前回に引き続き、今回は「アイアンマン2」を中心に、トニーの新たな魅力を掘り下げてゆきたい。
◆死への恐怖を仮面に隠して
私にとって実はこの「2」こそが、初めて見たMCU映画だった。ともかく冒頭のド派手な登場シーンに度肝を抜かれ、言葉を失った。
ペッパーの言葉を借りれば「まさに自己顕示欲の塊」。トニーのナルチシズム全開の映像に嫌悪感すら覚えながらも、その直後「血中毒素〜%」という映像が流れ、思わず口角を上げた。
オモテ向きは全てが順風満帆、世界の新たなポップアイコンともなったヒーロー・アイアンマンは、ただ1人、死の恐怖に怯えている。まさに「1」でのインセンの言葉通り。
「全てを手にしたはずの男が孤独とは…」
「仮面ライダー」や「バットマン」で育った私にとって、やはり仮面の下に隠した悲哀や苦悩というテーマは大好物。そのワンカットで一気にトニースタークという男に引き込まれていった。
◆「私人」だった頃のトニー
話は飛ぶが、長いMCUの歴史の中でもトニーを最も大きく変えたのは「シビルウォー」だったと思う。
ソコヴィア協定にサインするようヒーローたちを説得する場面を見た後で、もう一度「2」の公聴会シーンを見返してほしい。
この頃のトニーはまだ「私人」だった。政府高官たちを相手にやりたい放題。
しかし後に、「ピエロ」と罵った彼らと同じイス(公人としての立場)にトニーも座ることになろうとは、まさかこのときは誰も思ってはいなかった。
トニーが豪語した、「世界平和の民営化」とは想像以上に長く険しい道のりだったのだ。
とは言え、まだそのことに気付かされる前だったからこそ、本作はとことんトニーのプライベートにのみ肉迫できた。MCU黎明期だからこそ見られた貴重な作品なのかもしれない。
◆時空を超えて繋がる父子
自己顕示欲丸出しのスタークエキスポも、アーマーを着たままの酒乱パーティーも、全ては死を前にした恐怖から。いずれも、共感し辛い極端すぎる行動だが、なんて人間臭い奴なんだろうと結局トニーに親近感が湧いてしまう。
彼には、心を開ける家族がいなかった。
若くして両親を亡くし、家族の愛に飢えていた彼は、金と女と酒でその隙間を埋めようとする。しかしそれでは当然満たされない。そんな不器用な彼を、もう一度父親の元へと突き帰したのがニックフューリーだった(結果的に、とは言えニクイ展開だと思う)。
唯我独尊絶対的強者として描かれてきたトニーと対等かそれ以上の立場で描かれるシールドの登場というのは、いささか唐突ながらも新鮮で面白い。
古いフィルムの中の父・ハワードがトニーへの本心を語る展開は、ベタとはいえトニーの心を強く動かした。彼にとって失われた家族の絆、とりわけ仕事に追われて家庭を顧みなかった父親からの信頼と愛情を確信したトニーは、父親が遺したヒントを元に、自分の命を救う新元素を見出す。
ところで私は、トニーが「ジャービスさえ不可能と言ったこと」を実現してくれるところが大好きだ。
最高スペックの人工知能を持ってして「不可能」と言われる現実をもひっくり返す、トニーの聡明さと人間的強さ。案外、後のアベンジャーズ系アッセンブル作品では見られない、アイアンマンとしてではなく、本来のトニースタークとしての強さと魅力が光る王道的展開だ。これがあるから、やっぱり単独作(1〜3)は繰り返し見てしまう。
父親が達成できなかったヴィブラニウム生成という遺業を見事実現したトニーは、再びスーツを着て飛び出してゆく。
◆相棒の誕生
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中盤、泥酔状態のトニーを見かねたローズはいよいよマーク2を装着。トニーのマーク4とローディのマーク2の対決は中盤のハイライトでもある。
だが、「そんなに欲しけりゃ持ってけよ!」とローズを殴り飛ばしたトニーのセリフに、彼の本音が垣間見える。
そもそも本当にスーツを取り返したいのなら、ローディにも装着できないようセキュリティをかけておくことはできたはず(「1」でも、スーツの制作データは悪用されぬようトニーの個人ファイルに保管されており、その扱いはかなり慎重だった)。
だが、最終的にスーツを明け渡したところを見るに、自分の死後、ローディにならスーツを渡しても良い=ローディに2代目アイアンマンになってもらおうと思っていたのではないだろうか。なんて不器用な友情だろう。
そんなローディだからこそ、終盤にはあのトニーが「相棒」と認めるほどの唯一無二の存在に。
古今東西、同一フォーマットのヒーローが並ぶ絵面というものは、人を独特の興奮状態へと導くもの。
それがあのアイアンマンで実現するとなれば尚更。数多あるヒーロー映画の中でも最高にクールでカッコいい「アイアンブラザーズ」がここに誕生した。
日本庭園で桜舞う中、和太鼓の力強い響きと共に始まるドローン軍団との決戦シーンは(個人的に)アイアンマン史上最高。派手なカラーリングにスマートなアイアンマンと、ガンメタにゴツゴツ重装備のウォーマシンという対比も良い。
個人的にそんなに好きではない「エイジオブウルトロン」の中でも、ローディが助っ人として登場したあのシーンだけは本当に大好き。
ローディの声を聞いたときのトニーの嬉しそうな顔。あの瞬間だけは「アイアンマン2」がフラッシュバックしてテンションが上がる。
その点、「アベンジャーズで不遇」と言えばこのコンビもそうかもしれない。正直「エンドゲーム」でもペッパー着るレスキューとの夫婦ペアなんてどうでも良いから、マーク85とパトリオットのコンビネーションが見たかった!(「エンドゲーム 」最大の不満点の一つ)
◆取り戻した家族の絆
父親からの愛を確信し、共にスーツを着て戦う相棒を得て、更にはペッパーとの距離をグッと縮めたトニー。
ペッパーを救出し、ビルの屋上へと降り立ったトニーとペッパー、そしてローディの3人のやり取りは軽妙で面白い。まさにトニーが本作を通じて勝ち取った、新たな仲間(ファミリー)の姿がそこにはある。
ひとり孤独に死の恐怖に怯え、ヤケを起こしながらも、新たな仲間と親友と、そして死んだ親父の言葉に救われて「家族を取り戻す物語」。それがこの「アイアンマン2」だった。なんて王道娯楽映画だろう!
アベンジャーズへの布石が多すぎただのなんだのと批判もある本作だが、私はやっぱり「2」も大好き。
「1」で己の使命を自覚し、「2」で仲間を得たトニーは、続く「3」にて、スーツを失うこととなる。
この続きは③にて。