なぜ仮面ライダーの再生怪人はあんなに弱いのだろうか?今回はさまざまな観点からこの問いに対して複数の仮説を元に検証してみたい。
◆序・考察の前提
下に三つの仮説を挙げてみた。
仮説①ライダーが強くなった
仮説②怪人が弱くなった
仮説③ノリの良い方が勝つ
そしてこれらを公平に検証するため、仮説①が最も有利に働きにくい=再戦までのインターバルがおそらく最も短い、「仮面ライダー」第13話「トカゲロンと怪人大軍団」をベースに考察を進めたい。しかし、これだけでは情報量が少なすぎるため、もちろんその他作品群も一部参照しつつ展開していきたいと思う。
あと、もう少し解説をわかりやすくするためにHPバーを使ってみたい。ハッキリ言って偏見の塊みたいな根拠のない数値設定だが、参考にしてもらえればと思う。
13話時点の仮面ライダーvs再生怪人1体のHPを仮に100:10
として、どのタイミングで仮面ライダーと再生怪人は互角になるのだろうか?皆さんも考えながら読み進めて欲しい。
◆仮説①ライダーが強くなった
これが最も考えやすい仮説ではあるが、あそこまでの戦力差が生まれる要因は何であろうか?
◆特訓の成果
まず、特訓の有無は非常に大きな差となるであろう。仮面ライダーは、改造直後の初期スペックから、立花藤兵衛らとの特訓を経てその能力を日々向上させている。
「仮面ライダーメモリアル」でも、本郷猛自らが「改造された肉体も鍛えることでより強化されていく」旨を語っており、
特訓によって生まれる戦力差はかなり大きいと考えて良いだろう。13話までに特訓で成長したHPが20%はあると考えて、それを仮面ライダーから差し引けば…80:10
◆経験値の差
次いで大きな要因となるのが、経験値の差である。これに関しては「仮面ライダーEVE」に詳しい。
何せ執筆者が石森プロの早瀬氏だけあってその説明の信憑性は高い。要は「一度戦った怪人の能力や弱点を熟知している仮面ライダーにとって同タイプの怪人は敵ではない」ということである。加えて本郷猛は知能指数600、改造されてなくてもバケモノレベルの天才であり、一度の戦闘で得たデータは確実に蓄積していると見て間違いないだろう。
とは言え、いくら一度戦った相手だからと言ってあそこまで圧倒的な戦闘力の差が生まれるものだろうか?経験値の差はせいぜいこれも良くて10%程度に留まるべきだろう。
70:10
しかし、仮に仮面ライダーに戦闘経験が蓄積されていなかったとしても、ハナから60もの能力差が依然として残されている。
◆仮説②怪人が弱くなった
ライダーが強くなっただけではなく、怪人も弱くなっているのはほぼ間違いない。何せ、各怪人が持っていた特殊能力も、再生怪人になったらほぼ発揮されていないからだ。
◆低予算!再生怪人
では、なぜ弱くなったのだろうか?同話で蜘蛛男は、
「改造人間は死なん!破壊された箇所を直せばな!」
と豪語しており、これは彼らが、過去に登場した怪人と同一個体であるかのような口振りである。
個人的に、再生怪人というのは過去の怪人の設計図を元に別の人間を素体にして造られた別個体という認識でいたのだが、果たしてどちらが正しいのか。
まず、過去の怪人たちの多くが仮面ライダーとの戦闘で融解、あるいは爆散していることから見ても、やはり再生怪人とはほとんどイチから作り直された存在なのではないだろうか?
それに加えてこの直後あるいはほぼ同時期にショッカーは再びバッタ型改造人間の製造に着手しており、しかもこちらは「再生」ではなくグレードアップ版として完成した(仮面ライダー2号)ことから考えても、彼ら再生怪人に割かれた予算や労力はとてつもなく低かったと察せられる(あくまでトカゲロンの作戦遂行のサポート役だった?)。
ここまでを踏まえて、本来の怪人クォリティが維持されていれば…70:30
このくらいはライダーに近づいても良いのではないだろうか?
◆再生怪人の悲劇
それではなぜ再生蜘蛛男は「改造人間は死なん!」と自らがオリジナルであるかのような発言をしたのだろうか?
それは、ショッカーお得意の洗脳と脳改造の結果だと考えられる。素体となった人間には、比較的優秀な戦闘員などが選ばれたのかもしれない。しかし彼らは改造手術によって記憶を消された上で、「お前は一度は仮面ライダーによって倒された。だがショッカーの科学力によって、破損箇所を修理されてよみがえったのだ!」とでも吹き込まれたのだろう。
悲しいかな、本来の改造人間とはやはり元の人格を完全に失って組織に盲従する怪物なのだ。
そしてそれはまさしく、仮面ライダーにとっては「もう1人の自分」なのである。
◆素体格差
改造人間の能力を考える上で、ベースとなる人間そのもののポテンシャルによる能力差はとてつもなく大きいものと考えられる。
本郷猛は、知能指数600、スポーツ万能の男。一文字隼人は、柔道六段、空手五段。このずば抜けた能力の高さがあってこそ、技の1号、力の2号と恐れられる伝説の戦士が生まれたと言えよう。
ショッカーもそのことは重々承知のようだ。本話でメイン怪人を務めた怪人トカゲロンは、バーリヤ破壊ボールを蹴り放つために優秀なサッカー選手が素体となっている。
16話に登場したピラザウルスはベースとなる人間が弱すぎたため、「死の霧」という毒ガス発生装置に肉体が耐えられず、毒ガスを発射した本人が死んでしまうという事態に。
そこで、更に強力な素体をプロレスラーに求めた。結果、一度は仮面ライダーを打倒するまでの高い能力を発揮する強力怪人に生まれ変わった。
再生怪人の多くが、オリジナルの持っていた特殊能力を発揮できずに死んでしまうのは、素体となる人間のポテンシャルが低いことが原因なのかもしれない。この差はおそらく非常に大きい。少なく見積もってもこれだけで30%は差がついているだろう。
適切な改造と優秀な人間の選定しだいでは、70:50、ここまで仮面ライダーに迫ることができるはずだ。
◆仮説③ノリの良い方が勝つ
◆モモタロスの名言
ここまで大真面目に考察した現段階でも彼らの戦闘力の差はまだ20%埋められていない。残りの差を埋めるものは、やはり精神力、もっとわかりやすく言ってしまえば、ノリの良さみたいなものである。
この発想には、「仮面ライダー電王」第44話のモモタロスのセリフが元にある。圧倒的強さを誇っていたアルマジロイマジンが、突如電王に押され始め「俺の方が強いのに?!」と焦る中、モモタロスはこう返す。
「バーカ!どっちが強いじゃねぇ!戦いってのはなあ、ノリのいい方が勝つんだよ!」
これを30年以上も前の作品にまで適応するのはおかしいと思われるかもしれないが、この「ノリ」みたいな言葉でしか形容できない戦場の空気みたいなものは間違いなくどの世界にも存在する。
◆恐れを知らない勇者
これを再生怪人に適応するならば、「たとえあの仮面ライダーでもこれだけの怪人たちを前に勝てるはずが無い」、そうタカをくくっていた=油断していた。
そして何より、風はライダーに吹いていた。
一度の敗北を経て臨んだおやっさんとの特訓。そして完成した新技。仮面ライダーにとって目下の敵はトカゲロンとその繰り出す必殺シュートであり、再生怪人などもはや全く恐れていなかったのだろう。
その証拠に、仮面ライダーが再生怪人軍団相手に最初に仕掛けたのは、愛車サイクロンによる煽り運転である。
勿論、仮面ライダー自身も、一度は倒したはずの怪人たちが目の前に蘇ったとなれば、その現実に一度は絶望したに違いない。また彼らを手にかけなければならない己の悲運を呪うような感情に囚われたであろう。しかし彼は、その思いをショッカーへの修羅に転化し、アクセルを全開にした。
最高時速400kmのスーパーマシンで煽り立てられたが最後、再生怪人たちは諸手を挙げて駆け回り、斜面を転がり落ちていった。その姿には、単独エピソードで彼らが放っていた異形のオーラなどかけらもない。あまりにも不様で滑稽な姿であった。
もうこの時点で決着はほぼついたも同然。やっぱり戦いは、ノリの良い方が勝つのである。
◆「心」ある者が勝つ
しかし、ここまで精神力の差が生まれるのはなぜか?それは間違いなく、脳改造の有無にあると断言できる。
怪人たちは、組織の命令に盲従する奴隷である。それに対して仮面ライダーは、己の自由意志で戦う人間である。
強大な闇の組織のパワーに依拠して生きる奴隷と、たった一人、心に誓った正義のために戦う自由の戦士、どちらが精神的に成熟しているかは明白である。
簡単に言えば、気迫が違う。オーラが違うのである。
これでようやく再生怪人は仮面ライダーと互角に並ぶことができる。
ショッカーがこだわった脳改造。実はそれこそが、ショッカーがいつまで経っても仮面んライダーに勝てない理由なのかもしれない。