前回に引き続きパート2を。パート2は「承」にあたるため説明的な描写が多く物語の起伏は少ないが、その分提示された情報量が凄まじいためここで諸々整理しておきたい。
※パートごとに分けて扱いますが、全編に渡るネタバレを含みます。
※本文中ではジョスウェドン監督に途中交代してからの2017年劇場公開版を「劇場版」、今回発表されたザックスナイダーカットを「SC」と呼称しています。
◆なぜチェルノブイリ?
Amazon.com: McFarlane Toys DC Justice League Movie Steppenwolf Mega Action Figure: Toys & Games
ステッペンウルフはなぜ侵略の本拠地にチェルノブイリの地を選んだのだろうか?
その理由を彼はこう語っている。
「毒の匂いだ。もってこいだ」
彼の言う「毒」とはもちろん残存する放射性物質のことであろう。
しかし「もってこい」とは何に「もってこい」なのか?それはユニティ発生後、ダークサイドをお迎えする場所にふさわしいという意味ではないだろうか?
というのも、ダークサイドがその生涯をかけて追い求めている「反生命方程式」というのが終盤キーワードとして登場するがこれは文字通り「生命そのものを真っ向から否定する概念」であり、これはまさに生物の細胞や遺伝情報を破壊し尽くす放射性物質の恐ろしさと重なる。
もう一つ少しメタな理由として、基本的に一般人が(ほとんど)いない場所だから選ばれたというのも考えられるだろう。前作「BvS」ではスーパーマンとゾッド将軍の決戦に巻き込まれた多数の一般市民(及びバットマン)の怒りを買い、それが大きな波乱(ドラマ)を生んだ。(そしてそれらは全てレックスに利用された。)
しかし本作ではチームの結成とステッペンウルフとの対決こそが主題であり、その上更に戦場での被害にまで気を配っている余裕はない。しかもその戦闘は以前よりもっと激しさを増すこととなるはずだ。
その葛藤から脱する意味でもチェルノブイリは適していたのかもしれない。
(それなのにわざわざ人命救助シーンを入れた劇場版...)
◆墓に誓った信念
自家用ジェット機内で髭を剃りながらアルフレッドと会話するブルース。劇場版にも同様のシーンは見られるが色調から何まで別物。中身の面で言えば最大の違いは、ボックスの存在をブルースが知っているか否かにある。
「劇場版」ではあちこちにマザーボックスの情報が残されており、それらマザーボックスの情報を追いかけながらリーグ結成を目指していた。(それらは全てジョスによる追撮映像)
しかし「SC」でブルースがマザーボックスの情報を得るのはまさにこのパート2の終盤でのこと。じゃあブルースはユニティのことも知らないのになぜそこまでリーグ結成に躍起になっているのか?
それはまさしくスーパーマンのため。本作のブルースはその一点にのみ突き動かされている。それだけでここまでやる?なんて思ってはいけない。彼を誰だと思っている?
特に重要なのは「(クラークの)墓に誓った」という台詞。前作では両親の墓の前に立つシーンが何度か象徴的に描かれていたが、彼は死者に誓ったことは絶対に達成する堅き信念の男だ。
©︎2016 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. TM&©︎DC Comics
前作とキャラクターが変わっているように見えてその本質は何ら変わっていない。死者との魂の約束は絶対に果たすという信念に殉ずる意思の強さはやはり狂人的だ。
◆真のパラデーモン?!
Leaked Concept Art For Zack Snyder's Justice League Reveals New Parademon Designs
「SC」で復活したステッペンウルフの真の姿に注目しがちだが、実は結構パラデーモンも変わっている。
「BvS」のナイトメアの段階で既に登場していたが、脇から三・四本目の腕が生え、複眼は赤く、脚部の関節がより昆虫然とした形態へと進化したより大柄な個体が本作にも10%くらいの割合で混じって登場している。
そもそもパラデーモンはどのようにして生まれるのであろうか?元々ザックは繭の中でパラデーモンへと進化させられる人間を描写しようとしていたらしいが、残酷すぎるということで早々にスタジオから却下されたらしい。確かにこれはむごそうだ(笑)
「劇場版」ではステッペンウルフの斧で殺されたものがすぐパラデーモンに生まれ変わる映像が存在していたが、「SC」では使われていなかった。但し「SC」発表前にリークされたスタッフ情報に「元々ステッペンウルフの攻撃で人間が強制変化させられる映像をザックが撮っていた」という証言もあり、「劇場版」もそれを流用した可能性は否めない。(※「SC」になかったからといってそれが全てジョスの映像とは限らない)
いずれにせよ、より人間離れした姿のパラデーモンはより進化(変化)が進行した個体であり、使い捨ての雑魚兵でありながら歴戦を勝ち抜いた強力な個体であると見るべきであろう。事実、大柄な彼らの方が他のパラデーモンより前列に立っていることが多く、彼らの中にも序列社会があるように思われた。
◆アルテミスの矢
パート1のラストで「5000年ぶりに放たれる」という台詞があったが、これは非常に貴重な証言。ここ以外で明確に年代測定させてくれる描写が存在しないからだ。そして以前この矢をアマゾンが人間に向けて放ったときというのはもちろん前回ダークサイドがやってきたときのことを指しているのだろう。
しかしその矢がそのままセミッシラに残されているということは人類の側から回収されたということだろうか?その経緯すら気になってしまう。ザックの頭の中にはそのドラマもあるのだろうか。
ちなみに「アルテミス」とはギリシャ神話におけるゼウスの娘を指す言葉であり、ローマ神話では「ダイアナ」と同一の存在とされているところがお見事。
更にこの火矢が刺さった場所、劇中のニュースでは「アマゾンの聖堂」と呼ばれていたがどう見てもパルテノン神殿。しかし「パルテノン」にも「アルテミス」と同じ「処女神」といったニュアンスがあり、何らかの女性的な神をイメージした建造物であることや、DCの神々がみなギリシャ神話をモチーフにしていることからもパルテノン神殿はDCEUでも重要な聖地の一つと言えそうだ。
やはりザックが構成するDC映画とは、もはやヒーロー映画の域を超えて古代神話の芸術的・現代的解釈に基づいた再構築に他ならない。
◆アクアマン、そしてバルコ
「劇場版」JLの後=ユニバース路線完全終了後に単独作が作られたのもあってか「アクアマン」に見られた設定との違いは非常に多かった。
- アーサーの親父のトライデントはすぐそこにある
- 母のトライデントはこのとき鎧と共にバルコによって託された
- アトランティス人、水中ではしゃべれない
- アトランティスが暗い!寂れてる!
特に「アトランティスが暗い」というのは重要で、土地を追われて海に移り住んだ言わば「難民」としての彼らの側面を強調した結果ではないかと思う。非常にザックらしい現実主義的な映像表現だと思う。
ただし、その他の大まかな部分は劇場版と直接つながる内容となっている。異父兄弟は過激な思想でアトランティスを誤った方向に導こうとしており、バルコはアーサーに真の王となることを求めているが、アーサーは自分の出自に背を向けたまま。
しかし何より個人的にエキサイトしたのはウィスキーのボトルを投げ捨てて海に飛び込むシーン。「劇場版」のIcky Thumpに合わせた映像も勿論かっこいいのだが所詮は予告編の焼き直しでしかなかった。
しかし「SC」では"There is a kingdom"に合わせた実に情緒あふれるシーンへと更なる進化を遂げていた。
王家の血を半分継いで生まれた男は、地上にもアトランティスにもどこにも居場所がなかった。だからそのどちらでもない誰もいない静かな海底をひっそり訪れる。
「劇場版」のようにヘスティアの縄など巻かなくとも、言葉にならない彼の心に秘めた弱さはより情緒的に描かれていたと言えるだろう。
◆ヒーローの時代
ヒールで数十メートル落下して着地!!さすがダイアナ姐さま。
歴史を語るこの宮殿の壁画セットこそ「劇場版」で使うべきとも思うが、ダークサイドがいたから使えなかったのだろう。
そしてダイアナによって語られた「ヒーローの時代」。
よく見るとなんと「WW」のヴィラン(ダイアナによって打倒された軍神)、アレスも参戦!?しかもちゃんとデヴィッドシューリス本人!
View this post on Instagram
こういうところを見ても、かなりちゃんと「クロスオーバーものを目指してたんだな」ということがよくわかる。
ちなみにこの戦いに参加していたのは、
- ゼウス
- ゼウスの嫁?(誰か名前教えて…)
※これがアルテミスですね!7/20追記
- アレス
- グリーンランタン(後で詳述)
- 海に移り住む前のアトランティス
- 奴隷にされる前のアマゾン
- 人類
あのアレスでさえも、ゼウスはもちろん人間と共にダークサイドと戦った。「WW」を見ていればこれがいかに奇跡的な団結であったかがよくわかるはずだ。
個人的にはこの奇跡的な団結の裏にも、今回のブルースのような"仲人"が存在していたのではないかなんて想像してしまう。
しかし当時の神々の戦闘力の高さには痺れる。リーグメンバーがあんなに苦労したマザーボックスの融合=トリニティの分離を雷撃ビーム一発で解消したゼウスや、あのダークサイドに深傷を負わせたアレスなど、見所は多い。
金のトライデントを持っていたアトランティス王は勿論アーサーの父親だろう。アマゾンを率いていたのはヒッポリタ=ダイアナの母。そしてダイアナの実父たるゼウスに、異母兄弟のアレス。後のヒーローたちの出自につながる錚々たる顔ぶれ。
しかしゼウスがカメオ出演には勿体なさすぎるほどのカッコ良さ…。ヒッポリタもこのとき惚れたのだろうか…?
◆61982:イースターエッグ
サイラスが保管していたマザーボックスのケースに残されていた「61982」という数字。絶対何かあるだろうと思って調べたら案の定イースターエッグだった。サイボーグが表紙を飾った1982年6月号。ここから数字が取られていたようだ。
更に、ご存知の方も多いとは思うがサイラスの助手として登場したライアン・チョイ、彼は2代目アトムとして知られているキャラクターだ。アトムといえば「アローバース」のレジェンドオブトゥモローで初代アトム=レイパーマーが有名だろうか。体を自在に縮小させられるパワードスーツを身につけたヒーローだ。
あと、上では詳しく扱わなかったが、5000年前の戦いに登場したグリーンランタンはYalan Gurという名前の伝説のランタンらしい。しかしそんな彼もダークサイドに殺されてしまい、指輪も行方不明となっていたようだが…。
ザックユニバースが引き続き展開されていれば、新たな「グリーンランタン」作品にてこのときの出来事についても触れられていたに違いない。
アメコミオタクでなければ日本人には馴染みの薄いこれらのイースターエッグも、当然現地の海外サイトではその多くが考察済み。気になる方は是非調べてみては?
他にもいくつか言及すべき箇所はあるけど、長くなってきたのでひとまずここまで。次はパート3にて。