ADAMOMANのこだわりブログ

特撮ヒーロー、アメコミヒーローを中心にこだわりを語るストライクゾーンの狭すぎるブログ

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イデ隊員:::追悼・二瓶正也:::〜ウルトラマンの根幹を揺さぶったチート発明家の苦悩〜

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©︎円谷プロ

※2021年8月24日加筆・再掲。

www.asahi.com

謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

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「ウルトラマン」に登場する防衛チーム、科学特捜隊。ムラマツキャップ率いる総勢5名のこのチームには、我らがウルトラマンに変身するハヤタ隊員、紅一点のフジ隊員、荒くれ者のアラシ隊員、そしてお調子者だが天才的発明家でもあるイデ隊員が在籍。彼らの息のあったチームワークで実は10体もの怪獣を倒しているというのは驚くべき戦果だ。

特に今回は、中でも人間的魅力が光るイデ隊員にスポットを当ててみたい。

◆天才発明家イデ

その発明品の数々は数多の戦闘で使用され、多くの戦果を挙げてきた。中でも代表的なのが、スパイダーショット。アラシ隊員の標準装備というイメージも強いが、元はイデの発明。

力強いアラシ隊員によく似合う強力兵器だ。

そして外せないのがマルス133。理論上はウルトラマンのスペシウム光線と同威力という超絶兵器。

その威力は本物で、様々な場面でウルトラマンをサポートしてきた。

だが、私が今回注目したいのは、そんな発明家の彼がいわゆる「マッドサイエンティスト」ではなく、少年のまま大人になったかのような、人間味溢れるキャラクターとして描かれた点だ。

 

◆イデの苦悩①ジャミラ戦

23話「故郷は地球」が結構重たいエピソードであることは、マニアでなくともご存知の方が多いようだが、このエピソードにおけるイデは本当に印象的であった。

故郷は地球

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地球に飛来した「見えない円盤」。イデは早速、超振動で透明化している円盤のからくりを見抜き、これを無効化、破壊することに成功する。序盤のイデは、「無知」故の無邪気さが強調されており、作戦の成功を子どものように喜んでいた。

だが、パリ本部のアラン隊員の口から、円盤より現れた怪獣、ジャミラの驚きの正体が明かされる。

本話はかの名監督・実相寺昭雄作品ということもあり、逆光を用いた演出もまた印象的だ。夜営する科特隊とアラン隊員のやり取りはドラマチックだった。

ジャミラの正体は、遭難した宇宙飛行士、つまり元は普通の人間だったのだ。しかし、パリ本部からの指令は残酷だった。

一匹の怪獣として葬り去れ。アランの片言の日本語と共に、この台詞は耳朶に焼き付いて離れない。

そしてイデ隊員は、ジャミラとの戦いを放棄する。

俺、辞めた。ジャミラとは戦わない。

悲痛だが厳然とした決意を口にするイデは、本当にカッコ良かった。ここで反抗するのが、イデだから良い。普段いじめっ子のジャイアンが映画だと良いやつになるように、普段ヘタレなのび太が映画だと勇敢になるように、普段お調子者のイデだからこそ、彼の本気の台詞が心に刺さるのだ。

ジャミラの正体を知ってからのイデはまるで別人だ。銃器を地面に投げ捨て、自身の発明すら後悔し始める。

だがそこに、我々は彼の健全さを見出す。ただ自分の発明に酔いしれる「マッド」ではなく、温かな血の通った人間、イデ隊員の真っ直ぐな心に共感してしまう

しかしそれは同時に「ウルトラマン」を否定もしていた。イデの葛藤は、

怪獣であるというだけで倒されるの?怪獣が悪で人類は正義って本当?

という、シリーズの根幹を揺さぶるものでもあった。

ウルトラ水流に苦しむジャミラの声が人間の赤ん坊の声を加工したものというのも、視聴者の心をえぐる演出だ。

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ジャミラの墓標には、立派な言葉が添えられた。ムラマツキャップがそれを読み上げ、隊員たちはその場を後にしていく。だが、イデだけはその場を離れなかった。

犠牲者はいつもこうだ。文句だけは美しいけれど。

科学の発展がもたらす明るい面に夢を膨らませた戦後〜60年代。それがもたらす暗い側面を現実のものとして直視せざるを得なくなる70年代を前にして、その怖さと胡散臭さを、イデ隊員だけは見抜いていた。「いつもこうだ」という言葉も意味深。イデは一体どんな歴史を見つめてきたのだろう。

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◆イデの苦悩②ジェロニモン戦

ルトラマンを見たことがある人なら誰しもがこう思うであろう。

ウルトラマンさえいれば、誰も戦わなくていいんじゃないの?

最終回直前のエピソードにてこのテーマにもメスを入れたのがイデ隊員だった。37話「小さな英雄」での一幕も忘れられない。

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イデはハヤタに漏らす。

仕事のことだよ」

そう漏らすイデの目はいつになく真剣だった。「科特隊」は本来子どもたちが憧れる「ヒーロー」なんだけど、「仕事」と表現されることで、グッと彼らが近づいてくる。子どもが寝静まった後、うっかり聞いてしまった親の会話のような、生々しいリアリティのある台詞回しだと思う。

「ウルトラマンさえいれば、我々科特隊はいらないのでは?」そう思い悩むイデは、仕事がほとんど手につかなくなっていた。

しかしこれを聞いてやるのがハヤタというのが面白い。そんなことはない、と励ます言葉はウルトラマン自身の言葉なのだが、イデは納得しない。

そもそもこのテーマ自体かなりメタな内容だと思う。「ウルトラマンあるある」であり、視聴者がツッコンでくる粗探しのようなものである。しかしそれをあえて茶化すでもなく真正面から描こうとした37話は、紛れもない名作だ。しかもそれを、最も戦績に貢献しているはずのイデに担わせるところがまた面白い。

そして怪獣を前にしてもろくに戦わないイデ。きっともうすぐウルトラマンが来てくれるんだ、とすっかり弱腰。そんな彼の目を覚まさせたのは、非力ながらも必死に戦い命を落としたピグモンの勇姿と、ハヤタの張り手だった。

お前は科特隊の一員として恥ずかしくないのか⁈

自分の甘さと過ちに気付いたイデは、新兵器で再生ドラコとジェロニモンの2体を倒すことに成功する。とりわけジェロニモンに関しては、ウルトラマンがトドメをイデに譲るというニクイ演出もあっての戦果だ。

このウルトラマンの行動については、結局ウルトラマンがイデを担ぎ上げただけじゃないか?と言われるむきもあるようだが、この直前のジェロニモンとの戦闘でウルトラマンは長時間スペシウム光線を放っており、エネルギー消費はかなりのものだったと思われる。だからトドメの一撃を放つ体力は、ウルトラマンには本当に残されていなかったのかもしれない。

ウルトラマンはヒーローだが、仲間でもある。そんな仲間の1人に戦いを押し付けて勝てるわけがない。人間もウルトラマンも全力で戦うからこそ平和を勝ち取ることができる。その答えは、最終話「さらばウルトラマン」、そして更には「帰ってきたウルトラマン」以降のシリーズにまで引き継がれることとなる。

◆なぜハヤタではないのか?

れら本作の根幹に関わる葛藤に、主人公であるはずのハヤタが全くと言っていいほど関わってこない。それは、初代ウルトラマンが「成長しないヒーロー」だったからであろう。ウルトラマンは、絶対的な勝利カードであり、悩み落ち込む描写はキャラクターカラーに合わなかったのだ。

ウルトラマンが絶対的な勝利カードというのは、作中での戦闘シーンにおいて顕著だ。

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8話「怪獣無法地帯」で4体もの巨大怪獣が登場したにも関わらず、ウルトラマンと直接戦ったのはレッドキング1体のみ。2代目レッドキング戦も、バニラ・アボラス戦もそう。サイゴ・キーラ戦もそうだ。ウルトラマンが戦うのは、怪獣同士での勝ち抜きに残った1体だけだった。二大怪獣に挟撃される絵面は、「帰ってきたウルトラマン」まで待たねばならない。

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それは元々ウルトラマンが、トーナメント戦における絶対的シードとして位置付けられていたことを意味している。だから、成長する必要もなければ苦悩する必要もない存在なのだ(ウルトラマンの苦戦がドラマティックに描かれ始めるのは「人間ウルトラマン」としての側面が強くなった「帰ってきた〜」以降のこと)。

その結果、ドラマパートを担うのがイデを始め各隊員たちになるのは必然だった。それだけではない、絶対的強者としてのウルトラマンよりも、毎回やられてしまう怪獣たちの方が子どもたちからすれば「かわいそう」と感情移入しやすい側面も多分にあったのだろう。結果、「故郷は地球」のようなエピソードが誕生するに至った(他にも怪獣寄りのエピソードが「ウルトラマン」には異常に多い)。

また、当時の特撮ブームはあくまでも「怪獣ブーム」であり、「ヒーローブーム」ではなかった。「ウルトラQ」の続編たる「ウルトラマン」は、まだまだあくまで「怪獣番組」だったのだ。子どもたちの主眼は、「毎週ウルトラマンに会える」、ではなく「毎週新しい怪獣が見られる」という所にあった。

 

そう考えるとイデの立場は非常に複雑なものに見えて来る。いつもすごい武器を発明しながら自らも第一線で戦うその姿は、人間でありながら最もウルトラマンに近い。

しかし、人間だからこそ弱く、悩み苦しむ。徹夜明けの任務では欠伸もするし、気に入らないことがあれば仕事も投げ出してしまう。そんな彼こそ、科特隊でありながら最も子どもたちに近かった。そんな彼だからこそ、科学を疑い、人間を疑い、「ウルトラマン」に喧嘩を売ることができたのだろう。

イデ隊員のようなキャラクターは、原点でありながら唯一無二の作風を持った初代「ウルトラマン」にこそ生まれ得た存在なのかもしれない。 

ウルトラマン 科学特捜隊ピンズ(本七宝)

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