adamomanのこだわりブログ

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「怪獣使いと少年」〜子どもたちに本当に伝えたかったテーマとは?「MAT隊員手帳」に記された真実〜追悼・上原正三〜

◆はじめに

愛する脚本家、巨匠にして大功労者・上原正三氏の訃報を耳にした。

そして真っ先に浮かんだのは、帰ってきたウルトラマン第33話「怪獣使いと少年」だ。

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これを氏の代表作とすることに首を傾げる声もあろう。氏の功績は、単に1つのエピソードを取り上げて「こういう作風が彼の持ち味です」なんて評論気取って語れるものではない。

事実、氏の手掛けた特撮作品は優に50を数える。彼の作風はこう!なんてものは存在しない。「中でも…」なんて言い方も通用しない。彼自身が「日本の特撮そのもの」だったのだから。

それを承知で、あえて今回「怪獣使いと少年」を取り上げたい。本音を言うと、「〜追悼」なんてタイトルをつけたこんな記事を書くのは嫌いなやり方だ。故人の名前を借りて=話題になりやすいタイミングで記事を上げるというのは、野次馬根性にも近い。そんな批判も覚悟の上だ。それでも、私はこの作品が本当に好きだから、だからこそ、今、語っておきたい。

※有名なエピソードなので、あらすじ等の解説はカット。時代背景や氏の出身地がどうといった考察もカット。大事なのは、「時代を超えて」愛されること。私の目で見て感じたことをベースに語りたい。

 

◆「差別」がテーマ?

作について特に注目されるのが、陰惨なイジメ描写と、狂気と化した群衆の恐ろしさであろう。だからこそ、「子供番組でこれをやるのか…」というセンセーショナルな回としても話題に上りやすい。

確かに、私個人としても胸糞悪い話の方が好きだし、スカッとする明快なストーリーよりも、もやもやの残る陰鬱な物語の方が何度も繰り返し見たくなるクチだ。なぜなら、それが現実だからだ。

子供番組だからこそ、子ども扱いしない。それは第1期ウルトラシリーズから変わらない作り手たちの一貫した姿勢だ。

だが、本作を通じて伝えられるメッセージとは、そこなのだろうか?よく「日本の闇を描き出した問題作!」なんて評価も目にするが、それが本作のテーマだったのだろうか?

伊吹隊長の台詞、

日本人は美しい花を作る手を持ちながら、一旦その手に刃を握るとどんな残忍極まりない行為をすることか

とは、見事、我々の民族性に潜む暗い面を言い表したものだった。だが、その事実を突きつける「だけ」なら子供番組としては私は不十分だと思う。

 

◆主役は郷秀樹

たり前のことを言っているのかもしれないが、やはりどう転んでも本話の主役は郷秀樹=ウルトラマンにしか私には見えない。暴徒たちでもなければ、金山さんでも、良少年でもない。

狂気と化した集団心理の恐ろしさはテーマの一つであっても、主役とはなり得ない。それに立ち向かう男の姿こそが、本作のテーマだと思うのだ。

序盤から郷秀樹はカッコ良かった。自らが掘った穴に立たされた良少年。泥水をかけられ、自転車が彼の頭をはねようとした正にその瞬間、立ち塞がる郷秀樹。郷さんの姿を見てホッと安堵の表情を見せる次郎くんは、我々視聴者の心ともリンクする。

更に郷さんは、良の言葉を元になんと北海道まで彼の出自を調べに行ってくれた。怪獣攻撃隊MATの一隊員が、町の片隅であらぬ嫌疑により虐められているたった1人の少年を救うために、海を越えて北海道まで飛んだのである。

そして真の宇宙人・金山の正体も突き止めた上で、更には宇宙船を掘り起こそうとする良少年を手伝ってくれた。何か特殊な機材を使うのではなく、少年と一緒に、スコップやつるはしを使って。頭よりも、体が、心が、先に動く男なのだ。

そんな彼の姿を通してこそ、「ウルトラマンを作った男たち」の声が聴こえてくる。君たちも、弱い者いじめを許すな、周りの言葉に騙されず、自分で調べ、自分で考え、行動しろ、と。

 

◆どんなときも使命を全うせよ

んな郷秀樹も、暴徒と化した群衆によって金山が殺され、膝から崩れ落ちる。そしてメイツ星人の死をきっかけに現れたムルチを前に「怪獣をやっつけてくれよ!」と叫ぶ烏合の衆に愕然とする。

勝手なことを言うな。怪獣を誘き出したのはあんたたちだ

そんな郷の姿に、やむなく共感してしまう視聴者も多かったことだろう。だが、虚無僧姿の伊吹隊長に叱咤され、郷は再び立ち上がる。

余談だがこの虚無僧姿の伊吹隊長という演出は個人的に大好きだ。郷の幻覚か心の葛藤を映像化したとも解釈できるし、孤独な良少年と金山の対比として郷を見守る厳父たる伊吹を描いたとも捉えられる。

郷、街が大変なことになっているんだぞ

郷、分からんのか!

この場面こそが、本作のハイライトだと思っている。現実とは、いつも美しいものではない。仕事とは、いつも感謝されるものでもない。身勝手に振る舞う人々もいる。目を疑うような残酷な仕打ちに、己の信念を踏みにじられることもあろう。だが、それでも己の使命を全うせよ、と。

こういうことが言い辛い世の中になったもので、決して社畜になれとかそういった類の話をしているのではない。これは、人としての、生き方の問題だ

常に誇れる生き方をせよ自分の命に誇りを持て、そう、強く語りかけられているように思われてならないのだ。

 

◆だってウチ、パン屋だもん

常に高尚なテーマに思われるかもしれないが、何のことはない。それは誰にでもできることだと、パン屋の娘が証明している

だってウチ、パン屋だもん」という一言には、単にパン屋だから、という以上の言外の意味、深みを感じてしまう。

少年への悪評と恐怖、そして同調圧力、そういった諸々の負の感情が渦巻く中、それでも目の前にいるのは、ただ腹をすかして雨の中パンを買いに来た小さなお客さんではないか、と良少年にパンを売った彼女の真っ直ぐな瞳は美しく健全だ。絶望感漂う本作だからこそ、彼女の笑顔は一際輝いて見えた(少年を冷遇する周囲の下卑た視線とは対照的に)。

そして「だってウチ、パン屋だもん」というセリフは、終盤の伊吹隊長の叱咤、そして郷秀樹の葛藤とも重なる。

だってお前は、MATだろ?ウルトラマンだろ?

大事なテーマだからこそ、Aパートではパン屋の娘に、Bパートでは戦うウルトラマンの姿に、それは仮託されていたように思う。決して醜い差別感情や集団心理の恐ろしさを暴き出す目的で描かれた作品ではない。そんな、誰もに潜む集団の悪意を前に、どうあるべきか、そこにこそ我々が刮目すべき点があるはずだ。

 

◆「MAT隊員手帳」に残る氏の言葉

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んな感想を胸に、「答え合わせ」のつもりで「帰ってきたウルトラマン」DVD9巻同梱の「MAT隊員手帳」を開いてみた。一部紹介したい。

DVD帰ってきたウルトラマン Vol.9

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  • 発売日: 2003/03/28
  • メディア: DVD
 

(視聴者に最も伝えたかったメッセージとは?と問われ)

まずは『信じる』ということですね。これは僕の生涯のテーマで、僕の全ての作品の根底にあるものです。

(中略)現代人は誰も信じ合っていないからです。

(中略)子供たちに『自分で考えて行動しなくちゃいけないんだ』ということを伝えたかったんですね。

(中略)親に言われたことを鵜呑みにするんじゃなくて、自分の価値観で反芻して、自分の足で立って、自分の目で見ることができるような子供になって欲しいという思いがありました。

 

他にも、氏が円谷プロに入られた意外な経緯や、「帰ってきた〜」での苦労話、「ウルトラ5つの誓い」に込められた思いなど、読み応え抜群なので、是非手に取っていただきたい。

 

最後に。

上原正三氏の作品として「怪獣使いと少年」を捉えるのは、木を見て森を見ず、数多の傑作を生み出した氏の、100分の1、否1000分の1でしかないということは改めて強調しておきたい。増して本作は、東條監督の強烈な演出あって生まれた奇作であることも忘れてはならない。

とは言え、「怪獣使いと少年」がとりわけ刺激的な円谷作品であることに変わりはない。これを1つの契機として、日本特撮の深みに光が当たり、より多くの人たちに愛されるようになれば、命を削る思いで作品を紡いできた多くの雄志たちも喜んで下さるのではないかと思う。

末筆ではありますが、改めて上原正三氏のご冥福を、心よりお祈り申し上げます

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