前回記事にて、チャージマン研という作品が想像以上にスケールの大きい作品であることが判明した。
特に本項の前提として押さえておきたい重要なポイントは、
- チャージマン研は、超人血清によって肉体をも強化された上で超強力兵器を装備した地球最強の存在であること
- 彼の存在は日本の国際的地位を一気に押し上げたこと
- その人類最強の戦闘力と地球防衛の功績を持ってして、彼は国内では国家の司法権すら超越した超法規的存在となっており、彼の一声で殺人犯すら無罪となり得ること
といった辺りだろうか。
「は?!なんでそうなるの?!」と思った方は是非前回記事をご一読下さい。
そこで今回は、前回判明した事実を元に例のエピソードを再解釈し直してみたい。それは、第35話「頭の中にダイナマイト」である。
◆あらすじ
簡単にエピソードを振り返っておこう。日本の要人たちが一堂に会するレセプションの場に参加する予定だったボルガ博士を拉致・改造したジュラル星人。ボルガ博士の脳内に爆弾を仕掛け、そのままレセプションに出席させ、参加者もろとも爆破しようというのが作戦だ。しかし、そんなジュラルの目論見すらも研に看破され、爆破ギリギリのタイミングで研はボルガ博士をスカイロッドで海上へ移動。爆発直前、「ボルガ博士、お許し下さい!」のセリフと共に博士をジュラル星人の円盤目掛けて投下。ボルガ博士は、ジュラル星人の宇宙船もろとも海上で爆散した。
◆なにゆええげつないのか?
これが、「チャージマン研!」を一気にキチガイアニメとして有名にした言わば代表作である。
まずは、本話がキチガイな程にえげつないエピソードとしてよく紹介されるいくつかの理由をピックアップしておこう。
- ボルガ博士が、初対面の子どもにも気さくに話しかけてくれる非常に温和な爺さんであること
- 開始早々主人公の目の前で射殺され、拉致されるという呆気なさと救いのない展開
- 脳髄に爆弾を埋め込むという残虐な手口に加えて、ボルガ博士自身、改造された際の記憶を完全に消されており、本当に死ぬまで事情がわからないままだったこと
- ヒーローとは言え小学生である研の手でトドメを刺されること
- しかもその爆発を、敵の殲滅に利用されたこと
- 最後、誰も涙を見せないこと
◆巧みなジュラル星人の戦略
毎度毎度回りくどい作戦でお馴染みのジュラル星人だが、今回の作戦に関しては実に優れていたと言わざるを得ない。
まず、研の眼前でボルガ博士の拉致に成功したこと。これはとてつもない成果である。
普段は拉致できたとしてもなかなか殺害せず、拷問したり水責めにしたり鳥葬にしたりと時間のかかる手法ばかり取るためにギリギリのところでいつも失敗していたのだが、今回は即座に射殺。いやに手際が良い。
使用された拳銃も、特殊サイレンサーでも装備されていたのだろうか、完全に無音。研に目撃されていたとは言え、見事目立つことなく拉致に成功した。
加えて、科学者に目をつけたところが素晴らしかった。前回記事で明らかになったように、地球最強の改造兵士・チャージマン研を開発したのは日本の吉坂博士。この世界において、優秀な科学者の存在こそが、地球侵略の最大の壁であると言っても過言ではない。仮に研を倒しても、彼らがいる限り、新たな改造兵士がジュラル星人の宿敵となり続けるのである。となれば、まずは科学者どもをまとめて粛正することこそ真っ先に打つべき手だろう。レセプションの開催は願ってもないチャンスだったに違いない。
更に、ボルガ博士の替え玉として偽物を忍び込ませず、あくまでホンモノのボルガ博士を送り込んだことも巧妙であった。そのため、当初は誰も研の言葉を信じなかったのである。
◆研に委ねられたギリギリの選択
その後、常人を遥かに超えた超聴覚によって博士の脳内に仕込まれた爆弾を発見し、一切を了解した研だったが…。
はっきり言おう。改造されたボルガ博士がレセプション会場に到着した段階で、もはや手遅れ、半ば研の負けは確定していたのだ。
「そうか、頭の中に、爆弾が…!」
この瞬間、研には以下の3つの選択肢が与えられた。
①外科手術によって爆弾を取り除こう!
→時間がない!しかも誰も僕の話を信じてくれていない!
②他の人たちを安全な場所へ誘導し、ボルガ博士にはここで死んでもらおう!
→大勢の人たちを避難させる時間もない上に、やっぱり誰も僕の話を信じてくれていない!すぐには動いてくれないだろう…。
③爆発しても被害の少ない、遠い場所へボルガ博士を連れて行こう!
…どう考えても③しか有り得なかったのである。
だが、③を選んだ場合ボルガ博士にどう説明するかが実に難しいところである。何よりボルガ博士の意識がハッキリしているのが実にややこしい。
だから研は、一つの残酷なウソをついた。
「ボルガ博士、あなたは殺されたんです。その頭の中に爆弾を仕掛けられて...今のあなたは人間ロボットなんだ! 」
前段は全くその通りだが、「人間ロボット」という表現はウソである。彼はまだ、ボルガ博士としての意識を保った、れっきとした人間だったはずだ。
◆勇気ある決断
本話とよく似た展開を見せるエピソードとして、第61話「バリカンの旧友が尋ねて来た」が挙げられる。
バリカンの旧友を名乗る気が触れたような奇妙なロボットを、研はスカイロッドから投棄、海上で爆発させている。その手法が今話とよく似ていることからこの戦法は「ボルガ式」と呼ばれているが、このときも相手は同じ「ロボット」なのに、研は「お許しください」などとは言っていない。
それはやはり、研自身、ボルガ博士が人間の心を持ったまま爆弾人間に改造されたことをよく分かっていたからだろう。だからこそ、「お許しください!」と叫んだのである。
小学生ながら、ここまで残酷な決断に踏み切った彼の勇気を、私は讃えたい。
◆人間として向き合い、兵器として葬る
加えて彼は、爆破リミット迫る絶体絶命の状況下で、自らの背後に迫っているジュラル円盤の存在にもしっかり気付いていた。そして、この悲惨かつ絶望的な状況下でこう思ったに違いない。
「なんてひどいんだジュラル星人め…絶対に許さない…目に物見せてやる…!」
彼の後悔と悲壮と絶望は、背後にうろつくジュラル星人への怒りへと収斂していく。そして彼は、実に冷静に、ボルガ博士を破壊兵器として利用するという妙案に飛び付いた。
研の優しい心は、目の前のボルガ博士をジュラルの被害者として=人間として受け入れることができず、「人間ロボット」と名付けることで自身を納得させようとした。半ば錯乱状態、並の小学生であれば、精神崩壊寸前である。
しかし彼は、ギリギリのところで人間の心を捨てなかった。それがあの、
「ボルガ博士、お許しください!」という懺悔となって溢れ出したのだ。
彼は、ボルガ博士をロボット呼ばわりしつつも、最後は人間として向き合い、しかし同時に兵器として利用した。
さすがは地球最強の戦士である。時には人道的に、しかし時には非道に徹する、救済と犠牲のバランスを瞬時に判断し得る強靭な精神力を持っているのだ。
しかもあの広い海上で見事ボルガ爆弾をジュラルにクリーンヒットさせるコントロール。潮の流れから風向きと風量といった全てを計算に入れつつちょうど良い高度を維持しながら飛行し、タイミングを18時ピッタリに合わせなければあそこまでキレイに当てることはできない。やはり彼の能力は常人のそれを遥かに超えている。
◆研は勝ったのか?
研の判断は確かに残酷なものだった。ボルガ博士の遺族からすれば、研さえも法廷に呼ばれかねない悲惨な結末だ。
しかし、例によって彼は誰からも非難されない立場にある、超法規的存在だ。何人も彼の言動を批判することはできない。何よりも彼は結果的に多くの日本の科学者たちの命を救った。
だからこそ研も、自分の判断に対して何の後悔もない。
本話ラストで研は、
「かわいそうなボルガ博士」
と口にするがその表情に憂いはない。言葉とは裏腹に、その声色には何の憐れみも込もってはいないのだ。
だが、ボルガ博士を残虐な手法でもって犠牲にせざるを得ないほどまでに、研がジュラル星人によって追い詰められた、ほぼ唯一とも言える敗北劇だった、とも解釈できよう。
…そう考えると、キチガイアニメとしては「代表作」と目される本話だが、毎度ジュラル星人に快勝する展開が大半の本作においては実はかなり特殊な展開を見せたエピソードだった、というのが実態だったのかもしれない。