ミツ子に「狂った機械」、「ただの機械」と言われ、帰る場所を、居場所を失ったジローは更に辛い言葉を浴びせられることになります。
世界が広がるたびに悪口がアップデートされていくジローが哀れだぜ。
ロボットが帰る家
時計台のそばの女の子がしきりにお母さんに色々聞くシーンって、昔はくどいなと思ってたんですけど、今見ると「そうそう子どもって本当にこんな感じだわ」って思うし、それはまだ精神的に幼いジローと重なるんですよね。
ジローにも知りたいことやわからないことがまだまだいっぱいなので、丁寧に娘の疑問に答えてくれるこのモブママの説明は、ジローの認識をアップデートさせてくれるのでした。
「お人形は機械でできてるから、機械のおうちに帰るのよ」
人間には人間の、機械には機械の家がある。しかしそのどちらでもないジローに、帰る場所はないのです。キカイダーの「キカイ」って機械だけでなく、「奇怪」も含んだダブルミーニングに思えてきましたね。奇怪な機械、それがキカイダー。
また、ジローが彷徨い歩く街の背景に登場するスクラップ置き場は暗示的ですよね。便利な機械も用が済んだらスクラップ=鉄屑として捨てられます。人間の世界を離れた機械の行く先はスクラップです。人間に求められない機械など、意味がないから。
今週のギルさん
なんかアシストAIと喋ってた?...え、トニースタークですか?
ギルさんの笛で毎度毎度キカイダーは苦しんでるわけですが、ギルさん自身はまだキカイダーがこの笛の音に苦しんでいるという事実を把握してないっぽいことは重要かな。あくまでも自分の配下のロボットに命令を下す瞬間にたまたま居合わせたジローが苦しんでいるってだけなんですね。
ミツ子さんの苦悩
第3話の冒頭、暗躍する新たなダークの刺客・カーマインスパイダーによって発生する爆発事故。そのニュースを見たミツ子さんはジローが関わっていないかと心配するわけですが、ここでの「心配」って、ジローが巻き込まれていないか?もそうだけどジローが犯人ではないか?も含まれてるであろうことが実に切ないですね。まぁ前回ギルの笛のせいとはいえ首を絞められ殺されかけたわけですし当然です。ジローは「狂った機械」ですからね。
でもそんなミツ子さん、寝起きのマサルに
「どうしたの?朝から変な顔して」
と言われます。朝っぱらから変な顔とか言われたらさすがに怒っていいと思うぞミツ子さん。
とは言え、実際にジローが見つかったらちゃんと傘を2本持って行くミツ子さん。ジローを人として思いやり心配していることが表れていますよね。
猿飛悦子との会話で明かされたように、父の光明寺博士がロボットの研究に没頭し続けていたせいで子供の頃に孤独な思いをしたことから、いつしかロボットを憎むようになっていたようです。それが、初対面の頃のジローへの当たりのキツさに出ていたわけですね。ただ、その憎しみは寂しさの裏返しです。
ジローはロボットでありながらミツ子さんの寂しさを埋めてくれる存在になり得るかもしれない。そんな淡い期待が彼女の中には朧げながらあって、それを服部探偵の一言でハッと気付かされるわけです。
「一番ジローくんを人間のように感じてるのは、実はあなたなんじゃないかな」
複雑ではあるんですが、ミツ子にとってジローは幼少期に失った父親の影を重ねる面もあるんだろうなと思います(実父は存命ですがいないも同然)。それに、たった1人でマサルを育てなければならなかったが故に、誰にも頼ることができない人生を送り続けてきたミツ子さんがようやく頼ることのできる「男性」であるというのは見逃せない点です。やはりミツ子さんはジローを求めている。そして当然ジローも、いつも心の中でミツ子さんのことばかり考えています。やっぱりこの二人、相思相愛ですよ。
バケモノ
前回の悪口「狂った機械」→今回「バケモノ」🆕❗️
これですよこれ、私が見たかったのは。ヒーロー番組として制作されたはずの子供番組の主人公が、実際には世間から冷たい目で見られ徹底的に迫害される、排除されてしまうという悲しい現実。こういう世間の残酷さをきっちり描いてくれる作品が私は好みなんでしょうな。
ヒーローだって、悪と対等に渡り合うためには限りなく「悪と近い存在」になるしかないんです。身近な例で言えば、スピード違反を取り締まるために警察もスピード違反しないといけないですよね。
それと同じで、ダークのロボットたちと戦うためには、ダークのロボットと同じ能力を持った存在になるしかない。法の外、常識の外、人間の外側の存在と渡り合うには、自身もまた外にハミ出た存在になるしかない。そんな「外の存在」が「世間」という「内側の世界」に足を踏み入れようとしたらどんな目に遭うか。そのことを徹底的に描いてくれているのが本作です。第1話で飛行機を木に引っかけた兄弟や、路上のギター青年、警察官、浮浪者、そして猫を抱く女の子...。
仮面ライダーも全く同じです。彼らがもう普通の人間として生きていけないことはやはり萬画版や特撮版の一部エピソードで描写されてきた事実です。
それでも彼らは人間を助けるんです。人間たちに疎まれ、迫害されたとしても、その悲哀を隠して戦い続ける。その背中にこそ色気を感じてしまうのですよ。これこそが石ノ森ヒーローの魅力なんです。
「醜い姿になったものだ。これならお前に兄弟と言われても認めざるを得ない」
自らシールドを破壊して自分の蟻酸で自壊したオレンジアントのセリフです。ボロボロになって右半身の内部構造が露出した姿は確かにキカイダーに似ていました。
キカイダーのデザインモチーフはやっぱり人体模型だそうで、そりゃあ人体模型みたいな人型がうろうろしてたら怖いわな。ただ、石ノ森氏自身がこのキカイダーのデザインに関しては「最高傑作かも」と言うほど気に入っていたらしいですね。
確かに一度見たら絶対に忘れられない強烈なインパクトを持っています。絵に描こうと思ったら結構サーっと描けちゃうだろうし。この「インパクト」こそ、石ノ森ワールドに欠かせない要素であり、キカイダーが今も愛されている要因の一つなのだろうと思います。
迫害の美学
石ノ森作品に見られるような「迫害されるヒーロー」は、昭和作品以外にも、自分の知る限り平成以降ちょこちょこ存在しています。
近年の作品でいえば、「仮面ライダーアギト」の仮面ライダーギルスは、その能力に覚醒した直後、多くの信頼していた人間に離れられた悲しい経験をしています。
「仮面ライダー555」の乾巧もまた、その正体を白日の元に晒した結果、和解に至るまで多くの衝突を繰り返しました。
ジローが経験したそれに最も近そうだな、と思えるのが「仮面ライダー剣」第12話の相川始こと仮面ライダーカリスです。アンデッドから救った親子はおろか、親交を深めていた仁からも拒絶され、栗原家を飛び出したままの彼は再び孤独な存在となります。
「CASSHERN」でも、街を救ったはずのキャシャーンを「よそ者」として石を投げつける少年たちの姿が描かれました(アニメ版にもあった描写のオマージュです)。
近年でいえば「仮面ライダーBLACK SUN」は強烈なカイジン差別が描かれた作品です。まぁ、ここでいうヒーローだけが忌み嫌われるというのとは少し違っていますが...。
海外作品に目を向けたとき、「ダークナイト」に登場したバットマンもまた「迫害されるヒーロー」の1人でした。特に、ラストシーンにてトゥーフェイスの殺人罪を全て被り警察に追われながら闇夜に消える彼の姿は「迫害されるヒーロー」の悲哀に満ちていて美しく、無意識に私は彼の背中に仮面ライダーの記憶を重ねていました。バットマンもまた「嫌われるヒーロー」であり、嫌われる美学をその身に宿した最高にかっこいいヒーローです。
ただ、そんな彼らにも理解者がいます。それが、子どもたちです。子どもたちは、彼らの見た目や出自や世間の評価に捉われず、自分たちが目にしたものだけを信じて生きている純真な生き物です。だからどんな時代も、子どもたちだけは「正しい人間」を見抜くことができる。
「ダークナイト」のラストでも、警察から逃げるバットマンを庇うようなセリフをゴードンの息子の少年だけが呟いているシーンが実に印象的でした。
続編の「ライジング」でも、犯罪者に身を堕としたと言われるバットマンの帰還を待ち望んでいたのはやはり子どもたちです。
その観点からすれば、「ガメラ」もまた「迫害されるヒーロー」と言えます。怪獣ゆえその巨体を奮って戦えば当然街を破壊してしまうガメラですが、やはり昭和平成共に子どもたちだけは常にガメラの味方でした。
なんかこういう、「大人は無理解、子どもたちだけは味方」っていうこの世の真理みたいな方程式が体に染み付いているような気がします。そしてそれは、子ども向けの番組を制作する人たちが大切にしている「矜持」のようなものに思えて、かっこいいなと思えるんですよね。
で、本作のジローに話を戻しますが、その点から言えば「子どもだけは味方」という定石をもぶっ壊して、直前まで仲良くしていた女の子に「キャ-オバケ」と叫ばせるこの作品は鬼畜ですよ笑
みんなから等しくバケモノ扱いされるジロー。ここまで徹底的に一般市民から嫌われる主人公、見たことないですね。でも、だからこそここでキカイダーのあの左右非対称な人体模型デザインの価値が最大限発揮されることになります。キカイダーが醜い姿だからこそ、ジローの葛藤がきちっと描けるんです。
さらに言えば、だからこそそんなジローの理解者=ミツ子さんの存在がより輝くのだと思います。ヒーローが活躍すればするほどヒロインの影が薄くなることってよくあるんですが(特に少年漫画やバトル漫画)、本作の場合は、ヒーローがいじめられればいじめられるほどヒロインが輝きますからね。
服部探偵事務所
今回から登場の服部探偵事務所のお二人。とりあえず声優が豪華すぎます。
ずっと言ってる通りこのアニメ暗すぎるので、このお二人だけがコメディリリーフになってます。本当、一服の清涼剤です。リアタイ当時からこの2人の存在にはかなり精神的に救われた記憶がありますよ。
いやそれにしても冒頭の「出涸らしコーヒー」はやばいでしょう笑
客に出すコーヒーもないほど貧乏というのはいかにも昭和ですが、ほぼこれ漫画家の実態ですよね、なんか石ノ森の投影のような気がしてきた笑
まぁでもこの2話見るだけでもわかる通り、2人とも人格者であるのは間違いないんですよ。でないとこんな危険な依頼、途中で逃げ出すよね。
兄弟
ミツ子さんはジローのことを「兄」として捜索を依頼していたようで、頑なに「帰らない」と言い張るジローを説得するために服部探偵は「兄妹愛」について語ります。
その直後、ジローと対峙することとなったカーマインスパイダーが、ジローを「兄弟」と呼ぶシーンはお見事、シナリオが完璧です。
ミツ子さんがジローに言う「壊れている」は、人間の側に引き寄せるための言葉ですが、カーマインスパイダーが言う「壊れている」は、ロボットの側に引き寄せる意味合いを含んでいます。
ただ結局どちらも「命令に従え」って言ってるだけなんですよね。命令の主体者が誰かだけの話で「人間の善意」に従順になるか、「ギルの破壊活動の命令」に従順になるかの極端な二択しかないなわけで、だからジローは拒絶し続けているんです。ジローは善か悪のどちらかに抵抗しているのではなくて、「服従させること」それ自体に抵抗しているんです。
しかしジロー辛いな...。兄弟というものは愛し合うものだと教わった後に、兄弟を名乗るものから殺されそうになるわけです。
誰か一人でもいいから、今のままのジローでいいんだよって言ってやってくれ笑
ちなみに、今回登場したカーマインスパイダーとオレンジアントの2体は、前回までに登場したロボットたちとは違って人語を操ります。オレンジアントに至っては人間にも擬態していました。
だんだん性能を上げてジローに、キカイダーに近づいていっているように見えるのがまた不気味ですよね。
さぁ、再び街に消えたジローはミツ子さんの元に帰ってきてくれるのでしょうか?!
(了)