ゲゲゲの鬼太郎といえば、原作コミックスは勿論、アニメシリーズは特に第4期が直撃世代。小1で既に「日本妖怪大全」を読み込むほど、とにかく鬼太郎と妖怪の世界に夢中になった。
中でもアニメ4期で印象深かったのは、原点回帰と言われた作風や、正義のヒーロー然としていないクールな鬼太郎像も勿論だが、人情味溢れる感動的なエピソード群は欠かせない。
そこで今回紹介したいのが、59話「妖怪オバリヨン!」である。
詳しいあらすじ等は検索するかご視聴の上で本記事を読んでいただければ幸い。ともかく、4期鬼太郎の中ではダントツにオススメできる作品。
個人差はあれど、泣くと思う。
鬼太郎見たことないという人でも、十分楽しめる内容だ。
未見ならとにかく上記リンクから視聴してくれ。
◆人と人のつながり
個人的に嬉しいのは、「現代」(作中においてという意味)であれ、人と人との距離感が近いことだ。
まず、妖怪を見たという話を笑い飛ばしながらも「友達が鬼太郎の知り合いらしいから」と、あっさり鬼太郎と繋いでもらえるこのスピード感と距離感。そして勇壮なBGMをバックにとぼけた顔でやってくる鬼太郎。そうそう、鬼太郎ってこんな、すっごく身近な都市伝説的存在なのだ。
更には「妖怪を見た」という噂話が、「豆腐屋の〇〇ちゃんのお母さんから聞いたわよ」と帰宅する頃には母の耳にまで届いていたこと。なんとなく時代を感じる。96年のアニメだが、あの頃ってこんな会話まだ違和感無かったのか。
家に帰って「友達が妖怪を見たって言ってた」って話をすぐお母さんにする家庭環境、それをその子の母親にすぐ伝える近所の繋がり。たった20年で更に薄まってしまったであろうものが確かに息づいていて、なんだか嬉しかった。ほっとした。
◆30年前の東京
あっという間に時空を超えて30年前までジャンプする展開にも驚いたが、まず30年前の故郷の姿にもなぜか涙してしまう。とりわけ名BGM「レクイエム〜魂のやすらぎ」の力も大きい。必然的に、ノスタルジックで感傷的な気持ちにさせられる。
これは4期鬼太郎の最大の強みの一つとも言えるだろう、和楽器と弦楽器を多用した劇伴は、昭和の町並みとの相性が抜群だ。実に、良い。
薬屋、乾物屋、あちこちにあった空き地と、ちゃんばらごっこに夢中な子どもたち。そして語られる、妹の死の真相。30年も待ち続けた、オバリヨンの想い。叶えてあげたかった願い。小柄な体躯ながら地面に拳を打ち付けて慟哭するオバリヨンの姿は、見る者の涙を誘う。
妹との再会が橋の上というのも、あの世とこの世の狭間にいるのを象徴しているようだ。タイムワープしてきた姉の娘のことも知っており、幼齢ながら、どこか達観しているようにも見えた。
◆なんでラーメン?
この時代の贅沢といえば、デパートだった。大きな建物そのものが新鮮だったのだ。
幼少期の「贅沢な思い出」といったら、大概誰にとっても、なんだかみすぼらしくて貧乏くさいものが多い。でも、その瞬間の感動や喜びは、いくつになっても色褪せない、誰にも奪えない大切なもの。そして、大人になってからいくら贅沢をしても、絶対に敵わないもの。
タイトルバックにあった「お子様ランチ(120円)」の意味がここにきてようやくわかるわけだが、なぜか妹が選んだのはラーメンだった姉の反対を押して、ラーメンを頼んだ。そしてどうしてだろう、ここが最も、泣けた。
子供用の高い椅子に座りたがる彼女の姿も目頭を熱くする。少しきつくとも、やっぱりあの椅子に座る特別感を求めてしまう。食券を置くルールも、店員の鮮やかなモギリも、特別感を彩る細かな演出が小気味良い。
だけど、食べるのはラーメンだった。好きな具をかえっこし合う食事場面を見るに、2人でいつもこうして寒い日はラーメンを食べてきたのだろう。最期に、彼女は特別なご馳走ではなく、姉との思い出のラーメンを選んだのだ。
ストーリー自体は王道なのかもしれないが、4期鬼太郎の良さが全て凝縮された傑作に思う。美しい劇伴、ノスタルジックな昭和の町並み、妖怪たちと人々が織りなす人情味豊かな物語。
是非、未見の方にはご視聴いただきたい。