本当ならジャスティスリーグ・パート6の記事をまとめるつもりだったのだが、フラッシュのことだけで一個の記事になりそうなくらいフラッシュのことを語りたくなったのでスナイダーカット版フラッシュ記事としてまとめます。
◆ザックも許せない劇場版
昨年秋に公開された、ザックスナイダー監督のインタビュー動画。
この中でフラッシュについて非常に興味深いことが語られている。
バリーが高速移動中に人を動かすのは好きじゃない。本来であれば、とてつもないスピードで動いているバリーに触れられた人間はただでは済まない。肉が骨から引き剥がされるほどの衝撃をその身に受けるはずだ。
相手もスピードフォースによって守られるという解釈もできなくはないがそれはあくまでも解釈の一つに過ぎない。
スピードフォースと共にある者が人に触れるときは実に繊細な配慮が求められるはずだ。(ざっくりした意訳)
これはもちろん「劇場版」の終盤に登場したロシア人一家を超高速で車ごと救出したシーンのことを指しているのだろう。確かにザックがフラッシュの能力をこのように解釈しているのであれば許せない描写だったに違いない。
...てかザックやっぱり「劇場版」見てるやん(笑)
そして彼のこの言葉を踏まえると、「スナイダーカット(SC)」におけるフラッシュの描写の意図がより鮮明になってくる。
まずはアイリス救出シーン。
瞬時にスピードフォースにアクセスしたバリーは、素早く向きを変えただけで靴を引き裂いてしまう。そして人差し指で触れるとガラスは粉々に。アイリスの元へ駆け寄り、急制動をかけた足元のアスファルトはえぐれる。
バリーの周囲にある様々なオブジェクトは、容赦無く破壊されてしまうのだ。
しかしここからバリーは、まさにガラス細工に触れるようにそれはそれは丁寧にそしてゆっくりとアイリスの体に触れていく。
このくらいそうっとそうっと触れなければ、アイリスも傷つけてしまうかもしれないからだ。
ここでのバリーの繊細な所作は、彼の恋心を象徴すると同時に、実は乱暴極まりない彼の特殊能力の暗示でもあった。
しかしそれでもバリーはなりふり構わずアイリスに触れてしまった。それまではおそらく必死に自身の素性(や能力)を隠してきたにも関わらず、スーツもなしで素顔のまま靴やガラスや道路を破壊して彼女を抱き寄せた。
こんな美しい恋の始まりを、私は見たことがない。
◆人に触れないフラッシュ
...言われてみればザックが描くフラッシュって、超高速で動いているときはほとんど人に触れていない。
ステッペンウルフとの初戦で地下トンネルから人質を救出するシーン。皆がぞろぞろ階段をのぼる姿を見て、ドラマ版「フラッシュ」のイメージがあった私は
「いや、お前超高速でとっととこいつら運び出せや」
と思っていた。が、普通の人間をスピードフォースの中に巻き込めばその肉体もただごとでは済まない。
@DC. Zack Snyder's Justice League @2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved
階段をのぼり切って屋外に脱出した矢先、大量の瓦礫が頭上から降ってきたときもフラッシュは人々をどけるのではなく瓦礫の方を必死に撤去していた。
あとはクラークの棺を掘り出すシーン。ここでも、超高速能力使ってとっとと掘り起こせよと思っていたが、掘り起こす際にもしクラークの肉体に傷でもつけてしまえば...あるいは飛ばした砂が高速の弾丸となってそばにいるビクターに当たったら...そんな配慮があったのかもしれない。
◆変な走り方の謎
@DC. Zack Snyder's Justice League @2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved
「劇場版」でとりわけ顕著だったのが、フラッシュの変な走り方。クネクネとした奇妙な姿が見られたが、気持ち悪い走り方のシーンがほぼ「SC」では見られなかったことからそれも追加撮影版だった(或いは視覚効果を薄めたザック版の流用だった?)可能性が高い。
とは言え、それでもザックが描いたフラッシュは「走る」というより「舞う」「跳ねる」「泳ぐ」ような姿で描かれており、それまでのフラッシュのイメージとやや異なっているのは確かだ。
どうやら本作の撮影に当たってエズラはヨガやカンフーを修得したらしい。さらには中国のウダン山脈の寺院にも学んだというエズラ。
復活したスーパーマンとの戦闘シーンで見られた、忍者のような指を立てたポーズや、最終決戦を前にしたストレッチシーンなど、どこかオリエンタルな所作が見られたのはそれが由縁らしい。
つまり、ザック版フラッシュに必要なのはフィジカルな走力ではなく、暴れ馬のようなスピードフォースを操る呼吸法(=精神力)の体得なのだ。
◆時間遡行はビッグ・バン
私は結構海外のファンが予告編や本編を見ながらテンションぶち上げて奇声を上げたり感動の涙を流す動画が好きだったりする。
しかし中でもこれは群を抜いてインパクトがあるのだが(笑)、
そんな彼にも素直に共感できてしまうほどフラッシュの時間遡行シーンは実に神秘的で、美しく、かっこよく、感動的だった。
その理由とも言えるだろうか。このシーンでのVFXを手がけたスタッフが、この場面についてザックからミニ・ビッグ・バンとして描写することを提案されていたと言うのである。
フラッシュが一歩一歩前へ前へ踏み出す度に足元から再構築されていく消滅したはずの世界。これは単なるタイムトラベルではなかった。過ぎ去った時間を取り戻すのではなく、宇宙をもう一度創生する。
"Make your own future."
「自分の未来を切り拓け」
ここで引用される父のセリフ。この場面を単なる時間遡行として捉えていた頃は、とは言え過去を取り戻す作業って結局過去に生きることでは?なんて思ったりもしたが、そうではなかった。彼は時間軸を逆転させるだけでなく、宇宙そのものを創造していたのだ。
だからこそ彼の姿は見る者の胸を打つ。やはり彼もまた、神話の世界に生きる神秘の存在だった。
しかしここで私が注目したいのは、この世界再生の旅は、彼だけが知っているということ。一度リーグの仲間が全滅したことも、フラッシュがこの世界をたった1人で救ったことも、彼しか知り得ない事実なのだ。
このザック・ユニバースが存続していた場合の単独作「フラッシュ」と、劇場版を正史とするDCEUの「フラッシュ」は、きっと全くの別物になってしまうのだろう。