◆デスキャブ、こんな人におすすめ
Death Cab For Cutie、実は私が一番好きなバンドです。
しかし、残念ながら彼らを知らない日本人が大半だと思います。私も、彼らの名前を友人の前で出して「知ってる」と言われたことは一度もありません。
日本での露出も少ないので仕方ないとは思うのですが、じつは90年代後半からずっと活動し続けているバンドで、日本で言えばミスチル並みのベテランです。彼らの詳細についてはウィキ等でも見ていただくとして、
とりあえず聴けば分かるから聴いてほしいんですが人を選ぶ可能性はあるので、以下に一つでも当てはまればおすすめかと思います。
- ボーカルの圧倒的歌唱力で魅せるバンドではなく、バンドサウンド全体で聴かせるアーティストが好きな方
- 叙情詩的な落ち着いたサウンドが好きな方
- しっとり優しい声質の歌手が好きな方
- パッと乗れるノリのいい曲よりも、奥行きがあってじっくり聴き惚れていくような曲が好きな方
今回和訳して改めて思いましたが、彼らの曲ってものすごく哲学的だし使われている単語も非常に文学的です。
でも、その分意訳に振り切れるところもあって非常に楽しかったです。
「人生の一曲」、そう呼べるほどに愛着のあるこの曲の和訳ができて、本当に嬉しい。
◆歌詞(和訳)
You may tire of me
as our December sun is setting
Cause I'm not who I used to be
冬は夜に包まれて
君は僕に冷たくて
僕はもう違う人だから
No longer easy on the eyes
But these wrinkles masterfully disguise
The youthful boy below
わからないだろうけど
それでもこの瞳の奥に
あの頃の僕はいる
Who turned your way and saw
Something he was not looking for
Both a beginning and an end
こんなはずじゃない
ずっと思ってたけど
見てるだけだった
But now he lives inside
Someone he does not recognize
When he catches his reflection on accident
今も僕はいる
君はきっと気づかない
僕だってもうわからないんだから
On the back of a motorbike
with your arms outstretched tring to take flight,
leaving everything behind
バイクの後ろで
風を浴びながら
君は腕を広げて
But even at our swiftest speed
We couldn't break from the concrete
In the city where we still reside
いくら飛ばしたって
この灰色の街からは
逃げ出せない
And I have learned
that even landlocked lovers yearn
For the sea like navy men
わかったんだ
あの地平線に
ずっと手を伸ばしてた
Cause now we say goodnight
from our own separate sides
Like brothers on a hotel bed
灯りを消して
離れて眠る2人
青白い壁を見つめて
Like brothers on a hotel bed
青白い壁を見つめて
x3
You may tire of me
as our December sun is setting
Cause I'm not who I used to be
冬は夜に包まれて
君は僕に冷たくて
僕はもう違う人だから
◆解説
But these wrinkles masterfully disguise
The youthful boy below
序盤に登場するこのフレーズ、直訳すると
でもこのシワが巧みに隠している、若い少年の顔を
という感じになりますが、ここで登場する "The youthful boy" -少年の顔- というのが、この後も"he" として引き続き登場します。
But now he lives inside
でも彼は内側で生きている
彼のオモテの顔の裏にある少年のような無垢な面(=彼女を愛していた無邪気な頃の自分かな?)は確かに存在しているけれど、今やどこにあるのか、本当にあるのかもわからなくなってしまった。そんなかつての自分を「彼」という言葉で他人として表現してしまうところからも、冷め切った現在の2人の関係が暗示されているようです。
※2022/11/13加筆↓
And I have learned
that even landlocked lovers yearn
For the sea like navy men
ここは、ずっと納得のいく訳が見つからなかった、最も解釈が難しかった部分です。直訳するなら
陸に囲まれた恋人たちだって、水兵みたく海に憧れてるってわかったんだ
という内容で、ここをどう解釈するかですが、より重要なのはこのフレーズの前後の内容、つまり「文脈の把握」です。前後の直訳も付記すると、
どれだけスピードを上げても、僕らが住むこの街のコンクリートからは抜け出せなかった
陸に囲まれた恋人たちだって、水兵みたく海に憧れてるってわかったんだ
だからそれぞれの離れたところから「おやすみ」…
この部分が、サビ及びタイトルフレーズ、"Like brothers on a hotel bed" の理由を説明した最も重要な部分であることがわかります。
多分、街そのものが物理的に2人を閉じ込めているのではなく、2人の関係性そのものが2人を閉じ込めているんだと思います。
すっごく仲の良い2人だけど、このまま一緒にいても新しい世界は見えてこない。それこそ、家族のような関係だから、お互いの成長は望めない。そのことに気付いてしまった。
上述の "The youthful boy" -少年の顔- から考えても、2人の関係はかなり長いのではないかと想像できます。
そしてここで、2人はそれぞれの新しい未来(=海)を望んでいたことに気付いた、と解釈して「地平線に手を伸ばす」という表現に置き換えています。
(まぁまだ納得いってないのでまた編集するかもしれませんが…)
※加筆ここまで↑
Like brothers on a hotel bed
そしてこの歌のハイライト。当初はここは素直に、
まるで兄弟にでもなったかのように
とほぼ直訳していました。冷め切った男女の関係を、ホテルに泊まる男兄弟のようだと喩える文学的すぎるセンスは意訳にせず素直に残した方が良いかと考えたからです。
が、英語として受け取るニュアンスと、日本語として受け取った場合のニュアンスは、意味が同じだったとしても全く異なります。
今回は、歌詞全体から漂う寂寞とした閉塞感や、冬の冷たい空気感を表現するため「青白い」というフレーズを入れています。
そして何より、「兄弟のように」なってしまった2人の距離感を表現するため、「壁を見つめる」というフレーズをあてがいました。それぞれが背中を向けて眠る情景を間接的に描写し、心理的距離感を表現したつもりです。
しかしこの歌の真骨頂は歌詞ではなく、ベンの穏やかなボーカルと、クリスの優しくも鋭いキーボードにあります。いや、私にとってこの歌のボーカルはもはやピアノです。
そのくらい、メロディそのものがこの歌の全てと言っても過言ではありません。
だから今回の和訳(意訳)がベストとは思っていません。今後、もっと良いフレーズが浮かんだらまた推敲していこうと思います。
ちなみに、もしこの歌が気に入ったなら、デスキャブの「Plans」というアルバムのほかに「Transatlanticism」もおすすめかなと思います。