仮面ライダーが仮面ライダーらしい作風へと進化を遂げる2号ライダー編。
時にはパロディのネタにされ、不自然な演出やストーリー展開を笑う見方も存在するが、仮面ライダーが50年にも渡って愛されている国民的ヒット作品(オバケ番組)であり続けていることを忘れてはならない。そしてそれは、決して偶然の産物などではなかった。制作陣のたゆまぬ追求と分析とありとあらゆる試行錯誤の連続の上に実った意図的な成果である。
今回はそんな奇跡を起こした2号編と呼ばれる作品群の内、14話〜31話までを扱う。クリエイターを目指す多くの若き才能に知ってほしい成功への軌跡がそこにはある。
◆怪人の強化、サボテグロン
まず、2号編開始と同時に現れたのが、ショッカーメキシコ支部から派遣されてきた幹部怪人サボテグロンである。
実は、海外から怪人が派遣されるのは、これが初の事例である。この「海外から派遣」という設定は、組織の強大さや世界観の拡大に一役買い、後のゾル大佐にも引き継がれていく。
加えて、前後編として2週に渡りライダーと激闘を繰り広げることで強さをアピールする狙いもあったであろう。
その後も2週続けて登場する怪人は、ピラザウルス、ドクガンダー、キノコモルグ…と続いていく。
◆レギュラーキャラの一新
2号編開始と同時に、緑川ルリ子が降板。
スナックだった立花の店はバイクショップへと転生し新レギュラーとして女性陣が3人も追加されることとなった。
特に山本リンダの少女漫画のような美しい顔立ちと信じられないほどのスタイルの良さは今見ても驚かされるが、総じて画面が賑やかに、派手に、明るくなった。
ちなみに、彼女らはバイクには一切興味を示さず、暇になったら「ゴーゴー」を踊り出す始末。しかし彼女らはそれで良かった。とにかく明るく派手にすることで以前の「暗い」と言われた初期の作風から脱却したいスタッフの強い意志が感じられる。
◆地方ロケで全国へ
18話の地方ロケ、19話の北海道ロケ、21話の大阪ロケ…と全国各地を巡る仮面ライダー。時折、ぽーっとした顔の子供たちのカットが唐突に挿入されるがこれは、現地の子どもたち数名がエキストラとして出演している映像である。彼らも今や還暦を迎えていると考えると…すごい歴史だ。
こうして各地域に地道にファンを増やしていったのだろう。同時にサイン会を開催したり、その場でアクションを披露することもあったようだ。そしてそれが現在まで続くヒーローショーの始まりでもあった。
決してテレビというメディア露出のみに頼るのではなく、草の根レベルでの広報も欠かさない。まるで駆け出しのアイドルだが、そんな地道な活動が着実にファンを増やしていったであろうことは想像に難くない。
◆大幹部という大発明
14話のように「海外からすごい怪人がやってくる!」という幹部級人材の登場は盛り上がる要素ではあったが、前後編には飽きられてしまうというリスクがあった。
かと言って毎週新しい怪人が登場すると、怪人の個性はアピールできても、ショッカー組織そのものが空気になる。結局ショッカーのイメージ弱体化に繋がってしまう。
また、声のみで圧倒的存在感を示す首領と、毎週死んでいく現場の怪人たちというそれまでのショッカーの組織図には中間職が不在だった。
そこで登場したのが大幹部ゾル大佐だ。それまで幹部級だった怪人たちが相対的に格下となり、毎週毎週倒されても違和感が無くなった。怪人が何体死のうが、指揮者たる大幹部は健在だからだ。
こうして「今度はどんな怪人が出てくるのか?」という言わば「怪人主義」的作風により振り切ることができるようになった。ゾル大佐というレギュラーキャラが固定されたことで、ショッカー組織にも安定感が生まれたからだ。
この「組織幹部レギュラー化」という手法は、戦隊シリーズ含め50年以上も連綿と引き継がれる特撮作品の基本フォーマットともなる大発明だった。
◆見事な作戦、ムカデラス
とりわけ見事なのが第27話「ムカデラス怪人教室」。ムカデラスの催眠音波で操られた子どもを誘拐して「ジュニアショッカー」として戦力化するという作戦、一見荒唐無稽そうに見えてこれは、「少年兵士」という今なお紛争地域では当たり前に行われている非人道的な実話である。
更には隣国に邦人を拉致されて工作員として利用されている我々にとってはこれまた他人事ではない怖さがある。成績優秀な子どもだけを狙うというところも妙にリアルだった。
※同時に、「ならうちの子は大丈夫ね」なんてテレビの前のお母さんの皮肉が聞こえてきそうで面白い。
それはさておき、とにかくショッカーの怖さをもっと子どもたちの身近なものにする狙いがあったのだろう。
それだけではない。本作戦、人員配置が完璧だった。
催眠術を得意とするムカデラスの戦闘力はさほど高くない。そこで、かつて本郷ライダーを一度は沈めたゲバコンドルを再生。
更にリーチのある攻撃を繰り出せるサラセニアンも再生。
見事2号ライダーの足止めに成功している。ムカデラスとライダーの戦力差を埋めるのに再生怪人が実に有効に機能していた。ゾル大佐の緻密な作戦計画には驚かされる。
◆仮面ライダーは子どもたちの希望の象徴へ
本郷ライダーが誰にも理解されない孤独さをアピールしていたのに対し、一文字隼人は劇中こう語っている。
「ショッカーめ、来るなら来い。俺にはこんな素晴らしい仲間達がついているんだ」
そんな隼人も、強力な新怪人アリガバリの猛攻の前に敗北。
本郷ライダーもゲバコンドルやトカゲロンに敗北したことはあったが、今回はライダーが負けたことで大切な仲間の1人である五郎が生死の境をさまようこととなった。今やライダーは子どもたちの生きる希望なのだ。
ここに、2号ライダーが辿り着いたヒーロー像がある。もはや仮面ライダーはショッカーの計画を阻止するために戦っているのではない。子どもたちに希望を与えるために戦っているのだ。
本話は更に、弱音を吐く未熟な隼人とそれを叱咤する立花藤兵衛、そして新技開発の特訓に共に励む滝の姿を通して、ヒーローとしての成長譚としても結実した。
ギターアレンジが効いたテーマソングが、五郎のために戦う隼人の心情と重なって実に熱いエピソードとなっている。
既に基盤は整った。次はいよいよ、ヨーロッパからあの男が帰ってくる…。