adamomanのこだわりブログ

特撮ヒーロー、アメコミヒーローを中心にこだわりを語るストライクゾーンの狭すぎるブログ

4K ultra HD「レヴェナント」感想と考察〜「呼吸する映像」その美しさに、酔う〜

かねてから特にその映像の迫力について幾度か触れてきた大傑作巨編、「レヴェナント〜蘇えりし者〜」。

詳しくはWikipedia等をご参照いただくとして、今回は

「ネタバレ無しで映像美について」

「ネタバレ有りで作品の感想と考察について」

と2段階に分けてご紹介したい。


レヴェナント:蘇えりし者 (字幕版)

↑是非未見の方は予告編を。

レヴェナント:蘇えりし者(2枚組)[4K ULTRA HD + Blu-ray]

◆-intro-実話がモチーフ⁈「レヴェナント」とは?

「レヴェナント」は2015年公開の映画で、19世紀西部開拓時代の北アメリカ大陸が舞台となっている。

いわゆる「ネイティブアメリカン」と呼ばれる様々な原住民たちの土地に、ヨーロッパから入植してきたアメリカ人に加えフランス人も乱入。毛皮目的の乱獲と同時に、各部族の土地も女も全てを奪い破壊し尽くしていった。

しかし負けじと応じる現地民たち。アリカラ族を始め西洋人に強く抵抗する者たちも数多くいた。

本作は、そんな過酷な時代にアメリカ人の現地ガイド(及びハンター)として活躍したグラスという男の物語だ。

ざっくり言ってしまえば、「熊に襲われて半死半生の身となり、仲間に見捨てられ生きたまま埋葬されたにも関わらず、再び土中より這い上がり、自分を見捨てた上に息子を殺した男への復讐を誓ったグラスの壮絶なサバイバル劇」である。

ちなみのこの「山奥版ダイハード」。実は語り継がれている実話を元に創られたそう。勿論映画として脚色された部分は多々あるとは言え、熊に襲われて瀕死だった男が自分を生き埋めにした元同僚を追いかけて復活するという部分はほぼ実話らしい。

「レヴェナント(revenant)」という言葉にも「亡霊(帰ってきた者)」という意味があり、まさにグラスという男を見事に表現したタイトルと言えるだろう。

本編を見られた方はお分かりの通り、出演者たち、特に主演のレオナルドディカプリオはもう筆舌に尽くせぬ壮絶で過酷な撮影現場を強いられたに違いない。本作で念願のアカデミー主演男優賞を獲得。文句なしの結果だと思う。

 

◆「息をする映像」〜映像美の魅力(ネタバレ無し感想)〜

本作に関して真っ先に語りたいのは、その超絶映像美である。

勘違いしてほしくないのが、本質的には「画質」の問題ではないということだ。その証拠に、本作では最近流行りのIMAXカメラも使用されていない。

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◆大自然の映像美を堪能〜土地の息づかいまでが聴こえる〜

主役は勿論そこに生きる人々なのだが、第二の主役とも言えるのが、ロケ地となったカナダ(及び南極)の大自然だ。とにかく、5秒に一度、思わずため息がもれてしまうほどに美しいカットが挿入される。

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雪を戴いた山脈と朝焼けに照らされた荒野

木々の隙間から我々を見下ろす真昼の半月。

冷たい川のせせらぎと真っ白に輝く太陽。

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エメラルドグリーンの夜空に輝く星々。

その雄大かつ繊細な美しさを湛えた風景と、坂本龍一手掛ける重厚なミュージックが見事に本作の世界観を構築。セリフがなくても映画が成立してしまいそうなほどに、映像そのものの持つ力が凄まじい。

その土地の息づかいが映像から聴こえてくる。あくまでも視覚と聴覚しか刺激されていないはずなのに、気がついたら五感が総動員で映像の世界にのめり込んでいる。

「もう、そこにある」かのような錯覚を起こすほど、臨場感のある映像。

-この映画は呼吸している-私は、そう感じてしまった。

 

◆映像で語る作劇〜名画の如き幻想的なカットの連続〜

本作の撮り方として、そんな大自然を俯瞰して見せる「引き」の映像と、登場人物と同じ高さ・目線での「寄り」の映像交互に映されるという特徴がある。

本作は案外登場人物が多く、先に砦へと戻る隊長たちや、彼らを追いかける後続部隊に、1人取り残されたグラス、更にはアリカラ族らに加えてフランス人たち…と広大な大地で様々なキャラクターが同時進行で動いている。

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しかしストーリーテリングが分かりやすく全く混乱しないのは、まず「引き」の画で場面転換を説明、続いてキャラクターへの「寄り」で動きと感情を見せ、もう一度「引き」で俯瞰するという映像による作劇が見事に成立しているからだろう。

しかしながら、登場人物と雄大な自然がマッチした幻想的なカットもたまらない。

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さらわれた娘を探す部族の老人が、虚ろな瞳で佇むだけの画が、様になる。もはや一服の名画である。

そんな宗教画のように神秘的なまでに洗練されきった構図の画が、あちらこちらに溢れている。本作を見終えた頃には、まるでルーブルを3時間かけて周遊したかのような満足感が得られるだろう。

 

◆ドキュメンタリータッチな有無を言わさぬ血生臭い映像

「寄り」の映像が持つ迫力 もまた凄まじい。

まず、冒頭のアリカラ族による襲撃シーンから本作に飲み込まれた(予告編にも一部登場)。

ろくに登場人物の説明的展開もなく、この人がサブキャラ?と思ったら矢を受けて死に、そいつを殺した奴が銃で撃ち抜かれ、引き金を引いた男もまた次の瞬間には矢を額に受けて死に、まるでそれが当然の風景かの如く、容赦なく人が死ぬ。

しかも、説明臭くなる余計なBGMは基本的に無し(効果的な場面でのみ使用)。

人の死や暴力を包み隠さず映像化するから、アクションでもホラーでもなくドキュメンタリーとしてのめり込んでしまう。

上述の通り、風景は美しいが、やってることは物凄く血生臭い。とにかく本作は血生臭い映画だ。

中でも特に、見ていて息が出来なくなる程に凄まじい(人によっては吐き気すら催しそうな)のが、グリズリーに襲われるシーン。

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※もう本作見たらリラックマとかクマさんモチーフのキャラクターなんて直視できなくなると思う。

このシーンに限らず、本作では荒々しい呼吸が音として表現されるだけでなく、「映像化」されている。キャラクターの激しい息づかいに、カメラがしょっちゅう曇るのだ。あらゆる場面で、間近に彼らの血潮を感じて共に震えながら、ふっと、俯瞰した大地の映像にため息を漏らす。醜く血生臭い映像と美しく壮大な映像のコントラストに酔う。

いずれそれらが一体のものであると本能が気付く。否むしろ、美しい映像こそ実は恐ろしく、血生臭い映像にこそ人間の美しさが光る。だから、156分ある本作でも、最後まで目が離せない。離れられない。

 

◆4KultraHDで堪能せよ〜通常のBlu-rayとの違いは?〜

正直言って、通常のBlu-rayでも十分美しい。非常にハイレベルな映像体験が楽しめる。しかし、更にその上の4KultraHDでの映像体験は、Blu-rayのそれを遥かに上回る。とりわけ、自然風景の映像と4KultraHDは相性が非常に良いと思う。

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※上がBlu-ray、下が4KultraHDのイメージ。自分が感じる「色合いの違い」をのみ説明するために用意した画像なので解像度はクソで勘弁を(違いもわかりやすくするため極端に変えている)。

◆通常Blu-rayの特徴

・非常に色鮮やかでコントラストも明瞭

・画質自体は十分に美しい

・絵に例えるならベタ塗りの油絵

◆4KultraHDの特徴

・通常Blu-rayに比べコントラストが抑え目で、より「自然で落ち着いた色合い」→結果的に、現地で直接目で見たかのようなリアルな色合い

・単純に通常Blu-rayより解像度が遥かに高いので、高所からの映像でも細部がより鮮明に見える(例えば空撮ドローン映像でも地上を歩く人のカバンのチャックの色がわかる)

・絵に例えるなら色鉛筆等で極細部に至るまで徹底的に描き込んだ写実画のよう。

言うまでもなく本作「レヴェナント」は圧倒的に4K版がオススメ。

デメリットを強いて挙げるとするならば、通常Blu-rayでは実写かCGIか全く見分けがつかなかった映像が、4Kで見ると素人目にも「あ、ここCGIだな」とわかってしまうこと(それくらい高画質)。

 

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※以下ネタバレ含む

 

◆(ネタバレ含む感想)

本作のもう一つ更に大好きなところが、合間に所々(サブリミナル的に)挟まれるエキセントリックなイメージ映像の数々だ。

作劇上はグラスの見た夢か幻想のような扱いとなっているが、ラストシーンにかけてはほぼグラスの心の投影としても欠かせないものとなっている。

グラスの頭上に現れる宙に浮いた妻の姿や、半壊した教会、大量のバイソンの頭骨の山(これは史実?)など、何かを象徴する形で、過去の体験等と織り交ぜながらフラッシュバックするかのように映し出される映像の数々。

「エルトポ」好きの私としてもほんの少しホドロフスキー感漂うエキセントリック具合に少し心が浮ついた。

そんなイメージ映像は、シナリオ以上に雄弁にキャラクターの心情を語るもの。それらの映像を注視する中で私の心にぽっかり浮かんだのが、「彼らの神とは何か?」という疑問だった。

 

◆フィッツジェラルドにとっての神とは何か?

劇中、最も「神」について口にしたのが本作最大のヒール(悪役):グラスを生きたまま埋葬し、彼の最愛の息子を刺殺した男・フィッツジェラルドだ。

「神は与え、神は奪う」

彼のこのセリフ、彼がアリカラ族の襲撃から命を救った青年・ジムを脅迫する場面で発される。ジムの命を救った俺こそお前の神。ならば命を奪う権利もある。彼らしい横暴さの表れたセリフだ。

要は、彼にとっての「神」は、剥き出しのエゴ(自我)そのものなのだ。だから、自分を潤す金にも目がない。仲間を平気で裏切り引き金を引く。自分自身が一番偉くて、自分自身を崇拝している。

そんな彼にも、この開拓戦争の犠牲者としての一面(剥がされた頭皮)が描かれているのがまた奥深いところ。アリカラ族を憎んでいたと思われた彼の終盤での隊長への凶行は、ある意味で差別意識をも超越した「人間に潜む普遍的な暴力性」を象徴している。自分の邪魔をする者はなんであれとにかく排除するのだ。そして彼の姿は、先住民の大地と歴史を踏みにじってきた西洋の侵略史ともぴったり重なるのである。

 

◆グラスにとっての神とは何か?

比較的単純なフィッツジェラルドに対して、グラスのそれはやや複雑だ。

フィッツジェラルドもそうだが、彼らはキリスト教を信仰しているように見せかけて、それぞれの胸の内にあるものは、キリストでも聖書でもなんでもない。

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フィッツジェラルドは、自分こそが神であり、自分こそが聖書なのだが、グラスの場合のそれは、何であろうか。

とりわけ終盤、グラスの耳に常にこだましていたのは亡き妻の言葉だ。

嵐を前に、木々がどれだけ揺れたとしても、びくともしない幹の存在を示唆する力強い言葉が彼の支えとなっていた。

そして、彼が強く抱きしめた木の幹は、彼の大切な一人息子・ホークだった。彼にとっての信仰=生きがいは、家族だった。家族こそが彼の神様だった。

そう言ってしまうと「要は家族愛を謳った映画だったのか」、と短絡的に思い至ってしまうかもしれないが少し待って欲しい。自分の家族を心より愛し守ろうとする心は、己の子孫を残さんと生き抜く森羅万象生きとし生けるもの全てとも重なる本能的・原初的欲求のはずだ。

だから、グラスが家族を想う心は、大地に根付いている。近代人が単に家族を愛でるような心情的なものの次元を遥かに超越した、肉体的・本能的次元のものだった。

だからこそ、旅の途上で出会ったハンターにも命を救われ、最後には殺されてもおかしくない状況で、恩義のあった族長の娘の計らいで命を奪われずにすむ。

グラスは立場も人種も開拓民だがやはりそのマインド(内面的に)は土着の人々に非常に近かったのだろうと思う。

 

◆ラストシーンをどう解釈するか?〜イニャリトゥ監督の言葉から〜

イニャリトゥ監督の言葉が何よりもグラスの生き方を象徴している。

人は失ったもので形成される。人生は失うことの連続だ。失うことでなりたかった自分になるのではなく、本当の自分になれるのだ。

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ - Wikipedia

グラスはヒグマ(これもまた大自然の営みの象徴の一つ)に襲われ、一度は命を(ほぼ)失った。しかしまるで赤子のように、歩き方も、言葉も失った状態で墓穴から這い上がった。まさに再誕したのである。

彼の復讐の旅は失うことの連続であった。しかし、同時に何かを得てもいた。ヒグマには己の肉体をズタズタに引き裂かれたが、討ち取った毛皮は彼の体を温めた。

ようやく手にした馬もすぐに失ったが、その死体に入って暖を取った。

息子の形見の水筒も失ったが、それが彼の生還に一役買った。

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※水筒に刻まれた渦巻き模様が実に興味深い。まるで因果や輪廻を象徴するかのようでもあり、古今東西どの部族においても渦巻き模様は神秘的で力強いものの象徴だった(縄文土器の紋様然り)。

妻を失い、最愛の息子まで目の前で殺され、何もかもを失ったグラスは、失うことで生きる糧を得た。新たな命と使命を得て、普通なら死んでいてもおかしくない絶望的死線を、幾度となく潜り抜け、再び己の足でフィッツジェラルドの前に立ったのである。

 

フィッツジェラルドはその逆だ。劇中でもグラスが漏らしていたように、彼は失うものが多すぎる。失うことを恐れているからこそ、何も得られない。その真逆の生き方こそが、グラスがフィッツジェラルドに仕掛けた「罠」でもあった。どうあがいても、彼に勝ち目は無かったのである。

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本作のラストで、グラスは復讐の刃を手放し、己の命も含めた全ての選択を神に委ねる。そして生き延びた彼は亡き妻の姿を見つめ、そして本作は幕を閉じる。

彼は何もかもを失った後で、「魂の喜び」に至ったのかもしれない。生死を超え、個人的復讐をも超えたその先に、心に宿る最愛の女神に恥じぬ生き方を貫いたことへの誇りと恍惚に包まれるのである。

「民族対立や北米開拓史の闇を描き出す」云々は結果的に付随されるものであり、本作の最大のテーマではない。

グラスを通じて描かれたのは、気高き生命の美しさだったのである。

 

ここまでネタバレ覚悟で読まれた未見の方もおられると思うが、本作の解釈はあくまでも見る者に委ねられている。あなたはこの映画の何に強さと美しさを見出すだろうか?

なんであれ私は、「人は失う度に強くなる」という生き方を示してくれた「レヴェナント」に、時を超えて今を生き抜く生命力を戴いた想いでいる。