バットマンは、スーパーマンによって輝き、ジョーカーによって闇へと堕ちる。
◆特攻するコウモリ
「ジャスティス・リーグ」終盤、ロシアでの最終決戦時、バットモービルで飛び出したバットマンはもはや死のうとさえしていたように思う。
前作「BvS」終盤の「マーサ救出劇」を経て両親の死のトラウマを擬似的に克服したブルース。
しかし、一時はスーパーマンを敵とみなした彼の過ちが遠因となってドゥームズデイが誕生、スーパーマンを死なせてしまった。
そして本作のブルースはその贖罪のため、スーパーマンが残した「希望」を胸にヒーローチーム結成に奔走、遂には念願のスーパーマンの蘇生をも成し遂げた。
「BvS」の頃よりかなり表情も柔らかく人間的な面が光るようにはなったが、実の所彼はいつ死んでもいいと思って動いていたのではないだろうか。
その覚悟は、ヘリも近寄れない氷山を決死の覚悟で越えてアクアマンをスカウトしに行った冒頭のシーンにも如実に表れている。
その必死すぎる姿は、思わずアルフレッドからも「もう十分だ」と止められるほどだった。
そしてスーパーマンも蘇った今、彼は自分が人生でなすべきことの全てを果たしたと感じたに違いない。
◆救われたダークナイト
@DC. Zack Snyder's Justice League @2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved
そしてこの最終決戦では、スローで跳ねる空薬莢(からやっきょう)の映像が登場する。
これは前作「BvS」でブルースの両親が射殺された場面と、スーパーマンの葬儀場面と重なる。これら3つに共通するのは「死」のイメージだ。
多勢に無勢、徐々に追い込まれていくバットマンだったがそのとき、何があっても進めと言われたはずのリーグメンバーがブルースの元へ舞い戻る。本作の最もアガるシーンのひとつだ。
@DC. Zack Snyder's Justice League @2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved
だがこれは、ジャスティスリーグが見事アッセンブルした!というだけではなく、バットマンの運命が決定的に変えられた瞬間でもあったと思う。
死の運命へと突き進もうとしていた彼を救ったのは、彼が集めた仲間だった。彼の志に魅かれて集まった仲間だった。彼は、自身の行いによって救われたのだ。
「空薬莢の演出」というメタ的にも死亡確実なフラグをぶち壊すリーグメンバーに感涙必死。
その身と魂を擦り減らしながら犯罪と戦い続けて20年。不毛に思われた長く苦しい戦いを経て死を覚悟した彼がようやく救われた瞬間。そう思うと、バットマンファンとして涙が溢れるのを抑えられなかった。
◆「希望」を受け継ぐ者
そこからのリーグの快進撃は凄まじかった。特にバットマンがグラップルガンで宙を舞うシーンはまさにコミックス初登場時の「Detective Comics」表紙を彷彿とさせる。
アクアマンのパラデーモン2体串刺しもコミックスのオマージュ。そしてフラッシュは誰もが期待していたタイムトラベルの能力を発揮し見事世界を救う。
前回、スーパーマンが黒いスーツを選んだ理由について考察した記事でも述べたように、あくまで個人的な理由で参戦していたリーグメンバーたちが、コミックスへのオマージュを織り交ぜながら少しずつ我々のよく知るスーパーヒーローへと脱皮を始める。
「希望」は、川の流れのように枝分かれして受け継がれてゆく。
バットマンは、スーパーマンの「希望」を受け継ぐことで、輝けるスーパーヒーローとしての人生を取り戻すのである。
◆ナイトメア再び
…しかし!
ナイトメアの未来でバットマンは「BvS」時と同じスーツとカウルに身を包み、銃を携え、その瞳からは再び「希望の光」が失われていた。
スーパーマンの意思を継ぎ、リーグを結成させてヒーローとして再起したはずのバットマンは、しかしロイスの死をきっかけにスーパーマンを、そして「希望」を失った。
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希望を失った象徴としてBvS版スーツを身に纏っているというのが私の解釈。
死にかけていた男を絶望の淵から救い出し、再びどん底に叩き落とす。この残酷さが私は好きだ。明るい希望の光が差したかと思った矢先、彼は再びナイトメアの暗闇に堕ちていくのである。
そして、スーパーマンを失った彼が選んだのがジョーカーだった。失われた人間性の隙間を埋めるのは、ジョーカーの狂気である。
◆ジョーカーの愛
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「相棒のガキは二度とよこすな。大人の世界だ」
子どもとはもちろん焼き殺したロビンのことを言っているのだろうが、ロビン殺害の動機を語ってくれたのが嬉しい。
「大人の世界=バットマンとジョーカーの2人だけの本気の勝負の世界に子どもを挟むような舐めたマネするな」というひん曲がってはいるもののこれは一種のジェラシーだ。
ザック・ユニバースにおけるバットマンとジョーカーの対峙はこれがほぼ初。実際の彼らの「イタチごっこ」がどのような形で続いてきたのかは推測に頼るしかないのだが、ロビン爆殺(しかもジェイソンではなくディック)というまさに血で血を洗う凄絶な過去が語られたことで、短い会話の中にもとてつもない緊張感が生まれる。
と同時に2人の切っても切れない因縁の深さ(表裏一体・運命共同体)は見事に描かれていた。この解釈はどの実写化作品でも共通しているのが面白い。
しかしここでのジョーカーは、物言わぬバットマンの代わりの狂言回しとなっている。彼だけが、実に冷静に状況を把握している。バットマンがロイスを死なせたからこうなった、世界を崩壊させたのはバットマンだ、彼はそれを見抜いている。そして、リーグによって救われた彼を、「死ぬ勇気のないタマなし」と笑い飛ばすのだ。
バットマンが、人々の明るい希望・スーパーマンと肩を並べようとすれば、ジョーカーは彼の足を引っ張る。善人ぶるのはやめろ。お前はスーパーヒーローなんかじゃない。俺たちと同じ、暗闇を生きる狂人だ。犯罪者だ、俺なしではお前は生きてはいけない、と。
◆アルフレッドは…
ナイトメアの世界線でバットマンは再び「BvS」時のスーツをその身に纏う。BvS版スーツがスーパーマンと敵対する運命のスーツとして存在するなら納得のいく描写だと思う。
しかしもっと現実的な理由を考えたとき、ダークサイドによるロイス殺害現場がバットケイブであったことは見逃せない。
おそらくダークサイドの襲撃によって半壊させられたであろうバットケイブ。その際、JL版スーツは破壊されてしまったのかもしれない。
しかしそうなると気になるのはアルフレッドの安否だ。
私は、残念ながらダークサイド襲撃によって殺害されてしまったのではないかと考えている。バットマンにとって唯一の良心とも言えるアルフレッドさえも失ったからこそあのナイトメアバットマンが誕生したような気がするからだ。
但し、フラッシュの新たなメカニカルスーツがブルース製(アルフレッド製)であることも判明しているため、実はこっそりどこかで存命しているのかもしれない。みなさんはどう考えるだろうか?
ザックに聞いてみたいなー。
「ジャスティス・リーグ」終了段階では、ステッペンウルフを退け、マザーボックスを破壊することで侵略の魔手を跳ね除けたように思っているブルースだが、「反生命方程式」の存在とその危険性に気づいていないのが彼にとっては最大の誤算だ。
「それ」を奪われたが最後、彼はナイトメアの沼に落ちてしまうとも知らずに…。