「ウルトラマンG(グレート) リマスター版」2020/7/25(土)CS初放送スタート!
いよいよゴーデス編完結の第6話。強化されたゴーデスの登場と、吸収されてしまうウルトラマン、そしてまさかの大逆転…。あらゆる点でウルトラマン史に残る決戦となった本話。今回は特にその背後にある設定面を「好き勝手妄想しまくり」ながら、その魅力を紐解いてみたい。
◆恐怖こそゴーデスのエサ
まずは全ての始まりとなった第1話、火星でのゴーデスの行動から振り返りたい。
ゴーデスを発見したジャック・シンドーと在りし日のスタンレー・ハガード。
岩場に足を取られたジャックは、己の命を犠牲にしてスタンレーを逃がす。スタンレーが宇宙船を起動している間、ジャックは銃撃を繰り返してゴーデスの気を引こうとするがゴーデスは見向きもしない。最終的にスタンレーは宇宙船ごと爆散させられてしまう。
偶発的にも見えた一連の出来事だが、ここでのゴーデスが実は意図的にスタンレーを狙ったとは考えられないだろうか?
己の生を捨てたジャックと、生きて地球に帰ろうと足掻くスタンレー。強く生き抜こうとするスタンレーの意志、或いは恐怖にこそゴーデスが引き寄せられた、と考えれば、ここでの2人の行動は実に皮肉な結果を生んだことになる。
事実、第6話の字幕版にてウルトラマンが「ゴーデスは恐怖をエサに増殖する」旨を語っており、それは過去のエピソードにおける展開とも合致する。「恐怖」や「怒り」といったマイナスの感情は、ゴーデスにとって最上の喜びとなるのだ。
他方、全く恐れずに己の命を投げ出す覚悟を見せたジャックの行動は、このときのゴーデスには全く理解できなかったor敵わないと悟って手を出さなかった可能性すらある(例え肉体は殺しても魂は屈服させられない)。
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火星でのゴーデスの姿はまさに軟体動物を思わせるキメラであり、表情にも乏しくどこか無機質で知性的ではない。それは、ゴーデスが渡り歩いてきた銀河(死をもたらしてきた星々)の生命体の多くが、この段階ではまだ原始的な無脊椎動物の類ばかりだったからなのかもしれない(口の形状からして地球外生命体)。
そう考えるとゴーデスは、理解不能なジャックという存在を目の当たりにした上で、高度な知性を備えた生命の星・地球に意図して逃げ込んだ可能性すらある(近所だったからというのが最も有力ではあるが)。
ゴーデスもまた、火星で出会った「人間」というちっぽけな生命体を実によく観察していたのだ。
◆精神力で戦うウルトラマン
他方、親友のために命を投げ出したはずのジャックはウルトラマンによってその命を救われた。ウルトラマンもまた、彼の勇敢な行動に注目していたに違いない。この辺りは(帰マン以降の)ウルトラシリーズ伝統「勇敢な者のみがウルトラマンと一体化できる」という方程式に則っていて嬉しい。
そしてこの「勇敢さ」や生命への信頼に満ちた「誠実さ」は、本作におけるキーワード=「精神力」へと繋がる。
「最新ウルトラマン大図鑑」にはハッキリとこう記述されている。
ウルトラマングレートは自らの精神エネルギー(気)から数々の超能力や必殺技を繰り出す。
「最新ウルトラマン大図鑑」p.40
この設定の正しさは、実際の映像作品に見られるウルトラマンの動きのキレと美しさによって裏付けられている。初の海外製作となったウルトラマンでありながら、空手を初めとした日本武術が最も前面に出たバトルスタイルがその証拠だ。
また、最強の得意技が相手の技を増幅して跳ね返す「マグナムシュート」である点も、相手の攻撃を利用して打ち負かす合気道との共通点が見出せよう。
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そもそも変身シーンからして「瞑想」で始まる本作のウルトラマン。便利な変身道具のスイッチ一つでウルトラマンを「起動」するのではない。ジャック自身が精神統一をすることによって=人間の精神力によってウルトラマンの能力を引き出しているのだ。
※この点は「帰ってきたウルトラマン」とも共通しているかもしれない。
逆に、スタンレーを葬り去る決断ができずにジャックが迷いを見せた第5話では、思わぬ苦戦を強いられてしまう。そのときの精神状態ひとつで、ウルトラマンの戦闘力は大幅に変化してしまう。つまり、精神力こそがウルトラマン最大の強みであり、弱点にもなり得るのだ。
◆顔のある怪獣
恐怖心をエサとするゴーデスにとって、強靭な精神力の持ち主ほど絶望させたときに得られるエサはより大きいはず。その意味では、実はウルトラマンこそゴーデスの最上のエサだったのではないだろうか。
そう考えると、ゴーデスの侵略行為はウルトラマン吸収に至るまでを目標に、段階的に難易度を高めていったようにも思える。
第1話では原始両生類に憑依(ブローズ)、続く2話では、強靭な生命力を持つ氷漬けの巨大恐竜をターゲットに(ギガザウルス)。3話ではいよいよ人間の心に挑戦(ゲルカドン)。4話では壁画に込められたアボリジニの残留思念までも利用(デガンジャ)。
そして5話にてスタンレーを利用し、ジーンをもゴーデスの闇に飲み込んでしまう。その狙いは勿論、ジャックの精神状態をとことん揺さぶることにあったのだろう。
※ここにもやはり「帰マン」との共通項が。37話で見られたナックル星人の卑劣な策略をも想起させられる。
こう考えると、ゴーデスはとことん「人間の心」に挑戦しているように思えてならない。だからこそ、ウルトラマンの言葉-「自分の命に誇りを持て」-が大きな意味を持つことになる。
それはさておき、ゴーデス(強化)はその見た目からも大幅な進化の跡が伺える。
火星での第一形態が脳髄むき出しだったのに対し、岩盤を思わせる強固な外骨格によって頭部が覆われ、地球上でより高度な脊椎動物の情報を吸収してきた成果が見られる。
何より驚きなのは、人のような顔をしていることだ。案外、過去のウルトラ怪獣を振り返っても「人のような顔をした怪獣」というのは少ない。
これはあくまで私の個人的解釈だが、このゴーデスの顔は、実はジーンの顔ではないかと思っている。
※事実、ジーンはゴーデスの心臓部に寄生されたとする記述も存在。ゴーデス強化体の中核には、間違いなくジーンの存在がある。
ジーンもまた、ジャックに負けず劣らず美しく健全な心の持ち主。そんな彼女すらも取り込み、怒りと絶望に満ちた「人間の顔」をまとってウルトラマンの前に立ちはだかる。想像を絶する悪夢の始まりである。
◆ウルトラマンとゴーデスの違い
過去の記事でも触れてきたように、ウルトラマンとゴーデスにはハッキリと対比構造が見て取れる。その要素を列挙してみたい。
そして面白いことに対の存在でありながら「人間と融合し人間の精神力によって強化される点」は全く同じなのである。
だからこそ、ジーンを取り込むことでゴーデスはようやくウルトラマンと対等の存在になれた訳だ。そして、おそらく火星以来の悲願であった「ジャックとウルトラマンの吸収」をも実現するのである。
このときもし、完全にウルトラマンを吸収しきっていたら…もしかするとウルトラマンのイメージが反映されたゴーデスが誕生していたかもしれないと思うと少しワクワクしてしまう。
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※そんな「What if?」の実現例が「仮面ライダーZO」の赤ドラスかもしれない。
「ウルトラマングレート」の作品世界において、精神力こそが戦闘力を決定づける要素となるのであれば、後はウルトラマンとゴーデスの心理戦へと発展していくのは必然であった。
肝心のウルトラマンはゴーデスが見せる怪獣の幻影にまんまと囚われて錯乱状態。ところが、ウルトラマンの中にいるジャックは完全に自我を保ち続けたままだった。
これこそがウルトラマンの強さである。ゴーデスと違い、一体化した人間を「吸収」するのではなく互いの人格を「存立」させ続けたからこそ、ジャックだけはゴーデスの中で自我を保ち続けることができたのだ(ウルトラマンによって守られたとも解釈できる)。
そしてここに、たった1人の人間vs邪悪大怪獣ゴーデスの心理戦が始まるのである。
◆ジャック対ゴーデス〜宇宙の命運をかけた心理戦〜
映像作品上は、ジャックとゴーデスがじっくりと対話を繰り広げているようにも見えるが、ゴーデスの体内での時間軸が外界と同じとは限らない。
向かい合った剣士の居合の間のような、ほんの一瞬でも気を抜けばどちらかの首が落とされかねない、そんな緊張の一瞬だったはずだ。
そんな中、ジャックは平然と言い放つ。
「哀れなヤツだなゴーデス。全宇宙を吸収したとき、お前はどうするつもりだ?友達すらいない世界で、たった1人で生きていけるのか?」
決して高尚な言葉ではない。ある意味子どもっぽいとさえ思えるほどに、シンプルかつ本質を突いた言葉だった。余計な邪心を全て取り払った平常心から生まれ出る言葉。そして普段通りの飄々としたジャックの表情。
「気力」が勝敗を分かつ時、常に勝機を掴むのは平常心だ。
それでいてこの言葉には、ゴーデスという悪魔をも哀れむ生命への絶対的な信頼が滲み出ている。
-「お前は寂しくないのか?」- 死をもたらすゴーデスさえも対等な生物として慈しむ、そんな言葉をかけられる男は全宇宙でジャックただ1人だった。
そしてこの言葉に動揺を見せるゴーデスもまた興味深い。人間の心を取り込んだゴーデスだからこそ、このジャックの言葉の意味が理解できてしまう。
そして、ひとりぼっちになることを恐れたこの瞬間のゴーデスの感情は、火星でひとり死ぬことを恐れたスタンレーの感情ともぴたり重なる。
まさに、精神力がゴーデスを強くし、同時に弱くもした。生物でありながら「死」をもたらす存在故の自己矛盾に、ようやく気づかされるのである。
しかし、あの絶望的な状況下でなぜジャックは平常心を保つことができたのだろうか?
それこそウルトラマンの「自分の命に誇りを持て」という言葉がヒントとなったに違いない。
圧倒的なパワーで本格的な地球侵略と大虐殺を目論むゴーデスを前に、勝ち目はあるのか?焦りと不安に駆られるジャックを叱咤するようなウルトラマンのこの言葉。確かに「自分の命に誇りを持つこと」ができなければ、ゴーデスさえも慈しむ自信に満ちたあの言葉は生まれ得なかっただろう。
環境破壊を繰り返す人類への警鐘を鳴らす作風が強い本作において、それでも「お前はその命に誇りを持っているのか」と問う意味はあまりにも大きい。
◆第二部への序章として…
この一戦を経て、ウルトラマンとジャックの絆はより深いものとなった。そしてゴーデス打倒の任を終え、故郷へ帰るはずのウルトラマンは地球残留を決意する。人類を狙う魔手は、ゴーデスだけではないことにウルトラマンも気付いていたからだ。
(本作に限らず、ウルトラシリーズ全体を通しても)第6話最大の価値はここにある。人間がウルトラマンを救い、人間が人間の力で怪獣を退治したのだ。そして人間に救われた神-ウルトラマン-は、「任務」としてではなく「私的感情」に突き動かされて人類を護る決断を下す。
ここから、神に近づいた男と、人間に近づいた神の、新たな第二章が始まるのである。