このアルバムの中でも一番優しくて、一番切なくて、一番美しい曲。
“champagne problems”
Taylor Swift - champagne problems (Official Lyric Video)
ネットにも大した和訳が全然なくて、なんなら間違ってるのばっかりだったので、じゃあ自分で作るか、と。
但し、かなりの意訳です。
かといって学校教材みたいな機械的な和訳で詩の世界が表現できるわけないので、自分としては概ね満足してます。
解釈に文句があればコメント欄まで。
※2021/12/7一部修正しました。
◆和訳(意訳)
You booked a night train for a reason
So you could sit there in this hurt
Bustling crowds or silent sleepers
You're not sure which is worse
夜行列車なんて予約したのね
人混みよりかは
静かな寝台車の方が
ツライときもあるのに
Because I dropped your hand while dancing
Left you out there standing
Crestfallen on the landing
Champagne problems
私があなたの手を離したから?
あなたを置き去りにしたから?
そんなにがっかりしないで
*1ちょっと飲み過ぎただけのことよ
Your mom’s ring in your pocket
My picture in your wallet
Your heart was glass, I dropped it
Champagne problems
ポケットに指輪
財布には私の写真
大事そうに持ってたあなたの心は
私があの日落とした
シャンパングラス
You told your family for a reason
You couldn’t keep it in
Your sister splashed out on the bottle
Now no one’s celebrating
家族にまで話しちゃったのね
勢いよく噴き出した
シャンパンみたいに
今じゃもう笑えない話かな
Dom Pérignon, you brought it
No crowd of friends applauded
Your hometown skeptics called it
Champagne problems
ドンペリなんて持ってきて
盛り上がるとでも思ったの?
あなたの地元の友達だって
そんなもんだって言ってたじゃない
You had a speech, you’re speechless
Love slipped beyond your reaches
And I couldn’t give a reason
Champagne problems
立派なスピーチだって用意してたのよね
*2ごめんなさい
何も言えなくて
でも 本当はなんてことなかったの
Your Midas touch on the Chevy door
November flush and your flannel cure
“This dorm was once a madhouse”
I made a joke, “Well, it’s made for me”
*3ぴっかぴかの あなたの車
*4本気になった11月
*5あなたの腕の中で 何度も泣いた
*6バカ言って笑った
How evergreen, our group of friends
Don’t think we’ll say that word again
And soon they’ll have the nerve to deck the halls
That we once walked through
*7思い出の場所も
別の誰かの場所に変わってく
あんなにみんな仲良しだったのにね
One for the money, two for the show
I never was ready so I watch you go
Sometimes you just don’t know the answer
‘Til someone’s on their knees and asks you
*8いちにのさんで飛び出したあなた
ひとりで行かせて ごめんなさい
なんでかわからないときもあるの
誰かが教えてくれるわ きっと
“She would’ve made such a lovely bride
What a shame she’s fucked in the head,” they said
*9私の頭がイカれてなければ
あなたとお似合いだったんだって
良い奥さんになるって
あなたとずっと一緒にいられたかもしれないって
But you’ll find the real thing instead
She’ll patch up your tapestry that I shred
And hold your hand while dancing
Never leave you standing
Crestfallen on the landing
With champagne problems
でもよかった
彼女となら大丈夫
その手を離したりしない
あなたを置き去りにはしない
私みたいに
ちょっとしたことで
あなたをがっかりさせたりしない
Your mom’s ring in your pocket
Her picture in your wallet
You won’t remember all my
Champagne problems
You won’t remember all my
Champagne problems
ポケットに指輪
財布には彼女の写真
私のことなんてもう覚えてないでしょ
私のことなんて
ちょっとしたことだったんだから
◆解説
*1ちょっと飲み過ぎただけのことよ
Champagne problems
“Champagne problems”という言葉は、「どっちも魅力的で選べない選択肢を含んだ問い」を指す。
或いは、「リッチな人たちのシャンパンの話なんて一般人からすればどうでもいいこと」=「些細なこと」という意味もあるそうで、ここでは後者を採用。
あえて世間を突き放した言い方をすることで、2人だけの大切な思い出を演出しているのだと思う。
また、タイトルにもなっているこの言葉は繰り返し登場しているが、その度に「誰にとっての“Champagne problems”か」その視点が変わっているのが面白い。
ちなみにテイラーは(というかアーティストの多くは)自身のプライベートを歌に生々しくぶちまけていることが多く、この歌も通説通り、トム・ヒドルストンとの関係とその終わりを歌ったものと解釈してはいる。
※当ブログのファンからすればMCUのロキでお馴染みの彼だ。
*2ごめんなさい
Love slipped beyond your reaches
当然のことながら“I'm sorry”なんて言っていないわけだが、「私はあなたの手の届かない遠いところへ行ってしまったのよ」という想いは、女の本気の「ごめんなさい」の一言で十分伝わるんじゃないかと。大好きな人の「ごめんなさい」ほど直感的にその人を遠くに突き放す言葉はないと思う。
*3ぴっかぴかの あなたの車
Your Midas touch on the Chevy door
これは、バカ正直に直訳されたものばっかりだったのをどう解釈したものかと悩んだ末に考えたもの。
触れたもの全てを金に変えるという「ミダス」の名前を出して、そいつがシボレーのドアに触れるとはどういうことか…。
※2021/12/7加筆修正
彼が触れるもの全てが輝いて見えた、そんな初々しかった「あの頃」の2人のそばにはミダスがいた(今は去った…?)。
ちなみにこの後の“Well, it’s made for me”までは全てシボレーの車内での2人のやりとりだと解釈しています。
*4本気になった11月
November flush
flush=ポッと紅くなる、紅潮するという意味だが、文脈としては本来flashだったのではないか?と思う。「フラッシュバック」=「パッと思い出す」のflashだ。そこに、「思い出すと今でも照れちゃう」という意味を込めて、あえてflushにしているのではないかと。
*5あなたの腕の中で何度も泣いた
and your flannel cure
フランネルというのはいわゆる綿の服のことだろうが、文脈をなぞるならシボレーの中で彼のシャツに顔を埋めた日々=彼に癒された日々の懐古シーンだと思われる。
単にcureを「癒された」としなかったのは、彼女が結構辛い思いをしているっぽいことが歌詞全体から伺えるからだ。
*6バカ言って笑った
“This dorm was once a madhouse”
I made a joke, “Well, it’s made for me”
ここは中身がどうこうよりも、バカみたいなジョーク飛ばしてたよねという2人の過去を振り返るフェーズなのでこんなもんでいいんじゃないかと。
曲の盛り上がりと共に、少ない言葉で綴られていた歌詞の語数がこの辺りでグッと増える。彼との思い出が溢れ出しているようだ。
但し、直訳した場合の「キチガイハウスなんて私にお似合いね」といった表現や、*8も含め、この歌の主人公の女性(=テイラー)は、周囲から相当キチガイ扱いされているらしく、そのことを自分で皮肉った言葉が非常に目立つ。
こんな意訳だとそのニュアンスが潰れてしまうけど、具体性を殺して普遍化に振り切ったと思ってもらえれば…。
でもその周りが言う「クレイジーさ」ってのが「シャンパン」というお酒に置き換わることでこんなに美しくて儚い世界観を描き出すってすごい。
*7思い出の場所も
別の誰かの場所に変わってく
あんなにみんな仲良しだったのにね
How evergreen, our group of friends
Don’t think we’ll say that word again
And soon they’ll have the nerve to deck the halls
That we once walked through
ここは多分、彼氏含めた(多分彼氏側?の)友人関係の終わりを歌っていて、「私たちがかつて歩いた場所も、彼らがすぐに飾り付けてしまう」という下りを意訳したもの。ちなみに"deck the hall"というフレーズそのものは童謡にもあるように、クリスマスを連想させる枕詞だと思った方が良い。かつてホリデーシーズンを楽しく過ごした関係の終焉を描いている。
*8いちにのさんで飛び出したあなた
ひとりで行かせて ごめんなさい
One for the money, two for the show
I never was ready so I watch you go
これをバカ正直に「一にお金、二にショーよ」なんて直訳してるサイトが多くて辟易。
これは、“One for the money, two for the show, three to get ready, and four to go”という童謡の歌い出しで、要は、「位置について、ヨーイ、ドン!」の英語版の掛け声である。
その三・四の部分を音韻を残しつつこんな切ない歌詞に置き換えるなんて、やはり天才的…。
加えてこれは結婚を考えていた彼が急ぎすぎていたことへの暗示でもある。あなたのペースについていけなかったの、と。
*9私の頭がイカれてなければ
あなたとお似合いだったんだって
“She would’ve made such a lovely bride
What a shame she’s fucked in the head,” they said
ここは原文とそこまで違いはないのだが、*6でも触れた通り、彼女が彼をふったことは周囲から相当悪く言われたようだ。
加えて、プライベートまで世間からの好奇の目に晒され続けていることへのグチのようにも聞こえて切ない。
最近日本でもアーティストへの過激な誹謗中傷が話題となることが増えたが、海外のそれ(特にアメリカ)は日本なんかの比ではないほどに苛烈だ。
現に「歌手を目指す人に一言」を求められたテイラーは苦笑しながら「弁護士を見つけなさい」と言っている。
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但しここでの自虐的な表現は、うまく言葉にできない彼との「すれ違い」をお酒だったりクレイジーな周りの目でごまかすためのもの。
結局、彼女はなんで彼を選ばなかったのか、“champagne problems”という言葉で濁したまま、ハッキリとは語ってくれないのである。
そこがむず痒くて、でも恋心というのはそういうものだと思うからこそ、その感覚が尚更愛おしくて、だから私はこの曲を何度も繰り返し聴いてしまう。