一部に超熱狂的ファンを持つ1974年放送のアニメ「チャージマン研」。
ニコ動を中心に、そのシュールかつ破天荒な展開とチープさが人気を博した本作だが、今回はあえてそういう茶化した見方をやめて、本気で作品世界を考察してみたい。
とりわけ今回は、作中でも最も謎が多い主人公・チャージマン研の謎に迫る。
◆異色のヒーローアニメ
実は本作、ネタにされている要素を抜きにしても、ヒーローアニメとしては結構珍しい設定に満ちている。第1話にしてチャージマン研の出自が一切描かれないのだ。
初登場の時点で彼は既にその能力を十全に使いこなしており、キャロンもバリカンもそのことに驚きを見せない。
第1話の段階で、人類とジュラル星人の戦いはとっくに始まっており、我々視聴者はその途中から本作に流入するという形を取らされる。加えて最後までその設定については何の説明もない。
チャージマン研とはまさに「エヴァンゲリオン」をも彷彿とさせる、実にヲタク向けのハイエンドアニメだったのだ。
本作が他のヒーローアニメと一線を画している点は、他にも多々ある。
- 「変身」ではなく「変装」という表現が使われている(2話、4話etc)
- ジュラル星人はおろか、クラスメート含め大半の人間がチャージマンの正体を知っている(2話、4話)、というか研自身隠すつもりがない。
- ジュラル星人には弱点である「変装には光が必要」であることや、自宅住所までバレている(2話)
本作品世界を考察するためには、その手がかりとなる劇中設定をひとまずかき集める必要がありそうだ。
◆100年後の日本を舞台に
第6話にて、「今から100年後の日本…」とされていることから、単純に放送当時=1974年から100年後と考えて、2074年の日本が舞台と考えられる。つまり、現代日本からすれば約50年後の物語なのだ。
研が通う学校も、小中高大学まで70階建ての大型ビルに集約されており、モニターを使った授業が確認される。所謂リモートスタイルを先取り(or予見)していたとも言えるだろう。
各種デザインは、いわゆる「流線型にシルバー」のやや古臭い未来イメージに満ちている。と同時に、相当な少子化及び極端な人口の都市集中が予想される。
ちなみに、都市部の様子は第33話で詳しく確認できる。
同話登場のオサムくんによれば、人類は更なる宇宙進出にも成功しており、「月には今、基地が5つ」あるそう。
その反面、音楽はレコードで聴くなど(第16話)どうも一貫性がなく、所々昭和臭い。
37話には共産主義っぽい革命☆野郎がハイジャック犯として登場。100年後でも未だに赤い連中は元気らしい。
加えて気になるのが世界情勢。隕石が迫る地球全体の危機においては諸外国の軍隊などは全く動かず、なんとチャージマン研ただ一人が出動していた(第11話)ところを見るに、
もはや世界中の軍隊は解散している可能性すら考えられる。この世界での人類は、宇宙開発は進展させつつも、戦争のための武力は放棄してしまったのだろうか。地球最強の戦闘力は、泉研ただひとりに集中しているのだ。
◆チャージマンスーツの性能
しかし本作最大の謎といえば、チャージマン研そのものにある。
まず、「変身」ではなく「変装」という言葉を使っている辺り、肉体そのものの変化はない所謂パワードスーツ装着型の可能性が高い。
※大半の戦隊モノ(一部サイボーグ系を除く)や、仮面ライダーの中でもカブトやフォーゼetc、あるいはアイアンマンなんかと同系統と言えるだろう。
彼の変装は、光源のある場所で「チャージングGO!」と叫ぶことで行われるが、場面によっては夜の暗がりでも変装しており(第28話)、マッチの炎(第2話)や、石と金属が擦れたわずかな火花(第44話)だけでも変装が可能。とてつもなく変換効率の良いソーラーシステムが採用されている、あるいはかなりの小エネルギーでスーツを起動できるようだ(電卓とかのイメージ)。
スーツは掛け声一つで起動し、それまで存在しなかったベルトやヘルメット等が現出している辺り、ナノテク技術も使用されていると見て間違いないだろう。
足首にはジェットブースターが備え付けられており、フラップなどはなくとも推進力のみでうまく飛行しているシーンも見られるが、長時間の飛行には向かないのか、飛行時はスカイロッドに乗ることの方が多い。
◆過剰とも言える数々の武装
彼の最強武器と言えばやはりアルファガンだ。
劇中で最も多くのジュラル星人を葬ってきたまさに最強兵器。「アルファガン!」と名前を叫んで撃つケースもあるが、ジュラル星人のセリフの途中だろうが容赦なく無言撃ちすることもある。
弾切れの描写もなく(というよりそんな長期戦がそもそもなく)、当たれば相手は確実に死ぬ。小型ながらとてつもない威力を持っており、多分これ一丁でジュラル星人を全滅させられる。※他作品で例えるなら、キャシャーンがルナのMF銃で戦っているようなもの。かなりズルイ。
ちなみに、赤い光線は麻酔銃モードらしく、相手によって使い分けることも可能(第58話)。
このアルファガンだけでも恐ろしいのだが、彼の腰に装着されたビジュームベルトは更に強力なマップ兵器である。大勢に囲まれた際は、このベルトからの光線で一気に敵を殲滅させることができるまさに奥の手。
それだけではなく、かなりの強度と防御力を誇るのがヘルメット。ジュラル星人の放つ光線も、全てこのヘルメットが防ぎ切ってしまう。その様はまさしく「顔面セーフ」。
スカイロッドという飛行艇も無敵兵器として有名。水空両用どころか宇宙船にもなるどこでもマシン。搭載されたレーザー砲はアルファガンと同種だろうか、いつもジュラル星人の基地や宇宙船を一撃で破壊している。研の掛け声による無人飛行も可能で、即座に彼の元に駆け付ける。
操縦席には、同乗者を船外へ放り出す機能も搭載されており、設計者の精神状態が心配される。
但しこれは、研自身の手によるカスタマイズの可能性も考えられよう。どのようか局面を想定したのかは謎だが、幾度となく引っかかったハニートラップ(20、26話etc)を初め、激化していったジュラル星人との戦いを象徴しているようだ。
◆スーツを超えた研の超能力
そんなチャージマンスーツの生みの親と目されるのが、第11話より唐突に登場する吉坂博士(通称生足博士)だ。
彼は日本を代表する科学者だそうで、彼の手によりチャージマン研は誕生したと考えて良いだろう。
それはそれとして、ここで作品世界の根幹に関わる本質的な疑問にぶち当たる。
- ①チャージマンスーツは、対ジュラル星人用の戦闘服?それとも別の用途のために開発されたもの?
- ②なぜそれを小学生である研ただ一人が身につけている?
- ③そもそも研は本当にただの人間?
①については、あまりにも研の戦闘力が高すぎるために疑問に思ってしまったポイントだ。もしかすると、別の用途に開発されたものを対ジュラル用に流用したのか?或いは、チャージマンが強いのではなくて、ジュラル星人の方が弱すぎるという可能性も考えられる。
②と③も重要な問題。例えば19話などを見るに、警察官の装備も我々が知るものと大差ない。庶民の武装にはさほど進化が見られず、あの作品世界において研だけが際立って強いのだ。
とりわけ第63話で見られたように、世界チャンピオンのボクサーをも撲殺したタイガーM・マッタクツヨシを変装前の素手でリングに沈めた研は、実は人間ではない可能性すらあるのだ。
あの有名な第35話では、ボルガ博士の脳髄深くに埋め込まれた時限爆弾の秒針の音を聞き分け、第61話では、なんとロボットであるバリカンの祈り(思念)を受信して危機を脱するなど、とても人間とは思えないシーンが他にも多数登場している。
これはあくまで仮説だが、吉坂博士はチャージマンスーツだけではなく、彼の肉体にも何らかの手を加えている可能性が高い。
例えば「キャプテンアメリカ」のような肉体を強化する超人血清を研が打たれているとしたら?
◆なぜ研が選ばれたのか?
当初は、肉体変化のないパワードスーツ装着型ヒーローだと考えられていたが、その大前提から見直す必要がありそうだ。
しかし、肉体強化も施されていると考えれば、諸々の疑問にも一応の説明がつく。例えるならば研は、アイアンマンスーツを着込んだキャプテンアメリカなのである。そりゃあ強いわけだ。
問題は、なぜ小学生である研が選ばれたかだ。当初は、ジュラルに家族か友人かを奪われた恨みでもあるのかと思ったが、劇中の研にはそんな悲壮感は漂っていないことから、研自身の私的感情はおそらくほぼないと思われる。
となると、怪しいのは「自称・医者」の父だ。
研の父と吉坂博士の間には親交があり、半ば人体実験も兼ねた研究材料として研が差し出された。元々正義感の強い研も、喜んで人類の敵・ジュラル星人と戦う道を歩むこととなった…。おそらく泉家は見返りとして多額の謝礼を得ているに違いない。
そりゃあ劇中で説明がないのも当然だ。そんな出自描くわけにはいかないだろう(あくまで筆者の妄想だが)。
とは言え我が子を未知の異星人と戦わせることに全く抵抗がなかったとも思えない。それが、上述の過剰とも言える武装の数々につながっているのだろう。
◆泉研による大岡裁き
これらを踏まえると、最強少年兵士・チャージマン研の開発は、基本的にはジュラル星人殲滅が目的だったとは思うが、もしかすると史上最強の小学生でもって日本が世界のイニシアチブをとろうという野望も、当時の日本にはあったのかもしれない。研は核に代わる世界の抑止力なのだ。
ここまで来れば、これまで劇中で不可解だと思われてきたことの理由や背景がおぼろげながらも見えてきた。
状況を整理すると、泉研は2074年の地球上で最強の存在である。米軍も露中もなく地球最強の小学生なのだ。しかしそんな彼がごく普通の小学生として生活をしており、かつ心優しく人々と接してくれたとすれば...。それはもう神にも等しい存在として崇められるに違いない。
その代表的な例が、第25話「雄一少年を救え!」の中で、連続無差別放火という重罪を犯した雄一少年が、研に相談(自首)するだけで無罪放免となるシーンだ。加えて夫婦喧嘩が絶えなかった雄一の両親までが、「これからは良い親になります」と心を入れ替えて反省し始めるのだ。
このように、「研に命を救われただけで改心する一般人」という展開は他にも散見される。研という存在そのものが、言わば将軍様の印籠のようなものとなっており、彼は地上最強の戦闘力と、地球防衛の功績を持ってして、司法すら超越した超法規的存在となってしまっているのだ。
かなり危険な香りが漂っているが、ごく一部例外をのぞいて、彼の言動はあくまで「ジュラル星人殲滅」という点で一貫しているのが不幸中の幸いだろう。少年らしい素直さと純朴さで、悪者をやっつける!という目的だけはブレない。
しかし問題は、ジュラル星人との圧倒的な戦力差にある。
◆仕事が速い男
本作が他のヒーローアニメと一線を画している最大のポイントがここにある。敵キャラのジュラル星人が、弱すぎるのだ。
だから、研が正義感に拳を震わせ、ジュラル打倒に燃えたとしても、アルファガンの引き金を一回引くだけで決着がついてしまう。必殺技を放つまでの駆け引きも格闘も何もない。ただ害虫を駆除するかの如く、ジュラル星人は毎度毎度あっさりやられてしまうのだ。
そのことを強く感じさせられるのが第19話「銀行ギャング キャロンが危い!」。ジュラル星人との戦闘シーンは僅か2秒。かつてこれほどまでに仕事の速いヒーローがいただろうか。
それが故に、ときには研の方が悪者に見えてしまうことさえある。 しかし勘違いしてはいけない。泉研は、純粋に地球の平和を願う、(特に美少女に)心優しき少年なのだ。
奇しくも同19話にて研は、銀行強盗をやっつけようと提案したバリカンに対し、毅然と言い放っている。
「ダメだよ、いくら悪い奴らでも、人間にアルファガンは撃てないよ!」
もしもあなたがチャージマンとしての能力を与えられたら?その力と地位を悪用してしまわないだろうか?
しかし研は己の職務を全うすることに対して実に忠実だ。だからこそ、打算的な面も併せ持つ「大人」ではなく「少年」にチャージマンが選ばれたのだろう。
だが、まだ結論を急いではいけない。未だに判然としないのは、チャージマン研が強すぎるのか、ジュラル星人が弱すぎるのか、そのどちらがより事実に近いのか?ということだ。
これについては別項「ジュラル星人とは?(仮)」にて彼らの生態についてじっくりと考察を深めてから答えを出したいと思う。