ザック・スナイダーカットに登場したスーパーマンは、2017年公開の「劇場版」とは違い、黒いスーツに身を包んでいた。それは一体なぜだったのか?
そしてその謎を解き明かす中で、ザックが志向したヒーロー映画が実にユニークな作品であったことが改めて浮き彫りとなる。
なぜブラックスーツ?
クラークは(そしてザックは)なぜ復活したスーパーマンに黒いスーツを選んだのだろうか?大きくは以下の2つの理由が考えられる。
- 原作コミックスになぞらえて
- 黒いスーツそのものに意味がある
1.については、
Superman: The Return of Superman (Superman: The Death of Superman)
有名なスーパーマンの死と復活を描いたコミックスになぞらえたものであり、太陽光をエネルギー源とする彼が復活直後により多くの太陽光を吸収する必要があったことから選ばれたものと言われている。
しかし、「SC」でのクラークは蘇生直後にも関わらずリーグメンバー全員を1人で一蹴。設定上の理由以上に、ドラマ上の理由があると考えるべきであろう。
それについてザックは以下のように語っている。
彼の故郷・クリプトンが滅ぶとき、彼の同志の多くは黒いスーツを着ていました。黒いスーツは彼にとってもう一つの故郷と深いつながりがあります。我々がよく知る赤と青のスーツが地球人にとっての希望の象徴だとすれば、黒いスーツは彼個人の出自と関連があります。つまり、赤と青のスーツは外向き、黒のスーツは内向きということです。 (要約)
「内向き」のプライベートヒーローたち
Zack Snyder's Justice League Steelbook-
マザーボックスによって復活したクラークは、まずロイスとの再会に心を落ち着かせ、カンザスの生家へ戻る。そして母マーサとも再会を果たし、生き返った意味を見つけるため新たなスーツを選ぶ。
ユニティを防ぎ、ステッペンウルフを退けるための最強の戦力を確保したいリーグメンバーの思惑とは裏腹に、彼はマザーボックスやステッペンウルフには目もくれず、真っ先に「家族」の元へ向かうのである。
おかげさまで、最後の三つ目のボックスはまんまと奪われてしまうのだが(笑)、まさにこの「内向き」とも言える姿勢は何もスーパーマンに限った話ではない。
バットマンがヒーロー集めに躍起になっていたのは、本心で言えば地球のためではなくスーパーマンのためだ。彼自身も個人的感情に従って動いている。
フラッシュは、(あえて深掘りせずストレートに言えば)「友達が欲しい」から。
アクアマンも、自分の出自に背を向けて引きこもっていた自身の殻を破ろうと、バルコから託された鎧を纏い、母のトライデントを手にする。
サイボーグもそうだ。最愛の母を失い、人間としての肉体を失い、今度は父すらも失う。彼は悲劇に巻き込まれながら戦いへと赴くのだ。
※その次元から一歩前に出ているのがワンダーウーマン。彼女はスティーブを失った悲しみから引きこもっていた過去を超克しつつある。
ぶっちゃけ、ダイアナ以外どいつもこいつも侵略者襲来の危機について深刻に捉えている気配がない。例えばアトランティスのマザーボックスが奪われた直後のメラとアーサーの会話、マザーボックスやステッペンウルフについて全く触れていない(笑)
非常にプライベートな皮をまとった実に人間臭い不完全なヒーローたちによる同盟、それがジャスティス・リーグだった。そしてそれを2017年当時そして2021年現在描いたことの社会的意味は非常に大きい(それについては別頁にて今後詳しく扱いたい)。
家族との過去を肯定し未来へ進む
更に、リーグメンバーそれぞれが抱えるトラウマはみな「家族」(とりわけ父親)に起因している。
だからクラークは「2人の父親」の声に導かれて再び空を飛び、ブルースは父親の遺産でもあるフライング・フォックスにリーグ結成の夢を託し、
※フライング・フォックスには、ブルースの亡き父トーマス・ウェインが軍事用に開発した兵器だったという裏設定がある。
そして戦いの後、それまで廃墟のままだった旧ウェイン邸に足を踏み入れる。
バリーは無実の罪で囚われた父親のため、科学捜査官としての職を勝ち取り、
戦いを終えたアーサーは一言「親父に会いに行く」と言い残して消え、ビクターは握りつぶしたテープレコーダーを復元し、亡き父の想いと向き合う。
「侵略者と戦うため」、「地球を守るため」、そんな社会的大義のために立ち上がるのではなく、個々が戦いの中で真の家族の絆と向き合うのが本作のヒーローたちの姿だとすれば、スナイダー・バースの中心人物であるスーパーマンが、彼の出自と深く繋がるブラック・スーツを選ぶのは当然だった。
「真のスーパーマン」への途上として
ザックはこうも語っている。
スーパーマンは「成長しないキャラクター」として有名です。彼はまるで岩、ぶつかるものはただ砕けるだけ。それが古典的なスーパーマン(ドナーが描いたような)のイメージですが、一方でそれを変えるべきだとも思っていました。だから私が描くスーパーマンは、何かを学び取りながら段階的に成長を遂げていく必要があると感じました。そして最終的に、誰もが知る古典的なスーパーマンのイメージへと近づいていくのです。
そんな彼の段階的成長を表現するのに、ブラックスーツは最適でした。彼が今どの段階にいるのか、視覚的に伝えることができるからです。
確かにザック・ユニバースのスーパーマンは、とことん「発展途上」だ。
「MoS」では侵略行為を阻止するためとは言え、その戦いに大勢の無実の市民を巻き込み、多大なる犠牲を払うこととなった。
「BvS」ではその結果、多くの人々から憎まれ罠にもかけられ最終的には命を落とすこととなる。
おそらく中には「こんなの私の知ってるスーパーマンじゃない!」なんて思った人も少なからずいたことだろう。そんな「私の知ってるスーパーマン」とはやはり、リチャード・ドナーの描いた「スーパーマン」に違いない。
そしてザックはもちろんそんな彼と彼の作品にも最大の敬意を表している。
Thank you, Richard Donner. You made me believe. pic.twitter.com/zmeONQpTUT
— Zack Snyder (@ZackSnyder) 2021年7月5日
ザックは、世界で初めて「成長するスーパーマン」を描こうとした。そして最終的に、ドナーが描いた理想のスーパーマンへと辿り着く構想を練っていたに違いない。
その萌芽は既に本作のラストに見られる。クラークが開いたシャツの胸元から「S」マークがのぞく場面だ。これは実に「古典的なスーパーマン」の描写である。
@DC. Zack Snyder's Justice League @2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved
しかし、まだそのスーツの色は黒と銀。彼が真のスーパーマン=再び赤と青のスーツを着るまで、まだいくつかの工程が残されていることがここでは暗示されている。そしてそれは残念ながら、本来予定されていた幻の「ジャスティス・リーグ2」及び「3」に求めなければならない。
更に彼のスーツの色についてはまだ謎が残されており、ナイトメアの未来に繋がってしまう、ロイスが殺害される場面で彼はまだ黒いスーツを身につけていたが、その後ダークサイドに屈したスーパーマンは赤と青のスーツに着替えていた。これはなぜか?
続きは「ナイトメア分析」(仮称)に譲るとしよう。