いよいよゴーデス編完結に向けた前哨戦、「悪夢からの使い」。
ある意味主役はスタンレー、で尚且つゴーデスの生態というものがおそらく最も丁寧に描写されたエピソードだったとも思う。悪魔に呑みこまれた親友の姿から、ゴーデスの生態も少し深掘りしてみたい。
「ウルトラマンG(グレート) リマスター版」2020/7/25(土)CS初放送スタート!
遂にCSにウルトラマングレートが初登場!是非こちらもチェックを!
- ◆スタンレーの不可解な行動〜彼の使命とは?〜
- ◆UMAの変化〜神秘に見出した人間性〜
- ◆スタンレーの中にある2つの人格〜ゴーデスの本当の狙い〜
- ◆ジャックの葛藤とウルトラマンの迷い〜大逆転のアロービーム〜
◆スタンレーの不可解な行動〜彼の使命とは?〜
今回登場の毒ガス幻影怪獣バランガス。
劇中でも説明された通り、これまでバラバラに地球に降り注いだゴーデス細胞を回収して回るのがその役目のようだ。
第4話でも見られたように、各ゴーデス細胞はそれぞれがそれぞれの地域であらゆる生物や精神体に寄生していたと思われる。中には映像化されず、謎の怪物事件として解決されないままとなったコールドケースも存在したに違いない(各国のUMAが対処したのだろうか?)。或いは怪獣化すらせず覚醒の時を待つものも大勢いただろう。
そういった世界中の様々なゴーデス細胞を再集結させると同時に、己の能力もアップデートした怪獣:即ち過去の怪獣たちの様々な特性を兼ね備えたのがバランガスなのだ。なんて強そうな怪獣だろう!
市街地で、またUMA基地で大暴れするバランガスの映像の多くにはマペットが使用された。やはり咆哮をあげる禍々しいまでの凶暴な表情や(OP映像やあらゆる特写でも有名なカット)、街や砲台を踏み潰す爆破シーンではマペットの迫力が着ぐるみに勝る。
↑Blu-ray Disc2のピクチャーレーベルにも。
生き生きとした生物らしい生々しさを表現するにはマペットが最適だ。
特にバランガスのマペット撮影シーンは、DVD付属のメイキング映像でも確認できるので是非ご視聴あれ。
反面、着ぐるみ撮影のシーンでは、ウルトラマンと共に重厚感溢れる巨大怪獣らしい映像が楽しめる。
そんなバランガスを使役(及び変身)するのが、第1話にて火星で死んだはずのジャックの友人・スタンレーハガードだ。
実は第2話の段階で既に、黒服に身を包んだ彼がギガザウルス凶暴化のために暗躍していたのだが、今回は満を辞しての大活躍。
しかし、彼が5話で見せた行動の中には、何とも説明がつかない不自然な点がいくつか見られた。5話での彼の行動を振り返ってみよう。
まず、「火星からの奇跡の生還者・スタンレーハガード」としてUMAに接近。非常に大胆ではあるが、UMA基地の内部破壊を目論むのであればまぁ妥当な手段ではあるだろう。
そしてバランガスにUMA基地沿岸を襲撃させ、もぬけの殻となった基地内部を破壊。相手の裏をかく作戦としても完璧。ハマー1機の爆破と、ゴーデスセンサー記録の抹消は、UMAにとってもかなりの痛手だったはずだ。
そしてスタンレーにとって何よりも大きな収穫だったのは、ジャックの変身道具・デルタプラズマーの奪取に成功したことだ。もし、彼の狙いが「UMA基地の破壊とウルトラマンの抹殺」にあるとするならば、この段階でほぼ達成できたと言える。
しかし、基地内でのジャックとのやり取りを見るに、殺そうとするというよりも「口説いている」といった方が近いように思える。ジャックを殺すのではなく、共にゴーデスを受け入れようと説得しているようだった。
そして基地の襲撃後、ジーン隊員を人質にとって逃亡。ジャックを説得するための武器としてさらったようにも思われたが、今度はジャックに「俺を殺せ」と命じ始める。「スタンレーという小さな人間の肉体を捨てて外に出たい!」と懇願し始めるのである。
序盤〜中盤にかけては一貫性があるように見えたその言動も、終盤にかけて突然ブレ始めるのだ。結局スタンレーの目的とは何だったのだろうか?
◆UMAの変化〜神秘に見出した人間性〜
ここで少し話が逸れてしまうかもしれないが、5話でのUMAの活躍にも光を当てたい。
基地をバランガスに襲撃され、外へと飛び出す隊長以下4名。エンディングのカットでも有名な、夕陽を背に銃を構えた隊員たちのシーンだ。中央の隊長は勿論、勇ましく続くロイドといやいやっぽくも銃を抜くチャールズなど、チームの個性が滲み出たお気に入りのカットだ。
画がバッチリ決まったのに、火を消し忘れたと飛んで帰るチャールズなど、ちょっとした間抜け演出も含めてとってもUMAらしくて良い。
基地が攻撃されるという展開も、クライマックスが近づいていることを予感させるようで熱い。ゴーデス編完結に向け思わず手に汗握る。
しかし何より嬉しかったのは、アーサー隊長の
「ウルトラマンを援護しろ」
が聞けたことだ。1話では得体の知れないエイリアンとして攻撃命令を出し、その後は敵ではないとは認識しつつも基本的に「静観」を貫いてきたUMAが、明確にウルトラマンの味方という立場をとった瞬間である(かつ、シリーズ定番の攻撃命令!)。
ちなみに原語版ではシンプルに「加勢しろ」なのだが、ここは吹替版の「キャップの声」で聞くのが嬉しいところかもしれない。
戦闘中のロイドの台詞からも同様の変化が感じられる。バランガスに馬乗りにされ追い詰められたウルトラマンを見て
「何か躊躇っているようです」
と隊長に報告。
しかし原語版の字幕では
「このままでは(ウルトラマンが)やられそうです」
とかいう状況説明のみ。この違いはかなり大きい。
吹き替え版の台詞を軸に考えるとすれば、あの現実主義者のロイドでさえ、未知のエイリアンたるウルトラマンの中に「人間臭さ」を見出しているところが嬉しい。彼らにとってウルトラマンはもう「戦友」となのだ。
しかし、ロイドの台詞が意味するところも気になってしまう。
スタンレーの成れの果てであるバランガスとの戦闘を、あのウルトラマンが躊躇っている?!つまり、ウルトラマンとしての行動に、ジャックの意思が大きく影響を及ぼしているとでも言うのだろうか。
これまでの本作の描写(ウルトラマンとジャックは独立した自我を保ってきた)からはあまり考えられない展開なのだが、果たしてどう解釈すべきだろう。
◆スタンレーの中にある2つの人格〜ゴーデスの本当の狙い〜
まずは冒頭で棚上げにしたままのスタンレーについて考えてみたい。
改めてWikipediaを読み返していた時、ジーン隊員についてこんな記述に出くわして思わず目を丸くした。
↑※元文献。かなりの情報量を誇るそうで、購入が急がれる。
日本版脚本の全てが映像作品に反映された訳ではないにせよ、そこに「ゴーデス復活の為にジーンの存在が必要不可欠だった」という記述がある以上、その後の作劇(展開)にも強く影響を与えたと考えるべきだろう。
この記述とスタンレーの言動を併せて考えると、スタンレーの狙いはあくまでも旧友たる「ジャックの吸収」にあったのはおそらく間違いないが、親玉たるゴーデス本体の本当の狙いは、「ジーンの吸収」にこそあったのではないだろうか。
つまり、どちらも「ゴーデス」ではありながら、双方の目的には微妙なズレがあったと思われるのだ。このズレが、前述の「スタンレーの矛盾」を生んでいると思われる。
しかし私は短絡的に「人間の頃のスタンレーの感情が残っていた」なんて解釈を披歴するつもりはない。ゴーデスはあくまでもスタンレーの記憶と経験を利用したに過ぎず、スタンレーの人格は完全に死んでいたと見るべきだろう。
だから、スタンレーという個体が望んだジャックの吸収は失敗したようでも、ジーンの吸収には成功した(ジーンがゴーデスの沼に落ちた)=最大の目的は達成されたため、あっさりとスタンレーのクローン体を殺してバランガスに変身したのである。あくまでも「主」はゴーデスで、スタンレーの姿と行動は「従」の関係にある。
ジャックにスタンレーの肉体を殺させようとしたのも「親玉ゴーデス」の判断だ(その証拠に声が変わっている)。スタンレーは、ジャックと共にゴーデスとして生きることを望んだが、真のゴーデスの意思はそれすらも超越して、(スタンレーという)個体の生を殺してゴーデスとして「均質化」されることこそが幸福だと断じた。
※このズレの中に、僅かながら人間としてのスタンレーが生きていると見ることもできなくはないが、結局抵抗せずに飲み込まれた最期を見るに、やはりとっくに彼の人間的意思は死んでいると見るべきだと私は思う。
そう、ゴーデスによってもたらされる「死」とは、単なる大量虐殺(ジェノサイド)ではなく、「多様性の死」を意味しているのだ。全宇宙から生命の多様性を殺して回る、まさに死神なのだ。
※ゴーデスの特性やジーンが選ばれた理由等については次回記事でより深めていく予定。
◆ジャックの葛藤とウルトラマンの迷い〜大逆転のアロービーム〜
以前から指摘しているように、ゴーデスとウルトラマンには共通点が多い。と言うより、意図的に対比構造を強調して描いているように思われる。
全ての命を奪う死神:ゴーデスに宿ったスタンレーの人格と、全ての命を守る神秘の巨人:ウルトラマンに宿ったジャックの人格の対比が最も鮮明となったのが、この第5話だったとも言えよう。
ロイド隊員の言う「迷い」が本当にウルトラマンにあるとすれば、ウルトラマンとしての姿と行動にも、ジャックの精神状態が強く影響を与えていたと考えざるを得ない。
しかし、それこそがウルトラマンの美しさだと私は思う。
ゴーデスのように憑依した人間の意思をも飲み込んでしまうのではなく、ウルトラマンという巨体の中にも、ちっぽけな人間の豊かな人間性が湛えられている。
ウルトラマンの強さは、人間の心とウルトラマンの心が完全にシンクロしたときにこそ最大限発揮される。
これまでの戦いでは、ウルトラマンとジャックはいつも「別人格のまま、心を一つにして」戦ってきたのかと思うと、2人の精神力の凄まじさに感服してしまう。そんなジャックでさえ、流石に親友の仮面をつけた悪魔を前に心が乱れてしまった。
しかし、ロイド隊員の援護射撃を受けて一瞬の隙にウルトラマンが立ち上がる。そして、弓を引き絞ったポーズから、真っ直ぐ繰り出す正拳突き!放たれるアロービーム!
これこそ、ジャックが火星での悪夢と友人への未練を振り切り、悪魔を葬り去る決断をした劇的瞬間だ。そしてその決意が、ウルトラマンの使命とぴったり重なったからこそ、ウルトラマンは必殺技を放つことができた。
空手有段者たるスーツアクターが魅せるキレのあるアクションとグレートの美しさとドラマが見事融合した、ウルトラシリーズ屈指の名場面だ。
続く第6話のゴーデスとの決戦では、ご存知の通り、ジャックがウルトラマンを救ったが、実はこの第5話では、ウルトラマンがジャックを救ったのかもしれない。
映像化はされなかったが、変わり果てた友人を討たねばならない残酷な宿命を前に戦意を喪失しかけたジャックに再び勇気の炎を灯したのは、ウルトラマンだったはずだ。…想像するだけで胸が熱くなる。
その後ゴーデスは再び逃亡。辺りを探し回るウルトラマンの挙動は良い具合に「非人間的」。
ロイドの言うように、ウルトラマンに迷いや当惑があったとしても、その現場にいる人間にしかわからない直感的なレベルなのがリアルで良い。妙に人間臭い芝居を入れるでもなく、グレート特有の神秘性を保持し続けた魅せ方にも好感が持てる。
集結したゴーデスは地底を辿って決戦の地へ。いよいよ次回はゴーデス編完結!