◆三面怪人ウルトラマン
初代ウルトラマンが初めて地上に姿を現した時、その顔の表面はややゴツゴツとしていて口元は歪み、目は釣り上がっていた。このラテックス製の特徴的なマスクは後年Aタイプと呼ばれることとなる。
製作上の都合としては、元々ウルトラマンの口を動かすつもりだったらしい。しかしどうにもうまくいかず、その名残で頬に大きな皺が残ってしまった。
その次に登場したのが、Aタイプと同じ型を用いて材質を硬質のFRPに変えた通称Bタイプだ。シャープな口元が印象的で美しい。体格も筋肉質になり、つま先が反り上がっているのも特徴の一つ。
更に第30話より登場するのが、微笑を湛えたアルカイックスマイルが特徴的な「完成形」とも呼ばれる通称Cタイプ。詰め物を増やしてより筋肉質となった体格と合わせて更にヒロイックな姿となり、ウルトラマンのイメージを決定づけた。
以上が、各所でも既に語られ尽くしているウルトラマンの顔が3種類存在する製作上の理由だ。しかしここでは、作品中でなぜウルトラマンが三段階の変化を重ねることとなったのか、作劇上の理由について考えてみたい。まぁ例によって後付けの二次創作のようなものだが、こういうスキマ設定の考察は楽しい。
◆Aタイプ(不完全体)
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通称Aタイプの姿は、後にCタイプにて完成されるヒロイックな姿と比べるとどうも不気味だ。いかにも宇宙からやってきた得体の知れない異星人という感じがして、ミステリアスな印象が強い。
これはおそらく、Aタイプのウルトラマンが不完全体であったからではないだろうか。
地球に飛来したウルトラマンは、その際にハヤタ隊員を過失にて死なせてしまっている。そして死んだ彼の人間としての肉体を借り、ウルトラマンの命を彼と分け合って地球に滞在することとなった。しかし、この初期段階におけるウルトラマンとハヤタの一体化度合い(=シンクロ率)はまだ浅かったのではないだろうか。それ故、宇宙人然とした姿が前面に出ていた。
或いは、あのAタイプの姿こそが、本来のM78星雲人としてのウルトラマンの本来の姿、とも解釈できる。
いずれにせよ、我々が知っているBタイプやCタイプのような「ウルトラマンらしい姿」というのは、後天的に獲得したもの、ということだ。
◆Bタイプ=中間体
Character Classics ウルトラマン Bタイプ 1/5スケール コールドキャスト製 塗装済み完成品フィギュア
そして第14話より登場するBタイプは、Aタイプに比べると上半身もマッシブになり、顔の皺もスッキリ消えて美しい顔立ちに変わっている。
この頃にはすっかり彼も「怪獣退治の専門家」=我らのヒーロー・ウルトラマンとして地球上では認識されており、そんな人々からの信頼の眼差しが彼を無自覚の内に美しい姿へとバージョン・アップさせたとは考えられないだろうか?
そしてそこには勿論、人間・ハヤタ隊員の感覚も強く作用しているようにも思える。
そもそも、他の多くのウルトラ戦士とは異なり、初代ウルトラマンはハヤタ隊員の姿のときからウルトラマンとしての人格で過ごしており、ハヤタの意識は水面下に眠っていると考えられる。
※このことは、最終回でウルトラマンと分離したハヤタ隊員の記憶がほとんど残っていなかったことから想定されている。
とは言え、潜在思念では間違いなくハヤタの意識がウルトラマンに影響を与えており、地球に根付いていくウルトラマンに、より強い人間性を与えていったに違いない。
レッドキングやジラースなど、並み居る強豪怪獣を打ち破ったウルトラマンに、子どもたちは強くてカッコいいヒーローとして熱い視線を送ったに違いない。そんな子どもたちの真っ直ぐな想いを受け止めたウルトラマン、そしてハヤタ隊員は、知らず知らずの内に、そんな人間の心を反映させて、より強く、カッコよく、美しい姿へと進化を遂げたのだ。
◆Cタイプ=完全体
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そしていよいよウルトラマンの姿はCタイプとして完成する。より力強く、美しく、心優しく逞しいヒーローとして彼は三段階の進化を果たしたのだ。
ウルトラマンは、彼を信じる人間が強くした。子どもたちが彼を強く、そして美しい姿へと進化させた。或いは、人間を愛したウルトラマンが、もっと人間に愛されたいと願って姿を変えた。ウルトラマンと人間の心の交流が彼を変えたのだ。
第33話にて、メフィラス星人にお前は人間なのか宇宙人なのかと問われ、「両方さ」と答えた彼は、確かに宇宙人でありながら、人間に愛されようと、人間に近付いていた。
最終回にて「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン」とゾフィが驚いたのも無理はないが、1年にも満たない地球滞在で、たった1人の人間・ハヤタのために自分の命を捨てようとまでしたウルトラマンの気持ちもよくわかる。彼の心はすっかり人間になっていたのだ。
◆その他のウルトラ戦士
今回の初代ウルトラマンの例は、帰ってきたウルトラマンの事例とは逆をいくパターンである。
人間・郷秀樹が次第にウルトラマンと一体化していったのとは反対に、完全なる宇宙人だったウルトラマンが、どんどん人間に近付いていったのだ。
そう考えると、帰ってきたウルトラマンが最初からCタイプ面をしていたのにも納得がいく。郷秀樹の中には、既に初代ウルトラマンの強いイメージが根付いており、そのイメージが彼をCタイプマスクのウルトラマンとして実体化させたとも解釈できよう。
そして何より今回の考察の面白いところは、ウルトラマンという存在は、人間によって完成するという点にある。
まさしくウルトラマンタロウがそうだった。「タロウ」の第1話を見る限り、タロウというウルトラ戦士は、東光太郎という人間の死体を供物にしてあの場で誕生したようにしか見えないからだ。
70年代のウルトラの星は、どうも勇敢な人間をスカウトして、人工的にウルトラマンの第1話=ハヤタ×ウルトラマン融合の事例を再現しようとしているようにすら思えるのだ。
その背景には、M78星雲を旅立った当初とは比べ物にならないほど見た目にも実際にも強くなって帰還した初代ウルトラマンの先例があったのかもしれない。
M78星雲人は、勇敢な地球人を取り込むことでより強力な戦士へと進化する。そして人々がウルトラマンに与えるイメージがウルトラマンを更に強くする。
その事実がたまたま偶然発覚するきっかけとなったあの竜ヶ森での事件は、人類史においても、そしてウルトラマン史においても、やはり突出して記念すべき出来事だったのかもしれない。