次々と斬新な設定や展開で新たな仮面ライダーの歴史を築き上げた通称「平成ライダーシリーズ」。こんなの仮面ライダーじゃないなんて揶揄される作品もいくつかあるが、その多くにはちゃっかり「昭和ライダーへのリスペクトとオマージュ」が込められている。
今回は、生誕40周年記念作品となった「フォーゼ」、スタイリッシュな魔法使いの「ウィザード」、そして今もなお根強い人気でVシネマが作られ続けている「鎧武」の3作品をご紹介。
◆仮面ライダーフォーゼ
・宇宙×仮面ライダー
「宇宙×仮面ライダー」というインパクトある設定のフォーゼだが、同じテーマの先輩ライダー、スーパー1へのリスペクトが随所に散りばめられている。
スイッチ操作で手足の武器が変わっていく設定は、スーパー1のファイブハンドが下敷きとなっている。
更に、なでしこの能力を宿したロケットスイッチは、通常の1番スイッチの強化形として「ロケットスイッチスーパーワン」と呼ばれている。
・拳法×仮面ライダー
赤心少林拳の使い手でもあるスーパー1。その拳法のイメージは本作2人目の仮面ライダー、メテオに引き継がれた。ダイレクトに「ホワチャ!」と叫ぶメテオの拳法アクションは、奇抜かつクール。それでいてスーパー1の血脈を受け継いだ歴史的裏付けのあるものだった。
・仮面ライダー部
仮面ライダー生誕40周年記念作品と銘打たれた本作には、スーパー1含め歴代ライダーをリスペクトした設定の数々が仕込まれていた。中でも、登場人物の名前にはアナグラムによって様々なオマージュが仕込まれている。
歌星賢吾(うたほしけんご)を組み換えれば本郷猛。
城島ユウキ(じょうじまゆうき)は、結城丈二。
風城美羽(かざしろみう)は、風見志郎。
大文字隼(だいもんじしゅん)は、「大」を「一」と「人」にばらせば一文字隼人に。
野座間友子(のざまともこ)の名字NOZAMAを逆から読めばアマゾン。友子の友は、やはりアマゾンの口癖「トモダチ」からだろう。
JK(ジェイク)は神敬介のイニシャルから。そして本名の神宮海蔵(じんぐうかいぞう)は、Xライダーの別名、カイゾーグをもじったもの。
仮面ライダー部のメインメンバーはみな、栄光の7人ライダーから名前が作られているのである。
・都市伝説の歴代ライダー
野座間が持つタブレットには、人知れず悪と戦う伝説の戦士として歴代の仮面ライダーが映し出されていた。
仮面ライダー1号、仮面ライダースーパー1、仮面ライダーブラックRX、仮面ライダークウガ…更には風都の新聞記事。
この顔ぶれの中にスーパー1がいるのはやはり本作ならでは。しかもドグマファイターと戦っていて、その描写も非常に丁寧。
そして彼らが同じ世界にいるということも驚きの設定ながら、彼ら直系の後継者としてフォーゼが位置付けられたことが何より熱い。デザインのインパクトの強さから「これが今度の仮面ライダー?!」と驚かれがちなフォーゼだが、2話にして早々仮面ライダーを襲名してくれたことはオールドファンにとっても実に嬉しいところ。
そしてその大先輩たちとは、「ムービー大戦MEGA MAX」にて熱い共演を果たすこととなる。
・栄光の7人ライダー
平成シリーズに登場した「再生怪人」らと激闘を繰り広げる栄光の7人ライダーの姿は、過去の客演モノの中でも最も優れた映像だった。
華麗な技が光る1号ライダー!
ちゃんと黒いマスクで登場した「客演2号」!
ワイヤーアクションを使ってワンカットで表現されたV3反転キック!
ロープアームの攻撃で再生メズールを撃破する強烈な戦闘力を見せたライダーマン!
現代の技術で映像化されたライドル大車輪からのXキック!
アマゾンvsスミロドンドーパントという素晴らしい対戦カード!
イラストで表現されていたエフェクトをCGで描き直したストロンガー電キック!
「客演っていい加減…」というファンのいつものため息を吹き飛ばす熱い演出の連続に、オールドファンは感涙と失禁を止められなかった(はず)。
・タチバナさん
第二のライダー・メテオの支援者として暗躍する謎の人物、タチバナ。マスクで顔を覆った正体不明の男だが、その名前の由来はやはり立花藤兵衛=初代おやっさんであろう。仮面ライダーの後見人といえば、やはり「タチバナさん」なのだ。
・キョーダイン?
頭がロケットと言えばキョーダイン。
「カブト」ではイナズマン、「W」でキカイダー、そして本作「フォーゼ」ではキョーダインが彷彿とさせられるデザインに。仮面ライダーだけでなく、歴代の昭和特撮もリスペクトの対象となっているのが嬉しいところ。
そしてキョーダインはリファインされた敵役として本作の劇場版にも実際に登場した。
◆仮面ライダーウィザード
・ド派手なライダーキック
毎度毎度、仮面ライダーらしくないものと仮面ライダーを掛け合わせることで変異を繰り返してきた平成ライダーシリーズ。
USBメモリと探偵モノ、メダルとパンツ、宇宙と学園モノ...。正直、この頃にもなれば何が来ても全く驚かなくなっていた。
だから、「今年は魔法使いの仮面ライダーだ!」と言われても、大した違和感も拒否感もなかったのだが、実は本作、結構忠実に「仮面ライダー」している。
響鬼以降、電王やキバなど例年の平成ライダーでもままあった「巨大戦」だが、個人的にはあんまり好みではない。
まず、どうしても予算的にチープなCGになってしまうことと、チープであればあるほど、ライダーがチート兵器頼りに見えて体を張っている感が薄れてしまうこと、そして何より結局はミサイルどかどか撃って終わる呆気なさがその理由だ。
その点、本作に登場するウィザードラゴンの戦闘シーンだが、バイクを使ってコントロールしなければ、ドラゴンさえもゲートのアンダーワールドを破壊してしまうという設定に忠実で丁寧な演出が好印象。加えて近年どんどんおざなりになっていたバイクが不可欠なキーアイテムとなっているのが何より嬉しい。
そして必殺技がなんと、ライダーキックなのだ。ドラゴンが大きな脚部に変形し、ウィザード諸共特攻キックを決める。ウィザードの背面には、大きな脚部とマッチした巨大なウィザードの炎のシルエットが浮かぶのも良い。
見事ファントムを退治したウィザードは、バイクのエンジン音と共に現実世界に帰還する。もうここまでしてくれればお腹いっぱいである。彼は実に仮面ライダーらしい仮面ライダーなのだ。
・内なる怪物を操る
心の絶望を餌に人間を食い破り魔物へと変身するファントム。そんなファントムと戦うウィザードだが、ウィザード自身もまた、自身の心にファントムを飼っている。そしてそのファントムの力を借りて変身し戦っているのだ。
つまり、ウィザードが強くなるということは、晴人がファントムに一歩ずつ近づいていることを意味している。
このヒリヒリするようなリスクを背負いながら、悪の力を使って悪と戦う。これもまた、連綿と受け継がれる「仮面ライダーの方程式」なのだ。
・大きな意思によって踊らされる若者たち
白い魔法使いから力を授かり、ファントムから人類を守ることこそが自分の使命だと信じ戦ってきた晴人。しかし、ウィザードとファントムを戦わせ、ウィザードを進化させることこそが白い魔法使い及びファントムの総統・ワイズマンの真の狙いであったことが発覚する。
比較的テンプレな2話完結が繰り返されてきた本作において、そのテンプレにこそ意味があったというブラックな展開には驚かされた。
原典の「仮面ライダー」にもあった、ライダーが怪人を倒し、また新たな怪人が登場してはライダーが倒し...というイタチごっこ。これが実は、仮面ライダーを追い込んでどんどん強くすることこそが大首領の狙いであった、なんて新解釈の小説が「S.I.C. HERO SAGA」では楽しめる。
同様の解釈で、「実は異空間に幽閉された大首領を解放するための肉体のプロトタイプとして歴代の仮面ライダーが生み出されてきた」という展開を見せているのが「仮面ライダーSPIRITS」だ。
原作萬画版「仮面ライダー」もまた、「ショッカーと同様の国民洗脳計画を日本政府が主導しようとしていた」という衝撃の事実を暴露して終わる。
我々が「悪」と認識しているものの向こう側にこそ、「本当の悪意」が潜んでいるかもしれないという実にリアルな現実社会の怖さもまた、仮面ライダーが包摂していた重要なテーマである。
◆仮面ライダー鎧武
・平成ライダーそのもののオマージュ
本作で平成ライダーシリーズも15作目に突入。もはや、クウガ、アギト、龍騎...といった初期の作品群さえも伝説となるほどの歴史を紡いできたと言えよう。
特に本作でメインライターを務めた虚淵玄氏は「龍騎」の大ファンを自称する平成ライダーオタクでもある。
電王以降「メインライダー2人体制」が長く続いた平成ライダーにおいて、あえて平成初期にあったような、多数のライダーが乱戦する面白さとダークな作風へと意図的に回帰しようとしたのが「鎧武」だ。
・新時代の「怖さ」
初代「仮面ライダー」では、進展し続ける科学技術の恐ろしさとカルト集団の恐怖を融合させたショッカーが生み出された。
時代を隔て2000年の日本を舞台にした「クウガ」では、当時の日本を恐怖のドン底に陥れていたシリアルキラーと少年犯罪の不気味さや残虐さを反映させて、ゲームと称した殺人を愉しむグロンギが生まれた。
そして本作「鎧武」では、311後の日本を覆っていた「大自然の恐怖」を新たな仮面ライダーの敵に据えるという試みがなされた。それが、植物によるテラフォーミング=ヘルヘイムの森という「理由のない悪意」へと結実する。
仮面ライダーは常に、時代が最も恐れているものと戦う運命にあるのだ。
・悪と同質の力で
グロンギと同質の霊石で変身するクウガ。
神から与えられた力で神と戦うアギト。
モンスターと命をかけた契約を結んで変身する龍騎。
「オルフェノクの記号」があるもののみが扱えるファイズのベルト。
アンデッドと融合することで能力を発揮するブレイド。
己の肉体を鬼に変えて闇に潜む魔物と戦う響鬼。
ワームがワームを倒すために開発したマスクドライダーシステム=カブト。
憑依したイマジンの能力によって戦闘力を発揮する電王。
ファンガイアの鎧でファンガイアと戦うキバ。
ガイアメモリを使ってガイアメモリ犯罪と戦うダブル。
グリードの肉体の一部であるコアメダルによって能力を発揮するオーズ。
コズミックエナジーを秘めたアストロスイッチで変身するゾディアーツとフォーゼ。
己に巣食うファントムの力でファントムを退治するウィザード。
...そして、食べたものを怪物へと変化させるヘルヘイムの果実の魔力を、ドライバーを通じて発揮する戦極ドライバー。
悪の力を使って悪と戦う。この方程式は、全ての平成ライダーに共通している。
・強くなることのリスク
変身すればするほど人間ではなくなっていく恐ろしい効能を秘めた、鎧武・極アームズ。人間でなくなっていくリスクを描いた強化フォームにはいつも熱いドラマが生まれる。
クウガのアルティメットフォーム、ブレイドのキングフォーム、オーズのプトティラコンボ、そして鎧武の極アームズ。
人間であることを捨て、肉体を悪魔に売った男たちは、しかし心だけは手放さなかった。だからこそ、悩み、苦しんだ。
そんな彼らだからこそ、その勇姿は我々視聴者の心に深く刻まれている。
「俺もう、姉ちゃんの手料理、食べられないや」と呟いた紘太の悲痛な表情は、改造された肉体で思わず子供の手を握り潰しかけた本郷猛の絶望と同質のものである。
我々は、時空を超えていつも本郷猛の苦悩=人間でありながら人間でない男の苦悩を見せつけられているのだ。
「鎧武」については別記事でも軽く扱っているのでよければご参照を。
続いては、ドライブ、ゴースト、エグゼイド...のはずだが、ドライブもゴーストもあんまり口に合わなかったので書かないと思う。一旦は⑤を最終回としたい。