ヒーローの美しさとは、完成した究極の美にあると思われがちだが、あえて不均整な中にそれを見出すこともある。
室町時代に誕生した建築様式に、「違い棚」というものがある。美しくまとめられた室内の一角に敢えて左右非対称な空間を設けることで、かえって安らぎが生まれる。
とりわけ日本文化には、自然と渾然一体となったが故に一見歪(いびつ)だがそこに均整の取れた美を見出す世界がある。
今回はそんな日本文化にも根ざしている左右非対称なヒーローの魅力を語ってみたい。
◆クウガ ペガサスフォーム
物心ついた頃に初めて意識した左右非対称のヒーローと言えばクウガのペガサスフォームだった。ここまで左右非対称なデザインも珍しく、食玩フィギュアを手に取った時の衝撃をよく記憶している。
しかし、「邪悪を射抜く戦士」であるが故の、ちゃんとした理由のあるデザインであることも含め、やはり「クウガ」は基本4フォームの描き分けが実に丁寧。
ボウガン発射時の衝撃と反動から腕を守る為の鎧は、設定とデザインがリンクした実に「クウガ」らしい説得力のある姿だった。
◆ドレイク ライダーフォーム
カブト系ライダーはいずれもデザインが実に優れているが、ドレイクはその真骨頂とも言えるだろう。上半身に横向けにトンボが張りついたようなデザインで、左肩に乗っかるトンボの頭、胸元に大きくタスキ状に広がった羽根、右腕まで伸びる蛇腹状の胴体と右手甲の先端の形状に至るまで忠実にトンボトンボしている。
最初はその強烈なインパクトに戸惑うも、しばらくするとその美しさに気づいてクセになる。
風のような男にふさわしいさわやかな青を基調としつつ、羽根にあしらわれた差し色の赤がまた絶妙だ。
◆アストラ
彼の左大腿部に残されたマグマチックチェーンは、あのウルトラマンキングですら外せないという。
捕虜として捕らえられ、更には故郷を滅ぼされた暗い過去を象徴する実に痛々しいその姿は、まさしくアストラのワケアリ半生を生々しく物語っている。
しかし、故郷を失い身体に一生外れぬ拘束具を残されたキズモノの男が、見知らぬ星のために命をかけて戦うなんて、こんな素敵な物語ってあるだろうか?
自らは何も語らないアストラだが、その左脚にのみ残された「異形」、「違和感」にこそ、彼の万感がこもっている。
◆デスストローク
こちらはヴィランではあるがヒーロー的人気を誇るバットマンの人気キャラの1人としてご紹介したい。
傭兵という危険な香り漂う設定と2本の刀を自在に操るその圧倒的な戦闘力で幾度となくバットマンを窮地に陥れてきた。
個人的には「アロー」シリーズのスレイド・ウィルソン=デスストロークがもうたまらなく最高に強くて悪すぎるヴィランとして印象的。
更には「ジャスティスリーグ スナイダーカット」にもジョー・マンガニエロ演じたデスストロークが再登場とのことで、より一層期待感が高まる。
その失われた右眼の由来は作品によって諸説あるものの、左右で異なる世界を見つめるように、マスクも左右で色が違う。
◆キカイダー
左右非対称ヒーローと言えばやはり彼か。しかし当時は「見た目が気持ち悪すぎて吐き気がした」と苦情が来たそう。
それくらい、一度見たら二度と忘れられない姿をしているキカイダー。
その姿の訳は、不完全な良心回路にある。本来なら自身で善悪を判断できるはずの良心回路だが、未完成であったが故に、悪人の命令に操られてしまう危険性も残されていた(原作版)。
しかし、大半の人間の良心も不完全であることに思いを馳せたとき、我々の心の姿もまた、真逆の感情を同居させたキカイダーのような矛盾した醜い姿をしているのではないかと逆説的に教えられている気がする。
加えて彼の駆るマシンもまた左右非対称のサイドカー型車両のサイドマシーン。
ヒーローマシン初のサイドカーであることに加えかなり低めの車高のスポーティかつヒロイックなデザインが神懸かってカッコいい。
◆ウォーマシン
ウォーマシンといえば肩から生えたマシンガン。このシルエットがアイアンマンとの最大の差別化ポイントであり、ウォーマシン最大の特徴。
歩く武器庫であることを視覚的に象徴したこのマシンガンは、全てのウォーマシンに共通しており、絶対に欠かせない要素となっている。
これもまた、大量の火器で相手を圧倒するウォーマシンらしさに溢れた秀逸な「左右非対称」。
◆ぬ〜べ〜
新任の先生は若くてカッコいいけど、除霊もできるちょっと変わった先生⁈そして気になる左手の黒い手袋…。
「片方だけ」というところに、子どもの心は惹きつけられる。何かワケアリなのでは?と想像が膨らんだ先に、怪談話や都市伝説は生まれる。古今の噂話や都市伝説の背後には、左右非対称の違和感が潜んでいるのかもしれない。
ぬーべーもそんなゾワゾワとワクワクが生み出したキャラクターだ。左手の黒い手袋の下には、倒せなかった強力な鬼が封印されており、その力で数多の悪霊や妖怪と戦う=悪の力で悪を討つ。更に鬼の封印にはぬーべーの恩師の秘密が隠されていて…。
これだけでもなんて惹きつけられる設定だろう。しかしぬーべー最大の魅力は、生徒のために命を投げ出す姿。置鮎氏の「俺の生徒に手を出すな!」というシャウトは今も耳朶に焼き付いている。
◆ビーストメガトロン
こちらは敵役ではあるが強烈なインパクトを残した左右非対称キャラとしてご紹介したい。
そもそも、それまで人型に変形する恐竜ロボットと言えば、恐竜の顔は絶対胸に来るものだった。
※同作のダイノボットみたいなのが一般的だった。
それを見事に裏切ってくれた通称千葉トロンのデザインは子供心に相当衝撃的だった。勇者ロボ世代だった私がそれまで学んできた変形ロボのセオリーはここで見事崩れ去ったのだ。
やっぱり外人の考えることは違うなぁ…。
ついでに左腕がしっぽなのも驚き。基地では外せるのにも驚き。
◆仮面ライダー斬月・真
仮面ライダー史上最も美しいのではないかと思っているのがこの斬月・真。
右肩に集中した鎧と案外スカスカな左肩とのコントラストが実に面白く、目元と脇腹にかけて入れられた黒が全体をビシッと引き締めている。
単に左右非対称なだけでなく、右肩側にあるメロンの皮でできた襟状のパーツが実にヒロイック。トレンチコートの襟を立てているようでセクシー。男前は、襟を立てて口元を隠すものなのだ。
ストレートに誰がみてもカッコよくて、ちゃんとメロンモチーフだということもわかるデザイン。
しかも劇中でもめちゃくちゃ強い。これで好きにならない男子はいないはずだ。
◆ゲゲゲの鬼太郎
実は元祖左右非対称ヒーローではないかと思っているゲゲゲの鬼太郎。
墓場で生まれてすぐに墓石にぶつけて失った左眼の空洞は、実父の住処にもなっている。
一見普通の少年のように見えて、隻眼であることを前髪で隠しているキャラクターというのは案外彼しかいない。
そんな左右非対称なポイントが目というめちゃくちゃ目立つところに一箇所あるだけで、その身体的特徴は、そのキャラクターのアイデンティティにもなるのだ。
いかがだっただろう。みなさんにとって左右非対称のヒーローといえば、一体誰が浮かぶだろうか。