今回は第2話「狂った機械」です。個人的に一番好きなエピソードかもしれません。というか、リアタイ視聴から20年経った今でも唯一覚えていたというかものすごく印象に残っていたのがこの「狂った機械」というフレーズでした。
今回は、ジローが「最も深く傷つくエピソード」です。振り返っていきます。
前回の第1話はこちら。
ジローはただの...!!
実父である光明寺博士の消息を聞かれるジロー。ジローにとっては目に映るもの全てが新鮮で、ジロー=キカイダーを作ったのが光明寺博士だと聞かされたジローは...
「マサルくんもこの人が作ったんでしょ?(^^)」
このときのジローのあっけらかんとした無邪気な声と表情がまたたまりません。
ジローって見た目が10代の青年だから誤解されやすいんですがこの世に生まれ落ちたばかりの赤ん坊と同じなんです。それでいて死ぬほど頭いいので吸収力はとてつもなく高い。そんなジローに対してミツ子さんは激昂してしまいます。
「ジローはただの...!!」
「ただの機械」だと切り捨てたかったのでしょう。初見時も「 そこまで言うか?」と違和感あったんですけど、彼女がロボットに対してある種の憎しみを抱いていることは後のエピソード(4話くらいかな?)で明らかになります。
その後の森の中での2人の会話も良いですよね。ミツ子の頬に手を添えながら、
「僕はマサルくんやミツ子さんが好きだ。どうすればこんな風になれる?ジェミニィを直せばなれる?」
この世に生まれ落ちたばかりのジローは人間になりたいと願います。でも、いやそれはどう転んでも叶いっこない願いなのよ...ってのが見てるこっちとしては辛いところです。やっぱりこの物語は、人間になりたいけれど絶対になれない悲しい「ピノキオ」の物語です。
そしてそんな風に「体は人間ではなくとも心は人間であろうと悩み苦しむ姿」は完全に仮面ライダーと一致します。出自が逆転している(人間→改造人間)だけで、彼らが抱える葛藤とジローのそれは非常に酷似しています。
ただ、人間とロボットの違いがまだよくわかってないジローのアホさが彼の不幸を一層際立たせていて、だからこの第2話、めっちゃ好き。
「じゃあ、ミツ子さんが自分のジェミニィを調べたらいいじゃない(^_^)」
「ねっ(´∀`*)」
ジローがアホ素直すぎて...その笑顔にドン引いてるミツ子さんとセットで最高です。この噛み合わなさ気まずさたまらんこのシーンだけで白米3杯だわ。
今週のギルさん
「フン、なまじ人間に近づけようとするから余計なことまで興味を持つ。苦しいだろう?必要のない感情まで持たされて...。」
いかにも悪の親玉って感じのギル様ですが、この歳になって見ると結構ギルが言ってること理解できるんだよなぁ。下手に感情なんか与えるからこんなことになるんだろ?って私も思います。だから機械はやっぱり機械らしく、感情を持たずに人間の命令にただ従えばいいでしょと。
まぁいわゆる「ロボット三原則」の通り、ということです。これを実現しようと思ったら、多分ロボットは感情を持ってはいけないのではないかな?と思うんですが皆さんどう思います?
但し、当然ギルが操るロボットたちもまた完全に「ロボット三原則」から逸脱しているんですよね。だから本作で描かれているロボットたちには、ダークの側にもキカイダーの側にも「正義」が存在しません。
狂った機械?
「止まりなさい」と言われたジロー、
「それは良い命令?悪い命令?」
と言ってミツ子の言葉に耳を貸しません。うーむ見事な論破(笑)
ここのジローのすね方というか捻くれ方はとてつもなく人間らしくて好きです。
「好き」な人間(ミツ子さん)を傷つけようとしてしまった自分が許せないし、そんな自分を破壊しようとするミツ子さんもいや。でも、ミツ子さんのような柔らかな「人間」になりたいとも思う。
こういう矛盾を抱えたロボットは本来ぶっ壊れるのが世の常ですよね。「2001年宇宙の旅」のHAL9000が一番有名だと思います。「乗員と話し合って協力しろ」という命令と「モノリス探査の任務については乗員には秘密にしろ」という相反する命令の矛盾を処理しきれず、「乗員を全員殺せば話し合わなくてすむ」と命令を曲解してしまう彼の姿は非常に印象的でした。
でもジローは、すねて家出するわけです。これはもう立派な「人間のすること」ではありませんか?
ジェミニィは本当に不完全なのか?
放送当時からめっちゃ疑問だったのが、ジェミニィって本当に不完全なの?ということです。もちろんギルの笛に操られてしまうという致命的な弱点があるのは確かですが、それを除いたらジローって本当ただの人間ですよ。
じゃあ、光明寺博士が目指した「完成版のジェミニィ」もしくは「完全版のキカイダー」って何?ってことなんですが、もしかしたら「ニーサン」みたいなやつかなぁと。
ニーサンってのは「仮面ライダーディケイド」22話に登場した海東純一のことです。この世界ではフォーティーンに洗脳された人間は不気味なほどに笑顔が眩しい「良い人」になってしまうので世の中が平和になるけどその代わりフォーティーンに仇なす者は徹底的に暴力で排除するというちょっとしたディストピアものです。
(実際には海東純一は洗脳されてなかったんですが)
私自身これまで勘違いしてたんですが、あくまでもキカイダーってやっぱり戦闘用のロボットなんですよね。別に人間のような心を持つ優しいロボットを作ろうとしていたわけではないんですよ。
あくまでギル配下のロボットを殲滅するために開発された戦闘マシーンなんだけど、その圧倒的な戦闘力ゆえ、絶対にギルに操られてはいけないわけです。だから「めっちゃくちゃ強くてめっちゃくちゃ良い人」を作ろうとしたんだろうなと。「良心回路」なんて言ってますけど、別に社会福祉に貢献するためでもなんでもなく、「本来のキカイダー」は危険なギル達ダークロボッツに対するカウンターとして造られたに過ぎないわけです。
ただその「完全版キカイダー」、非常に危険な感じがします。そもそも「善悪」自体、時代や状況によって微妙に変転します。そんな中でも適切な判断をするのは至難の業で、適宜アップデートが必要になりそうですが、結局そのアップデートは「特定の人間の主義・思想」に従って行われるわけで、要は作り手の正義が頭の中に押し込まれるわけですよね。
...んー、第1話で光明寺博士の最後の「実験」が失敗してジェミニィが不完全な状態でキカイダーが誕生してしまったのって、ジロー自身がそれを拒んだ=ジローの意志だったんじゃないの?ってそんな気がしてきました。「誰の命令も聞きたくない」と、人間であろうとしたジローがジェミニィを自分で突っぱねたんじゃないの?と。
だから、
「それは良い命令?悪い命令?」
とミツ子の命令を突っぱねたシーンは実に象徴的なシーンなわけです。キカイダーは、人類史上初の、誰の命令にも支配されない自由意志を持ったロボットだったということですよね。
裏を返せば完全版ジェミニィを組み込んだキカイダーって結局人間の命令に従って「善いとされている行い」を絶対的に遂行する、あくまでも人間に服従し続ける存在なわけですよ多分。
まぁその辺はもう少し続きのエピソードを見てじっくり考えていきましょうか。
グリーンマンティス
しゃべりませんねコイツ。さすが昆虫モチーフだけあって、複眼の描き込みパターンは仮面ライダーと同じ菱形の連続イメージ。めっちゃ模写してたあの頃を思い出します。
でも聞き覚えのあるこの鳴き声は...キーラとドラコのミックスかな?
度々口からなんかヨダレみたいなの垂らしてるし首の動きとかなんとなく軟質素材に見えるし死に様は舌伸ばして液体撒き散らしながらバラバラになってピクピクしてたりと、ロボットのくせに有機体みたいな描かれ方しててちょっとグロかったですよね。
でも両手の鎌を交差させて斬撃を放つ技なんかは完全にキカイダーの電磁エンドそっくりですし。この辺りはのちに語られることになる「キカイダーの兄弟」たる証でもありますよね...。
サイドマシーン
サイドマシーン登場シーンは燃えますね。なんというかまず単純にデザインがめちゃくちゃかっこいいんですよコレ。ベースはカワサキのGT500マッハⅢという車両の改造...というかほぼ色変えです。ここは石ノ森御大のセンスのみならず、当時の特撮番組と並行して描かれたからこその「時代が生んだスーパーマシン」ですね。もうほぼ寝そべってんじゃねぇかってくらいの超前傾姿勢がかっこいい。
咄嗟にまたがり念じるだけでエンジンをかけるジロー。その後の森の中でのミツ子さんとの会話でもサイドマシーンについて少し語ったジローの言葉が深いですね。
自分を襲ってくるロボットにも、このバイクにも、そして時にはミツ子さんにも「近いもの」を感じるとジローは言います。
多分それって「破壊の衝動」みたいなものなのかなと思います。ジローに襲いかかるロボットたちはもちろん、サイドマシーンにもそれはあって、それってきっと普通のバイクではなく「戦うためのバイク」であるということですよね。
そして「ジェミニィの修復が無理ならジローを破壊するしかない」と覚悟を決めているミツ子さんに宿るものも同質のものです。ここで、機械と人間を同列に語ることができるのはジローが「狭間を生きる者」だからでしょうね。
あと、バイクと無言のコミュニケーションとってる描写があるってのが良いんですよ。こんな風に愛車であるスーパーバイクに圧倒的な存在感があるってのはヒーローにとって無茶苦茶大事なことなんですよ。
デンジ・エンド
ミツ子さんに「狂った機械」と言われたジロー。そのショックを胸に、
「僕はただの…機械だぁああ!」
と絶叫します。それが自身のアイデンティティ=キカイダーであるという、宣言です。作品のタイトルとドラマが見事にシンクロした名シーンです✨
そして放つ必殺の電磁エンドも、静かな溜めと共につぶやくことで「ジ・エンド」=ダークのロボットに対する「死の宣告」になっているところもまたオシャレですよね。
石ノ森作品に見られるネーミングってこういうびっくりするくらい単純なダジャレみたいのが多いんですけど、それをちゃんとキャラクターの感情と絡めてドラマに乗せる展開は完璧です。
あとは今話に限らずキカイダーの左脳内部のパーツが明滅する演出も好きです。
というわけで次回、「ストレイ・シープ」=「彷徨える羊」のお話ですね。いよいよ探偵事務所の面々も登場。果たして「狂った機械」と突き放しジローの破壊を考えたミツ子はジローと再会できるのできしょうか?
(了)