毎週感想を書く気はないが、ちょっとネット界隈が一時騒がしかったので今話のみ扱ってみたい。
ウルトラマンゼット第3話について、
「倒されたゴモラがかわいそうだ」
という声が上がったらしいのだ。
『ウルトラマンZ』第3話「生中継! 怪獣輸送大作戦」-公式配信- "ULTRAMAN Z" Episode 3 -Official-
- ◆特空機という新しくて懐かしいロボット
- ◆決斗!セブンガー対ギガス!
- ◆ゴモラの魅力とは?
- ◆「怪獣プロレス」としてのウルトラマン
- ◆ゴモラは不憫?クロスオーバーの難しさ
- ◆初代「ウルトラマン」放送当時と同じ現象
◆特空機という新しくて懐かしいロボット
「ウルトラマンZ(ゼット)」の面白いところは、ウルトラシリーズでは定番だった特捜チームの要素をスポイルさせ(近年のウルトラシリーズ共通の傾向)、従来はウルトラ戦士が使役していたカプセル怪獣や怪獣ボールのキャラクターを人類の戦闘兵器(通称「特空機」)に置換。
過去シリーズとの大きな差別化に成功すると同時に、各話登場の新怪獣と特空機による往年の怪獣バトルモノの要素を強化。「ヒーローモノ」ではありながら、元々のウルトラシリーズが持っていた、「怪獣モノ」の要素を復興させたような新鮮でいて懐かしい魅力が詰まっている。
とりわけ特空機のコクピットや出撃シーンからは、どうしても「Gフォース」ぽさが感じられてまた懐かしい。
あの狭苦しい操縦席と壁面や天井を埋め尽くす大量のスイッチに計器類。ドーム状の建物から陽光煌く天空に向け出撃する飛行シーンなど、まさに平成版メカゴジラやモゲラを彷彿とさせる映像。
◆決斗!セブンガー対ギガス!
しかし3話冒頭の「セブンガー対ギガス」には笑った。
まずギガスというチョイスの渋さもさることながら、撮り方が完全に「ウルトラファイト」そのもの!少し引きの画で、どことも知れない崖の上を戦場に戦う2匹の映像からは、絶妙なチープさすら感じられる。殴り合いのSEなんか完全にそれ。
セブンガーにしろギガスにしろ2話のネロンガにしろ非常に渋いチョイスと「Gフォースっぽい」演出に「ウルトラファイトっぽい」撮り方。
「ウルトラマンZ」という作品が、意図的に過去作品の美味しいところを詰め込んだ、ファンサービスに満ちた作品を志向していることはここまででもハッキリしている。
ウルトラシリーズの強みは、ウルトラファイト等の本来「マイナー枠」だった作品も「公式YouTubeチャンネル」で無料配信してきた実績があるため、リアル世代ではない人間でもある程度元ネタとして理解できてしまう点にもある。
『ウルトラファイト』 第084話(配信#115) 「それはバルタンの罠だ!」 -公式配信-super
なんなら小学生(のマニア少年)でも各シーンが何のオマージュ(パロディ)か、見抜けてしまえるのではないだろうか。それだけ近年のウルトラシリーズは過去作品の流布に力を入れてきた印象が強い(ある意味ライダー以上に)。
◆ゴモラの魅力とは?
そんなウルトラマンゼットが今回対峙したのが古代怪獣ゴモラ。初代「ウルトラマン」に登場したゴモラよろしく、移送中に案の定覚醒、戦闘に突入してしまう訳だが、今話のゴモラに限って「かわいそう」という見方が噴出したのはなぜだったのだろうか。
それを考えるためにも、そもそも初代ゴモラがなぜ人気怪獣となったのかを考えておきたい。
ゴモラがウルトラマンに初登場したのが第26話「怪獣殿下」。古代恐竜ゴモラザウルスの生き残りとして登場。「移送して万博に展示したい」というのが時代を感じさせる。
しかしこのゴモラ、とにかくカッコいい。やはり目を引くのは黒田長政の兜をモチーフにしたとされる頭部の三日月型の角。男の子にとって強さの象徴とも言える鎧兜をフィーチャーしたその姿は、誕生から50年経った今も色褪せない。
そしてゴモラ最大の特徴はその戦績にある。初めてあのウルトラマンを倒した怪獣として、前編〜後編の2話に渡って活躍したのだ。
但し、60年代当時の目で「ウルトラマン」という作品を正しく捉えなければ、ゴモラの本当の魅力は見えてこないような気がする。
◆「怪獣プロレス」としてのウルトラマン
というのも、あくまで初代「ウルトラマン」当時の熱狂は「怪獣ブーム」であり、「ヒーローブーム」ではなかった(それが訪れるのは70年代のこと)。主役はあくまでも怪獣であり、毎週新しい怪獣が登場するということが、前作「ウルトラQ」から続く一大イベントだったのだ。
また、当時はプロレスブーム真っ只中。その流れを汲んで、「怪獣プロレス」という言葉も生まれた。
そして、毎週登場する新怪獣の物語に、たった30分で終止符を打つために登場した最強の覆面レスラーこそ、ウルトラマンだったのだ。だから「ウルトラマン」とは「怪獣プロレス番組」という側面も非常に強かった(勿論それに留まらない怪奇性に富んだSF趣味のエピソードも多数あることは百も承知の上で)。
とりわけ初期(ウルトラマンがAタイプの頃)の戦闘シーンには、プロレスを思わせるウルトラマンの挑発やコミカルな戦闘シーンも多数見られる。
ともかく、そんな時代に「最強レスラーたるウルトラマン」を完膚なきまでに打ち倒したゴモラに子どもたちが熱狂したのは想像に難くない。
◆ゴモラは不憫?クロスオーバーの難しさ
話を「ウルトラマンZ」第3話に戻そう。
だから、ウルトラマンゼットがベータスマッシュとなって再登場、看板のハンマーが倒れたセブンガーでゴングを鳴らすあのシーンはまさに「怪獣プロレス開幕のゴング」なのである。
そこからのベータスマッシュのパワーファイトぶりは映像の通り。送電塔での殴り合いなんかまさにプロレス。ゴモラという強力な超豪華怪獣をゲストに、見事ベータスマッシュは華々しくデビューを果たしたのである。
しかし裏を返せば今回ゴモラが登場したのも「ベータスマッシュの強さを見せるため」の采配だったという見方もできる訳で、その意味では「怪獣殿下」というタイトルで2話に渡って大暴れした初代の魅力は発揮しきれず、たった1話で散ってしまったが故の「噛ませ」っぽさが残る結果となったのは否定できない。
また、人類がゴモラを覚醒させてしまうという展開そのものは初代と全く同じだが、ゴモラ(怪獣)が主役だった初代とは違い、あくまでも今やウルトラマンが主役の時代。それもあって余計にゴモラの不憫さが際立つこととなったのかもしれない。
だが、「初代ウルトラマン(マン兄さん)のメダル」が必要となるシチュエーションを盛り上げるには、ゴモラはこれ以上ない好敵手。「怪獣退治の専門家たる大先輩の力が必要!」となる展開はやはり熱い。「ウルトラ兄弟」というクロスオーバーを前提にした作品の難しさはこういうところにある。
その結果、鮮やかに散ったゴモラの姿に「ゴモラ何も悪いことしてなくね?」という声が上がるのも致し方ないかもしれない。何せ元々眠っていたゴモラを動かしたのは人類の方だったのだから。
◆初代「ウルトラマン」放送当時と同じ現象
現実的に考えれば、そうは言っても市街地で暴れるゴモラは放置できないし、倒すしかないという判断も至極真っ当。
「元々ウルトラの世界はこういうものだ」という声も理解できる。怪獣保護を謳う作品は確かに多数派ではなかった。
感覚的には「ゴモラかわいそう」という声に対して否定的な意見の方が多かった気がするものの、この現象自体が、初代「ウルトラマン」の再現だという見方もできると思ったから、今回私も食いついてしまったのかもしれない。
と言うのも、毎週新しい怪獣が登場し、怪獣退治の専門家たる謎の宇宙人ウルトラマンが活躍するというシンプルなコンセプトで始まったはずの「ウルトラマン」は、回を追うごとに「毎週やられる怪獣がかわいそう」という声の高まりに追い詰められた番組でもあったからだ。
詳細は割愛するが、その極致が第35話「怪獣墓場」。それまでウルトラマンが倒してきた怪獣を科特隊が弔うというなんともシュールな映像が見られる。
更に、最終話「さらばウルトラマン」にて、その贖罪を果たすかのように、無敵を誇ったウルトラマンは無惨な敗北(死)を遂げる。
怪獣退治モノでありながら、「なぜ怪獣は毎度死なねばならないのか?」と制作側自ら番組コンセプトそのものを疑った結果、ウルトラマンは死ぬこととなった(この正直で誠実なスタンスこそが仇となった、とは言えそこが大好きなのだ)。
過去作へのオマージュとリスペクトに満ちた最新作「ウルトラマンZ」。
特に特空機の活躍を中心に、「ヒーローモノ」から「怪獣モノ」へ少し重心を移した本作にとっては、この「怪獣かわいそう」という声が上がること自体は歓迎すべきことではないだろうか?
あとは本編中で「ウルトラマンの罪」に触れる展開があるかどうかだが、そんなものの有無に関わらず、いちウルトラファンとして今後も本作を見守っていきたいと思う。