バキシムという超獣をご存知だろうか?バキシムは、あの時代にこそ生み出された、名超獣だということをここに証明させて欲しい。
◆「怪奇モノ」としての魅力
バキシムの登場シーンといえば「空が割れる!」だ。
異次元人たちの侵略という設定を見事演出に昇華したこの名シーン。
日常ではあり得ないことが起こり、我々の目は我々の体を離れ、この不思議な世界へと吸い込まれてゆく。ヤプールが巻き起こす怪事件、その怪異性を端的に表現した、「ウルトラQ」直系の円谷シリーズらしい事件の始まり方だ。
ウルトラシリーズは、怪獣モノ、ヒーローモノである前に、「怪奇モノ」であったことを改めて思い起こさせてくれる名演出だ。
放送当時の少年たちの中にも、ふと空を見上げて「もし今突然空が割れて、怪獣が顔を出したら…」なんて空想を広げた者がいたに違いない。
◆「怪獣」としての魅力
何よりもまずはそのインパクトあるデザイン。その最大の秘密は、派手なカラーリングにある。青にオレンジ。それまでの地球怪獣はもとより、宇宙怪獣でもまずあり得なかった配色。
メトロン星人をも想起させられるその色合いからは、いかにも人工的に作られた生物兵器らしさが滲み出ている。
そして単純に顔がカッコいい。そのシャープな顔つきと鋭いクチバシのように鋭利な口元は伝説の人気怪獣ゴモラをも想起させられる。
イモムシがベースになっているとされる蛇腹状の胴体。これは紛れもなく往年の人気怪獣レッドキングのDNAだ。体に蛇腹をあしらうことで下から見上げた時の巨大感を演出。それは、大きさにこだわった超獣のコンセプトにもピッタリだった。
そして実際、バキシムはとんでもなくデカイ。「エース」では、怪獣より強い超獣を演出するため逆転の発想でウルトラマンを小柄にした上、超獣のスーツも大きなものが用意されたのだ。
『ウルトラマンA』第3話「燃えろ!超獣地獄」の撮影風景。
— 中井寛一 (@ichikawakon) 2019年9月20日
右端に特撮の助監督を務めていた川北紘一が写っている。 pic.twitter.com/ezrAC8DCow
イモムシ成分の曲線中心のブルーと、宇宙生物要素を含んだ鋭角中心のオレンジという前後で対照的なデザイン。実に美しくコンセプトがキャラクターデザインとしてまとまっている。
バキシムとはまず怪獣としても最強の魅力を備えた円谷史に残る新超獣だった。
◆「星人」としての魅力
第二期ウルトラシリーズの魅力を語る上で欠かせない「星人」という概念。
「セブン」等に登場した侵略宇宙人とはやや意味合いが異なる、非常に悪辣かつ残虐な侵略宇宙人の総称だ。「セブン」に登場した宇宙人の多くには、侵略活動に手を染めなければならない事情=同情の余地があった。だからどこか哀愁も漂わせているのが彼らの独特な魅力にも繋がっていたのだが、「帰マン」以降登場する「星人」にはそういった同情の余地は一切ない。
とにかくヒーローを苦しめ、窮地に陥れることこそが彼らの使命だからだ。
そしてバキシムにも、そんな「星人」の血が流れている。
バキシムは、超獣でありながら何と「星人」のように子供に化けて老夫婦の家に間借りしており、
「子供の心が純真だと思うのは人間だけだ」
という実に卑怯でゲスい作戦で超獣の存在を隠蔽しTACを翻弄した挙句、老夫婦を殺害。
子供に化ける下劣な作戦といえば「帰マン」31話「悪魔と天使の間に...」に登場したゼラン星人の恐ろしい記憶が蘇る。そしてこれは、長らくエースを苦しめることとなるヤプールお馴染みの作戦でもあった。
バキシムは、侵略者から悪魔へと変貌していく二期ウルトラの象徴たる「星人」の残虐さまで秘めていたのだ。
◆強者の風格
もうおわかりだろう。バキシムとは、当時のウルトラシリーズの総決算とも言える名悪役なのだ。
ちなみにこのバキシムのネーミング。
ムシ+キバ=ムシキバを逆から読んだもの。しかしバキシムという言葉の響きに強者の風格が漂っていると思うのは私だけだろうか?
そして別名は「一角超獣」。
伝説の一角獣ユニコーンの二つ名を冠したバキシムは、その名の通りウルトラマン史に残る伝説の存在となっている。