次々と斬新な設定や展開で新たな仮面ライダーの歴史を築き上げた通称「平成ライダーシリーズ」。こんなの仮面ライダーじゃないなんて揶揄される作品もいくつかあるが、その多くにはちゃっかり「昭和ライダーへのリスペクトとオマージュ」が込められている。
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シリーズ第三弾は平成ライダーの大変革期の三作品、「カブト」、「電王」、「キバ」のご紹介。ちなみにこの辺りから昭和オマージュが突如激減する。
終盤ではその理由についても考察していく。
◆仮面ライダーカブト
・高速世界の孤独
仮面ライダー生誕35周年記念作品と銘打たれただけあって、本作にもオリジナル仮面ライダーへのリスペクトとオマージュはふんだんに盛り込まれている。
本作最大の特徴でもある「クロックアップ」だが、元々はキャストオフしてライダーフォームになった途端、クロックアップが始まるという設定だった。
その片鱗はおもちゃCMの映像にも残っており、クロックアップを起動するベルト側面を叩くギミックが玩具に搭載されなかったのも、初期設定の名残りである。
元々「クロックアップ」には、我々も感知し得ない超高速の世界で人知れず戦う仮面ライダーという描写から、孤高のヒーローという要素を再び際立たせる狙いがあったようだ。
その意味では、実は「ディケイド」に登場した「カブトの世界」のカブトこそ実に元設定に近い存在だったと言えるだろう。
・009にイナズマン
加えてクロックアップには「サイボーグ009」でお馴染み、奥歯のスイッチをカチッと入れて起動する加速装置のイメージも含まれている。
「キャストオフ」という脱皮アクションといえば、やはりサナギマン→イナズマン。ライダーシリーズのみならず、昭和アニメや特撮へのオマージュも込められているのが嬉しいところ。
カブトは、様々な石ノ森ヒーローのDNAをも継承した最強ライダーだった。
・バッタの仮面ライダー
本作中盤からはストレートにバッタモチーフのライダー、キックホッパーとパンチホッパーが登場。
但し、トノサマバッタモチーフの初代とは異なり、ショウリョウバッタがモチーフとなっているのがまた個性的で面白い。
とは言え、必殺技がキックやパンチであることや、2人組で登場する辺り、オールドファンとしてはやはり興奮してしまうところ。
劇中で見せたその個性的なキャラクターから根強い人気を獲得している。
・マスクドライダー計画
25話で渋谷廃墟を捜索する天道と加賀美は、35年前の「マスクドライダー計画」の書類を発見する。そしてそこには、「1971年4月3日〜」と記されていた。
この数字にピンとくる諸氏も多かったことだろう。この日付は、記念すべき「仮面ライダー」第1話の放送日である。この日から、マスクドライダー計画が始まったという設定はなんとも洒落ている。
本筋には関係なくても、こういうちょっとした小ネタが入るだけでも、マニアは物凄くテンションが上がるものだと思うがどうだろう。
・10月計画
本作終盤では、ゼクトが人々にネックレスを配布。これによって人間に擬態したワームを見つけ出せると喜ぶ人々。しかしその本当の狙いは…。
この展開に、原作漫画「仮面ライダー」終盤の10月計画-オクトーバープロジェクト-が脳裏に浮かんだ。
仔細な部分は異なるとは言え、大組織の力で大衆を騙して画一化し管理する卑劣な計画と、それをただ1人暴いている仮面ライダー…という構図はまさに10月計画。35周年作品を締め括るにふさわしい展開だった。
◆仮面ライダー電王
・異形との同居
本作「電王」で見られた、イマジンという怪物が憑依することで仮面ライダーとしての能力を発揮するという設定は、実は「響鬼」企画時に考案されたものを転用したもの。
仮面ライダーが改造手術によって肉体に付与された改造人間としての「超能力」を、独立したキャラクターとして分離。
仮面ライダーの方程式を実に面白い形で因数分解したケースと言えよう。
変身する野上良太郎は特殊体質の「特異点」とされ、憑依したイマジンをコントロールできるという設定も、脳改造を免れた仮面ライダーの定石に則っている。
・電車?バイク?
個人的に非常に嬉しかったのは、「史上初、電車に乗る仮面ライダー!」という触れ込みながら、ちゃんとバイクにも乗ってくれたこと。
しかも、なんなら平成ライダーの中でも比較的バイクの露出時間が多い方なのも嬉しい。
特に21話でガンフォームとゼロノスが繰り広げたバイクチェイスは見物。
バイク単体の活躍も多ければ、デンライナーを使った巨大戦でも運転席がバイクになっていたので、結果的に必ずバイクに乗ってくれていたのも今となってはやはり嬉しい点。案外、実直に「仮面ライダー」をやってくれていたのだ。
・コウモリスタート
第1話の敵としてクモ怪人と並んでよく設定されるのが、コウモリ怪人だ。原典においても2話に登場しただけあって、クモ同様コウモリもオマージュの対象となりやすい。
「剣」では開始早々バットアンデッドが登場、その他シリーズでも印象的なコウモリキャラクターは多数登場している。
本作の第1号怪人もバットイマジン。コウモリらしいフォルムで初戦の電王を苦しめたが、倒された後もギガンデスヘブンとして巨大化。電車に乗って戦う電王の巨大戦を盛り上げた。
・セタッチ
仮面ライダー 変身ベルト ver.20th DXデンオウベルト
電王に変身する際、ライダーパスをベルトにかざす。これはSuicaのオマージュだが、この行為のことを「セタッチ」と呼ぶらしい。
どうしても、仮面ライダーXの「セタップ」を彷彿とさせられるのは私だけだろうか。平成ライダーにおいて、メカニックなものに名前をつける際はメカニックライダーの祖・Xライダーに立ち返るのが習わしのようだ。
・同族殺し
前述の通り、憑依したイマジンの力で戦う電王だが、その電王が戦う相手もまたイマジンである。悪事を働く大半のイマジンからすれば、電王についているイマジンたちは「裏切り者」ということになる。
明るくポップな世界観に包まれた「電王」だが、やはり先代たちの例に漏れず本作もまた「同族殺し」の物語なのだ。
◆仮面ライダーキバ
・クウガ、アギトへの回帰
キバの基本4フォームの赤、青、緑、紫からは、どうしても「クウガ」が連想されてしまう。加えて、バイクに前後分割された装甲が合体するブロンブースターの機構もトライゴウラムそっくりだ。
フォームチェンジに関しては、手にした武器によって左右非対称な変身となることや、全フォームてんこ盛りのドガバキフォームなど、「アギト」をも彷彿とさせられる。
平成ライダーも9作品目となれば、平成初期のシリーズさえもリスペクトの対象となるのだ。
・マスクに初代の魂
ヴァンパイアモチーフで、その顔にはジャックオランタンのイメージが取り入れられた斬新なイメージの強いキバのマスク。
しかし、額の魔皇石には実は初代仮面ライダーのベルトの飾りボタンと同じものが使われている。意外なところに堂々と仮面ライダーの証が埋め込まれているのだ。
とりわけ、ほとんどの仮面ライダーに存在する額の「第3の目」については、原作者・石ノ森章太郎も非常に重要視しており、「人間の証」とされている。
※例えば「仮面ライダー真〜序章〜」に登場した改造兵士レベル3にはこれがなく、真と見分ける最大のポイントとなっている。
そんな最重要の画竜点睛に初代のベルトパーツを持ってくるとはニクイことをするものだ。
・やっぱりクモ
本作も第1話からクモ、スパイダーファンガイアが登場。上で触れなかったが、「カブト」の第1話も当然のようにクモのワームだった。
加えて面白いのが、本作では仮面ライダーのモチーフにコウモリが含まれていること。それまで怪人のモチーフとなっていたコウモリがライダー側というのも興味深い(「龍騎」でも同様の現象は既に見られたが)。
但し、本作「キバ」に登場するクモはかなり長生き。中盤まで生きながらえた寿命の長さは「ブラック」のコウモリ怪人や「クウガ」のゴオマを思わせる。
とは言え、本作のスパイダーファンガイアと言えばオマージュもクソもないほどに独特で個性的なキャラクターで有名。クモ怪人の歴史に新たな1ページを加えたと言えよう。
◆昭和オマージュ激減のワケ
お読みいただいた通り、これまでのシリーズと比べて特段「電王」と「キバ」にはオリジナル「仮面ライダー」へのオマージュが少ない。
というよりも、それまでの平成ライダーに過去作品へのオマージュがなぜあれほどまでに多かったのかを考えれば、自ずとその理由がわかるだろう。
そもそも「平成ライダーシリーズ」なんて言葉自体、当時は存在しなかった。「シリーズ」になる予定などなかった。ニチアサの仮面ライダーはいつ終わってもおかしくなかったのである。だからこそ、奇抜な新ライダーが登場する度に「これはれっきとした仮面ライダーです」ということを暗に証明するため、あらゆる箇所に「仮面ライダーの称号」を散りばめる必要があった。
とりわけ当時は、平成ライダーシリーズ同士にも繋がりはなく、V3よろしく先輩ライダーが、「お前は仮面ライダー○号だ!」なんてわかりやすく襲名させてくれるわけでもなかった。
「剣」や「響鬼」で終わりかけたシリーズも、「カブト」や「電王」で大きく盛り返すことに成功。とりわけこの2作に共通しているのが、強烈な個性を放つ「キャラ人気」である。
その証拠に、この2作品から見られるようになったのが「決め台詞」と「名乗り」である。
リアル路線の平成ライダー史においてはそれまで絶対に登場し得なかった要素ではあるが、これもある意味昭和回帰と言えよう。
天道総司の「おばあちゃんが言っていた...」でお馴染み天道語録。そして「ライダーキック」等、技名の呼称。
「俺、参上!」を初めキャラごとの決め台詞が光る電王の「名乗り」。
難解で重厚なストーリーが売りだった平成ライダーシリーズにおいて、特に多彩なキャラの魅力を劇中で炸裂させた「電王」の爆発的ヒットによって、平成ライダーは、ほぼ完全に昭和ライダーから脱皮したのだ。もう、昭和ライダーの印籠がなくとも平成ライダーシリーズはれっきとした「仮面ライダー」として世間で認められ得るコンテンツに進化したと言えよう。
その結果、後続の「キバ」は、「電王」で成功したキャラ人気の魅力を引き継ぎつつ、より「仮面ライダーらしさ」の縛りから解放された独自の世界観と設定を自由に展開することができた。劇中でほとんど活かされなかったのが残念ではあるが、「キバ」の劇中未登場設定群の情報量と密度は凄まじいものがある。
こうして、いよいよ平成ライダーシリーズも10作品目を数えることとなり、昭和ライダーへの憧憬を超越して、平成ライダーそのものを歴史にした作品が登場することとなる...。
次回は「ディケイド」「W(ダブル)」「オーズ」。