこと、最初にミツ子をさらったこと、全てギルの考えた作戦だったのでしょうね。
光明寺博士が開発した良心回路を持ったロボットが、どれだけ苦しみ不幸な目に遭うかを、光明寺の娘に思い知らせること、それこそがギルの狙いだったのでしょう。そうして、命令の拒否権をもつロボットの存在を否定させたかったのだと思います。
そもそも、光明寺の一人息子であるイチローを殺し、精神的に絶望の淵に叩き落としたところに美人秘書を連れて現れ、「資金援助しますよ」と囁くこのギルのやり方、人間の心を本当によくわかっていますよね。これってものすごく大事なことで、本当に悪い奴って、人の心がよくわかっているんですよ。人間の心をよく理解してないと、悪いことってできないんです。
変身しないヒーロー
今回、ミツ子さんの前で本当に最後の最後まで変身しようとしなかったキカイダー。
第4話「鏡」以降ミツ子さんにキカイダーとしての姿を見せたくないと思い始めたジローですが、これとよく似た展開が「仮面ライダー」の第7話にも見られます。「ルリ子さんの前では変身できない」という本郷猛の葛藤がほんの一瞬ですが描かれました。
私はこういう石ノ森ヒーロー特有の「苦悩」が大好きです。
本来、変身シーンというのは作中の「花形」とも言える一番輝くシーンのはずです。実際、ヒーローに憧れる子どもたちの多くはそのシーンを真似て遊ぶし、そのために変身アイテムを親にねだって買ってもらう。一番子どもが目を輝かせて見ているはずのそのシーンが、実は一番本人にとっては苦痛である、という逆説的なロジックが本当に面白いなと思うんです。
「自分もキカイダーみたいな強いロボットだったらな〜」とか「自分も仮面ライダーみたいな改造人間になってみたいな〜」って誰しも一度は思ったことあると思うんですけど、それを作品のドラマが全力で否定してくるんです。はたから見たらカッコイイ!スゴイ!って思えることが、本人にとっては「コンプレックス」なんです。
こういう、「なりたくないのになってしまった」ヒーローは昭和特有の見せ方で、ギリギリ「クウガ」くらいまでかな〜という感じですが基本的に平成以降は「自分から首を突っ込んでいく」タイプというか「自分にできることを頑張る」タイプが多くなるのでそういう「暗さ」みたいなものが鳴りを潜めていくわけですが、本作でジローがストレートに見せてくれるこの石ノ森イズムMAXの葛藤を、2000年のアニメでやってくれたことが本当に嬉しかったですよね当時から。
ようやくミツ子さんの元に帰って来れたジロー!と思ったら何やら次回予告がものすごく不穏なんですけど大丈夫ですか笑
(了)