ADAMOMANのこだわりブログ

特撮ヒーロー、アメコミヒーローを中心にこだわりを語るストライクゾーンの狭すぎるブログ

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仮面ライダー響鬼が好きだ!(前半)

「響鬼」放送当時高校生だった私から見た本作の魅力を語ってみたい。

今回はまず通称「前半」と呼ばれる〜第二十九之巻までの作風について扱おうと思う。

◆平成ライダーらしさの破壊

一之巻「響く鬼」

一之巻「響く鬼」

当時は「クウガ」、「アギト」、「龍騎」、「555(ファイズ)」、「剣(ブレイド)」と平成ライダーも6作を数え、すっかりシリーズとして定着し始めていた頃。しかし、常に新たなる挑戦と変異を繰り返してきた平成ライダーシリーズにもやや翳りが見え始めていた。

まだ高校生だった当時の私が感じていた限りは

・ライダー同士が共闘せず喧嘩ばかりを繰り返していること

・難解な設定や多くの伏線が回収しきれないこと

・日曜の朝から陰鬱な物語を展開していること

これらの点がややマイナスなイメージとして定着し始めていた印象はあった。

また、「剣」から玩具売上が大幅に下降し始めていたことなどから「仮面ライダー」自体一旦終わりにしようという話が出ていた、というのはもう少し後になって知ることだ。

いずれにせよ、そういった流れの中で「完全新生」と同時に「原点回帰」が求められていたと言えるだろう。それは即ち、平成ライダーの原点「クウガ」に立ち返った上で全く新たなヒーローを生み出すこと。伝説を再び塗り替えること。

次なる新ライダーの製作に再び「クウガ」のスタッフが集結するという某特撮雑誌の記事に、当時の私も非常に大きな期待を寄せていた。

 

◆作り込まれた設定とリアル描写

十一之巻「呑み込む壁」

十一之巻「呑み込む壁」

前年の「剣」で職業ライダーという設定が導入されたが「どこが?」レベルの死に設定へと堕していったのに対し、

「響鬼」ではこれを発展継承。「職業としての鬼」の描写が積極的かつ丁寧に行われていた。

とりわけ、鬼と魔化魍の戦いが今に始まった話ではなく、人知れず古より伝統的に続いてきたことを匂わせる、会話の端々に見られる魔化魍の発生条件等のデータ情報。そしてそれらを取りまとめる「猛士」という組織の規模と歴史全体像を一気に見せるのではなく、断片的にちらつかせる見せ方がやはりうまかった。

響鬼さんの虎柄の手帳、あれじっくり読んでみたいな〜。

特に斬鬼さんがまず名前だけ登場したのも面白かった。名前からしてめちゃくちゃ強そうー!とワクワクしたのをよく覚えている。

シフト表の登場にも当時ネットが湧いていたのをよく覚えている。ただ、当時の私にはそれの何がそんなに物珍しいのかよくわからなかった(バイト経験もなかったし)。複数の鬼が手分けして関東を守っていて、そのためにはしっかり分担を管理するシステムがあるはずで、シフト表のようなものがあって当然、そう思えるほど世界観がしっかり構築されていたと思う。だから見ていて全く違和感がなかった。

また、戦闘シーンにおいては「クウガ」でもそうであったように、敵との肉体的攻防を火花で表現するということがほとんどなかった。焼ける、破裂する、溶ける、体液が噴出する...しっかり生身の生物同士が対峙していることを感じさせる描写が嬉しかった。

 

◆カッコいいおじさん

二之巻「咆える蜘蛛」

二之巻「咆える蜘蛛」

響鬼という作品の最大の魅力は、やはり細川茂樹氏演じたヒビキという男にある。

とにかく背中が大きくて、気さくで余裕があって、普段は三枚目だけど、いざというときに頼りになるすごい男。彼が自称していた通り、アウトロー、ロンリーウルフ、そんな感じの規格外の男。正直、男ならみんな憧れてしまうのではないだろうか?

ヒビキさんと距離を縮めていきたい、と思う明日夢に強く共感できたのは、何よりやっぱりヒビキさん自身に凄まじいオーラがあったから

それからこれは上述の「職能としての鬼」の描写とも重なるのだが、男(父親)が本当にかっこいいのは仕事をしている時で、「響鬼」という作品は、そんな仕事に精を出すプロフェッショナルの仕事ぶりを覗き見る感覚にも近い魅力を持っていた。一流の板前とか、伝説の宮大工とか、一級のマタギの仕事の裏側を見る、そんなドキュメンタリー番組にも近い雰囲気が漂っていた。

だからこそ、仕事道具にも注目が集まった。通常の変身アイテムや武器以上にディスクアニマルが人気を博したし、ディスクを大量に収納しているあのアタッシュケースも商品化された。

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https://hobby.dengeki.com/event/962527/

いずれにせよ、仕事において一流の人間は、人間的にも一流だ。そのことをキャラクターとお芝居で見せ切ったヒビキさんはやっぱりカッコよかった。

 

◆だんだん強くなる魔化魍

基本的に魔化魍は弱い。特に童子と姫はいつも瞬殺されていた。

鬼は魔化魍退治の専門家なので、一撃必殺の武器をその身に忍ばせている。響鬼で言えばまずは鬼火。そして隠し武器の鬼爪に、更には烈火弾烈火剣響鬼は基本、苦戦しない。

そんな、ある意味あっさりとした戦闘シーンと共に鬼の強さをしっかり見せ切った上での、鎧童子・鎧姫の登場には心底驚いた。

今まで見せてきた鬼の武器の全てが全く通用しないのである。まさに急転直下の展開である。そして更には乱れ童子の登場

鎧童子とは違い、時間無制限で音撃をも弾き返す超強力な個体で、その凶暴性とおどろおどろしさはグロンギをも想起させる。

これまで何年も続いてきた鬼たちの通常業務をしっかり見てきたからこそわかる「異常事態」の恐ろしさ。

ちゃんと敵が怖い、そして強い。

これも平成ライダーが取り戻すべき仮面ライダーらしさのひとつだったのかもしれない。ライダー同士で戦うことが無くなったからこそ、「響鬼」は敵の描写を強化できたのだ。

そもそも、鎧童子らが登場する前から変転の予兆はあった。魔化魍の種別予測が外れ、出現数は増加、そして百年に一度と呼ばれるオトロシの登場...。実は明日夢が猛士を出入りし始めるのと同時期に、魔化魍サイドにも何らかの変化が起きていたようだ。それが本来何を意味していたのか、最終的に描かれた「オロチ」を指していたのかは不明だ。

 

◆鬼のプロ根性

しかし、そんな異常事態に対して響鬼も威吹鬼も実に冷静に、かつ全力で対処した

鎧童子・鎧姫に一度は敗北した響鬼も、ディスクアニマルの映像から弱点を発見し見事返り討ちに。

十三之巻「乱れる運命」

十三之巻「乱れる運命」

乱れ童子を初めて前にした威吹鬼は、共喰いのイレギュラーに全く動じることなく音撃射を浴びせ、それが無効となった後も肉弾戦に移行。

音撃管を用いた銃撃戦がメイン=一見すると武器頼りだった威吹鬼が華麗なる脚技を披露。さすが威吹鬼も鍛えている!そう思わされる強さとカッコ良さ!個人的にここでの威吹鬼と乱れ童子の戦闘シーンは歴代ライダー史に残る名勝負だと思う。

普段、通常の怪童子や妖姫相手に見せていた技も武器も、鬼の全能力のほんの10%程度のものであり、本当の実力はもっと底知れないことが、強敵の登場によって深掘りされたのだ。

最終的には押されてしまったが、さすがプロ中のプロ、宗家の鬼を思わせる戦闘力の高さを見せつけてくれた。そもそも、羽の一部だけでも威吹鬼が破壊して飛翔能力を奪っていなければ、被害はもっと拡大していたはずだ。

敗れた後も表情一つ変えず迷わず後を追うイブキのプロ根性にも痺れた。

「響鬼」に出てくる鬼って、負けてもカッコいい。

 

◆なぜ明日夢は弟子入りしなかったのか?

明日夢・一

魔化魍の異常発生だけではなく、鬼の成り手が減っているという後継者問題も「猛士」にとっての大きな課題だったようだ。

そんな中、明日夢は二十九之巻に至っても尚、正式なヒビキへの弟子入りをしなかった。明日夢の弟子入りは、スタッフの大幅な入れ替えの後、四十一之巻まで待たねばならなかった。

響鬼前半が路線変更の憂き目に遭うこととなった要因のひとつに、明日夢がいつまで経っても弟子入りしないというシナリオ上の問題があったとされている。だからこそ明日夢の対の存在として京介が投入されたわけだが、明日夢はなぜあそこまで鬼たちと距離を縮めながら正式に弟子入りしなかったのだろうか?

関係者や高寺氏の証言からも、明日夢が弟子入りしない展開はかなり序盤から意図的に作られていったらしいことが判明している。その理由については、明日夢のイメージに合わないから、という趣旨で語られているが、放送当時の私もこの展開には違和感がなかった。

むしろとんとん拍子で弟子入りしてしまった方が不自然に感じていたと思う。

もし2クール辺りまでで明日夢が弟子入りしていたら...それは、ヒビキさんたちのいる温かく優しい世界への逃避に映った気がする。明日夢は、ヒビキさんのいない厳しい現実の世界で、彼が選んだ「進学」という道をまず歩み切らねばならなかったのだ。

その証拠に、明日夢と非常に近い立場のあきらもまた、学業との両立を大事にしていた。

三十四之巻「恋する鰹」

それこそが前半の「響鬼」が最も大切にしたことだったように思う。明日夢は空想世界の住人ではなく、我々が生きる現実世界の延長にいる言わば「リアル」なのだ。そんな彼がヒビキさんと触れ合うことで、彼はヒビキさんの世界と我々の世界の架け橋となる。

本作は、明日夢と同年代の少年たちに強くてカッコいい鬼に憧れることを求めたのではない。理不尽にも満ちたこの世界で、それぞれの人生を逞しく生き抜くことを求めていたのだ。

だからヒビキさんは、少年に「鬼になれ」とは決して言わなかった。けれど、「もう弟子をとったつもりでいる」とも語っていた。鬼としての師匠ではなく、人生の師匠というあり方が、ヒビキさんと明日夢の間に自然に生まれていた。

しかしそんなリアルな作劇は、明日夢が生きる現実と、鬼が戦う現場の溝をどんどん大きくしていくこととなった。その言わばツケを、後半の「響鬼」が背負うことになるのだが...この続きは(後半)でまた扱いたいと思う。

 

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