※パートごとに分けて扱いますが、全編に渡るネタバレを含みます。
※本文中ではジョスウェドン監督に途中交代してからの2017年劇場公開版を「劇場版」、今回発表されたザックスナイダーカットを「SC」と呼称しています。
◆地上最速の男
©︎DC. Zack Snyder's Justice League ©︎2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved
パート3の幕開けと共に始まる、バリーとアイリスの邂逅シーン。私にとってはこの作品の中で1、2を争うベストシーンです。初めて見た時、感動で本当に開いた口が塞がらなかった。救出シーンという名を借りたラブシーン。シェイクスピアの舞台でも見せられているのかと思うほどあまりにもロマンチックで美しい場面。
同じ「フラッシュ」を題材にしたとして、ザック以外には絶対に撮ることのできない映像だろうなと思います。
このシーン好きすぎてBGMの曲を和訳してしまいました。
ちなみにこの選曲にも深い意味があるので気になる方は是非読んで下さい。
このシーンにもいくつかのイースターエッグが隠されている。
まず、超高速能力を持ったバリーが「遅刻する」というジョークみたいな展開はまさに原作通り。彼の遅刻癖は超高速能力を獲得してもあまり変わらない。
そしてここで登場したアイリス・ウェストは未来のバリーの妻。だからこそ、その未来を暗示するかのような実に美しくロマンティックかつドラマティックな出会いのシーンとなったわけだ。
そしてこの大事故を引き起こしたトラックに書かれている"Gard'ner Fox"とは元祖ジャスティスリーグたる「ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ」を描いた偉大なる漫画家の名前。
更にこの時ホットドッグが宙に舞っているのが妙に気になったので調べたらやはりこれもイースターエッグ。
©︎DC comics 1956 All right Reserved
1956年DCコミックスショーケース#4にてバリーが初めて超高速能力を発動させた時に目にしたのが宙を舞うソーセージ。DCEUにて我々の前で初めて能力を披露した彼もまた原作に忠実にソーセージの中でその能力を披露してくれた。
加えてアイリスが運転しているカトラスは1978年製(※ここまだ不確定です)。その年に何かなかったか調べると、スーパーマンとドンパチやっていた模様。
©︎DC comics 1956 All right Reserved
それにしてもアイリスかわいい。ドラマ版より個人的にものすごく好きですね。
◆自白強要マシン
ステッペンウルフがアトランティスから拉致してきた兵士を自白させるために使用した虫のようなマシン、あれが実はジャスティスリーグ最初の的・スターロではないかとする説がある。
スターロは小型分裂し人間の顔に張り付くと、相手の思考を支配して洗脳してしまうらしい。...確かに本作に登場した自白強要マシンにも酷似しているが果たして...。
◆ビクター・ストーンの憂鬱
やはり各所でも既に言われている通り、ビクターが最も「劇場版」と印象が変わったキャラクターと言えるだろう。とにかくカットされたキャラ描写が多すぎた。
- ビクターのアメフト選手時代の活躍
- 母親への信頼と父親への不信
- 友人の成績をハッキングして改竄した過去
- サイボーグの驚くべき拡張機能
- 人間の肉体を失ってしまったことへの苦悩
- サイラスの父親としての葛藤
これだけの情報がカットされたのであればそりゃ怒るわな。。。
その驚くべき能力を大量の核ミサイルや牛と熊の格闘シーンなどのイメージ映像で伝える描写は「ウォッチメン」を彷彿とさせる。
※こういう観念的な表現や演出は個人的にはかなり好きです。それに、普通の人間の姿でのレイのお芝居が堪能できるのが嬉しい。
しかし父親のサイラスはその世界を変えうる強大な能力を「行使せず関わるな」と伝えた。それを聞いた上でビクターは、その能力をすぐに行使した。貧しい母子を救うために。
雨の中、救われた彼女らを直接見守るビクターの温かい表情と、しかしその異形の姿を通行人に恐れられる不遇な姿が実に切ない。特にサイボーグは、元の人間の姿に戻ることのできない不可逆的存在となってしまった点が他のヒーローたちと比べてかなり特殊。
にも関わらず、心は人間のまま。だから、貧しい母子を貧困から救うということがサイボーグとしての最初の仕事となった。かつて同級生をハッキングによって退学から救った時と何ら変わらない、温かい心と強い信念のままに彼は行動した。
無論、この貧しい母の姿に自分の母親を重ねていたのは言うまでもない。突然の事故で失った母へのせめてもの恩返しを、守れなかった償いを、そんな想いもあったのだろう。だからこそこのパート3のタイトルは「最愛の母 最愛の息子」となっているし、裏を返せばこの段階では父親の存在を意識的に除外している。彼はまだ、父親の本当の想いと向き合っていない。そしてそれは後半への伏線にもなっている。
そんなあまりにも人間臭い彼だからこそ、肉体だけが異形となった彼の悲しみや苦しみに、我々はより深く共感できる。たった10分足らずのこのシーンの中に、彼の人格的な個性が詰まりに詰まっている。「SC」が「劇場版」から飛躍的に進化した最大のポイントとも言えるだろう。
◆監獄の父
そしてここにも分厚い壁に阻まれた父子の姿があった。バリー・アレンとヘンリー・アレンだ。
妻殺しの冤罪で投獄されている父ヘンリーの無実を証明するため彼は苦学生として授業料を自ら捻出しながら刑事司法を学ぶ。しかし未来の可能性に満ちた若きバリーの人生を自分のために浪費させたくない。そんな父の愛があえてバリーを突き放す。
"You're living in the past. Make your own future."
「過去に生きるのはやめろ。自分の未来を切り拓け」
この言葉が後に戦場のバリーを奮い立たせ、世界を救うこととなるのである。なんて愛の詰まった伏線だろう...。
言葉の意味とは、受け取ったタイミングによってガラッと変わるもの。刑務所では、父のために生きるバリーの心はきっと折れそうになったに違いない。しかし、世界が滅ぶその瞬間、この言葉は真の輝きを放つこととなるのである。
ちなみにバリーの父ヘンリー・アレンを演じたビリー・クラダップは残念ながらスケジュールの関係で単独作「フラッシュ」への出演を見送ることとなったようだ。
◆バリーとブルースの邂逅
バリーの隠れ家のシーン。ほとんど全て予告編でリークされていたものだが、実は「劇場版」で結構改変されていて、「ブランチの下り」は勿論、部屋に設置されたモニターに映る映像(なぜかK-POP?!)やBGMも派手なものに差し替えられており、映画館で違和感に襲われたのをよく覚えている。
それら全てが本来の色調と映像に戻されていてとにかく嬉しいのだが、それはそれとして、冒頭のアイリス救出シーン含めザックが描くフラッシュの高速移動にはどうも「無駄」が多い。バットラングを掴むにしても、あの位置であればどう考えても左手で掴んだ方が速いのに、それをあえて右手で掴ませて、バットラングを不思議そうにじっくり眺める。これが実に面白い。
要は、単に体が超高速で動いているだけではない。思考さえも超高速であることまでを、ザックは映像化しているのである。
だから、(スローにはなっていないが)ブルースによるリーグへの誘いをバリーだけは二つ返事で快諾した。これも彼が頭の回転を超高速で行っているからだと私は解釈している。決して思慮のない若者だから即答した訳ではない。余計な葛藤とかリスクマネジメントでさえも彼は1秒以内に終えてしまうのである(そこを「劇場版」では単なるバカみたいに描いたのが許せない)。
◆アルフレッド
アルフレッド・ペニーワース|キャラクター|DCコミックス|ワーナー・ブラザース
©︎DC. Zack Snyder's Justice League ©︎2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved
非常に面白かったのがダイアナとアルフレッドのお茶の下り。
アルフレッドお茶の淹れ方にうるさすぎ(笑)
この場面はアルフレッドという人間の生き様を見事に描いている名シーンだ。彼は前作「BvS」から幾度となく結婚できないブルースおぼっちゃまのことを皮肉ってきた訳だが、アルフレッドもまたブルースに依存していることがこの場面からよくわかる。
「私がいないと彼は生きていけないんです」という関係性に彼自身が依存しているのだ。だから、決して本人たちにはその意識はないとは思うが、はたから見れば「息子の彼女に口うるさく家事の指導をする実母」という構図そのものだった。
こんな世話焼き過保護の執事が側にいればブルースもなかなか結婚できないわな。
とは言え、彼の存在そのものがバットマンの良心・良識であるのは旧来のシリーズの方程式に見事則っている。
「BvS」ではスーパーマンを敵とみなすことを間違いだと何度も指摘。本作では無理をしてスーパーマンを蘇らせることの危険性をも指摘。
彼だけはいつもブルースと真逆の可能性を見つめているからこそ「正義の均衡」は保たれてきたと言えるだろう。
しかし話は変わるがアルフレッドの兵器開発シーンが描かれたのは本当に嬉しい。バットマンと言えばやはりこれだ。この下りがあるからこそ、宇宙からの侵略者たちと対等に戦えるバットマンの姿に説得力が出る。
いやはや、ということは「劇場版」は意図的にバットマンの戦闘力を下げていたわけだ。
◆「ACE」の看板
リーグの暫定メンバー=ブルース、ダイアナ、バリーの3人が一堂に会するシーンは劇場版とさほど変化がなかったものの、このシーンではめざといファンが「ACE」タンクを発見していることはシェアしておきたい。ゴッサムシティで見られる「ACE」の大きな看板と言えばジョーカーが全身を漂白した化学薬品工場。「スーサイドスクワッド」ではハーレイも共に沈む姿が見られる。
◆アトランティスの敗北
前回記事でも触れた通り、「SC」世界のアトランティスはかなり暗く寂れている。何千年と守ってきたマザーボックスの警備があれだけって、「アクアマン」を見た後だと尚更驚愕の紙警備体制だが、本件に関して言えば、種族を超えた団結が必要云々以前に、同種族内ですら一致団結できていない状態こそがアトランティスの敗因である。
このことは、もしDCEUがユニバース路線を継続していればより深く「アクアマン」の中で扱われることとなったはずだろう。しかし、いずれにせよ愚かな当時の王オームはアーサーによって王座から降ろされることとなった。
前回、「SC」版のアトランティス人が水中では喋れない可能性を指摘したが、ここでの場面を見る限り、甲高い音声でやりとりしているようにも見えることから、イルカのような超音波を用いた交信機能を体得している可能性も考えられる。
あと、メラは「SC」版の衣装がダントツで好みです。明らかステッペンウルフ来た!ってところに部下の兵士にアゴで行けと命令。デコだしツンデレめっちゃかわいい...。
しかし何気にメラの戦闘力かなり高くて驚き。ステッペンウルフ洗濯機みたいになってたし、体内の水分抜き取るというグロ技披露も含めて彼女もかなり強い部類のようだ。
アクアマンが加勢に入ったが彼1人でもボックスは守りきれずあっさり奪われアトランティス勢は敗北。これはオーム王の責任だな...。
しかしそんな一大事の後に交わす2人の会話が丸ごと単独作への伏線というのが良いな。
正直、サイボーグもフラッシュもアクアマンもみんな、マザーボックスの問題より個々人が抱えている問題の方がヘビーという描かれ方をしているから、そこはヒーロー映画として「劇場版」に劣ると言われても仕方ないかもしれないが、結果的にキャラクターの掘り下げには何百倍も深く成功している。
次は物語がより大きく動き出すパート4へ。