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「ブレーメンの音楽隊」ホントの教訓〜貧者の行進〜

ブレーメンのおんがくたい (はじめてのめいさくえほん)

ブレーメンのおんがくたい (はじめてのめいさくえほん)

あらすじ知らない方は自分でググって下さい。

hugkum.sho.jp

子どもに付き合って初めて絵本で読んだんですが、最終的にブレーメンに行かないことにびっくりしましたね!誰も音楽隊にならないし誰もブレーメンに到着しないからね!

それはさながら天竺行かない西遊記、母に会わないみなしごハッチ、ポケモンとらないサトシです。

まぁ言わばとんだタイトル詐欺なんですが、そこがまた面白いですね。理想を掲げた者たちが行き着く先、なんとも皮肉な物語です。

いわゆる世間一般的な解釈とはちょっと違う解釈しか浮かばなかった私は相当に捻くれ者なのでしょうか…。

◆犯罪者集団

一般的には、「弱いもの同士でも力を合わせれば強いものと戦える」とか「年齢や立場に関係なくいつでも人は夢を見て立ち上がれる」といった内容が本作のメッセージだと解釈されていますが…果たしてそんな綺麗事が描かれているでしょうか?私にはとてもそう思えませんでした。

本作の終盤、ブレーメンへの道中で動物たち(ロバ、犬、猫、鶏)はごちそうを囲んだ泥棒の小屋を見つけます。そして彼らはその小屋を強襲し、泥棒を追い出してそこに落ち着きます。「もうここで暮らせばいいや」と思ってブレーメンへの旅を途中でやめてしまうのです。

まずそもそも、彼らの強襲行為自体ほぼ犯罪です。相手が泥棒たちである、というところになんとなく「ならまぁいっか」みたいな空気が作られていますが、やってることは泥棒と同列の品のない行為です。だって彼らが泥棒を襲った理由って単純に「旅の疲れで腹が減ったから」でしたよね。

これが日本の桃太郎とかみたく「町を騒がせている泥棒を退治する!」なんて大義名分が最初からあったならまだわかります。が、彼らはただ自分が生き抜くためだけに目の前のご馳走につられて泥棒を襲っただけなんです。

更に言えば、襲われた泥棒たちが本当に泥棒だったのかもわかりませんよね。動物たちが外から小屋の中を覗いて見た「印象」で「あれは泥棒だ」と言ってるだけにしか思えないところも怖い。

もしかしたら「泥棒」とされている彼らもロバたちと同じように生きる場所を追われてただ泥棒に身を堕としただけの貧者だったのかもしれません。だからロバたちに追い出された泥棒の姿は、未来のロバたちの末路かもしれない。泥棒の小屋を勝ち取ったロバたちを「次のロバたち」が狙ってる、そう思えてなりません。

私にはこれが「ただ貧者が犯罪に身を堕とした話」にしか見えませんでした。

 

◆ブレーメンという理想

しかし本作が実に面白いのは、そんな彼らが最初は「ブレーメンの音楽隊に入ろう!」という大きな理想を掲げて仲間を増やしていったところですね。

この、「道中で仲間をスカウトして増やしていくプロット」そのものはこれまた「桃太郎」にもよく似ているのですが、「桃太郎」が村のために自ら志願して自警団を結成するのに対して、本作では「明日を生き抜く自分たちのため」に結託します。モチベーションの源泉が全く違うのです。

ロバの語る「ブレーメンの音楽隊への入隊」というのは言わば「理想」や「イデオロギー」のようなものであり、「鬼退治」のような明確な目的とは少し違っていました。

何せ、本作を読む限りは動物たちに音楽の経験やスキルがあるようにはとても思えません。どうやら「ブレーメンに行けばなんとかなる」という程度にしか考えていなかったようです。

この浅はかさがかえってリアルで面白い。食うに困った連中が語る理想とはその程度だという皮肉にすら感じます。

そして実際、彼らはその「夢と理想」をいとも簡単に捨ててしまう。まるで人類史における革命家たちの歴史を見ているようでした。貧者が掲げる夢や理想なんて中身が空っぽで、目の前にごちそう(富のメタファー)が並べられれば簡単に妥協してしまう。とてつもない皮肉ですね。当初は立派な志を掲げていた者たちが時流に乗せられ堕落していく様を我々はこの100年でもたくさん見てきたはずなのです。

 

◆力への目覚め

じゃあ理想を掲げた彼らがいとも簡単に挫折したのは、目の前のごちそうに釣られてしまったからなのか?というと厳密には少し違います。

「団結して戦ったら勝てちゃったから」なんですよね。

多分それまでの彼らの境遇からしても、雇い主に反抗したり抵抗したことなんて一度もなかったでしょう。それが、たった4匹でも団結すればいとも簡単に勝てちゃった。

ここで彼らの中の「暴力のタガ」が外れた。倫理観とか道徳心とか色々な理性によって抑えられていたいわば「獣性」が解放された。一線を越える覚悟が固まってしまったんでしょうね。暴力で相手を圧倒して搾取することへの快楽に目覚めてしまった。

だから「ブレーメンの音楽隊に入る」なんてこともうどうでも良くなってしまった。「かわいそうな弱き者」だったはずの動物たちは、賊に身を堕としてすっかり人が変わってしまった。なんだかそんな瞬間に立ち会ってしまった気がして、少し切ない気持ちになりました。

ま、フツーは子どもの絵本でこんなこと考えないのかもしれませんけどね。

(了)