ADAMOMANのこだわりブログ

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怪奇大作戦 第22話「果てしなき暴走」〜真犯人は誰だ?〜

〜あらすじ〜

夜、都内で乗用車数台を巻き込む玉突き事故が発生。その先頭を走っていた赤い車は、マフラーから不自然な白い排ガスを放ちながら走り去った。車内には笑顔でロリポップをくわえる妖しい美少女の姿が…。

半径50kmに200万台の自動車がひしめくと言われる小さな大都市東京。交通事故の報道もさして話題とはならない程、当時は事故が毎日、毎秒頻発する時代だった。

そんなある日、三沢の乗ったトータス号が若い男女に盗まれてしまう。無線で彼らを説得するも、舞い上がっている彼らは聞く耳を持たない。そこに例の赤い車が登場。白いガスを吸った運転手の男は錯乱状態に陥り暴走、通りがかりの女子大生を轢殺してしまう。

更に激安の中古車を買った野村の運転する車も同様の被害に遭い、いよいよSRIが本格的な調査に乗り出す。ナンバープレートから例の赤い自動車を割り出した三沢は、自動車の持ち主である歌手の眉村ユミとそのマネージャーの元を訪ねる。そこで、この車はいつも駐車場の整備士が整備していると聞かされる。

整備士の身柄を押さえようとしたSRIだったが、彼もまた何者かの運転する車にはねられてしまう。救急車の中で瀕死の男が答える。「俺じゃねぇ、頼まれたんだ」誰に!?そう問う三沢に

車…」とだけ答えて男は意識を失う。

東京だけでも200万台の車がある。じゃあこれから一体何を目標に犯人を探せばいいんだ。戦慄した三沢の表情と共に本話は幕を閉じる。

DVD 怪奇大作戦 Vol.6

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  • 発売日: 2004/04/23
  • メディア: DVD
 

 

◆誰しもが抱く狂気

去に取り上げた「青い血の女」「かまいたち」同様、非常に後味が悪いエピソードとしても有名。見終えた後に浮かぶ疑問の数々と、未解決ゆえにかじわじわ込み上げてくる薄気味悪さ

本話を一見してまず私の脳裏に浮かんだのは、「ハンドルを握ると性格が変わるタイプの人間」のことだ。

今回登場する「Gガス」による運転手の錯乱は、一見筋の通った科学犯罪のようでいて、運転手にしか効果が出ない点で妙だ。そのため、ハンドルを握っている人間にも、ガスの効果が現れる要素というか資質が既になければこの犯罪は成立し得ない。

つまり、車の運転者は、暴走させられる前から暴走する可能性(狂気)を孕んでいるということを暗に指摘しているように思えるのだ。

そのことが、所謂「ハンドルを握ると性格が変わる人」という表現と脳裏でぴったり重なったわけだが、本話が指摘しているのはあくまで「全ての人にその可能性がある」というもっと普遍的な次元での話だろう(事実、SRIの隊員ですらGガスに翻弄されている)。

そう考えると、「交通事故なら50秒に一件、犠牲者は38秒に1人」(当時)というこの日本で、今この瞬間も事故を起こさずに運転できることの方が奇跡だとは思えないだろうか。いつ誰が暴走するとも知れない大都会を、我々は生きているのだ。

 

◆悲劇のトータス号

んな、誰しもが抱える狂気の犠牲となったものの一つに、トータス号が挙げられる。SRIの特殊車両で、愛嬌あるその姿は本作を象徴するキャラクターの一つとも言えよう。しかし、本作が本格派のSFサスペンスの深みに嵌れば嵌るほどにアクション要素は鳴りを潜め、トータス号の出番も少なくなっていった。

そんな中にあって、本話が最長の露出時間ともなったトータス号。大都市を疾走する姿が堪能できる。

しかし何より残念なのは、そんなトータス号すら人殺しの凶器と化してしまったこと。女子大生を轢き殺す瞬間映像と悲鳴は生々しい

 

◆「車に頼まれた」とは?

に頼まれた」という言葉を字面通り捉えてはそれこそ迷宮入りだ。自動車に意思があって人を操っている…としか思えないこの言葉の真意を探る必要があろう。

しかしそれもある意味単純な話、自動車そのものに「人を狂気に陥れる仕掛け」があるということなのかもしれない。

上述の通り、人間誰しもハンドルを握れば暴走する可能性を秘めている。おそらく当時としても「運転手の人間性を問う」ような論調はあったのだろう。

だが、本作ではそこをもう一歩深めて、「自動車そのものに潜む危険性」を暴き出そうとしたのかもしれない。

劇中ノムが安物の中古車にでも喜んで手を出したように、「一家に一台」が急速に浸透していった時代。車を持っていることが一つのステータスともなりつつあった。その反面急増する交通事故。

便利な乗り物のようでいて、実はそんな便利な機械に操られる可能性を示唆していたのかもしれない。

そう聞くとありふれたテーマのように思われるかもしれないが、本作が秀逸だったのは、それをあくまでも現在の昭和の日本を舞台に描いたことだ(架空の世界線や未来世界のお伽話ではない)。

やはり本作は都市文学だ。急速に変化していった日本の大都市。便利で豊かになりゆく一方、生まれる歪み(ひずみ)。その隙間から覗く狂気を暴く。

機械に隷属する人類。それは決して遠い未来の話ではない。今現在既に、ハンドルを握る全ての日本人の心には狂気が芽生えているのだ。

いつ何をきっかけに、誰が人殺しに豹変するとも知れない恐ろしい大都会で、我々は綱渡りのような日常を送っているのだ。

エンターテインメントアーカイブ 怪奇大作戦 (NEKO MOOK)
 
近代小説〈都市〉を読む

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  • 発売日: 1999/03/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)